2010年6月22日 12時36分 更新:6月22日 12時55分
政府は22日、財政健全化の指標である国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を「20年度までに黒字化する」との目標を掲げた「財政運営戦略」を閣議決定した。同時に公表された内閣府の試算では、1%台の低い経済成長が続いた場合、PBの赤字は20年度で21.7兆円。赤字分を全額消費税で埋めるとすると、9%程度の税率引き上げが必要となる計算で、目標達成に向けた消費税増税論議が本格化しそうだ。
政権交代後に政府が初めて財政健全化の目標を示した。「強い経済、財政、社会保障の一体的実現」を掲げる菅直人首相は、18日に閣議決定した「新成長戦略」と併せて、政権運営の柱に位置づける方針だ。
内閣府の試算によると、10年度のPBの赤字額は30.8兆円で、国内総生産(GDP)比では6.4%。財政運営戦略は、PBについて、15年度にGDP比で赤字を半減させ、20年度までに黒字化させる。そのうえで、国と地方の債務残高を21年度以降、対GDP比で安定的に低下させることを目指す。
ただ、内閣府の試算によると、20年度まで名目・実質とも1%台の低い成長にとどまる「慎重シナリオ」では、PBの赤字は20年度に21.7兆円と黒字化の目標には遠く及ばない。名目で3%、実質で2%を超える成長を想定した「成長戦略シナリオ」では、20年度のPBの赤字は13.7兆円となるが、それでも赤字をすべて消費税増税で埋める場合は、6%程度の税率引き上げが必要となる。
また、財政運営戦略は、目標実現の第1段階として11~13年度の予算の大枠を示す「中期財政フレーム」も盛り込んだ。3年間は、借金の元利払いに充てる国債費などを除いた歳出が10年度の水準(約71兆円)を「実質的に上回らないこととする」として、歳出に枠をはめた。また、11年度の新規国債発行額も10年度(約44兆円)以下に抑制する。【谷川貴史】
政府の財政運営戦略は、昨年9月の政権交代後、初めて財政健全化目標を示し、膨らむ一方の借金縮減に向けた一歩を踏み出した。鳩山前政権の「無駄排除」が不発に終わって、菅政権は消費税増税に前向きな姿勢を示した。だが、財政運営戦略は消費税の増税時期や引き上げ幅、歳出分野ごとの削減目標は盛り込まれず、健全化実現に向けた具体的な道筋は描けていない。
菅直人首相は消費税を含む税制抜本改革について、「10年度内に改革案をまとめたい」と明言。消費税率は「10%を参考にする」と引き上げに意欲的だ。だが、消費税増税までには「少なくとも2、3年かかる」との見通しも示しており、財政健全化は当面、民主党のマニフェスト(政権公約)見直しなど歳出抑制を進めるしかない。
11~13年度の「中期財政フレーム」では、国債費を除く歳出で71兆円の上限を示したが、社会保障費が毎年1兆円強増える中、どの予算を削るかの調整は容易ではない。閣内では「これ以上公共事業費は減額しない」(前原誠司国土交通相)と早くもけん制発言が出ており、菅首相は財政再建の初年度となる11年度予算編成から真価を問われる。
菅首相は、25日にカナダで開幕する主要国首脳会議(サミット)で「財政運営戦略」を説明する方針。欧州の財政危機で各国は財政健全化を迫られているが、具体的な道筋を欠いたままでは、国際社会や市場の理解を得るのは困難だ。【坂井隆之】
・国と地方の基礎的財政収支の赤字を15年度までに国内総生産(GDP)比で10年度水準から半減、20年度までには黒字化する
・21年度以降、国と地方の公的債務残高の対GDP比を安定的に低下させる
・11年度の新規国債発行は10年度(約44兆円)以下に抑えるよう全力を挙げる
・11~13年度は国債費を除いた歳出を10年度(約71兆円)以下に抑える
・各年度の予算編成は閣僚別に概算要求枠を設定