きょうの社説 2010年8月22日

◎「ルビー」東京進出 安定生産が期待に応える道
 県産の高級ブドウ「ルビーロマン」が東京で初競りに掛けられ、最高値で1房5万円が 付く上々のデビューを飾った。市場関係者からは「極上の味」と絶賛の声が相次ぎ、生産者も大きな励みになったことだろう。

 だが、認識しておかねばならないのは、首都圏の市場に出れば同じブドウ品種、さらに は全国に名だたるフルーツのなかで比較され、市場の厳しい視線にさらされるということである。期待が先行するなかで品質にばらつきが生じれば、一気にイメージが低下しかねない。ブランド化への道は緒に就いたばかりである。

 全国的な評価を確立するうえで欠かせないのは、安定した生産体制である。今季は県内 で1千本の植栽を目指していたが、出荷基準の厳しさから農家がリスクを敬遠し、配布できた苗は162本にとどまった。県は2013年までに作付面積を30ヘクタール(6千本)に拡大する目標を掲げるが、達成するには栽培技術の確立が急がれる。

 生産が不安定で、技術が未熟な印象を持たれてはブランド化に水を差しかねない。ご祝 儀相場に浮かれることなく、生産現場の足元をしっかり固めておきたい。

 1990年代から開発が始まったルビーロマンは県の戦略作物に選定され、2008年 から県内市場に出た。3年目での首都圏デビューは、全国ブランドへ向けた最初の関門となる。

 粒はブドウ品種の中でも国内最大級であり、話題性は申し分ない。都内の市場では、そ の注目度は7年前に初出荷された宮崎産マンゴー「太陽のタマゴ」以来との声もあった。これからの課題は、商品化率を高めるなど技術的な側面とともに、宮崎産マンゴーに劣らぬ話題提供の仕掛けや緻密な販売戦略である。

 高級フルーツは、贈答を中心に根強い需要があるとはいえ、ギフト市場がこれから拡大 するか分からない。限られた市場の中で激しいシェア争いが続くだろう。

 県は今年、出荷基準を満たす粒を食品加工業者に販売する「粒売り」の試験販売に乗り 出すが、これは一般消費者向けにも広げたい販売方法である。知名度アップへさらに知恵を絞りたい。

◎米部隊撤退のイラク 「脱宗派政治」の正念場
 イラクの新しい国づくりが、駐留米軍戦闘部隊の撤退完了で大きな節目を迎えた。米戦 闘部隊の引き揚げは、治安の大幅改善を受けたものであるが、今春の連邦議会選挙後につくられるべき新政権はまだ形も見えず、国情は依然として不安定である。連邦議会選挙で示されたイラク国民の民意は「脱宗派政治」の実現であり、各政治勢力はそのことを銘記して、安定した政府づくりに全力を挙げる必要がある。

 イラク連邦議会(定数325)は、3月の選挙の結果、アラウィ元首相が率いる政党連 合「イラキーヤ」が91議席を獲得し、トップになった。マリキ首相の「法治国家連合」は89議席と小差でこれに続き、そのほかイスラム教シーア派の会派「イラク国民同盟」が70議席、クルド人の「クルド同盟」が43議席となっている。

 元首相と現首相の各政治勢力がきっ抗し、新首相選びは暗礁に乗り上げているが、どち らも「脱宗派」を大義に掲げたことを忘れてはならない。アラウィ元首相は元来、シーア派の出身である。しかし、政治から宗教を切り離す世俗主義を唱えて、対立するイスラム教スンニ派の支持を取り付け、第1勢力になった。また、マリキ首相を中心とする第2勢力も宗派横断型の連合体である。

 イラクは2005年の前回選挙後、宗派抗争とテロの激化で内戦状態に陥った。多くの 国民はその反省から脱宗派の主張を支持したのであり、二大勢力に割れる民意もその点では一致している。各政治指導者はそのことをわきまえないと、統治力のある政府による民主的な国家建設は難しい。イラクが脱宗派、世俗主義の国づくりへ確かな一歩を踏み出せるかどうかの正念場である。宗派対立で再び内戦の危機を招くようなことがあってはならない。

 国連安保理は今春、1990年のクウェート侵攻でイラクに科した制裁の解除を検討す る方針で一致した。イラクが大量破壊兵器拡散防止の国際的枠組みに参加することが条件である。国連の制裁を速やかに解くためにも、政治を早く安定させてもらいたい。