Kiss ME Baby!

10/08/21 13:47 :novel
Lost Blue-3(4Dante×4Nero)

ダンテ、吃驚してたみたいだ。
動けないから受話器は横に放ってやった。カツンと言う音と一緒に水音がした。
雨は降っていないから、多分俺の血かな…とぼんやり思う。
下肢にはもう感覚は無かった。口から溢れ続ける血がやけに温かくで涙が出そうになった。いや、もう出てたかもしれないけど、
そこまでの感覚はもう、なかった。
それにしても、眠い。今にも瞼が落ちてしまいそうだ。けれど、今眠ったら二度と起きれなさそうだから我慢しよう。もうすぐダンテがくる。それまでは、目を開いていなければ。
眠いせいか、涙のせいかわからないけれど、ぼやけた視界に暗がりに浮かぶ右腕が目にはいった。
ぼんやりと光る腕に少し安心する。こんな時にまで右腕には助けられてばかりだ。何故か鼻の奥がツンとした気がした。
溢れ続ける血にもう怖さは無かった。
ただ、自分の中から大切なものも一緒に流れ出てる気がして、寂しい、気がする。

唐突にクレドの顔が浮かんだ。厳格で厳しくて、でもとても優しい人だった。
血の繋がらない自分に対して本当の家族の様に接してくれた。父であり兄のような存在だった。
彼を目指して、キツい訓練にも耐えられたし汚い仕事だって出来た。
彼が死んだと聞いた時はどうしようもなく胸が痛くて涙が止まらなかった。

確かその夜はキリエと一緒に一晩中泣いていたなぁ。
遺される事がこんなにも辛いなんて知らなかった。それ位、彼の存在は大きかった。
…彼は、ダンテはどうするだろう?もし、俺がこのまま死んでしまったら泣くだろうか?
いつも飄々としていて誰よりも強くて、誰よりも優しい彼はどうなるんだろうか?自惚れる訳ではないけれど、ダンテはとても大切にしてくれた。
何時も反抗ばかりしていたけれど、それでも傍にいて優しい目で見てくれた。
俺もダンテもお互い無くてはならない存在になってた。
回らない筈の頭はグルグルと思考の海を漂う。
彼の、ダンテの顔を見たら答えが出そうな気がする。
ふと、ぼやける視界に光が差す。右腕が強弱をつけて光っていた。
悪魔が近くにいるのだろうか?それでも、動かせない体では何も出来ないけれど。
どうしようかと思った時、風が前髪を揺らした。
ゆるりと視線をやると、傍に赤い悪魔がいた。

…ダンテだ。

わざわざ魔神化してきたのだろうか。慌てて来てくれたのだろうかと思うと少し笑えた。
「だ、んて」
掠れた声、もどかしい。
もっとちゃんと名前を呼びたかった。

ダンテは魔神化を解いて、血で服が汚れる事を気にせず膝を着く。
小さく震えるネロの頬に触れる。
「坊や」
優しい声だった。
それだけで、ネロの寂しさは吹き飛んだ。
もう感覚のない筈の体に触れるダンテの手が暖かくてほっと息をつく。


愕然とした。
魔神化して飛ぶようにネロの元に着いた瞬間、体が震えた。
間違えようのない恐怖だった。
血の海に浮かぶネロの体。いつも美しく輝く空色の瞳は虚ろで、口許からは絶えず血が流れ続けていた。
それでも、俺が来た事に気付いたのだろうか、ゆるりと笑って名前を呼ぶ。
受話器越しに聞いた掠れた声。いつも勝ち気な耳に心地よい声でも夜にベッドの上で聞く艶やかな声でもない。
経験が要らない答えを導き出す。嗚呼、夢なら早く醒めてくれ。


壊れ物を扱うかのようにその血塗れの体を抱き寄せる。
こんなに細かったか?こんなに頼りなかったか?こんなに、軽かったか?
流れ続ける血がネロを連れ去ってしまいそうで、きつく抱き締めた。
また喪うのか?また大切なものを喪うのか。
怖いよ、ネロ。いい歳して怖くて堪らない。だから、いかないでくれ。

「坊や」
       
俺を、置いていかないでくれ。

 

「ハッ…な、さけねー、カオ…」
そんな顔、初めて見た。そんなアンタを見るのは嫌な筈なのに、
嬉しく思う俺はイカれちまったのかな?
何時も飄々として余裕たっぷりのアンタが今の俺を見て哀しんでるなんて、自惚れちまうよ。だって、アンタの中で俺の存在がそれ程なんだろう?
それが、嬉しい。
「…い、い歳し、て…泣くな、よ…お、っさん」
わかっている。もう時間が無い事くらい、ネロが一番わかっている。
体の痛みも感覚もとっくに無いし、あれだけ寒かったのにもう何も感じない。
ダンテの存在だけがネロの薄れる意識を繋ぎ留めている。
怖くはなかった。ダンテが傍に居るという事だけでネロの気持ちは穏やかだった。
ただ、初めて見るダンテの涙に胸がチクリと痛んだ。
「おっさ、ん…笑って、くれ、よ」

調子が狂うと、ネロが笑った。
こんな状況で酷い注文だ。今もネロの口から絶えず命が流れ出て行く。
どんどん冷えていく体、こんなに冷たいのにネロは震えもしない。
それが恐ろしくて分け与えるようにきつく抱き締める。
痛い位、抱き締めているのにネロは抵抗しない。それに更に目の奥が熱くなる。
そんな状況なのに、笑えなんてお願いは酷だろう。
「…悪ガキ」
それでも、それでもダンテは笑い掛けてやる。どんなに酷い顔だろうが、愛しい子の願いならば、笑う事が出来た。
ダンテの笑みに釣られるようにネロがふわりと笑った。ダンテが愛した子供の笑顔だ。
壮絶に美しい笑みが今は怖い。エンドロールがすぐ傍まで来ているようで。
その中でゆっくりと、ネロの腕が上がる。
ネロ自身感覚がない腕がどう動いたか判らなかったがネロは兎に角、ダンテに触れたかった。その動きに気付いたダンテが密かに上体を落とす。
頬に触れる手は氷の様に冷たい。けれどその手が何よりもいとおしかった。

「お、さ…ダン…テ、」
ダンテ、ダンテ…辛かったら忘れてくれて構わない。
アンタが哀しいと俺も哀しいんだ。俺のせいで苦しんで欲しくない。
アンタの枷になるくらいなら忘れて欲しいんだ。
おれはまだ餓鬼だからこのくらいしか思いつかない。
好きだ、大好きだ、今もこれからもずっと。きっと俺の運命の人ってやつは、アンタだった。
ただ悔しいのはアンタの運命の人は俺じゃない事だ。
だって、俺はアンタを、ダンテを残して消えてしまう。
嗚呼、ダンテもうアンタの声が、顔が、体温が、匂いが、遠くなっていく。

 

「ダンテ、ダン…テ…あいしてる」
なぁ、俺の最期の告白、きこえたか?

 




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