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池田信夫 blog

Part 2

2010年08月19日 09:38
経済

隠れた社会主義

民主党のデフレ脱却議連は、政治家が物笑いになるネタを提供するのが仕事らしい。事務局長の金子洋一氏は「日本単独でも介入して1ドル95円にしろ」と主張しているが、10円もドルを増価させるには何兆円かかると思っているのか。

現場のトレーダーである藤沢数希氏も指摘するように、1日100兆円近く取引されるドル/円取引の中では、政府の数兆円の介入なんてほとんど問題にならない。各国の政府が協調するならまだしも、欧米諸国が自国通貨安を放置している中で、日本政府だけが介入したって税金の無駄づかいになるだけだ。

もちろん今のような急激な円高はよくないし、デフレもよくない。円安やマイルドなインフレが望ましいということに反対する人はほとんどいない。しかしそれが望ましいということと、政府がつねに望ましい状態を実現できると信じることは別だ。デフレ脱却議連に集まる政治家は、かつて政府は万能と信じて公共事業で日本を不況から脱却させようとした自民党と同じである。

彼らの頭にあるのは、政府がいくらでも「有効需要」を作り出し、中央銀行がいくらでも通貨を発行して、経済水準を望ましいレベルに維持することができると信じる素朴ケインズ主義だろう。それを批判したフリードマンやルーカス以来の新しいマクロ経済学が明らかにしたのは、政府の介入には限界があるということだ。

経済の実力で維持できる自然水準を超えて政府が「完全雇用」を実現しようとするとインフレを引き起こし、デフレを止めようとしても金利をゼロ以下にはできない。インフレを起こせない中央銀行が「インフレにするぞ」といっても、誰も信用しない。政府も経済のプレイヤーの一人であり、他のプレイヤーの反応を無視して自分の望む通りの結果を出すことはできないのだ。

こういう政治家の発想は、いまだに政府が大量に国債を発行して景気を回復しろと主張する自称エコノミストと同じだ。彼らは、いつまでたっても政府は民間より賢明な投資ができるという信仰が抜けない。そんなに賢明な政府だったら、そもそも今のようなことにはなっていないだろう。社会主義は20世紀に消滅したが、日本ではまだケインズ主義という「隠れた社会主義」が生き残っているようだ。

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トラックバック一覧

  1. 1.

    円高に打つ手がない日本と、人民元高を狡猾に抑制する中国

    日本は円高で大騒ぎのようだが、日本政府は口先介入ぐらいしか打つ手がないようだ。ここ中国でも、人民元がジワジワとあげているのだが、中国政府による「介入」はもっと狡猾で、徹底していて、我々駐在員泣かせである。

  2. 2.

    隠れた社会主義

    池田信夫 blog : 隠れた社会主義 - ライブドアブログ 政治の世界の人って21世紀をどういう風に考えているのでしょうかね。勉強不足であり、感性が不足しているような。でもこの中で日本は21世紀を進んでいくのですよね。

コメント一覧

  1. 1.

    EU諸国と同じやり方をすればいいと思います。
    放漫財政を徹底的に続け、外国債券もバンバン売って完全に首が回らなくなったら円も下がるでしょう。

  2. 2.
    • nkjm
    • 2010年08月20日 08:09

    自称エコノミストのブログのコメントは、だいたい
    「私は難しいことはわかりませんが、なぜ財務省や日銀は”自称さん”がおっしゃるようなこんなに簡単なことがわからないのでしょうか」って感じで、呆れてしまいます。

  3. 3.
    • taquonoss
    • 2010年08月20日 12:23

    >彼らは、いつまでたっても政府は民間より賢明な投資ができるという信仰が抜けない。

    民間より効率的な投資を政府に期待していないでしょう。効率的な投資こそ民間がやることで、政府の出番は「効率的ではないが必要な投資」であります。介護や医療なんか社会的に必要だけれど、経済的な効率は期待できない。教育や生活保護も多分この範疇に入ると思います。生活保護が大事なのは、生活苦や社会に対する絶望から起きる犯罪を防止するためです。治安の良さこそは全国民の福祉に貢献する社会的な要因だと思います。最近、生活苦から敢えて犯罪を犯して服役を希望する元受刑者の事件をマスコミ上で見聞きします。犯人の心情は理解できます。でも、そんな理由で犯罪に巻き込まれる人は全くいい迷惑です。中には深刻な心理的打撃を受ける人もいるでしょう。事件が起きる前にしっかりとした貧困者対策を行う事は決して無意味ではないと考えます。

  4. 4.
    • みねちゃん
    • 2010年08月21日 02:14

    失礼ながら、池田先生のHPよりも日経BPをよく読む人間です。三橋氏の信者は、大いに警戒すべきと思います。彼らは、経済について何も分かっていない。(そういう自分も理系のド素人なのですが、ものごとをクリティカルに考える訓練だけは受けております。)しかし、彼ら信者は、近い将来世の中を動かす存在になります。いや、麻生元首相が選挙の読みを誤ったのも、もしかしたら彼らの影響かもしれないのです。彼らの知識は限定的で、かつ狂信的です。でも最も問題なのは、彼らに悪意がないことです。その点は一昔前のサヨクと似ています。少ない知識を必死で守っているのです。
    破滅への道は善意で敷き詰められています。五一五の青年将校は善意だけで行動したことを忘れてはなりません。

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