2010年8月21日
愛知県内の男性(39)が、自作プログラムで図書館ホームページから新着図書の情報を集めたところ、サイバー攻撃を仕掛けたとして逮捕された。しかし、朝日新聞が依頼した専門家の解析によると、図書館ソフトに不具合があり、大量アクセスによる攻撃を受けたように見えていたことが分かった。同じソフトを使う全国6カ所の図書館でも同様の障害が起きていたことも判明。ソフト開発会社は全国約30の図書館で改修を始めた。
この問題は同県岡崎市立図書館で起きた。ソフトには、蔵書データを呼び出すたびに電算処理が継続中の状態になり、電話の通話後に受話器を上げたままのような状態になる不具合があった。一定の時間がたつと強制的に切断されるが、同図書館では10分間にアクセスが約1千件を超えると、ホームページの閲覧ができなくなり、大量アクセスを受けたように見えたという。
男性はソフトウエア技術者で、岡崎市立図書館から年に約100冊借りていた。図書館のホームページは使い勝手が悪く、新着図書の情報を毎日集めるプログラムを作り、3月から使い始めた。
図書館には同月以降、「ホームページにつながらない」と市民から苦情があった。相談を受けた愛知県警は、処理能力を超える要求を故意に送りつけたと判断し、業務妨害容疑で男性を逮捕した。名古屋地検岡崎支部は6月、「業務妨害の強い意図は認められない」として起訴猶予処分とした。
朝日新聞は、図書館で使われている三菱電機インフォメーションシステムズ(MDIS)社製のソフトを別の図書館関係者から入手。男性のプログラムとともに、この分野に詳しい産業技術総合研究所の高木浩光・情報セキュリティ研究センター主任研究員や、大手の情報セキュリティー会社「ラック」など3カ所に解析を依頼した。
その結果、いずれも図書館ソフトに不具合があると答えた。男性のプログラムは違法性がなかったという。
朝日新聞が確認したところ、図書館ホームページの閲覧障害は、ほかに大阪府貝塚市、広島県府中市、東京都中野区、神奈川県鎌倉市、京都府長岡京市、石川県加賀市でも起きていた。MDISは「改善の余地がある」として7月、電算処理を毎回切るように岡崎のソフトを改修。全国約30の図書館で順次作業を進めている。
男性は取材に「なぜ不具合が放置され、捜査機関は見抜けなかったのか。今後も同じような逮捕が起き得ると思うと恐ろしい」と話した。
岡崎市立図書館は「様々なプログラムによるアクセスにも対応するよう改善を進めたい」と説明。愛知県警は一連の不具合を把握していなかったが、「図書館の業務に支障が出たことは事実で、捜査に問題はない」としている。名古屋地検岡崎支部は「コメントできない」としている。(神田大介)
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