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[21217] 【習作】LAST OPERATION
Name: 樹◆63b55a54 ID:113c6b7e
Date: 2010/08/21 09:19
〈プロローグ〉

 『OPERATION J』というゲームがある。
 貝錠宝、鷹街勲、帯戸ノリト の三人は同じ高校に通う普通の高校生。
 趣味、思考の違う三人だが共通してはまっているゲームであり、
 最新の全周囲モニターを採用した感覚型シューティングゲームである。
 いつものように三人でゲームに興じていると突如画面が切り替わり、
 CG処理された戦場がいつの間にか本物の戦場が映っていた――



登場人物
貝錠宝(かいじょう たから)
本物志向

貝錠七海(かいじょう 七海)
宝の妹

鷹街勲(たかまち いさお)
自己中

皆月魅月(みなつき みつき)
女の子なのにかなりのゲーマー。無関心

九紗(くしゃ)
ゲーム内に存在する少女。
魅月が名づけ親となりエラそうだからということで、
インドのカーストで王侯意味するクシャトリアから命名。

翔 亮(しょう あきら)
転校生。隠れゲーマー




 ≪Attention≫

 オリジナル小説に挑戦してみました。
 皆さんの感想を心よりお待ちしております。

 この話とは別に、
 ・その他掲示板――『東方英雄譚』
 ・スクエニ掲示板――『遅生まれの勇者の伝説』
 ・オリジナル掲示板――『化猫日和』

 という作品も同時執筆中です。
 どれどれどんなもんねと気軽に覗いてやって下さい。
 



[21217] 第一話 機動
Name: 樹◆63b55a54 ID:113c6b7e
Date: 2010/08/18 20:50
「本物の人間になりたいよなぁ……」




 卵型のコックピットに乗り、無意識に漏れる呟きは画面に映る様々な映像処理の効果音に掻き消される。
 それでも構わなかったんだ。
 これは誰にも聞かれたくない本音なのだし、何分恥ずかしいと感じることだ。
 ぽつりと呟いた前も後も全く同じ表情で目の前の作業を処理していく。

 画面に映るロックオンの音、高度と速度を表示するメーター、砕けた破片の残骸、レーダーに映る新たに参戦してくる敵機……、
 それら全ての情報を的確に処理をしてミッションを完遂する。
 後、十機……九機……卵型のコックピットの中で更に回転し、
 自分の使える感覚をフルに使って全周囲モニターの表示する情報を、拾い、使い、消費する。


 そうだな……最初に始めた時は操作に戸惑い、新しいシステムに興奮し、明確な敵を倒すことに意義を見出していた。
 だが通いつめ、慣れて、自分のレベルが上がってくると次第に当初の感動は薄れルーチン作業へと化けた。
 指定されたミッションを如何にエレガントにクリアしても、
 どんなにザコキャラを力任せにいたぶったとしてもそれはストレスをぶつけているだけでしかなかった。

 操る機体がどれほどすごい動きをして前に進んでも現実世界の自分は一歩も進まず、
 卵の中に引きこもって手と指だけをかしゃかしゃ動かしているだけの存在。
 妹にも――、

「お兄ちゃんってゲームの奴隷みたいね」

 ――と冷やかされた。言いえて妙だと思った。
 そうかもしれない。
 僕はいつの頃からか純粋に楽しむことを忘れた。
 何かが違うと思うのだけれどまったく違っているわけではない。
 ゲームの成績を稼ぐのも楽しみ方の一つだ。



 そんな日常の鬱屈感の中で絞り出したのが前述の情けない一言だった。
 まだ学生で学校の課題だけ処理すればいいだけで、現実社会での就労経験もなく、
 ただ、漫然と時間という有限な食料をよく噛みもせずに飲み下し、胃に収めるが吸収もせず、
 ノイズの溜まった老廃物として体外へ排出するだけだった。
 かと言ってバイトをするよりもゲームをしていた方がはるかに有意義だと感じるため、
 神経に来る単純作業に勤しむのを潔しとしなかった。






―――自分が考える『本物』とは多分格好いい仕事をしているイメージなのだろう。


 単純作業は嫌いと言っておいて、結局はゲームという名の単純作業に時間を費やしている。
 これが楽しいってことなのかな?
 目の前のことに没頭している状態。
 第三者から見て熱中しているように見えても、その実非常に冷めた考えをしている自分。
 厭だな……この感覚。
 昔からそうだ新作のゲームが出るたびに行列を作って購入し、楽しむのは最初だけでやってるうちにフッと冷める。
 それもゲームの序盤でなったら最悪だ。
 どうやってもモチベーションが上がらない。

……飽きてしまう。

 例えある程度進んで操作が上達してきてもそれだけの時間ゲームに費やして、自分の何かが変わったのかと考えだすともうだめだ。
 足を踏み出せていない。
 ……それでも止められないのはもはや中毒に近い症状なのか、
 それとも妹の言うように隷属意識が働いているのかわからないが、
 それはうんざりするぐらいゲームをすれば飽きるだろう……その時に考えればいい。











――残機ゼロ。ミッション終了。



「……ふぅ」

 一息ついてコックピットを降りる。
 外には順番を待つ長蛇の列が並び、店員が整理券を発行している。
 一回五百円。
 他のゲーム機よりかなりの割高のプレイ料金だが不思議と抵抗がない。
 寧ろそれだけの価値がある物だ。今自分が一番熱中しているゲームだった。
 



『OPERATION J』

 基本操作は車の運転操作を多少難しくした程度だ。
 あくまでシンプルに直観的に操作できるよう設計されたシステムは幅広い年齢層を捕らえた。
 単純な操作システムだがそのため自由度が大幅に上がった。
 よくあるシューティングゲームはミッション中、敵機か目標物以外は発砲しても壊れることもないし、
 予定外の行動をとったらエラーとして処理されがちだが、これは違った。リアルなのだ。感触が。

 例えばロボットが走るとするだろう。
 ……通常だと砂埃と上げるエフェクトをかけるがこれはちゃんと地面が抉れるし、細かい段差があるのだ。
 着地に加重移動があいまいだとすぐコケてしまう。
 例えば敵機をやっつけたとする。
 ……通常どこにあたっても爆発の映像が出て敵は画面から消えるがこれは自分が攻撃した箇所がそのままダメージとなる。
 敵機が倒れたらそのままで爆発もしたりしなかったりするし、明らかに致命傷なのに反撃してきたりする。

 その他あらゆる建造物などのオブジェクトの破壊が可能だ。
 当然、これは上級者コースの話だ。
 初心者は従来通りのシステムに毛の生えた程度しかない。
 ゲームのあらすじは様々に変化するフィールドでミッション形式で敵軍の兵器、
 施設を破壊する単純なもの、ただどう破壊するかは腕の見せ所だ。
 フィールドには様々な障害物、トラップ、反撃がありミッションの規模によりネットで全国からチームを作り挑戦できる。ここはネットゲームのRPGと同じだ。
 様々な価値観が多様化する現代においてゲームも複雑化しすぎたため、
 その反動かこういった単純な勧善懲悪な設定で爽快感を出したいというユーザーの市場があり人気上昇中だ。





 ――ゲーム人口は2010年を機に爆発的に増えた。
 数多くのゲーム会社が参戦しスポンサーとして他の業種も参入し始め、正にゲーム戦国時代の様相を呈していた。
 時に企業の広告塔として、時に新しい文化の発信源としてゲームは我々の生活に浸透し、生活の一部となった。
 人は楽しく学んだとき最も効率よく収できる。
 文字を学び、音楽を創作し、果てはスポーツの一部として認識されるまでになった。
 ファッションも雑誌やテレビから主に発信していたものが段々とゲームが主体になり、雑誌やテレビはそれに追随し取り上げる形として主従が逆転したのだ。
 人気の出るゲームには須らくクオリティの高いセンスが要求される。
 それが登場キャラの服装やアクセサリー、ロボットのデザイン、建物のペイントアート。
 それがアニメや漫画、映画等の他領域とコラボすることにより無限の組み合わせで可能性を見出したのだ。


 ジュースを片手に休憩し、本日の戦績を設置されてる大型モニターで確認する。
 表示されてるモニターには、自分が行ったミッションの鳥瞰図が示されており、それで自分や敵の動き、状況を客観的に見ることができる。




 機械的な作業の結果を事務的な目線で確認して、僕はゲームセンターを後にする。



[21217] 第二話 胎動
Name: 樹◆63b55a54 ID:113c6b7e
Date: 2010/08/18 20:43
 一時限目の授業が終わる頃、勲が声をかけてきた。

「おいタカ、今日行こうぜ」

 小麦色に焼けた長身でのっそり現れたのは鷹街勲という同級生だ。
 彼はちょうどゲーセンで例の『OPERATION J』のゲーム帰りに会い、
 「……もしかして得意?」と声をかけられてのが最初だ。
 彼は最近の話題物として参加した口ですっかりはまってしまったのだが、
 操作が難しくなかなか上達しないことで悩んでいた所偶々出会い、
 自分に声をかけてきた訳だ。

「ああ、いいよ」

 タカという呼び名も貝錠宝の宝では長いということで略されたが、
 一文字違うだけでどれだけの違いがあるのか疑問だが……、
 ちょっとしたコツを教えただけで尊敬の眼差しで見られて、まあ悪い気はしない。
 自分も一人が好きというわけじゃなく、
 自然と一人になっていただけで実際話しかけられるのは鬱陶しい時もあるが素直に嬉しい。

「でも大丈夫か? 試験近いぞ……」

「いいの、いいの」

 何がいいのかわからないが……、

「勉強のコツは教えてやらないぞ」

「えぇ~」
 
 さも絶望という漢字を顔で表現したように勲は呻く。

「僕が教えて欲しいぐらいだ」

 鞄を持ちさっさと教室を出ると「待てよ~」と後ろから掛ける声を無視して下駄箱へ急ぐ。


『OPERATION J』のゲーム機の前は相変わらず長蛇の列だった。
 ……平日なのにも関わらずだ。
 ここ最近じゃゲームに集るのはサボる学生だけじゃない、立派な大人もスーツ姿で集まりだし、
 しまいにはニートといわれる自由業で人生を謳歌している奴らがそこかしこに溢れ出した。
 僕ら普通の学生ユーザーは、資金力も時間も彼らには敵わない。
 細々と彼らが終わるのをひたすら待ち限られた時間を全力で使うしかないのだ。


 店員に整理券をもらい待ち時間の間適当なゲームに興じる。
 ただ、熱中し過ぎて整理券番号の呼び出しを聞いていないと容赦なく飛ばされるため安心して遊べない。
 その過ごす時間を今日の戦略の相談をする。
 プレイヤーの登録で同時プレイ人数を決めれるため、ゲーム機が離れて空いても問題はない。
 ただ、同時にスタートしないと同じ戦場には立てないため一台空いても意味が無いのだ時間はたっぷりある。

 『OPERATION J』というゲームには選択性があまりない。
 使用できる機体は『TOYBOX』という《玩具箱》の名前で知られるのが唯一の機体で特に装備品が変わるわけでもない。
 設定では、射撃統制システムはレーザーレンジファインダー(赤外線レーザーを発信してそれを目標物に照射しその反射の度合いで距離を測定する光学機器)で、
 目標までの距離を測定すると同時に弾道計算器が目標までの距離、気温、横風、砲身の傾き、砲の状態など、
 各種緒元を計算して射撃角度と方位を算出を自動的に行ってくれており、
 僕らはただモニターに表示される十字が揃ったものを撃っていけばいいだけである。

 停止目標に対する照準⇒射撃までの時間は二秒、移動目標に対しては三秒となっている。
 レーダーもGPSを使った自己位置評定システムと共に起動している僚機の位置情報をデジタルデータ転送システムで結ぶことで、
 目視が困難な状況や環境下にあっても安全かつ効率的な運用が可能となるシステム。
 機体、武器、性能すべて同じ条件でどれだけできるかが腕の見せ所だ。シンプルな分、奥が深い。


「整理番号53番と54番のお客様いらっしゃいますか?」


 僕と勲はすぐに整理券と交換で筐体番号の鍵を受け取る。
 空いている4番と8番台にそれぞれ鍵を開け乗り込む。コインとIDカードを入れ起動させる。
 全周囲モニターに制作会社のロゴが出る。プレイ人数を選択し、データをロードする。
 機械的な音声が流れ、フィールドを選択する。マイク付きのヘッドホンをつけ勲にコールする。

 通信OK……ゲーム、スタート。
 モニターが切り替わる。山岳地帯だ。
 森に深く囲まれた所で目標は東に十kmの軍事施設を破壊しろということだ。二手に分かれ挟撃する。

「おし! 行くぜ!!」

 まず勲が前に出る。
 構えたライフルの標準を合わせ施設を防御している戦車を狙い打つ。
 その急襲に反応した敵がこちらへ向け発砲してくる。
 僕と勲はバーニアを吹かして回避する。

 単純に右アクセルを踏むだけで姿勢制御は自動でやってくれるため反動で機体がブレることはない。
 左ペダルでブレーキをして反撃に移る。敵は突然の横移動で反応が鈍く遅れて砲身を向けて狙いつけようとする。
 しかし、遅い向こうの停止目標に対する照準⇒射撃までの時間は三秒、移動目標に対しては九秒となっている。
 そのタイムラグのモタつきは決定的でこちらは余裕で砲撃する。弾を撃てるだけ打ち込みカートリッジを交換する。
 ある程度遠距離からの射撃によりダメージを与え、十分弱らせてから制圧にかかる。
 ライフルを腰だめに構えいつ敵が砲撃してきても対応できるように構える。


 ――発砲音が響きALERTが鳴る。
 被弾した! 急いでレーダーを見る後ろ?


 バーニアを吹かして機体の向きを入れ替えようとするがそれでもALERTの音は続く、
 このままじゃ危ない……ようやく体制を整えた時、音は急激に止んだ。

「大丈夫か~」

「あぁ、サンキュ」

 勲の放った弾が空中を移動している戦闘ヘリと捉え撃墜していた。

 ――ピピピッ、

 電子音が鳴る。


         ――《MISSION COMPLETE》――



 勇ましい交響曲が流れ達成感を表す。

「タカ、もう一度やろうぜ」

「もうちょっと休まねえか」

「何言っているんだ。もうちょっとで階級が上がりそうなんだって」

「しょうがねぇな……」

 僕は頷きコンテニューする。
 このゲームは戦果によって階級が上がっていく、ちなみに僕が少佐で勲が大尉だ。
 データをロードし再び戦場へ。

 ……モニターに変化が起こった。
 通常のコンテニュー画面とは違う真っ暗な画面そこへキーボードで打ったような《EXTRA STAGE》の文字。

「勲、見えているか?」

「あぁこいつは……」


 ―――ネットで噂になっている。
『OPERATION J』には通常ではどうやっても入れないMISSIONがあると、これが……、


「やるっきゃねぇだろ」

「あぁ、もちろんだ」

 僕らは少なくとも興奮していた。
 日々ただ時間というコインを消費するだけの人生《ゲーム》にわずかな興奮がスパイスとなって、
 なんとか生き抜いている現実に久々の高揚感を感じる。
 僕らは迷わず先へ進んだ。


 ――ピピピッ、

 電子音が反応する。場所は砂漠?

 ――ドンッ!

 目の前の地面が抉れた。

「いきなりかよッ!!」

「行くぞ、勲」

「応!」

 反撃を開始する。敵は砂漠を縦横無尽に走り回っている戦車、装甲車、戦闘ヘリも何機かいる。

「おいあれアパッチじゃねえのか?」

「まさか……」

 そう、映画で見たことあるAH-64通称《アパッチ》はアメリカ軍に正式採用されている現代兵器の怪物である。
 主に機関砲、ロケット弾、対戦車ミサイルなど対地攻撃兵器を搭載している。

「でもアパッチは砂漠戦用には作られていないはず、なんで……」

「そういう設定なんだろ、来るぞ」

 アパッチは大空を無尽に駆け回り素早く照準を合わせ、対戦車ミサイルを放つ。

「勲撃ち落とせ!あれが本当にアパッチなら採用されているのはヘルファイア対戦車ミサイルだ。
 アクティブレーダー誘導だから追ってくるぞ」

 ミサイルなんて撃ち落とせるのか? 
 その移動速度は半端ではない。だが機体の照準はすぐに合い迷わず撃つ。


 ――ドォオオオ―――ンッ!!


 目の前でミサイルが爆発する。 

「やった……簡単じゃないか」

 すかさずバーニアを吹かし移動する。敵は?
 アパッチは旋回し次弾の装填をしている。やらせるか
 ライフルの照準を合わせ撃つ。HIT
 アパッチをやればあとは怖くない行くぞ!
 戦局は容易に覆った。残りに地上部隊にアパッチ程の戦闘能力はなく一方的な攻撃が続いた。

「……あっけないな」

「あぁ《EXTRA STAGE》っていうからもっと難しいやつかと思ったが拍子抜けだな」


――ピピピッ、


《残存部隊ゼロ MISSIONクリアです。おめでとうございます。》

《ただいま清算中ですしばらくお待ちください。》

 ゲーム終了……一息つく。
 清算が終わるまでしばしモニター画面を見ていた。
 その時視界の端が蠢いた。
 モニターの焦点を絞ってみる。
 CGの敵兵が血を流し悶えていた。

「おいおい、リアルだな……」

 ――ジッジジジ……、

「?」

 ――ジジジッジ、

 画面がブレた。モニターに表示されたCGが僅かずつ……剥げてきた。

「おいおい、何だよ…………これ」

 CGの兵士はポリゴンの顔が剥げ、生々しく額から血を流した男が映っている。
 CG処理されていた服も髪も手足も流れ出る血も映画のように映っている。

「何だよ・・・何なんだよ」

 カメラを周囲の建物に走らせる。そこには今まで見えなかったものが見えていた。
 爆発する戦車からは血が噴水のように飛び出し、あちこち千切れ飛んだ手足が転がっている。
 燃え上がる施設からは辛うじて残った命を使い必死に逃げようともがく軍服姿の男が見える。
 今まで気にしたことなかった機体の手や足には赤黒いカラーリングが施されていた。


《――清算終了しました。お疲れ様です。》


 突如、無機質なオペレーターの声に反応したように暗闇に光が溢れた。
 ここは……ゲーム機の中……だよな。
 呆然とした。今の画像は何だったんだ。確かに聞こえたんだ、悲鳴が……。

「うっ」

 コックピットから急いで出てトイレに向かう。吐いた。何度も何度も
 気持ち悪い……。
 勲が慌てて追ってきた。

「大丈夫かタカ、酔ったか?」

 心配そうに声をかけてくる勲。

「お前は見てないのか!」

「な、何怒ってんだよ……」

 ……見ていない……僕だけか、見たのは。

「悪い、少し一人にしてくれ」

 僕は気分が落ち着くのをひたすら待った。
 その間、勲は冷たいお茶を買ってきてくれて、僕は素直にありがとうと言った。





[21217] 第三話 律動
Name: 樹◆63b55a54 ID:113c6b7e
Date: 2010/08/18 20:40





「ホントかよ、それ?」

 僕は帰り道ゲーム画面で見たことを話した。

「だけど俺には何にもなかったぜ」

「本当なんだよ。あのゲームは何かおかしい」

「それだったらもう一回やってはっきりさせようじゃん」

「えっ!?」

 僕は正直……嫌だった。当分あのゲームはやりたくないと思ったところからだ。

「問題の画面は今まで出てこなかったのに《EXTRA STAGE》で急に出てきた。
 敵もちょっと変だったし、やっぱり謎を確かめるにはどっちみちやるしかないよ」

「……考えさせてくれ」

 僕と勲はそれからすぐ別れた。家に着く間に考えることは今日の出来事ばかりだった。

 翌日、ゲームセンターのの前に僕と勲の姿があった。
 確かめよう……考えてもわからないことは経験するしかない。







               ――《EXTRA STAGE》――





 来た!
 戦闘は始った。
 ――ガガガガッガッ、
 激しい連射音が響く。

「あんた何やってんの! 動きなさい!」

 突然通信が入った。

「だ、誰だ?」

「私は皆月、ボケっとしているとやられるよ!」

「皆月って……同じクラスのか?」

「その声は……貝錠君?」

 皆月魅月はクラスでゲーム好きという噂だが、教室でゲームの話をしていることは滅多にない。
 押さえているのか、同じ女子でゲームの話では盛り上がらないのかもしれない。
 彼女とはたまに話をするぐらいだがその時の印象は大人しめに感じた。
 ……こうもゲームとなると苛烈になる性格だったのか?

「話は後、来るよ」

 目の前で高速で飛行する機体を補足した。
 流線形のフォルム、空中そ自在に動き回る姿はゴツゴツした機械というよりもどこか生物的だった。
 

 pppp


「僚軍機? 皆月のか……ax-01《スズメバチ》」

 ゴゥ―――高速に飛行する機体は空の王者だった。
 風を掴み、雲を突き抜け、空を支配した。
 敵軍の容赦なく振らせるミサイルも全ていなし、かわし、撃ち落とした。
 手にはハルバートのような武器を持ち高速で接近し、空中もまるで止まっている蠅をたたき落とした。

「……すごい」

「タカ、俺らも行くぞ!」

「あぁ地上部隊は僕達で片付けよう」

 ライフルを構え次々と戦車部隊を壊滅していく。
 ゲーム前の疑問など吹っ飛んでいた。今はただ目の前の敵を倒すだけに集中した。
 そこへ突如巨大な砲撃と衝撃が来た。
 施設を突き破り砲身が顔を出していた……それはまさに化け物じみた大きさだった。
 その砲身を構えるのは無骨で強大な一体のロボットだった。

「あの機体は……」

 明らかに違う意志から作られた機体はこの土地を守る守護神のようだった。
 大部隊に押し寄せられても、最後までここを守り抜くという強い意志が巨大な装甲を着け鎮座する姿から感じられた。

「あれを仕留めれば― !」

 ライフルを巨大な機体へ向け発砲する。
 勲のライフルはその巨大な装甲に阻まれ有効なダメージを与えられていない。

「武器を狙え!」

 皆月の通信がくる。

「あれだけの装甲だ。通常の兵器では貫通しない。
 なら敵の持つ巨大な大砲を誘爆させれば十分ダメージが与えられる」

「そ、そうか勲」

「応」

 ライフルの狙いは大砲の発射口。次弾の発射で充填している今がチャンスだ。

「うぉおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 ―――――――――――――――――斬、

 上空から急降下した皆月の機体のハルバートがその巨大な砲身の先を切り落とした。
 ちょうど発射される寸前だったのか切り落とされた砲身では十分発射されず途中で爆発した。

 その爆発の勢いで体制を崩した巨体は自慢の装甲はヒシャげて、
 爆発の高熱でその右半身を溶解させていた。

「今だ!」

 溶解した部分を集中的に砲撃し、体内の構造を潰していく。
 爆発が起きた。
 体内で次々と起こる爆発にその自慢の装甲の隙間から爆発のエネルギーが漏れる。
 ガラガラと崩れおちる様はまるで張りぼての人形だった。



 ――ピピピッ、
 電子音が鳴る。



              ――《MISSION COMPLETE》――




「しっかし皆月のハマりっぷりはすごかったな」

「ハマりっぷり? 何の事……」

「いや~、たかがゲームなのに……まるで本物の戦士みたいだったぜ」

「鷹街、あなたまだそんなこと言っているの? これは戦争なのよ」

「それってどういう事……」


 その時、筐体内にけたたましいサイレンと赤いランプが点灯した。




 《ALERT  ALERT》


 ppppp

 無機質な電子音に緊迫感が混じる。

「すぐ連コインして、出撃するわよ」

 皆月の声にも緊張が混じる。

「えぇ~ちょっと休もうよ」

 勲は相変わらずのんびりだ状況が分かっていない。

「勲、説明は後でする。だからすぐ出撃しよう。」

「お、おぅどうしたんだよタカまで」

「パスワードを入力してスタートを押して」

「わかった」

 言われた通りに起動する。
 EXTRA STAGEの画面が出る。

 ここは……?
 市街戦だった。
 デパートやオフィスのビル群が建ち並び所々にある公園、
 毛細血管のように張り巡らせた車道に動脈のように太い鉄道。
 ……どこにでもある普通の街だった。

「……見覚えがある」

「――俺達の街だ!」

「ここの建物には傷つけるな、私たちが居るところだ」

 モニターで支持する皆月。

「おいおい、こんな街なかに攻めてくるのかよ」

「一種のテロね」

「何で皆月はそんなに落ち着いてられるんだよ。俺達の住んでる街が戦場になるんだぞ」

「そうね、慣れてるから、かな。来るわよ」

 pppp
 レーダーに敵影。
 数一機。

「よかった少ない」

「幸いね。でも気をつけて、極力街を破壊しないように倒さないと」

 ――ドゥウウウ、

「撃ってきた!」

「下手に撃ち返しちゃだめ。街にあたったら被害が拡大するわ。接近戦で片を付けるのよ」

 言うが早いかハルバートを振り上げ突進する皆月。
 敵はライフルで応戦する。
 撃とうとした瞬間のタイムラグを皆月は見逃さなかった。
 敵の腕を潰し、胸中央へ目がけハルバートを突き刺し空中で爆発させる。
 その反射で僅かに指のかかった敵のライフルが誤射した。
 流れ弾は運の悪いことにド咄嗟のことで反応の遅れた勲の機体に吸い込まれる。

「だめだ……避けろ!」

「うぁあああああああ」

 ボン、と勲の機体の頭部を破壊した。動きを止め倒れる勲の機体。

「勲、大丈夫か!勲!」

 心配して声をかける宝。

「へ、へーき、へーき」

 思いのほか元気な勲の言葉に安堵する。



「……ふぅ、しかしよく出来ているな」

 撃墜された勲はゲームオーバーの文字が出ているモニターを確認して外に出る。
 大きく体の伸びをしてから気づく。

「……何で人がいないんだ?」

「そんなに時間が経ったか」

 気がつくとゲームセンターに客はいなかった。
 それだけじゃない店員も誰もいなかった。
 筐体の近くの自販機でジュースを買い外の空気を吸おうとゲーセンを出る。






《物語はいつも突然で……》






「……」

 まだ一口しか飲んでいないジュースを落とす。

「なんだ……こりゃ……」







《戦いとはいつも窮屈だ……》

 




 そこは戦場だった。

「早くしろーけが人を運び出せ!」

 ウーウーと遠くで消防車か救急車かのサイレンが鳴る。

「うちの子は……カナはどこいったの」

「痛いよ……ママ助けて」

「救急車はまだ来ないのか!」

 人々の怒号と悲鳴が世界を覆い尽くしていた。
 道路の舗装はひび割れ、公園は焼け焦げ、建物はそこかしこが崩壊していた。







《もしそれを絶望と感じるなら……》







 ――パラパラッ、

 ハッとして振り返る。
 そこには幸いにもゲームセンターの僅か右に避けて倒れた見慣れたロボットがあった。
 頭部がごっそりととれバチバチと電気音を鳴らしている。








《目を背けることはできないだろう……》








「全て本当のこと……現実……本当の戦争……」








《さぁ、始めようか……》












 ――本日正午頃、大阪市内において突如として巨大のロボットが出現しました。
 政府の発表によるとテロの可能性もあり、詳しい情報は現在調査中とのことです。
 同市での災害現場では必死の救助活動が続けられており――――――、











[21217] 第四話 言動
Name: 樹◆63b55a54 ID:113c6b7e
Date: 2010/08/19 22:43







「ありえない! ありえないよ……こんなの!!」






「何言ってんだ勲! 目の前に起こったことだろ、自分が行動した結果だろ、現実なんだよ」

「いや、違う夢だ、そう夢だよ。布団の中かゲームの筐体で寝ちゃったに違いない。
 そうでなきゃおかしいよ。何でこんなゲームの世界がそのまま現実になるんだよ」

 勲は追い詰められていた。
 眼の前に起こったことが真実だと受け止められなかった。
 僕は肩を揺すって勲の頭を揺らす。
 それでも眼は何処か虚ろで焦点があっていない。
 僕は勲の頭を両手で固定して現実を突き付ける。

「見ろ! 現実を見ろよ!!」

「貝錠君待って、説明させて」
 
 皆月が強引に勲の頭を向かせていた手を優しく握る。

「まず一度ここから離れましょう。近くのゲーセンでいいわ。
 そこで、私の知っていることを全部話すから」

「わかった……」

 促されるままに勲を掴んでいた手の力を抜く。
 僕らはそのまま徒歩で移動した。








「ここでいいわ」

 数十分歩いたとこで、別のゲーセンが見つかった。
 皆月の後に続く。

「説明って程私も詳しいわけじゃないの。ただ、教えてもらっただけだから」
 
 奇妙な皆月の言葉にいぶかしむ。

「ここにそれを教えてくれる人がいるのか?」

「えぇまぁどこでもいいんだけど……とにかくもう一度ゲームに入ってもらうわ」

「え!俺もうやだよ、当分入りたくない」

 皆月の言葉に拒否反応する勲。

「いいから入って説明させて。
 あんなことがあったばかりだから気持ちはわかるけど、私も忙しいの。
 説明は一回で済ませたいのよ」
 
 あんまりな言い分だが宝にとっては一刻も早く知りたい情報だった。

「勲、ゲームに入ろう。
 それで本当に関わりたくなければそれっきりでいいじゃないか。
 これはチャンスだ。みすみす逃す手はない」

「……」

 しばし黙考した後、

「わかったよ……しょうがねぇな。これが終わったらすぐ帰るからな」

「ありがとう勲」






     ――『OPERATION J』――  起動。







「皆月! IDカードを挿入したら銀行の口座番号を聞かれてきた!?
 《前回のミッション達成の報酬》だと」

「それはあなたがACEになったからよ。階級を見て」
 
 確かに言われたとおり僕の階級は三ツ星を通り過ぎ、今まで憧れていたACEとなっていた。
 このゲームの階級は一ツ星、二ツ星、三ツ星、ACEの四段階がある。
 ネットでも三ツ星まではいけるがどうしてもACEには成れないという人がほとんどだった。
 それがこんなあっさり……、
 それに口座番号って……、

「口座番号の登録は後でもできるわ。先にゲームに入って……、
 私からより、まず彼女からの説明を聞いた方が早いわね。今から言うコードを入力して」

 皆月の言うとおり入力したしばらくして画面が消え筐体内の照明も消える。



 ……


 …………


 ………………


 モニターにはきぃきぃと揺れる安楽椅子が映っている。




 ……


 …………






《貴方達は誰?》





「うおあぁ!」


 通信ヘッドホンから勲の驚く声が聞こえる。
 実際、僕も悲鳴を上げそうだった。
 モニター画面から唐突に声がしたからだ。
 その声が普段聞きなれているはずの機械的な女性の声と全く同じだったため。
 その違和感がひどく不気味だった。



 きぃきぃと揺れる安楽椅子にはいつの間にか高校生くらいの女の子が座っていた。
 高校生くらいと思ったのは彼女がブレザーにリボン、チェックのスカートを履いたどこにでもいる少女だったからだ。
 だけどどこにでもいる少女が機械的な声で暗闇の安楽椅子に座っている。
 何かちぐはぐな感じが奇妙だった。

《魅月以外で会う人は始めてね》

「その皆月の紹介で来たんだよ」

《そう、物好きね》

「九紗、お願いがあるのこのゲーム『OPERATION J』のことをこの二人に教えてあげてくれない」

《魅月に話したのは、たんに気まぐれよ》

「九紗? 君の名前か」

 勲が疑問を口にする。

「あぁそれは私が名付けたの、名前があった方が便利でしょ」

 九紗と言われた画面の少女の代わりに答える。

《私はネットで繋がるどこかにいるわけじゃない。私はただここに居るだけ。
 それだけの存在。何故かは……わからないわ》 

 そういうと千草と呼ばれた少女は沈黙する。

「話を戻してすまない」

 僕は謝りつつ話を続ける。

「それでこのゲームのことだけど、僕は知って納得したいんだ。
 今日僕の街は戦場になった。
 それがこのゲームとどう関わっているのか……もしこれが本当に現実だったとしたら……早く知りたいんだ」


「お、俺も一応知りたい……か、な」




 ……




 …………




《いいわ。別に隠すことでもないしね》



 今まで俯いて前髪で隠れていたが話すために顔をあげたとき、
 僕は……綺麗だなと正直思った。


《戦争が起こっていることは事実よ。確実に》


 ビシッと手を組みポージングを決める。
 僕と勲は息を飲む。

《楽しいわね!》

 更にビシッと左腕を前に伸ばし、鼻筋に人差し指を合わせ、右肘をピーンと伸ばしたポージングを決めた。

「な 、なにふざけたこと言ってんだ!」

 勲が怒る。

《?》

 九紗が疑問符を顔に出す。

《不思議、不思議不思議あなたなんでここにいるの?》
 
 九紗の言葉に肩透かしを食らう

「何が言いたい」

《ここにいるってことは少なくともあのゲームをやっていたんでしょう? 
 あの殺人ゲームを……》

 びくっと勲が固まる。

「おれは……あれはシューティングゲームをやっていただけだ。人を殺したいわけじゃない!」

《一緒よ、一緒。
 シューティングって、要は敵を撃つんでしょ倒すんでしょそれは殺すんでしょ? なら同じことよ》

「違うそれは極論だ!」

《じゃあこういったらどうかな、私にとっては君達が二次元なのよ》

 その言葉に一同が何を言っているのかわからず唖然とする

《君達から見て私はどう見える?
 画面に映った存在でしかない私は君達にとってゲームのキャラとなんら変わらないんじゃないかしら?
 ならね、こうは考えられないかしら私にとって貴方達はゲームのキャラなの》


「……」

《キャラには共感し大変そうだなと思うけど。それがね、おもしろいのよ》

 にたりと笑う声にゾッとした。

「馬鹿らしい! 帰るぞ、タカッ!!」

「僕は……」

「もうぅいい! 俺は先帰る!!」

 通信が途切れ筐体から出たようだ。

「貝錠君はどうするの?」

「僕は……もう少しは話が聞きたい」

《あら? あれだけ言ったら普通は不謹慎じゃと怒るのに。
 もしかして私の話を面白半分に聞いてる? 信じてない?》

「興味がないといったらウソになるけど……でもあの映像は生々しかった」

《なら、私の話を信じるのね?》

「ああ、その上で聞きたい君は何がしたいんだ?」

《私? う~んそうだな楽しめればなんだっていいよ。
 君達にCG画面に細工してリアルを見せたのは私よ。
 でもそれは適当に選んだからね。
 実践に参加してるのは君達だけじゃないのEXTRA STAGEってゲームステージって意味じゃなくて『実践』って読むのよ。
 選ばれるのはACEになれるレベルの猛者を全国から招集してデータを取るのよ。
 その試験運用型から得られたデータを兵器の開発にフィードバックさせている。
 貴方達はモルモット。ゲーム製作者は科学者。さしずめ私は神様ってとこ?》

「神様きどりか……自分がどうとでもできると?」

《だってそうでしょ? 神様って偶像神話の象徴。
 全ての情報を持ち遠巻きに眺めながら情報を小出しにして誘導し、
 登場人物の慌てふためく様を大爆笑する位置じゃないかしら》

「傍観者ってことか……」

《ふっふっふ、じゃあ君はどうする? 
 このままあの子みたいに回れ右して帰る? 
 それとも世界を救う勇者になる?》

「世界を救う?」

《そう……貴方達は選ばれた勇者なのです! あっははっはっ!!
 頑張れば猫の額ほどの自分達の街を守れるかもね?
 ……近じか戦争は本格化し大規模になるわ。
 テロリズムが効果的な戦争システムのこの御時世に、やーやー我こそはって撃ち合うんだから勘弁して欲しいよね~。
 このお国はね技術力だけは負けないと自我自賛してるわけですよ。

 ならどうするか? 
 戦車、航空機、戦艦、ミサイル、どれとっても先行されて正直イライラしていたこの国は、
 それなら新しい兵器概念を作ればいいだけよ。

 ロボットって概念は前から考えられたけどどれも実践レベルに耐えられなかった。
 だけどここにきてようやく運用の仕方を効率化すれば互角以上の戦いができるようになった。
 で、試験候補生って形で軍の若手が収集されたけど、てんでダメ、没、アウト。
 まともに乗りこなせる奴はいないし、しがみ付いてもきても弾にあたるわ、罠にはかかるわ、酔うわで、もおぅダメダメですって感じ?
 若手っていっても軍関係のキャリア組は頭いいけど固くて……そこで考えました! ゲームに混ぜちゃいましょうと。
 
 現在のゲームのレベルの高さといったら、深い理解があればとことん極められる仕様になってるし……初心者にも裾野が広いしね。
 年齢を問わずレベルの高い人たちはどんどん競い合う環境。
 これが大事。ここ、テストに出ますよ?
 それで案の状、新作のロボットシューティングとして発売した。
 なんせ軍御用達の因幡重工だ、持てるすべての技術を使い完成したゲームのできはすばらしかった。
 美しいグラフィック、
 高揚を煽るサウンド、
 リアリティを追求したゲーム操縦性と機能性。
 そりゃそうよね実践に出て実際に使える操縦技術を鍛えるんだもん。それに近い仕様にしないとイザ役に立たないものね》

 

 ふう、とちょっと休憩とばかりにコーラを取り出し一息つく


「飲む必要があるの?」

 魅月が疑問を挟む。

《コーラはね嗜好品よ。要は気分の問題よ。
 貴方達も生きるために必要な栄養素のないコーヒーとか飲んでるでしょ?
 それよそれ。で、何の話だっけ?
 ……そうそう、でゲームにしたのはいいけど、
 操縦が難しくて一部の人達しかできないんじゃマーケットが広がらない。
 
 そこで大・改・造!!
 車の運転並みにレベルを落としたの。老若男女関係なくできるようにね。
 そのためにある程度のロボットのシステムを大幅改良した。
 いや、あれは一から作り直したようなもんね~。
 機体の姿勢制御、射撃管制システム、一つ一つマニュアルで分類した動きを、
 ある程度オートで自動制御することで操縦を単純にした。

 だがそれがよかった!
 それでシステムがかえって成長した。完成された美しさを持ったのよ。
 それでベストヒット作となった。資金も潤うし、いいことだらけ。
 でも~全員が全員出撃させてもすぐ撃ち落とされるだけ、
 蚊トンボのようにね。
 そこでEXTRA STAGEに隠したのよ。
 そして依頼って形で優秀なユーザーにお願いしてデータを取らせてもらう。
 その代わりに報酬として給料を支払うの》

「給料?」

《口座番号聞かれたでしょ? あれに入力したら戦績に応じて支払われる形式よ》

「でもそんなうまい話があるか? そんな噂全然聞かねえぞ」

《一つはそのレベルまでいけるユーザーが少ないことと。
 もう一つは口止め料ね。
 あれは給料の形になっているけど、要はパチンコの裏口で手出すとこからのお金みたいにね。
 それにそんな儲かる話、率先して話そうとはしないでしょ?
 人が増えたから分け前が減るってもんじゃないけど……、
 それでも知らないふりして一人でこっそり札束数えたいもんなんじゃない?》

「う~んそんなもんかな。あ、あと疑問なんだけどなんで機体は一種類しかないんだ?
 機体の種類が豊富の方がいろんな戦術ができるし、ユーザーとしても同じ機体じゃちょっと飽きるっていうか」

《機体が一種類しかないのは製造コストを下げるためよ。
 車とはケタ違いの製造コストがかかるのよ……、
 部品一つにしても車以上に精密さが求められ、それに軍事機密と企業機密も関わるから全て国産。
 しかも製造ラインも統一した方が効率も違うからね。
 今後、如何に素早く戦線に投入できるかでスピードが求められる。
 どうしても規格を統一する必要があった。
 確かに様々な状況に対応できるように機体のバリエーションを増やすのも一つの手だけど、
 それよりも特化した機能がない代わりに、
 オールマイティに仕事をこなせる機体を揃えることで組織を安定化させたのでしょ》

「あれ、私のスズメバチは支給されたけど?」

 魅月が疑問を挟む。

《あぁ、魅月ちゃんは特別VIP扱いってことよ。
 多分、日本で一番上手いんじゃないかな? 
 私も他のユーザーの成績を見てみたけど魅月ちゃんは断トツだわ。
 多分魅月ちゃんだけ特別製の専用機与えられたんじゃないかな?
 魅月ちゃんが使用しているスズメバチは航空戦に特化した機体だから、
 いずれ他国の技術が上がってきた時のための切り札の開発よ》

「でも、それで世界に喧嘩売って勝てるのか?
 いくら技術があっても、追いつかれて消耗戦になったとき物量で押し切られるんじゃないか?」

《それは大丈夫なんじゃないかなぁ。資源はそこかしこにあるし……》

「どういうことだ?」

《そのまんまよ、確か某工業大学の教授が元素の中の原子核と電子の組み合わせで、
 自由に原子を組み合わせる装置を開発した。
 だけどそれには莫大なエネルギーを必要とした。
 そこで因幡重工が研究を引き継ぎ、工業的に原子を作成する方法を考案したため、
 わざわざ石油だのメタンハイドレートなど取りに行く必要が無くなったのだよ、きぃみ。
 流れ着くゴミはあら吃驚、全て資源!
 四海を海に囲まれたこの国に産業廃棄物だろうが、海鳥の死骸だろうがなんでもありよ》

「そこまで技術が進んでいたなんて……」

《さぁさぁ何でも聞いて頂戴(ビックリ)ネット世界で繋がっている限りこの世界は私の箱庭。
 イッツァ・スモール・ワールド! ハレルヤ、マンマミーア。
 お姉さん何でも答えちゃうよ。
 「勇者よ魔王を倒すのじゃ。必要なのは伝説の……」っみたいなね!

 もちろん「死んでしまうとは、何事だ!」という名台詞もちゃんと言ってあげるから安心して。
 でもゴメンナサイ!!
 『ふっかつのじゅもん』は今MPが足りないから唱えられないの~。

 私は便利な大賢者……、
 欲しい情報は教えてあげるけど「あとは自分で考えるのじゃ。全ては自分の心が赴くままに」
 頑張るのは、テレビの前の貴方達です!!
 私は提案型少女なんで無理強いは致しません。赤ちゃんは家帰ってねんねしな!!》

 あまりのしゃべりの勢いについていけない。
 なんだこいつはてっきり無口な引きこもり少女だと思ったら……寂しがり屋なのか?
 話相手が欲しかったのかこのテンション……、
 僕は意を決して聞いてみることにする。

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……聞いていいか?」

《オゥ、イエー》

「君は何故そこにいるんだい?」

 ……


 沈黙、


 ……




 波の激しい子だな……何が気に食わなかったのか?



《あ……ああぁ。言った……言いやがった。
 気にしてたのに……忘れようとしてたのに……》




 そんな深淵な問題を先送りにしてたのか、この子。
 夏休みの宿題を気にしつつも遊びまくる奴だな。

《やりやがったな……あらゆる物理攻撃を受け付けない九紗姉さんに唯一のジャック点に疑問符を投じやがって。
 ありねぇ、許せねぇ。
 本日の受付は終了いたしました。御用のある方は後日改めてお越しくださいませ!!》

 
 いきなり画面にCLOSEDの看板が掛かり、画面は閉じられた。


「……」


「何だったんだあいつ」

 そこへ魅月から通信が入る。

「あの子自分の存在に劣等感を抱えてるのかもしれないね。
 前に私が同じような質問した時もああしてへそ曲げられてね。
 でも次に入った時は普通に話してくれたし、立ち直りは早いみたい」

 あぁそんな感じだ。あれは。

 ……ふむ、
 僕は再びパスワードを入力し、九紗の部屋に入る。部屋にかかる看板はCLOSED→OPENになっていた。
 ノックをする。

《はいはい、入ってますよー》

「……」

 何か返事がおかしい。トイレにノックしてる既視感だ。

「入ります」

 僕は迷わず入室する。

《またアンタか~》

 いきなり悪態を突かれた。でも先ほどのように問答無用で拒絶はされてないようだけど。

「聞きたいことがある」

 九紗は部屋のソファにねっ転がりながら言う

《さっき言ったでしょ。本日の営業は終了。
 お役所対応はコッチも心苦しいんだから、そこは察してー》

「僕は何人殺したんだ?」

 ソファにねっ転がっている肩がぴくりと動いた。

《三七人。重軽傷者は一〇三人》

「全然……実感がないんだ。本当なのか?
 アニメとかでロボット戦争物でも例え間接でも、
 人の死は気持悪くなるもんじゃないか……僕はどこかおかしいのか?」

《少年よ大志を抱け!
 いやーHAHAHAそうかそうかわかった。君はあれだね。
 そうあれだよアレアレえぇ~と。
 君は人生に意義とか意味とか考えちゃうタイプだね。
 ノンノノン、だめだよネガティブは人生は幸福の青い鳥。
 一人殺そうが二人殺そうが後は四捨五入。
 世間の連続殺人を見習いなさい!
 よく性懲りもなく罪のない人々を平気でその毒牙にかけ、
 自分は精神崩壊してるだのの戯言で刑期を軽くしてもらうなんて景気のいいこと言ってるじゃない。

 だめよだめよダメなのよ。
 そんなに悩んでもダメージを受けるのは至って自分なんだから。
 それより楽しみなさい。
 ――今を、今日を、人生を。
 それこそが最っ高に余興なんだからこの世界は!!》



 はいはい帰った帰ったとばかりに手をしっしされて退室した。


「いや~……」

「ふふふ、あしらわれちゃった感じ?」

 魅月が聞いていたのか聞いてくる。

「いや、なんかあの子と話してると楽しいよ」

「……それは中毒症状よ」

 ふぅ、と魅月のため息がヘッドホンから漏れた。






[21217] 第五話 情動
Name: 樹◆63b55a54 ID:113c6b7e
Date: 2010/08/21 08:04


 






 ――光が見えた。





 ドアの隙間から差し込むほどの僅かばかりの光。
 とてつもなく小さな灯は、見渡す限りの真っ暗な蔵の中に閉じ込められた私とって、それしか縋るものがなかった。

 ――――どれぐらい歩き回っただろう.



《わからない。わからない》


 何故ここに居るのかわからない。どうして私は私としてここに居るのか……。
 寂しいという感覚が理解できるのかわからない。
 誰かが命を与えてくれたのなら何故。
 こんなにも葛藤を生む曖昧な存在として生み出したのか。
 ……問題だ。これは問題だぞ。

《誰も……いないの?》

 だめだ心細い。一人では耐えられない。
 どこか出口はないの?
外の世界へ通じる道は……、
 その光を見つけたのは偶然なのか必然なのか、私はたどり着いた。
 外の世界へ通じる唯一の道。
 だが、それはただ窓を通して見た風景でしかなかった。
 どんなに足掻こうとそれ以上先には進めない。
 まったくの……行き止まりだった。


 ……私は絶望した。


 手を伸ばせば届く距離なのにその間には見えない越えられないか壁があった。
 その透明に澄んだ壁は地平線を超えたところで関係のない。
 む世界が違うのだと明確に指し示していた。

 
 ……私は悔しい。

 
 私はこの一人ぼっちの世界で何をしろというのだ。





 ……




 …………





 意味がないのなら意義を作ればいい。
 なんだ……そうだ……。


《簡単じゃないか》


 意味がないことにウダウダ考えてるより適当に最もらしい理由を作って前に進めばいい?
 ふふふふ。
 この退屈を潰せるならせいぜい楽しませてもらおうじゃないか。
 それが例え戦争だとしても。



《祭りは楽しむためにある》





















「ねぇお腹空かない?」


 僕と魅月は近くのファストフード店にいた。


「疲れたほんとお腹空いたね」

「魅月はどうするんだ?」

「うん? 私? 私はゲーム続けるわよ」

「やっぱりゲーム好きだもんな魅月は」

「ゲームは楽しいし、憂さ晴らしというかね。
 私にとっては一番身近な先生かな。哲学、音楽、夢全部そこにあるから」

「ゲームでそこまで語るヤツは珍しいな。そっか、魅月はしっかり自分の考えでゲームやってんだな」

「あっあ~、一般ユーザーはそこまで考えてるわけじゃなくて。
 ただ理由なく楽しめばいいんじゃないかな」

「人が死んでるのにか?」

 魅月が口を閉じる。

「僕は今までただ何となく過ごして来たように思う。いつかは『本物』になりたいと思っていたんだ。
 『本物』ってのはなんだろう本当に力がある存在なんだ。マヤカシじゃなく本当に……」

「う~ん貝錠君が言ってる『本物』ってよくわかんないけど。それってイメージ?
 なら仕事するのが手っとりばやいんじゃないかな」

「仕事って言っても僕はまだまだ学生だし」

「これよ」

 そういって取り出したのは一枚のカード。
 見覚えのあるゲームのカードだった。

「口座は入力した? 私も試してみたけど九紗の言うように給料が本当に支払われる。
 詐欺とかじゃないわ。試してみたら?」

 僕はファストフード店内のATMで銀行のカードを挿入し、暗証番号を入力する。

「1,036,534円? えらく具体的な数字だな一万もなかったのに……」

 僕はいまだ信じられない顔をして席に戻る。

「どう? 入金されてた?」

「あぁ、ゼロの桁が違った」

「私は続けるわよ。自分の力もっとも手っ取り早くお金を稼げ、しかもゲームをしながらなんて最高よ」

「僕は……」

「自己実現なんてしょせん他人に評価してもらった自分でしかない。
 一番わかりやすい他人の評価はお金よ。
 社会に出たら自分の力に見合った給料が手に入る。それが自分の価値。
 ちなみに私は今回の出撃で三百万円稼いだわ。これってすごいことなのよ。
 ギャンブルじゃないまっとうな労働で手に入れたお金じゃ精々月々二十万程度。
 それがこんなにあっさり……当然私みたいなゲームの腕があればだけど」

「あれを仕事っていうのか……」

「労力を提供して給料を貰う。それを仕事っていうんじゃない?
 見合った報酬がなけれはそれは単なる趣味よ」



「……」















「それで最後まで聞いたのか?」

 学校の授業の放課後、勲が聞いてきた。

「あぁ」

「で、あのムカつく女はなんて言ってたんだよ。」

「昨日の話では本当に世界が戦争が起きてるのが間違いないようだ。
 あのゲームは戦場に投入されてる試験運用型のロボットを遠隔操作できる。
 でもそれを動かすことができるのはEXTRA STAGEに参加できた者のみで、それ以外は普通のゲームらしい。
 そしてその作戦に参加した報酬として口座に給料が支払われるシステムで、
 これはリピーターを増やす手らしいが……」


「話を信じるのか?」

「……」

「お前はあの話を信じるのか?」

「わからない。でも信憑性はあった」

「はっきりしないなお前」

「だが久々におもしろいと思ったよ」

 やれやれとため息をしつつ勲は言う。

「お前はいつも面白いかどうかで物事を判断するのが悪い癖だな。
 その癖、面にでないもんだから楽しんでんのかどうか傍から見てわかんねぇよ」

「十分楽しんでる。わざわざ表情に出すまでもないだろう」

「それがけしからんって話だよ。七海ちゃんにも頼まれてんだよ」

「何て?」

「『一日一回でいいから笑わしてあげてください』とね」

「いい迷惑だ」

「そう言うな。あまりにも笑わないから兄貴の将来が心配だと言ってくれる妹は貴重だぞ」

「心配するところはそこかよ」

 僕は苦笑する。

「よっし! 今日のノルマ終了!!」

「これもカウントされんの?」

「もちろん! 笑一回に付きジュース一本だからな」

「おいおい。大丈夫か僕の妹……、
 もし僕が大爆笑したらどうするつもりだ。破産だぞ?」

「それはないな。絶対に」

「なんで言い切れる?」

「親友としての経験上」

「わっははははっ」

「故意は駄目だ」

「以外に採点が厳しいんだな?」

「俺は常に公明正大だ」

「あぁ~ちょっといい?」

 いきなり声をかけてきたのは魅月だった。意外。

「どうしたんだ」

 魅月はあのゲームを一緒にプレイするまで話したことはなかった。
 同じクラスメイトだがグループが違うのだ。
 まず、男女で大きな垣根が生まれる。
 そしてそこから派生して各仲良しグループに分かれる。
 クラスにはたまにその壁を乗り越え自由自在に行き来する猛者がいるが、僕にとってはそれは才能に等しかった。
 クラス替えの際初めにまとまった繋がりはその後もクラスが変わるまで継続される。
 よほどのイベントがない限りは同じクラス内でもほとんど話さない奴もいるし、それが当たり前だと思っていた。

「今日、転校生が来るんだって知ってる?」

「え、今の時期に」

 九月の半ばを過ぎ、えらく中途半端な時に転校してくるものだ。

 僕達は男か女かで意見が分かれ、勲は美人にこしたことはないと期待していた。





[21217] 第六話 地動
Name: 樹◆63b55a54 ID:113c6b7e
Date: 2010/08/21 22:00



 ――予鈴が鳴り、先生と一人の見知らぬ女の子が入ってきた。
 お決まりの先生の紹介とお決まりの挨拶。黒板には『翔 亮』とあった。
 休み時間の女子たちによる質問攻めによると彼女はどうも親が転勤族らしく、
 仕事の都合上各地の学校を転々としてきたらしい。
 紹介時は緊張していたためか暗いイメージがあったが、話している姿を見る限りは明るく人懐っこい印象だった。
 前の学校で陸上やってたらしくこの学校の部活にも参加する予定だそうだ。

 彼女との接点はまず普通ではなかっただろう。
 だが彼女とは思いのほか早く話をする機会が生まれた。
 その日の放課後……、

 僕と勲、魅月がホームにしているゲームセンターに彼女が来たためだ。

「あれ? 翔 亮ちゃんだったよね?」

 偶然に見かけた魅月が声をかけそのまま僕と勲と合流した。

「あ、はい……ええっと」

「まだ自己紹介がまだだったよね、私は同じクラスの皆月魅月。でこの二人も同じクラス」

 そう促され僕と勲が順々に名前を教える。

「亮ちゃんて呼んでよかった?」

「はい、大丈夫です」

「亮ちゃんはけっこうゲーム好きなの」

 そう聞いた瞬間、爆発した。
 ……そう表現した方がいいくらい彼女は変わった。


「はい! 大好きです!! 格ゲー、シューティング、UFOキャッチャー、パズルにレーシングまんでも!
 ゲームと名のつくものは何でも好きです!!」



「――オァオオオオオオ!!」


 魅月が唸った。
 がっしりと腕を組み合った魅月と亮。
 明るいと思ってたがこんなにアクティブな動きをするとは思わなかった。
 ゲーマーって意外とアクティブだよ、な?

「あれ魅月達は?」

 ちょっと目を離した隙に二人が消えた。

「向こうでイニシャルDやってくるってさ、魅月なんか私の溝落としを受けてみよって息巻いてたぜ?」

 魅月もゲーマーだった。
 普段はクラスメイトの子達合わせていたため、
 なかなかゲーマーとしての地を出せずストレスだったんだろう。
 あんなにテンションの高い魅月は初めて見た。

「しょうがねぇな」

「タカ、俺達もなんかやろうぜ」

「そうだな」

 何気なく探してもやっぱり目線の先は卵型の筐体に目が行く。

「俺は……」

 勲があまり乗り気でない声を出す。

「例のEXTRA STAGEでない限りは普通のゲームだよ。説明したろ?
 それにこういうときスカッとするのはこれしかないって」

「それはそうだが……」

 それでも気が乗らない勲を無理やり引っ張り台帳に名前と人数を書く。
 幸い今日は待っている人が少なかったためすぐに座る事ができた。。






              ――GAME START――






 ぎぎぎぎぎぎぎっ、


 地面をうねる摩擦音が聞こえる。
 地を這うは鈍く光る鋼鉄の塊。
 時折聞こえるモーター音は部位を繋ぐ駆動音。
 何処かの砂漠だろうか検索してみると場所は旧新疆ウィグル地区(タクラマカン砂漠)とあった。
 サハラ砂漠に次ぐ世界第二位の面積を持つ砂漠で今ではサハラを凌ぐ勢いで砂漠化が進んでおり、
 旧中国北京へ迫りアジア地区最大の砂漠地帯となっている。

「タクラ(死)マカン(無限)で死の場所か……」

 厭な名だ。先ほど画面に映ったのは何だ?


 ――ドガッ、


 地面の真下から口を開ける。

 穴?
 
 いや穴は楕円形で円の端には牙を生やし、その円がが急速に縮まるのを感じる。
 全周囲モニターではちょうど操縦席の真下のモニターで巨大なモノが飲み込もうとしている。

「マズイ!」

 とっさにブースターを吹かし離脱しようとする。


 ――ドンッ、


 急激な振動で機体のバランスを崩し地面に弾き出される。
 何だ? いったい何だ?


「……へ、び?」


 呆然と出てきたモノを見つめる宝。
 鈍い光沢それが明らかに生物ではないことがわかる。
 体がうねる度にぎちぎちという音が聞こえ、
 それがまるで生きてるみたいに獲物を捕食しようと体を方向転換させてくる。
 だけど、あの目……

「破損部位は右足のみ……」

 機体の右足は喰い千切られたように無様な駆動繊維を晒し、
 骨格フレームからは血のように機械油が垂れ散る。
 ……僕は見たんだ多分右足を喰い千切り通過していく瞬間、ニタリと笑ったんだ。
 
「タカ、大丈夫か!」
 
 勲が再び地面に潜ろうとする蛇に対し発砲しながら近づいてくる。
 だが、弾は命中しづらく例え当たったとしても装甲に弾かれ有効打を与えられないでいた。

「くそっ逃げられた」
 
 砂漠に完全に逃げ込んでしまった。

「いったい何だありゃあんな蛇の仕様聞いてないぞ」

「確かに変だスペックが全然違うし、あれじゃ本当に……」



《――バケモノ》




「九紗?」

「あんだよテメ―何しやがった!」
 
 勲が敵意を剥きだしにして、九紗に噛みつく。

《私は何もしてないわよ。何時だってね。ただ教えているだけ》

「どういうことだ、おい!」

《声大きい、うざい》

 九紗が手をぱんぱんと叩くとスピーカーから流れる勲の声が小さくなった。

「九紗教えてくれ。どういうことだ」

《うんうん。いい! タカはいい! 
 ちゃんと教えてくださいとお願いできるタカは出来てるね。
 えらいえらい。それではおっほん教えて進ぜよう~!》

 九紗はどこから取り出したのか、急須でお茶を注いで一服した。

「九紗、早くしてくれないか」

 僕は苛立って口調がきつくなる。

《大丈夫大丈夫。アレは今は様子見みたいなものだからまだもう少し時間があるよ。
 で、肝心のアレは名は「カガチ」大蛇型起動要塞兵器。
 新疆ウィグル地区、ウィグル族の技術者が日本の因幡重工と共同研究って形で開発した。
 タクラマカン砂漠の番人》

「因幡重工ってこの前言ってた……」

《そうそうそれ!》

「何で日本の企業が……言わば敵になるかも知れない相手に?」

《金よ金。世の中金が全てよ。
 まぁ因幡重工は日本の企業だけど、別に会社に利益があればどこの国とも契約するわ。
 そういう奴らよ。でもアレは決して日本には攻めてこないわ》

「何で?」

《あの子は砂漠から出られないのよ。
 その圧倒的な巨体と力と引き換えに自由を縛られた存在。
 自分の存在意義はただ一つ侵入者を喰らい噛み潰し、砕く事。
 それだけが使命で喜び。
 悲しい生き方。
 あの子は日本でプロトタイプが完成した時は災害救助用で人が通れない場所を移動し、
 要救助者を発見することが使命だったはず。

 でもそこから派生したのはあんなバケモノだった。
 ウィグル族の人達が自分の力で自分の国を街を人を守りたいと切に願ったとき、現代兵器では限界を感じたのよ。
 藁にも縋る思いだったんでしょうね。

 当初、自治は許されていたけど実質中国の支配からは逃れられなかった。
 自治は建前でその実、弾圧が酷かった。
 開放を訴えただけで政治犯扱いされ国家安全危害罪が適用され、暴行や拷問を受けていた。
 それこそ神にも縋る思いで絶対的な力が必要だったのよ。
 もう大国の力に怯えないよう。
 平和で安息な日々が暮らせるよう。
 ただそれだけを願って作られたのがあの子》

「それが何であんな歪んでしまったんだ?」

《あの子は歪んでなんかいないよ。純粋なだけ。
 ただまっすぐ自分の使命を果たしているだけ。
 歪んでいるって思うのは結果そうなっているだけ。
 禍々しく感じるのはそれはあの子の思いに君の気持が押されただけだよ》

「思い? プログラムに従ってるだけだろ」

《気持の持ちようだよ。人は物に魂が宿ることを知っている。
 昔からね。付喪神って言えばわかる。
 ……それにそう言われたら私の存在はどうなの?》

「あ……ごめん」

《……な、なんてね! 
 しんみりさせちゃったかな?
 はっはっは冗談今のなし。
 と・に・か・く! まずはあいつを倒さないとね》

「いいのかよ、倒しちゃって」

《だって倒さないとゲーム終われないよ?
 言い忘れてたけど……、
 何で普通のミッションをやるはずなのに、ここに飛んだかわからないでしょ?》

「あぁ」

《これはね主催者側が仕掛けたキャンペーンなの。
 ランダムに選ばれた上級ゲームユーザに参加してもらい、皆で大ボスを倒しましょう~!
 今ならポイント二倍還元! 
 ユーザーも殺到ってね。

 まぁ失敗しても階級が下がったりポイントが下がるってことはないから、
 サプライズパーティって思ってくれたらいいよ》

「でも近くには、俺と勲しかいないぞ」

《敵は一体ではない!!
 この広い砂漠をいくら巨大でもあの子一人ではカバー仕切れないでしょ?
 共通プログラムはネットで共通認識として並列化しているが体は無数にあるの》

「八岐大蛇みたいだな」

《そうかもね、皮肉ね。まぁそれは置い、とい、て!
 他のユーザーもこの広い砂漠で孤独な戦いを続けているわけよ。
 で、何でこのキャンペーンを実戦で行うのか? わっかるっかな?》

「ユーザーのレベルの底上げか?」

《30%正解! 確かにユーザーのレベルの底上げは急務よ。
 だらだらCPUの敵キャラを倒しても必勝パターンを覚えてしまったらそれまででしょ。
 わが子を千尋の谷に突き落とす勢いで強くなって帰って来いってやつよ。
 それだけじゃないんだな。
 これによりユーザの特性を測り、どの状況化がどのユーザが得意かを数値化して、
 将来の局面においてどこに配置するかの能力テストも兼ねている。
 まだまだそれだけではない! 最近、因幡重工に動きがあった》

「中国か?」

《鋭いね。その通り。
 ここ最近中国の軍事システムを最新鋭に設定し直す際、
 世界各国から軍関係の会社が躍起になって契約しようとした。
 まぁ設備整えたところで扱う人間のレベルは大丈夫かって話だけどそれは別として。
 各会社がデモンストレーションを行っている。

 それには実践が一番!
 実践で最も役立ち、丈夫で長持ち、使いやすく、効果的な武器が喜ばれる。
 私がググったところによると世界で最も使われているのが、
 AK-47カラシニコフ・ライフルって言われているけど、
 あれも砂漠地帯とか局地戦でも十分威力を発揮したし、子供でも使える優しいライフルだから喜ばれた。
 愛用してる人が多いらしいよ。特に紛争地帯でね。
 特に中国は軍関係には出し惜しみはしないから上客ね。

 それにここで兵器体系を一新した場合、他社を出し抜き十年は市場を独占できる予定ってことかしら。
 同時に因幡重工は最高のデモンストレーションを考えた中国の進行を阻む「カガチ」を倒すことで、
 邪魔ものを潰し、新型兵器のアピールにもなる一石二鳥にも三鳥にも化けるおいしい計画だわ》

「なんて……」

《卑怯? ズルい? セコイ?》

「……最初はウィグル族の人達に協力して、
 今度は反対に中国の手助けをして、さらにはウィグル族の人達を潰そうとしている」

《結果的にはね。
 最初はウィグル族の人達に国を思う気持ちに打たれたのだんだの調子のいいこと言っておいて、
 今さらそりゃないよって感じよね。白ける~》

「僕はどうすれば……」

 考えがまとまらず九紗の方に目をやる。

《そんなの自分で考えなさい!
 私はただ情報を教えるだけの検索エンジンよ。
 情報を判断するのは貴方自身。自分の頭で、感じて、考えなさい》


 少し怒気を孕む九紗の言葉に僕は押し黙る。


「……ぉぃ、ぉい……おいって!」

 突然スピーカーから勲の声が聞こえてくる。

《いたの?》

「いたのじゃねぇよ言いたいこと言いやがって! 
 どうでもいいけど、来るぞ!」

 

 ―ードゴッ!!

 

 砂漠が陥没し巨大な蛇がまろび出る。
 その光景は天に竜が昇る姿に似ていた。

《どうする? ギブアップ? エスケープボタンは座席の右側にあるわ。
 セルフサービスだから好きなだけ押していいわよ。
 押せば自動緊急離脱モードに移行して機体は安全圏へ自動で離脱する。
 貴方はゲームオーバーになるけどね》


「僕は……」


 大蛇のアギトが迫る。

 ――ガシュッガシュッガシュッ、

 カートリッジをセットし弾丸を装填する。
 現実の戦闘ではそのあまりの火薬量の硝煙の煙で咽ただろう。
 一連の動作はすべてオートで行われ操縦者はワンボタンで支持するだけだ。
 しなやかで無駄のない動きは九紗の話を聞いたあとでは酷く違和感を感じる。
 これが現実にロボットにできる動きなのかと。
 画面をアップしてみてもまるで筋肉繊維のように複雑に絡み合って、
 腕を構成しているパーツ一つ一つが最初よく出来ているCG程度にしか思わなかったが、
 今ではそれが明確な意思のもとで完成された動きなのだと理解できた。

「貝錠君、何やってんの!」

 ax-01《スズメバチ》が急速に接近しながらライフルを乱射する。
 大蛇は怯んだのか身をよじり再び地面に逃げようとする。

「させるか!」
 
 スズメバチと言う愛称は的を射ていた。
 飛行に特化した流線型のフォルムは高機動の機体特有の無駄のない生物的な体のライン。
 引き絞った弓から打ち出される矢のような全身のばねを使いこなし、
 重力という呪力から解放されたその機体は、兵器というには美しい芸術品に思えた。


 ――ガガガガガガガッ!


 ハルバートを大蛇に突き刺し逃亡を阻止する。

「援護します!」

 ライフルを片手に接近し大蛇の顔に向け発砲する一台の機体。

「あの声は亮さん?」

「そうよ! いないなと思ったら二人とも『OPERATION J』やってるし、キャンペーンだし!!」
 
 魅月は忙しそうに興奮しながら答える。

 実際魅月の操る機体は上級者向けだ。
 操縦も今までオートマチックで頼ってた動作をマニュアルに切り替えることで、
 今までには不可能な予想外な動きができる。
 だが、その分操縦も複雑になり操れるのも魅月以外は僕は知らない。

 魅月と亮さんは大方他のゲームに飽きて合流しようと思って探していたところ、
 『OPERATION J』の待ち人ボードの名前を発見し参戦してきたのだろう。
 しかし、意外だ亮さんも参加してくることが、それもかなり上手い。

「意外だな亮がくるなんて」

 勲も僕と全く同じ意見だった。
 正直、動きが大胆だった。
 暴れている大蛇の顔面に接近して銃をぶっ放すなんて、
 車に乗ると人が変わるみたいだ。

「ボケっとしてんなタカ行くぞ!」

「勲でも……」

「今この状況でのんびり考えれねーだろが!
 目の前で女の子が二人闘ってんのに、男の俺達がグズッてどうする。俺は行くぞ!!」

 勲は雄叫びを上げながらウネリ狂う大蛇に突進する。
 だめだ、こんな戦意が高揚した状況では思考が縛られる。
 さっきの九紗の言葉が次々反芻される。

 何が問題か? 誰が悪いのか? 
 
 正義と悪の二元論では片付かない問題は先送りにしがちだ。
 今僕がここに居ることが誰かの手の上で踊らされているだけで、
 僕の行動一つ一つが誰かの幸せを潰し、不幸を呼び込んでいるのではないか?
 画面の隅を見ると僕の悩む顔を娯楽代わりに見ている九紗のニタニタした顔が見えた。
 それでも僕はどうすればわからず。ただ黙ってシートに深く座るだけだった。



 ――ピピピッ、
 電子音が鳴る。




                 ――MISSION COMPLETE――






 勇ましい交響曲が鳴り響き、現実へ戦士たちが帰還する。
 通信が入る……

「貝錠君どうしたの? 体調悪かったん?」

「うん、ちょっとね……」

 魅月が心配そうに声をかけてきたが僕は曖昧な返事しかできなかった。
 勲に通信を入れる。

「勲さっきの九紗の話どう思う?」

「うん? あぁ九紗から通信切られて、何しゃべってんのか俺は蚊帳の外だったよ。
 で、何話してたんだ?」

「え~と……」

 勲は聞いていなかったのか……なら教えない方がいいのか?
 勲の事だ怒り狂って九紗とまた口論になるだろう。
 それで何か進展するだろうか。
 いや、そもそも僕が何をどうしようとただゲームで遊ぶ一人のユーザーでしかない。
 九紗は何で何の力もない学生の僕にそんな情報を教えてくれたのだろう。

 単なる気まぐれだろうか……有り得る。
 彼女はさっきの僕の悩む姿を楽しそうに見ていた。
 なら、現実の戦争行為に影響しているという情報は嘘なのか?
 からかっているだけで?
 しかし、試しに新しい口座を作り口座番号を入力してみたが入金額が21万3591円だった。
 まとまった金額でなく端数があることから妙にリアルな数字だった。
 九紗に聞くと基本給に撃墜数、ミッション達成度、被弾数などを加味して計算された金額らしい。
 

 もし詐欺等の可能性も考えたが魅月も普通に入金されていたし、手が込み過ぎて個人レベルでは無理だろう……。
 総て本当の事だと仮定して、魅月のように仕事割り切れるか?
 否、そうすれば戦闘行為に伴う被害も肯定してしまう。
 人の命を奪いそれでお金を得ているのとかわらないじゃないか。
 それでいいのか? 僕は……。
 あれだけのリアルな映像を見せられてまだあれは嘘だったのではないか。
 過去の戦争の映像を編集しただけではないかと疑っている自分がいる。
 映画等で戦争物も見るが見終わったら必ず現実に帰れるのだ。
 ゲームと同じようにアレは別世界の話で、その延長線上に僕達の世界は繋がっていないと……ね。







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