佐原の日記
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女性事務官は被害者だったのか(21日の日記)
「政治について(43567)」
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[ 政治問題 ]
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1974年に当時の毎日新聞、西山太吉記者と外務省の女性事務官が外務省の重要文書を勝手に持ち出した容疑で起訴されたとき、世間の週刊誌やテレビは、悪辣な新聞記者が清純な女性事務官に重要文書の持ち出しを強要したかのような報道を繰り返し、そのせいか、あれから40年近く経っても未だに「可哀想な蓮見さん」というイメージを持っている人たちがいるのは嘆かわしいことである。しかし、あの裁判が行われていた最中に、冷静な見方をしていたのが今や読売新聞社のトップにいる渡辺恒雄氏である。澤地久枝氏のノンフィクション小説「密約」によると、当時の渡辺氏の主張は、次のようであった;
(前略)
《「西山事件」の証人として -渡辺恒雄/蓮見さん「聖女」説にみる論理的矛盾》(『週刊読売』2月16日号)
ここには、弁護側証人として出廷し、スクープが新聞記者の生命であり、不可欠のものであるとして、国家機密もまた当然スクープの対象であることをのべた渡辺氏によって、はじめて事件全体の流れのなかに蓮見さんをとらえ、問題の本質をあきらかにしようとする冷静な眼と、キャリア20年余の新聞記者として、情熱が感じられ、興味本位のあるいは悪意を含む他の週刊誌マスコミのなかで、異質の記事になっている。「早く世間から忘れられたい」と言いながら、第三者の男性のプライバシー暴露ともいえる手記を発表した真意を、一種の自己顕示欲の表れか、『知的行動派』であることを示すものかという問いかけ。<西山記者が、彼女との関係の進行に関する事件のプロセスをすべて明らかに出来ないでいる事実を私は知っている。ついに保護しきれなかった情報源を、これ以上傷つけたくないからであろう>、西山夫人が<家族に対する社会的圧迫に耐え、かつ、夫の過誤を許し、激励し続けていた事実については、私は深く感動している。同じジャーナリストとして、不幸なこの事件の経過の中で、われわれにとって、これはひとつの大きな救いであった>とも書かれている。そして、<西山君に新聞人としての落ち度があったのは事実だが、その家族にまで罪はない。西山家の家族も、蓮見家と同様、一日も早く世間から忘れ去られたいのである>とも。
蓮見さんは、西山夫人との関係では加害者の側面をもっている。民法上、蓮見さんは西山夫人から慰謝料を請求され、拒否はできない行為を分担している<蓮見武雄氏が西山氏に対して慰謝料請求権をもつのと同じように->。西山夫人の沈黙、西山氏のニュース・ソースを保護し得なかった新聞記者としての負い目に乗じて、一方的に被害者である「無垢な女」を演じつづける蓮見さんへ、渡辺氏の文章には、ひかえ目な、しかしつよい抗議がある。
しかし、ほとんどの週刊誌は、依然として哀れな犠牲者蓮見喜久子とその夫を強調しつづけた。
(後略)
澤地久枝著「密約」岩波現代文庫 232ページから引用
事実は小説より奇なりという諺を連想するくらい、澤地氏の「密約」は読み応えのある書物である。裁判が終わってからしばらくの間、蓮見氏は週刊誌のインタビューやテレビのワイドショーに出演して、「朝日新聞のTさんや読売新聞のSさんとも親しい」などと思わせぶりな発言をし、「他人の家庭に波風を立てるようなことを、何故わざと言うのだろうか」と澤地氏に疑問をいだかせている。ところが、そのうち事件を取材する澤地氏は、あまり遠くない過去に蓮見氏と親密な交遊関係を持ったことがあるという男性に遭遇する。その男性は仕事で外務省に出入りしていたが、いつしか蓮見事務官と親しくなり、外務審議官の秘書をしている蓮見氏の元には審議官宛のお歳暮が山のように届けられたが、その処分は秘書に任されていて、その男性が酒を飲むことを知っていた蓮見氏が「少しお持ちになる?」といって渡されたジョニー・ウォーカー黒ラベルが、両手の紙袋に7、8本はあったとか、彼女と食事した際にどのようにして彼女が彼をホテルにいざなったか、など証言するのである。それにしても、70年代といえば当時の私の初任給が4万2千円で、その頃のジョニ黒は1本、1万円は超える高級酒であったが、まぁ、そんなことはどうでもよくて、要するに、あの女性事務官は「この男は酒で釣れる」「あの男は審議官の机の上の書類のコピーで釣れる」という具合に判断して行動していたらしい。そういう女に引っかかった西山氏こそ被害者というものではないだろうか。
しかし、問題の本質は、西山記者と蓮見事務官がどういう関係だったのかという点ではなく、アメリカとの密約が暴かれたにも関わらず、その問題を男女間のスキャンダルに矮小化して誤魔化した日本政府の態度なのである。
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当然判決の全文も読まれたんですよね?
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重手さん
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西山事件最高裁判決からの引用です。文中のBが事務官のことです。
「被告人は、昭和四六年五月一八日頃、従前それほど親交のあつたわけでもなく、また愛情を寄せていたものでもない前記Bをはじめて誘つて一夕の酒食を共にしたうえ、かなり強引に同女と肉体関係をもち」
「取材の必要がなくなり、同月二八日被告人が渡米して八月上旬帰国した後は、同女に対する態度を急変して他人行儀となり、同女との関係も立消えとなり、加えて、被告人は、本件第一〇三四号電信文案については、その情報源が外務省内部の特定の者にあることが容易に判明するようなその写を国会議員に交付している」
「被告人は、当初から秘密文書を入手するための手段として利用する意図で右Bと肉体関係を持ち、同女が右関係のため被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥つたことに乗じて秘密文書を持ち出させたが、同女を利用する必要がなくなるや、同女との右関係を消滅させその後は同女を顧みなくなつたものであつて、取材対象者であるBの個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙した」
「被告人の取材行為は、その手段・方法において法秩序全体の精神に照らし社会観念上、到底是認することのできない不相当なもの」
少なくとも、西山氏の方から誘ったのは裁判所認定の事実ですし、
西山氏の取材手段が端的に表現して外道なものであったことも裁判所が認めるところなわけですが。
また、二人は対等の関係だったと裁判で西山氏が主張していたのに認められてはいないわけで。
佐原さんの今回の記述は事務官の名誉を毀損するものです。。
他に男性との交友があったからといって、西山氏との関係において事務官が誘ったという根拠にはならないわけですから、
西山氏との件について具体的に事務官側から関係を持ちかけたという証拠があるんですよね?
まさか、根拠もないのに特定個人の名誉を毀損したわけではないでしょうし。
(2010年08月21日 21時31分46秒)
いくらなんでも
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くろがねさん
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>そういう女に引っかかった西山氏こそ被害者というものではないだろうか。
いくら西山さんを擁護したいと言っても、これはさすがに無いんじゃないですか?
沖縄とかで米兵に乱暴された女性がどんな事を言われているか、想像できない佐原さんじゃないでしょうに。
>問題の本質は、(略)その問題を男女間のスキャンダルに矮小化して誤魔化した日本政府の態度なのである。
政府がそういう機密を隠蔽するのは当たり前でしょうが。特に国際外交の機微に関わるような事例は。だからこそジャーナリストは、隠された真実を明らかにすべく頑張るんでしょう?
この問題の本質は、密約を隠蔽しようとする政府の作戦にあっけなく敗れ去った日本の"ジャーナリズム"の甘っちょろさですよ。
情報源を秘匿もせずに公表するわ、裁判闘争の戦略は間違えるわ。政府の陰謀に立ち向かうには余りにも思慮が浅い。
大体が、せっかく掴んだ密約をメディアに載せることなく野党にそのまま渡したことは、西山さんはペンの力を信じていなかったとも言えるわけで。ジャーナリストとしては失格でしょうな。
(2010年08月21日 23時55分32秒)
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