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見えないものがたり

[種別] おしゃべり [返] 47

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小川きなこ 2010/02/23 00:56:32  削除依頼    ブックマークする 

 
 鳥には翼があるように、魚にはひれとエラがあるように、カンガルーは赤ちゃんを育てる袋があるように、僕にはみんなに自慢出来るような特別なものは身につけていない。だけど、みんなと同じになることは出来るんだ。木の枝にも、原っぱに佇む草にも、綺麗な花花たちにも、一緒の気持ちになれる。或いは僕らが進化したら空に浮く雲の気持ちにもなれるのかも知れない。みんなが違うものを持ってる。僕はそれをカンガルーくんとも、魚くんとも、鳥くんとも、雲くんとだって共有しあいたい。それがこの世界の良いところ。
 
 
 と、沈む夕日を見つめながらカメレオンは思うのでした。
 
 
 
 
(カメレオンはロマンチスト)

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[タグ] 短篇

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20426069 小川きなり 2010/02/23 07:28:21  削除依頼  

 
こんにちは!
改名しました元おきこです。
長編を書ける兆しが見えるまで短編をつらつら書こうと思います。
前回よりかましな更新速度になるよう頑張りたいですむむむ……

ふみは素晴らしい文章描きさんがたくさんいるので(チキンだからコメント出来ないけども!) どんどん参考にして自分もいい文章書けるようにがむばりたい。

ではでは!
 



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20442207 小川きなり 2010/02/23 22:12:19  削除依頼  

 
 線路に沿って聞こえるリズム、それにまた沿って揺れる座席、車内が傾くと雲のようにゆっくりと動く、差し込んだ夕日と影。私は一人、電車の中で感じる心地よさに身を預けていました。夕日はもうすぐ、向こうにひっそり佇む森の背中に隠れてしまいそうでした。刈られたせいで少し肌寒そうな田んぼと、その間にぽつぽつとある民家が、通り過ぎてゆく私の四両電車をじっと見つめておりました。
 私は揃えた両足に僅かに当たる夕日に懐かしいような暖かさを感じながら、この長閑な田舎をただ見つめていました。別段心境的に何かがあったわけでは無いのですが、機会的に積まれたコンクリートと共に生活し知らぬ人と行き交い住み、時々こうして当てもなく相反した世界に自分の身を置くと、すっかり心が洗濯されたような気分になるのです。そうして私は時々、夜までこの世界に居座り誰にも知られぬ原っぱで、ビルと電線の間で窮屈そうになどしていない星たちの輝きを目の当たりにするのです。
 そっと、夕日は森へ落ちてゆきます。私は手にしていたマフラーを首に巻き、その光が紅色に染まって薄ぼやけていくのを、じっと見ていました。
 
 
 
(至福)
 



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20485345 小川きなり 2010/02/25 23:27:38  削除依頼  

 
 別に愛し合っていたわけではないのだと思う。彼女自身の気持ちを告げられたこともないし、僕も彼女に特別な愛情があるのかと言うと、そうではないのだ。
 彼女の黒髪が少しかかるふっくらとした頬を見ると口づけをしたくなるし、彼女が熱を出すと心配になるし、彼女が可愛がっていたパピヨンが死んだ時も、悲しみに震える彼女の可憐な身体を抱きしめてやりたくなったが、それは狭いアパートで共に生活するうちに僕の心で育ってしまった情であって愛ではないのだ。多分。
「とか、思ってみるけど」
 
 
「なあに」
「君はどう思う」
 真顔で問い掛けると、向かい合って座っていた彼女の足が僕の胸を打ち抜いた。鳥の喉が詰まったような僕の声と一緒に、湯舟の水面がびちゃびちゃと跳ねて風呂の中にこだまする。
「それはね、愛を通り越した情って言うのよ」
 



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20485370 小川きなり 2010/02/25 23:29:06  削除依頼  

 
 彼女の言葉が石の壁によく響く。大体一緒にお風呂に入る他人が何処にいるのよ。見れば、彼女は僕を睨んでいたが、濡れた黒髪が頬にかかっていたので僕はまた口付けをしたくなった。
「キスしてもいい?」
 湯舟から少し腰を浮かせて近付き、彼女の頬に指を僅かに滑らせると、その瞳が揺れて濡れるのを僕は見逃さなかった。
「愛していると思うなら」
 上気した頬、濡れた髪、僕の頬に当てがわれたしなやかで細い指。誘い文句にしか聞こえない彼女の震えた願い。愛を通り越した情によって、さっきまでの僕の屁理屈はするすると解けて、温かい湯気と共に天井に舞い、空気に溶けて消えてしまうのだ。
「君が愛しているなら、僕も愛しているのだと思う」
 息がかかる距離まで近付けてから呟いて、彼女の唇にそっと押し付けた。離したけれども物足りなくて、閉じた唇を舌でなぞると、
「わからない人ね」
 僕の顔が映る緩んだ瞳で彼女がそう言うものだから、零れた言葉が落ちてしまわないようにと、僕はまた再び口付けをしたくなった。(わからないのは君だよ、僕の瞳にも君の顔が映っていることなんて、きっと君は知らないのだろうから)
 
 
 
(言葉では伝わらない)
 



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20485401 小川きなり 2010/02/25 23:30:49  削除依頼  

訳の分からない文章ですね。
すみません精進しますむむむ・・・



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20565516 小川黄粉 2010/03/01 16:50:05  削除依頼  

上げさせてください。



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20568873 732 2010/03/01 18:22:15  削除依頼  

最初の話から大好きです!
透明感のある綺麗な文章ですね。憧れます。
お話の醸し出す雰囲気も素敵です。大好きです。

なんかもう、語彙が少ないのでスレに合わない
安っぽいコメでごめんなさい。
応援してます。頑張って下さい!



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20579941 小川黄粉 2010/03/02 01:38:29  削除依頼  

携帯から失礼します。


732さん
わあ! コメントありがとうございます。
わたしのヘボ文章には勿体ないお言葉……恐縮です。嬉しいです。
応援ありがとうございます。更新速度亀並みですが頑張ります!



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20579946 小川黄粉 2010/03/02 01:39:28  削除依頼  

 
 ルイスは秘密がとっても好きでした。なかでも、自分しか知らない、自分だけの秘密が大好きでした。秘密というのは、朝学校へ行くために家を出る時、お隣のマーサおばさんがお花に水をやろうとしてチューブが自分に向いてしまいしずぶ濡れになっているところを見たことですとか、飼い犬のジョバンニが庭のすみっこに大好物の骨を埋めているのを見たことですとか、そういうものでした。ルイスは他にも、家の二階のベランダからしか見えない晴れた夜空の星を自分だけで見て、翌日学校で皆が昨日は月が綺麗だとか騒いでいてもじっと黙って、あの時間にあの場所からあの夜空を見たのは自分しかいないのだと、わくわくしているのでした。
 ある日の放課後、ルイスは一人で花屋に向かいました。街の端に住むルイスの家から更に奥にある花屋ですから、ルイスの家族とお隣のマーサおばさんくらいしか知らない、学校の友達は誰も知らない花屋でした。こぢんまりとしていてお世辞にも素晴らしいとは言えませんが、ルイスの家の裏の林を少し入るとある、民家で経営している小さな花屋は、ルイスの自分だけの秘密の一つでした。ルイスは秘密を一人で見に行きたいのであって、別に花屋での用事があるわけでは無かったのです。あるといえば、そこに住んで花屋を営むローラさんとお話しすることぐらいでした。
 



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20579954 小川黄粉 2010/03/02 01:40:44  削除依頼  

 
 林に出来た獣道をぬって花屋が見えますと、ルイスは普段ここでは見たことない誰かが花屋の奥で座っているのを見つけました。歩いて花屋の前まで来ますと、それはどうやら自分と同じ年ほどの女の子らしいとルイスは気付きました。淡いスミレ色のワンピースを着、ウェーブのかかった栗色の長い髪、モスグリーンの大きな瞳、よく見ると何と可愛いらしい子だということにも気付きました。
 きっと街でこの子が歩いていたら、すれ違う婦人の方々はまあ、可愛い子だことと囁き、いつも騒いでばかりいるルイスのクラスメイトは頬を染めどこの家の子なのだろうと胸踊らせたに違いありません。ところがルイスは大変恥ずかしがり屋でありました。学校では仲のよい男の子とは難無く過ごしていますが、あまり喋らない特に女の子とは、ルイスは全くと言っていいほど関わりがありませんでした。友達のチャーリーやジョンにお前は男じゃないなどとからかわれても、女の子が近くにいるだけで肩がむず痒くなり爪先をもじもじと動かさずにはいられないのです。少し目が合うとぶたれたように頬が真っ赤になってしまうので、なるべく目が合わないように下を見ながら歩いたりするものですから、ルイスはやはりチャーリーやジョンにからかわれるのでした。
 



guest

20579971 小川黄粉 2010/03/02 01:42:49  削除依頼  

 
 しばらくその子に見とれていたルイスでしたが、目が合うと気付くとルイスはとっさに自分の足元を見つめて顔が赤いことばかり心配になりました。少しの間そこで二人とも何も喋らずにいました。ここが鳥のさえずりや枝の擦れる音が溢れる林でよかったとルイスは心底思いました。
 どうやら花屋にいるのは女の子だけで、いつものローラさんは姿が見えません。折角来たのに立っていることしか出来ないルイスは迷い、残念ですが来た道を帰ることにしました。僅かに女の子に会釈をして、ルイスが後ろを振り向こうとしますと「待って」と可愛いらしい声が聞こえました。ルイスは顔を上げようとしましたが茹でたこのような自分の顔を想像するとどうしても出来ませんでした。「お願い。わたしがここに住んでいることは、秘密にしてほしいの」自分の胸がうるさくて嫌になりましたが、確かにルイスにはそう聞こえました。

 名前も知らない女の子の秘密を、どうしてルイスが皆に言いふらすことが出来ましょう。ルイスは何度も頷いて、花屋に背を向けて歩きだしました。浮いた気持ちとは裏腹にさっさと動くので、ルイスは足が自分の足じゃないように思いました。林を抜け自分の家の裏に着いた時、ルイスは恐る恐る振り返って今戻ってきた道を見つめました。花屋は林に隠れて見えなくなっていました。
 



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20579986 小川黄粉 2010/03/02 01:45:41  削除依頼  

 
 もうとっくに恥ずかしさは消えていましたが、ルイスの心はあのベランダからの夜空を見た時のようにわくわくしていました。そうして早足で家に帰りベッドに飛び込むと、ルイスは林にある花屋とあの女の子を思い浮かべて自分の胸の音を聞いているばかりでした。名前も知らない女の子とのほんの短い出会いでしたが、それはルイスが初めて誰かと共有した、一つの秘密でした。
 
 
 次の日にルイスがあの女の子に学校で出会い、驚いたあまりに転んでまたもやチャーリーとジョンにからかわれるのは、また別のお話。
 
 
 
 
(秘密と初恋)
 



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20592813 黄粉 2010/03/02 21:18:58  削除依頼  

訂正
No.9のレス

……お隣のマーサおばさんが花に水をやろうとしてチューブが自分に向いてしまいしずぶ濡れ……

自分に向いてしまいずぶ濡れ、です。
すみません。



可愛い男の子を書きたかっただけなのに、
見る度書き直したくなる……(∋_∈)



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20688273 小川携帯 2010/03/06 21:55:07  削除依頼  

 
 この空間では指揮者が絶対的存在となる。彼がゆっくり指揮棒を構えるとどんなに後ろの席に座る観客でも、彼の空気を感じて素早く息を潜める。緊張感が身体を包みこんだ時、静まり返ったホールにそっと柔らかい音が入り込む。(それは、これから展開されるであろう物語を予感させる美しいバイオリンの息遣い)
 その上から水がさらさらと流れるようにフルートが色付けをし、充分に音を散りばめた時にようやくクラリネットがテーマの前触れを奏して現れる。ゆっくりと過ぎ去っていくほうきを水に浸したようなテーマ。クラリネットの音を受け継いでオーボエが、また受け継いでフルートが、音が天井へと消えていく。
 会場は突如刺すような空気へと変化する。バンダでもないのに、トランペットの細い矢は遥か遠くから響いているように聴こえる。間髪いれずにビオラ、チェロ、コントラバスが急降下して折り重なってゆく。その隙間にトロンボーンが輪をかけたリズムを繋げ、空気は物語の始まりへと渦を巻いていく。指揮棒の先へと音の群れが吸い寄せられていく。大きな渦にだんだんだんだんどんどんどんどん飲み込まれ、観客は息もつけないほどのそれに溺れていく。そしていきなり終止符を打つティンパニの衝撃。肩にのしかかる沈黙。高揚。
 鋭くてはっきりとした低音が沈黙から顔を出す。しばらく止まり、もう一度、また一度。観客は次の音に目が離せない。指揮棒が少しずつ少しずつ少しずつ少しずつ速くなり、完全なリズムとなる。そしてようやく現れる、ファゴットの旋律。(それは物語を象徴するほうきのテーマ)
 (それは、たった数分で会場にいる全てが主人公となってしまう紫色の音楽)


 舞台は中世フランス。空中を、手足のついたほうきが意志を持って歩き出す。指示を出すのは、魔法使いの弟子。




(魔法の始まり)



---
元ネタはポール・デュカスの「交響詩 魔法使いの弟子」。ファンタジア大好きです。
本当は一曲まるまる描きたかったけど長くなっちゃうので諦めました。



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20762212 小川きなこ黄粉 2010/03/09 19:12:49  削除依頼  

 
 ついこの前、僕の友だちのルイスが恋をした。
 あいつはクラスの中でもめっぽう喋るのが下手なやつだ。少なくとも僕は、あいつが女の子とまともに話しているところを見たことがない。女の子が近くにいると、いい匂いがして満たされた気分になることを知らないなんて、残念なやつだと思う。僕たちと喋る時だってたまに、まったく言葉を忘れたように黙っているんだ。大方何か変なことでも考えているのだろうと思う。



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20767068 小川きなこ黄粉 2010/03/09 21:14:39  削除依頼  

 
 ルイスは不思議なやつだ。あの時だって、前の晩の月が綺麗だったから写真を撮ったって、気さくなマイクがそれをクラスに配っていたのにあいつは貰うだけありがとうと言って、皆の輪に入ろうとしないんだ。見ると、両手で持ちながらも写真なんて目もくれずに、すこうし上の方を見つめてぼっと突っ立っていた。だからってあいつが根暗じゃないのは分かってた。僕らにはは話しかけるし、相談もしあうし、どうでもいいことだって笑いあえる、至って普通の友だちだ。だけどたまに、こうやって可笑しなことをする。皆でおしゃべりしていた方が絶対に楽しいと僕は思うのに、本当に不思議なやつだ。あいつだけに見えるあいつだけの空間がきっと存在しているんだと、この前ジョンと討論してそういう結果になった。

 そんなルイスが、何に興味があるのか分からない、むしろ興味のあることなんて無さそうなルイスが、恋をした。
 



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20771501 小川きなこでんぷん 2010/03/09 23:20:47  削除依頼  

 
「好きな子が出来たんだ」

 僕とジョンは腰を抜かすほど驚いた。何よりルイス自身からそれを聞かされたことにびっくりして、ルイスには悪いが、一瞬頭のネジが一本抜けたのかと疑った。だって、そうだろう、喋り下手のあいつが、女の子を生き物としか思ってなさそうなあいつが(これは言い過ぎかも、でもルイスだからきっと許してくれる)、頭の中のどこで種が蒔かれて、恋が芽生えたのだろう。思わずジョンと顔を合わせて、何事だとお互い目をぱちくりさせたほどだ。
 その時ばかりはルイスを疑ったが、それでもあいつが僕たちに言ってくれたことはすごく嬉しかった。ああルイスにとっても僕たちは仲の良い友だちだったんだって、ちょっぴり安心した。そしてルイスのたった一言で一喜一憂する僕も、あいつを慕っているんだなって嬉しくなった。
 普段他愛のない時間ばかり共有している僕らだけど、ちゃんと心と心に糸電話が繋がっていて、内側まで共鳴しあっているんだ。
 



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20774418 小川きなこでんぷん 2010/03/10 02:25:35  削除依頼  

 
 おめでとう、ついにルイスが、よかったね。それで、どんな子なの?
 嬉しさの次に気になるのは確かにそこだった。ルイス以外の男には欠かせないパーツ。ジョンがにやにやしながらルイスを小突いて、僕も笑みを隠せないでいるのに気付いた。
 だけどルイスは、首を横に振ったきり答えてくれなかったんだ。さらにあいつときたら、
「秘密を分け合うっていいね」
 とまた不思議なことを言うものだから(それも見てるこっちが照れるくらい嬉しそうに頬を染めて!)、まあ、ルイスのことだろう、何か大事に大事に考えているんだと、再びジョンと討論してそういう結果になったんだ。
 まったく僕らはお人好しだ。
 
 
 
 それから、チャーリーとジョンがルイスの片思いの子に意外にも簡単に出会ってしまうのは、数日後のお話。
 
 
 
(チャーリーの主張)
 



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20774517 小川きなこでんぷん 2010/03/10 02:45:57  削除依頼  

9~12のおはなしと繋がっています。
可愛い男の子が好き。ふふふ。



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20932006 小川きなり 2010/03/15 00:49:22  削除依頼  

 
 猫は喋るものだと思っていた。
 
 
 初めて猫と喋ったのは、三歳の時だった。
 その前から、猫が母や父のような言葉を口にしているのを目にしていた。腹が減っただの鼠が食いたいだの、そういうことをしきりに鳴いていた記憶がある。父の髪みたく全部真っ黒で買いたての絨毯のような毛並み、瞳が瓶に入った蜂蜜を陽に透かして見た時と同じ色をしている、しなやかな生き物。しかし美しい外見とは反して、風のうなりよりも低く野太い声をしていた。
 だけど、猫の言葉にちっとも反応しない両親には聞こえていないことも分かっていた。両親には聞こえない、猫の鳴き声。私は猫に話し掛けてみたくて堪らなかった。 
 それが実現したのは、確か父が仕事の日、母が丁度宅急便を受け取りに玄関へ向かっていた昼間だったと思う。窓の向こうは風が庭の梅の木を折らんばかりに駆け抜けるにも関わらず、太陽がやんわりと光の粒子を注いでいた。それを猫としばらくしんしんと見ていた。
 
「魚が食べたい」
 声に反応して猫をじっとりと見つめても、彼は全く動じなかった。何故かいつも猫は食べ物のことばかり言葉にする。聞けなかった疑問を問い掛けるのは今だと思った。
「どうして?」
 瞬間電流が猫のからだに走ったかのように見えた。小振りな耳をぴんと天井に向けて立たせ、鼻の穴を淡い肉色の舌で素早く二、三度舐めてから、その顔がぐるりと回ってようやく私に向けられた。口元の長い三本髭が僅かに痙攣し瞳がゆらゆら動いている、言うならばまるで、焦る人間の表情のような……。
 



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20932033 小川きなり 2010/03/15 00:51:40  削除依頼  

No.20は描写を入れ忘れていた箇所があったので削除いたしました。



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20934662 小川きなり 2010/03/15 10:17:55  削除依頼  

 
 不思議な猫だと思い、私は好奇心を剥き出し顔をぐいぐい寄せてもう一度「どうして?」と言った。今度はしっかりと目が合った。猫はまた鼻先を素早く舐め髭を痙攣させ、私はその猫の一挙手一投足を逃すまいとあらんかぎり瞼を広げて猫の反応を待っていた。
「おれの言葉が、聴けるのか」
 ゆっくりと、猫の口から初めて食欲以外の感情が流れ出た。猫自身に言い聞かせているような噛み締めた声。私は猫の新しい反応に息を潜めて、音を立てないように小さく頷いた。猫は首をぶるっとさせ背筋を伸ばすと、またゆっくり窓の外に視線を戻しそうか、そうかとしきりに呟いた。そして最後に溜め息と共にこう吐き出した。
「お前は血を受け継いでいたのか」

 受け継ぐという言葉をその時の私は知らなかった。何か猫語なのだろう、もしかして父と母にはバレてはいけないと私に注意を促しているのかも知れないと、自由勝手に解釈した覚えがある。もっと面白いことをやってくれるのではないかとしばらく見ていたが、猫はそれ以上のことはしなかった。先程の驚きざまがまぼろしであったかのように、すっかり目を閉じて黙っている。母が宅配便の荷物を受けてリビングに戻ってきても、普段と何ら変わりなく居座り、時々腹が減ったなどとぼやいていた。私は諦めなかった。けれど気が付いたら猫を枕代わりに寝ていた。気が付いたら手近の玩具に夢中になっていた。猫は当たり前のようにねこじゃらしはないかとぼやいていて、私は当たり前のように聞いていた。そんなものだろう。
 



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20942827 小川黄粉きなこ 2010/03/15 18:01:14  削除依頼  

 
 

 その当たり前が突然なくなった。
 
 
 次の日起きると、猫がいなくなっていた。それは、満たされていた気配が砂に隠れてしまったようだった。家のどこを覗いても、黒い毛並みの間からボタンのように光る瞳は見えない。どんなに猫を呼んでも、あの図々しい呟きは聞こえない。昨日の不思議な出来事は最初で最後だったのだと思うと、息をしても苦しかった。父と母とそれから猫。三歳の私はそれが世界の全てだった。

 「またいつか戻ってくるよ」と父は泣きじゃくる私を膝上に乗せてあやした。「遠くへ行く用事があるんだと。もう泣くのはおやめ」

 以前も猫が何度か、知らぬうちに何処かへ行ってはふらっと戻ってくることがあった、と母は言った。だけどもう帰ってこないと、私は気付いていた。猫という自分の身体の一部がくり抜かれ隙間風が容赦なく通り抜けるのが、ただただ痛くて仕方なかった。私の背中をさすってくれる父の手の暖かさに安心したかった。親の掌は偉大だと思ったのはその時が初めてだ。気が付いたらテレビに見入っていて、涙の跡も綺麗になくなったねと言う母の顔をよく覚えている。猫さん、と口にし見た窓の向こうは昨日と違って、電球の光が庭の奥まで差し込んで引き延ばされた草の影が夜のお布団に溶け込んでいた。そのお布団のそのまた影の向こうで、いつもの野太い声が聞こえてくるようだった。
 両親には聞こえない猫の声を守るのは私だと、悲しむのをやめようと思った。あの日の僅かな時間は、確かに私と猫との間に出来た一つの絆になっていた。眠りにつく前、私はもう一度窓の向こうを布団の中からじっと見つめていた。どこからかにゃあと、誰かがか細く鳴く声が聞こえた。
 
 
 
 
(前触れ)
 



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21092827 kinacco 2010/03/21 02:01:11  削除依頼  

あげさせてください



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21197195 小川きなり 2010/03/24 18:29:00  削除依頼  

 
「お星さまってどんな味がするの?」
 
 昔の私が思っていた同じようなことを聞かれた。
 それは、眠くないと言いながらも瞼をぱたりと下ろしては擦り、を繰り返す娘を寝かしつけようとベッドまで手を引いてやった時だった。お気に入りのピンクウサギのぬいぐるみを右手に抱え、大げさに首を傾け私を見上げている。
 ゆっくり腰を降ろし同じ位置に視線が来るようにすると、娘は小さくてまんまるの頬を膨らませて、その赤い唇をすぼめた。そのさりげない動作に愛しい気持ちが溢れだしてしまうのは親馬鹿というやつなのか。思わず抱きしめたくなったが、眠い状態の娘が機嫌を悪くするのは十二分に解っていたので、柔らかい髪を優しく触ってからかけ布団を広げてやった。

「お星さまはね、手の届かない、遠い遠い宇宙にいるんだよ。だからショーコに食べてもらえなくて、悲しくて涙が出て、雨を降らすんだよ」
 私が小さい頃に母から言い聞かされていたことだ。

 娘は大人しくベッドに潜り込んで、大切に大切にピンクウサギを枕に乗せる。自分も枕に頭を置いて布団を鼻まで引き寄せるとじっと私を見た。寝付きが良くなるように額を撫でてやると、だんだんと娘の瞼が閉じてゆく。これから食器を洗ったら、明日の予定を確認してお風呂に入ろうと考えていると、もう閉じていた瞼の奥にあるつぶらな瞳がうっすらと私を見ていた。
 



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21198490 小川きなり 2010/03/24 19:02:06  削除依頼  

 
「じゃあ……お星さまの涙はどんな味なの?」
 どうしてもおいしいのかが気になるらしい。私がそうだねえ、と首を傾げ、「こんぺいとうみたいな味をしているんじゃないかな」と言うと、娘はふうんと布団の中でくぐもったか細い声を出し、眼を瞑ると共に規則的な寝息をたて始めた。私はそこでようやく一息つく。その小さな鼻にちゃんと透明な空気が通るように、娘の首元まで布団をずらしてやる。

 音を立てぬようにベッドに手をついて立ち上がると、ドアにもたれかかる背の高い影に気付いた。
「おかえりショーヘイ」
 名前を呼ぶと、彼の後ろにある廊下からの弱い電光を受けた顔が確かにだらしなく緩んだ。
「ユキちゃんただいま。ショーコはもう寝ちゃったんだ?」
 今さっきね、と返しながら彼に近づき、丁度私の目線にあるネクタイが僅かに崩れているのを見つけた。そういえば今日の朝は寝坊していたっけと思い出す。私の視線を感じたのか不思議そうに首をかしげるショーヘイに、心臓を柔らかく掴まれたような気持ちになった。
 
「本当はショーヘイが帰るまで待つって言ってたんだけどね、絵本読んで聞かせたら眠そうにしてたから寝かしちゃった」
 



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21218164 小川きなり 2010/03/25 13:16:31  削除依頼  

 
 私越しにベッドを覗く彼と同じ方向に目をやると、娘は毛布に包まり、ピンクウサギに頬を寄せて気持ちよさそうに眠っていた。明かりのついていない部屋は、窓からの淡い月光と廊下からの暖かい電光とが緩やかに差し込んで、静かな沈黙を呼んでいる。
 気がつくとショーヘイの緩んだ笑顔が私を覗き込んでいた。それから無意識に娘をじっと見つめていた自分に気付く。
「ショーコが生まれてユキちゃんは変わったねえ」

 良い意味でね、と付け足して頭一つ背の低い私の髪を撫でるショーヘイも、娘が生まれて変わったと思う。昔は彼と結婚することさえも考えていなかったのに、今こうして私の前にいるのが彼で良かったと心の底から素直に思えてしまうのは、愛というやつだろうか。いや、もう分かっている。若い頃のようにはぐらかすことなんて今の私には出来ない。
 彼と時間を共にしてゆくうちに、そして娘と共に過ごしてゆくうちに、私の周りはいつのまにか溢れ出す愛情できらめいていた。
 



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21219048 小川きなり 2010/03/25 14:01:48  削除依頼  

 
「これでも一児のお母さんですから」
 口元がにやけるのを抑えずにそう言いながら、彼の曲がったネクタイを丁寧にほどいてゆく。ちゃんと結ばなきゃ変な皺が残っちゃうのに。するりと外そうとして、私より一回り大きな掌で手首をいきなり掴まれた。思わず顔を上げると、先程のだらしない笑みとはまるで違った熱っぽい瞳がすぐ近くにあった。そこに映る私自身を見た瞬間、緩やかだった鼓動が一気に体中を駆け巡る。彼の吐息が私の乾いた唇にそっとかかる。触れる肌が焼けるように熱い。

「ショーヘイ、ショーコの前だから……」
「もう寝てるよ」

 息だけで出された言葉と彼の瞳に、心臓が音を立てて私の身体を揺らした。途端に流れる血液が甘酸っぱくなる。
 こういう時だけ有無を言わさないところは昔から全く変わらないなんて、彼はずるいと思う。
 鼻先が触れて、私の手首を掴んでいない方の手が後頭部に回る。ゆっくり触れあう唇。私は立ち尽すことしか出来ない。緊張で身体が動かない。子供も生まれたのにキスでいっぱいいっぱいの私のこういうところも、もしかして昔から変わらないのだろうか。
 離れた吐息の先を見上げると、お星さまの涙が、こんぺいとう味の雨が窓に静かに当たっている音に気付いた。次のキスが近づいたので、それを見ることは出来なかったのだけれど。
 
 
 
(こんぺいとうの雨が降る夜)
笠木 澪さまより御題拝借いたしました。
 



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21399017 小川きなり 2010/03/30 23:25:29  削除依頼  

 
 ぷくぷく、泡の囁く声がする。僕は温かい殻に包まっている。白くて半透明で、柔らかい。殻の上から、海に優しく撫でられている。
 時々、向こうでせわしなく泳ぐ群れを感じる。群れの水流を、水草たちがゆらゆらと受け止めて、僕がいるところまで連れてきてくれるからだ。僕も殻の中でその流れを受け止めて、僕の周りでうずくまる兄弟たちのところへと伝えていく。海底の波は穏やかに連鎖していく。温かい。泡が僕の耳元でぷくぷくと囁く。
 僕の透明な体には、赤い線がいくつもある。それは細いくだに血というものが流れているらしい。僕は細いくだをびゅんびゅん駆け回る血とともに、呼吸をしている。ともに生きるために呼吸をしている。温かい。
 僕は母さんを見たことがない。でも近くにいるってことは感じる。僕の兄さんたちは、もう母さんを見たと言っていた。僕ら兄弟が全部寄り添っても敵わないくらいに大きいらしい。母さんが僕にキスをするとき、僕に流れる血がらんらんと輝いて、嬉しくてたまらなくなる。生きているから嬉しくてたまらなくなる。母さんを見たことがない僕は半透明の殻の中でらんらんと輝く。
 僕らは時間の中で息をしている。びゅんびゅん駆け巡る時間の中で、母さんのキスをもらってらんらんと輝く。それはとっても温かいこと。
 そろそろ殻が破れそうだ。ああはやく生まれたいな。
 
 
 
(あどけないときめき)
青山さまより御題拝借致しました。

---
訳分からない上にしつこい文……



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21582217 小川きなり 2010/04/06 13:31:44  削除依頼  

覗いてみたら、は……拍手……!
うわあああありがとうござます(∋_∈)すごくすごく嬉しいです。創作意欲がもりもり上がりました!
短編とはいえない断片集ですが……これからも頑張っていこうと思いますので、どうかお付き合いください。
ありがとうございました!

小川きなこ



guest

21585760 りん*! 2010/04/06 16:11:07  削除依頼  

尊敬しまくります!
世界観とかなんでしょう、
なんかそんなものがものすごくて
とうてい私には書けません…

乏しい語彙力でごめんなさい。
また来ます。あ、よかったら…
http://id10.fm-p.jp/135/corowa/index.php



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21585833 りんです。 2010/04/06 16:15:11  削除依頼  

尊敬しまくります!
世界観とかなんでしょう、
なんかそんなものがものすごくて
とうてい私には書けません…

乏しい語彙力でごめんなさい。
また来ます。あ、よかったら…
http://id10.fm-p.jp/135/corowa/index.php



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21586039 りんです。 2010/04/06 16:27:53  削除依頼  

owaをクリック

「asd12asd」を入力!



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21671813 小川きなり 2010/04/10 17:03:11  削除依頼  

りん*!さん

わあ!ありがとうございます(∋_∈)
そう言っていただけてすごく嬉しいです。
コメントに語彙力なんて関係ないと思います、もらえるものはなんでも嬉しいですから!

HP、少しですが拝見させていただきました。かか、可愛らしい……!
また時間がある時にゆっくり見ようと思います^^

これからもどうかお付き合いいただけると嬉しいです。
コメントありがとうございました(∋_∈)



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21671915 小川きなり 2010/04/10 17:05:42  削除依頼  

 
 ルイスのクラスに、マイクという知的で物知りな男の子がいました。さらに、マイクには知的で物知りなお父さまがいました。

 マイクのお父さまは学者でした。特に天文学を熱心に研究していたので、雲一つない夜空を見ては望遠鏡を穴が開かんばかりに覗き込んで、時々ズレた眼鏡を直しつつレポートに書き込む毎日でした。そして、そうして研究の際に撮った写真をしょっちゅうマイクにくれるのでした。
 マイクはお父さまからもらった天の川の写真が大のお気に入りでした。手のひらほどにおさめられた、真空の宇宙空間に燦然とちりばめられた星屑たちが今にも動き出しそうで、それはそれは大事に飾っておいて毎晩眺めていたのでした。
 



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21684534 小川きなり 2010/04/10 22:28:35  削除依頼  

 
 ある夜、お父さまがまだ研究室でこもっていたときマイクがふと窓を見やると、なんとも美しいお月さまが小さな星たちに囲まれて静かに夜空に浮かんでいるのでした。マイクは感動で身を震わせ、これを写真におさめたいとすぐさまお父さまにお願いをしにいきました。
 ところが、まあ、なんと珍しいことに、マイクは断られてしまいました。どうやら、どうしても今日仕上げなくてはならない研究があるようなのです。それでもやはりマイクのお父さまでした。そんなに素敵な月ならば、今手が離せない私の代わりにお前が写真を撮ってきておくれ、と言うのです。
 マイクは目を輝かせましたが、すぐに不安になりました。夜空を撮るのは難しく、赤道儀というものにカメラを取り付けて星の位置を確認し角度を調整しなくてはならないと、以前お父さまが言っていたことを思い出したのです。それを聞くとお父さまは少し笑って、月ならばこれで大丈夫なのだよとマイクにカメラを渡しました。マイクの目が再び輝きました。中々使わせてもらえなかったカメラ、しかも一眼レフをついに渡してもらえたのですから。
 



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21723193 小川きなり 2010/04/11 22:32:17  削除依頼  

 
 マイクは浮足立って小走りに外へ出てゆき、お月さまをレンズ越しに見つめながら恐る恐るシャッターを押しました。そしてカメラを大事に抱え、落とさないようゆっくり家へと入りました。
 お父さまはカメラの画像を見て、マイクが写真を撮りたがるわけに大変納得して何度も頷きました。そして研究のあいま、褒美としてマイクにこんな話をしてやりました。
 
 
 
 
 私達が夜見ている星たちの輝きは、本当は何万年も何億年も前に起きた輝きなのだよ。
 ああそんなに目をきょろきょろさせないで。
 いいかねマイク。あの星たちは私達のいるところから遥か遠くの宇宙でぽっかり浮かんでいて、一つ一つが太陽のように輝いていることは前に教えたね。そして本当はあの星たちが地球ほどやそれ以上の大きさであることも君は知っているね。遥か遠くというのは、人間がいくら頑張っても辿り着けないほど遠いのだよ。地球の中で一番速いのは光だが、その光でさえ、何億年もかけないと辿り着けない星がある。
 例えば、シリウスという星があるね。そうだよおおいぬ座の、一番強く輝いている星だ。シリウスは地球から光が四年かかって到着する位置にある。ということはだマイク、シリウスがひとつ輝くと、その輝きは四年かかって地球に到着するのさ。光だからねえ。私達はシリウスの四年前を見てるのだよ。……どうだい、素晴らしいと思わないかい。
 



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21723586 小川きなり 2010/04/11 22:45:42  削除依頼  

 
 
 
 
 幼いマイクには少し難しいお話でしたが、マイクは熱心に耳を傾けていました。
 そうしてお話を聞き終わると、クラスの皆にこの写真を配っておやりとお父さまに写真をたくさん増やしてもらい、マイクは胸がわくわくしました。
 それからおやすみのキスをし、お風呂に入り歯磨きを済ませお母さまにおやすみのキスをしてベッドに潜り込むと、マイクはじっと天井を見つめて想像しました。じゃあ僕が宇宙人をお茶会に招いたらどうなるのだろう。昨日の宇宙人に呼びかける僕と、明日の僕から招待を受ける宇宙人。

 やはりマイクには少し難しいお話でしたが、遥か遠くの星に住む宇宙人を思い描くとマイクの心臓はとってもどきどきと鳴るのです。天井の向こうのそのまた向こうにあるダイヤモンドのように光る夜空を見つめながら、いつか宇宙人に会えるといいなと、マイクは布団の中で呟きました。
 そうしてお星さまたちに見守られながら眠りに着くと、マイクは宇宙人にお茶会の招待状を送る夢を見ました。
 
 マイクが招待状に何を書いたのか、それは誰にも分からないことなのです。……
 
 
 
 
 
(宇宙人へ)
(残念だけどお茶会は明日なんだ)
水森さまより御題拝借致しました。

---
追尾撮影してみたい。



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22663887 小川きなり 2010/05/19 07:07:45  削除依頼  

 
 朝日を浴びるのが気持ちいいから、早起きは好き。時間があったらあそこの公園まで散歩して、長閑に時間を費やしてからふふんと学校に行きたい。

 なんて思う日がいつか来るのだろうか。低血圧なおんなは真夜中の匂いが好物だって知っているのは私一人だけ。低血圧でくせ毛のおんなが映画に涙もろいって知っているのも私一人だけ。毎朝気付くと電車に揺られいてどうやって布団から這い出して何を口に入れて何時に家を出たかを知らないのも、きっと私一人だけ。自分の習性は嫌というほど解っているつもりなのに、なんで昨日はタイタニックなんか観てしまったのでしょう。そしてどうして泣き疲れてそのまま寝てしまったのでしょう。
 
 朝からそんな後悔の渦が脳内を取り巻いていた。ほとんど人影の見えない電車の中、僅かな隙間から広がる景色に男の子を見つけた。黄色いキャップ、制服に着られている細い首、まだ空気はひんやりとしているのに短パン。いつも大きなランドセルをしょったまま座席にどっかり座るその子は、よく知っていた。毎日同じ時間の電車同じ車両で同じ座席に座っている、満員電車の同志、喋ったことはないのに胸につけた名札で「あゆむ」くんだということも知っていた。
 



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22663909 小川きなり 2010/05/19 07:13:27  削除依頼  

 いつもと違うのは、その「あゆむ」くんがとっても興味津津に私の顔を覗き込んでいたこと。

「おねいさんその目えどうしたの」

 外見通りの子犬のようなあゆむくんの言葉に全身から痛い汗が噴き出る。間違っても私は華の女子高生。こんな小さな男の子が声をかけたくなるほど酷い顔面だったのか、なんて認めたくない気持ちが確かにあった。思わず見開いた目が腫れたおかげで全く動かなかったことが不幸中の幸いだと思い、毛穴から溢れる焦りを無視してあゆむくんに満面の作り笑いを向ける。

「全然、まったくいつも通り」
 すこうしだけ、口元が引きつったのはあゆむくんには気付かれぬまい。

「違うよ、昨日のえんぴつの線みたいな目えと全然違う!」
 
 今日はおさかなの目えだねと、小さなえくぼを笑顔にくっつけるあゆむくんを視界から消した。どうせ私がふてくされ女だと知っているのは、多分私だけじゃない。
 
 
 
(火曜日の残念続きな女の子)

鋭利で、それでいて柔らかな刃物/主催・かりおさま

---
以前素敵企画に参加した時のもの。
 



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22714944 小川きなり 2010/05/22 00:13:39  削除依頼  

 
 彼は自らの腕の中にすっぽりとおさまる猫を愛おしげに撫でた。猫は甘ったるい鳴き声でそれに応えると、彼の向かい側に座るわたしをちらりと見、蔑んで鼻で笑うような仕草をして彼の腕にうずくまった。思わず睨み返すけれど、猫は素知らぬ振りで気にもとめない。ああ、わたしは彼が愛しいあまりに猫にも嫉妬してしまうのか。
 わたしと猫の無言の戦いを知る由もない彼は、腕の中を見つめながら「君はいつも幸せそうだ」と呟く。彼のいう「君」が私のことなのか猫のことなのか分からずただ彼を見つめていた。彼は柔らかい視線を私に向け、少しばかり見つめ、また猫に戻した。彼の仕草一つ一つが綺麗で、心臓の鼓動がいつもよりうんと大きく感じる。気付いたら握っていた掌に汗を感じるくらいに私は緊張していた。
「にゃー」
 彼は鳴く猫の前足を両手で持ち上げて、猫を私の方に向かせた。万歳の格好をした生意気だった猫がほんの少し可愛く見える。彼は手に持つ猫の前足を動かしながら

『僕と結婚しないか?』

 そう言って恥ずかしげに私を見つめた。もう猫を生意気だとは思わなかった。甘えた猫の鳴き声が、涙で視界のぼやけた私の耳に響いた。
 
 
 
(心からのアイラビュー)
御題提供・やまかぜ、さまより
それはいつかのさよならよね/主催・かわさま
--
結構前のですがそのままどん。
 



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22730255 小川きなり 2010/05/22 19:30:40  削除依頼  

 
 二人で家に帰ると私の吐く息が沸騰したヤカンが吐き出す湯気のように白いものですから、貴方はこの部屋は暖房器具はないのかと顔をしかめました。暦の上では立春をとうに過ぎたというのに冬の冷気は容赦無く、それこそ刺すような寒さでした。私は貴方にありますよと言って、六畳半の部屋の隅にぽつりと置かれたストーブの灯油の量を確認して電源をつけました。ストーブはひと昔前のもので部屋が暖まるのにはしばらくかかります。二人はポッケに手を突っ込んでみたり掌にはあと白い息をかけてやったり冷え切ったコートごしに自身の体を抱えてみたりと、忙しくしていました。どうも最近一段と冷えたようで、手袋やマフラーを身につけているのがまるで意味がないように思うのです。貴方は私より寒がりであると分かりきっていましたので、はやくその身体に温もりが感じられるようにと私のマフラーを首に巻いてあげました。ありがとうと寒さのお陰で弱々しく笑って、貴方はお返しにと私の両手を包みこむように握ってくれましたが、貴方の手の方が凍るように冷たかったので思わずふふと笑ってしまいました。ストーブのジジッという音がしてようやく足に暖かい空気を感じることが出来た時、ちらちらと雪が舞い降りていました。
「ねえ、雪ですよ」
 貴方は握った両手をこすり合わせながら「そうだねえ」と、寒がりのせいでありましょう、むしろはやく体を温めようとそちらに集中していて、さほど興味のなさそうに返事をしました。貴方がどう反応するかは、長年連れ添った夫婦ですから大方予想はついていましたので私はそれほど気にしませんでした。窓越しから見える、外の僅かな灯りに照らされゆっくりと、秋の枯れ葉ように舞い落ちてゆく雪一粒一粒が、何か可愛いらしい妖精のように思えてきましたので、
「この雪たちは私たちを窓から見てるのね」
 と、呟いて息を吐き出しました。ストーブのついた部屋の中はまだ白い息がゆらゆらと上がっていました。
 
 
 
(窓から見てる)
御題提供・禾林さまより
それはいつかのさよならよね/主催・かわさま

--
この時、いかに「、」と改行を少なくできるか挑戦していました。見づらくて……すみません……



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23227297 小川きなり 2010/06/18 00:45:13  削除依頼  

 
 まわるまわる。僕らはまわる。ビードロの音楽にのせて。僕らはゆるやかな幸せを纏ったピエロ。赤青白の衣装がパジャマみたいだろう。赤い丸っ鼻がおかしいだろう。
 隣の貴婦人、どうも御機嫌よう。今晩はまわらないのかい。ああそうか、ちびのシャルルがベッドに潜る前に、ネジをひとつ回し忘れたんだ。それならようし僕らがかわりに回ってみせよう。見ていてくれよ。ドレスの裾に寄り付いた猫が、片足を上げたままじっと黙ってしまっているよ。
 くるくるまわる。ネジは僕らを支配する。ポロン、ポロン、音が離れてゆく。もう一人の僕よ、シャルルの部屋がゆっくり見渡せるだろう。つみきのお城に、飛行機のプラモデル、おや、まんまるのつぶらな瞳は、妹のローラのお人形だ。どうも御機嫌よう。みんなじっと息をひそめてしてしまっているよ。
 そうして、シャルルが静かに眠るなか、僕らは回らなくなった。ネジは、最後にカチンといわせて止まってしまった。真っ白い羽に触れるように最後の音が鳴る。僕らは貴婦人と向かい合った。おやすみなさい、赤い口紅の貴婦人。お返事はきっと、次の晩にもらえるだろう。シャルルがネジを回し忘れさえしなければ。
 ああ今宵も月の光が綺麗だとも。見つめているよどこまでも。僕らはピエロ、夢を纏った飾り物。おやすみシャルル、良い夜を。



(孤独な道化師)
御題提供・九条 刹那さま
それはいつかのさよならよね/主催・かわさま

--
 これもう詩やん。



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24614332 小川生成り 59.135.39.133 2010/08/20 22:15:32  削除依頼  

 
「まあ、なんて素敵なの!」
 と感嘆の溜め息を吐くジュリアの反応に、ロバートは満足げにゆっくりと頷いた。
「少し苦労はしたが、なに、君のためなら安いもんさ。どうだい、この夜景は」
 ロバートが甘く囁きながらジュリアの肩に手を置く。
「ああ、ロバート、あなたって最高!」
 抱き着くジュリアのアッシュ色の長髪を撫でながら、ロバートは完全に自分に酔いしれていた。「そうだろう。僕って最高なのさ。君のためにホテル最上階を用意してあげられるほど気の遣えるイケた紳士が、この僕を置いて他に誰がいると言うんだい」こんな調子で思っていた。
「これだけじゃないよ」
 彼が声をひそめると、ジュリアの目が著しく輝きだした。
「もしかして、あれも?」
「そう、あれさ」
 ロバートは自身の胸ポケットに親指と人差し指を入れ、そこから銀紙に包まれた小さい粒を一つ取り出しジュリアの前で軽く振ってみせた。色づいていたジュリアの頬が更に赤く咲いた。
「まあロバート!」
 彼女は思わず音を立てて彼にキスをした。
「それ欲しかったの!」
 興奮するジュリアをロバートは宥めるように丁寧に彼女の手を取った。そして自身の指におさめられている粒を、馬鹿に時間をかけてそこに乗せた。
 



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24614540 小川生成り 59.135.39.135 2010/08/20 22:21:26  削除依頼  

 
「味わってお食べ、ジュリア。僕と至福の時を過ごしながら、この幸せを噛み締めようじゃないか」

 決まった。彼は心の中で小躍りした。彼女の指が銀紙を開き、そこにある一粒のチョコレイトを取って口に運んでいく。これで彼女は僕の虜になるはずだ。と一人瞼を閉じ頷く。彼女さえ僕の手の中に入ってくれれば、人生が上手くいくことを保証されたも同然だ。資産家の娘は逃すものかと粘った努力がようやく報われる時がきたのだ。

 と、彼からしてみれば随分と感じていたやも知れないが実際は数秒という短い間が過ぎて、次の瞬間、浮かれ男ロバートは果たして今したがの現状を理解できないでいた。先ほどまで両手を叩いて喜んでいたジュリアが全く表情を変え、眉毛を吊り上げ目に涙を溜め彼を睨みながら、大きく開いた掌を構えているのだ。ロバートの左頬がじんじんと痛みだした。呆気に取られて無防備に自身の頬を撫でてしまった彼の心情はこうだ。――「上手くいっているはずなのに、何があったと言うんだ」

 彼女が喚き立てる次の台詞で彼は後悔の念に苛まれることになる。

「馬鹿! キャラメルチョコレイトは大嫌いって言ったのに!」

 
 
・キャラメルチョコレイト

チョコレイトバトン/主催・ひだりめさま


---
 超おバカな男のフラれる話。書いてて楽しかった(⌒~⌒)



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24620602 恋するぱんだ。 2010/08/21 10:25:07  削除依頼  

はじめまして、恋するぱんだです。
色々なところでお見かけしていたのですが、コメントさせていただく勇気が出なくって…!←

(魔法の始まり)がすごく素敵です!
自分じゃ書けないのですが、楽器や音楽のお話って大好きなんですー。

また覗かせてもらいますね、拍手してから失礼させていただきますっ。



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24624129 小川きなり 2010/08/21 14:10:56  削除依頼  

>恋するぱんだ。さま
 わっ初めまして! 私も実は以前からお見かけしていて、おはなしできるチャンスをうかがっていました。
 魔法の始まりですか! ありがとうございます。音楽モノは書いていて楽しいです。が、やはり芸術を表現するのは難しいものです。気にいっていただけて嬉しいです。
 拍手までしてくだるなんて><ありがとうございます。お暇な時に見ていただければ幸いです。
 コメントありがとうございました!



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