【社説】無断訪朝者、板門店から帰還させるべきではない
今年6月12日に中国・北京駐在の北朝鮮大使館を経て、無断で北朝鮮を訪問した韓国進歩連帯常任顧問の韓相烈(ハン・サンリョル)牧師が20日、板門店で軍事境界線を越え、韓国に帰還した。韓牧師は韓国側に戻る直前、「韓半島(朝鮮半島)旗」を手にしながら、北朝鮮の政府関係者200人以上と共に「祖国統一」などと叫ぶ政治ショーを展開した。警察は、韓牧師が板門店の韓国側に入ると同時に身柄を拘束し、現在、国家保安法違反の容疑などで取り調べを行っている。
韓国政府はまず、韓牧師が板門店を通じて韓国側に戻るのを制止すべきだった。1989年に故・文益煥(ムン・イクファン)牧師が無断で北朝鮮を訪問したときも、中国を経由して北朝鮮入り、板門店を通じて韓国に帰還した。それ以来、違法に北朝鮮を訪問する政治犯らは、中国経由で北朝鮮に入り、板門店から戻るというルートを頻繁に利用している。北朝鮮当局や北朝鮮を訪問する当事者らは、このルートを利用すれば、政治的な興行性を高めることができると判断しているようだ。そのため韓国政府は、このような政治ショーの効果をなくすための対策に乗り出すべきだ。ところが歴代の政府は、北朝鮮とその訪問者らの政治的な計算通りに動くという、文字通りの無能・無策を繰り返してきた。
韓牧師は今回、北朝鮮に2カ月以上滞在したが、その間に「李明博(イ・ミョンバク)こそ哨戒艦『天安』の沈没事故で犠牲となった生命に対する殺人の元凶」「南の同胞たちは金正日(キム・ジョンイル)総書記について深い印象を受けた」などの発言を繰り返した。ならば、韓牧師は自らが称賛する地上天国の人民共和国に居残るべきで、わざわざ嫌悪する大韓民国に戻る必要などないはずだ。
政府は「韓牧師も大韓民国の国民である以上、帰還させないわけにはいかなかった」と説明する。しかし韓牧師は、国籍は大韓民国だが、その精神や言動に関しては、大韓民国を尊重して法律や義務を守るつもりなど微塵もない。まさに、金日成(キム・イルソン)と金正日の国に属する人間だ。
大韓民国の国民は北朝鮮を訪問する場合、「南北交流協力法」に従って事前の許可を受け、さらに統一部に北朝鮮住民との接触を行う旨を申請し、承認を受けなければならない。しかし韓牧師のように北朝鮮に賛同する人物は、これらの法的手続きを完全に無視している。本来、板門店を通じて大韓民国の地に戻るには、停戦協定を管理・監督する国連軍司令部の許可が必要で、それがなければ停戦協定違反となる。そのため国連軍司令部と軍当局は、韓牧師が板門店を無断で通過するのを制止すべきだった。もし韓牧師と北朝鮮がこれに従わずに問題が生じた場合は当然、韓牧師と北朝鮮の責任だ。
今回、韓牧師が大韓民国に再び戻った理由は、今後も引き続き、大韓民国の体制に反対する活動の先頭に立つためだ。政府は今後も第2、第3の韓牧師が現れた場合、「大韓民国の国民である以上、仕方がない」などと情けないことを言うべきではない。韓牧師のような人物は、自らが称賛する北朝鮮で暮らし、それでも韓国に戻りたいと言うならば、北朝鮮に入ったときと同じように、中国経由で帰国させた上で、法に則った処罰を行って然るべきだ。