12186711 小川きなり 2009/05/27 15:53:32 削除依頼
1.強引なキス
この世を創った神様がもしいるのなら、あたしは絶対恨むだろう。恨んで駄目なら、「神様への意見箱」を作ってあたしが第一号の意見者になろう。
ああ神様、どうして人間には‘運の良い奴’と‘運の悪い奴’がいるのでしょうか。
どうして人間は「何かと都合の良いヤツ」と「何かしら痛い目に合うヤツ」がいるのでしょうか。
そしてあたしは、「何かと都合の良いヤツ」にはなれないのでしょうか。
「不公平な世の中よね」
そんな言葉をため息とともに吐き出したと同時に、それまで向けられなかった視線があたしに向いたのを感じた。あたしの視界の隅っこに映る彼は驚いているように見えた。けれどあたしは彼を見ない。今目を合わせたりしたら、湧き上がる感情を隠すことも出来ずに彼を睨んでしまうだけだから。
12186745 小川きなり 2009/05/27 15:55:04 削除依頼
「どうしてそう思う?」
あたしの耳に彼の低くて小さいはずの声が執拗に響いた。
ほらね。あなたの言うことなんて大概決まっていて、それは大半の人間に受け入れられる。そして大概、あたしはそんな彼の引き立て役でしかなくて。
彼があたしの視界の隅で動き出す。放課後、あたしと彼しかいない教室に、椅子を机にしまう音がえらく耳に残る。隣の席に座っていた彼が気がつくとあたしの目の前にいて、目を合わせざるを得なくなった。
こっちを向いてあたしの前の席に座る彼の、綺麗な顔があたしに近づく。
「な……に、」
鼻先がくっつくくらいの距離に、あたしの心臓は大きく取り乱して頬を紅くさせる。
彼の熱っぽい視線に耐え兼ねて思わず目を逸らすと、瞬間、顎を右手で持ち上げられた。再び絡み合う視線。
……ほら。いつも彼がそう。
あなたはあたしが劣等感に蝕まれているのにもきっと気付かない。
12186806 小川きなり 2009/05/27 15:57:47 削除依頼
あたしは奥歯で言葉を押し砕いて、ほんのちょっと口を開いて
「太一にはわかんないよ」
震えて掠れた声を出した。
あたしの言葉が気にくわなかったのだろう。彼の眉間にしわを寄せる行為さえ綺麗と感じる。
「何で」
綺麗なあなたの隣にいていいのかと、不安になるあたしの気持ちなんて。太一と一緒にいればいるほど、耳に入ってくるあたしへの文句や悪口に不安になるあたしの気持ちなんて。あたしといることで、太一を‘運のないヤツ’にさせてるんじゃないかって不安になるあたしの気持ちなんて。
彼にはきっと分からない。分かっちゃいけない。気付かせちゃいけない。
「もういいから離し…」
離して、あたしの顎を持ち上げる彼の腕を取りながらそう言おうとして口を塞がれた。キャラメル色の柔らかい髪が顔をくすぐる。キスされてるんだとすぐに分かった。
12186838 小川きなり 2009/05/27 15:59:22 削除依頼
彼は強引なキスをしてすぐに離したかと思うと、今度は優しくゆっくりとキスをしてきた。
顎に置いていた手をあたしの後頭部へ回され、逃れられない。
何度もついばむようなキスをされ、身体から力が抜けていくあたし。
やっと唇を離した彼を、あたしは睨むことも出来ず頬は上気するばかりで。
「お前は分かりやすいんだよ」
そういえばここ学校だった、しかも教室で堂々と、なんてことを考えてるあたしに太一が言う。
「俺にはわかんない、なんて、苦しそうな顔で言うな」
彼の言葉に冷や汗がにじむ。「そ、んな顔してない」彼の肩を押しやったつもりが、びくともしない。またあの綺麗な顔で、吸い込まれそうな瞳で見つめられた。彼はあたしから視線をそらさないまま、だから分かりやすいんだっての、と重低音で囁いてあたしを骨抜きにさせる。
12186869 小川きなり 2009/05/27 16:00:54 削除依頼
あたしに反論を言わせないとでも言うように、また唇を塞がれた。後頭部に回されたままだった手で引き寄せられる、さっきよりもっと強引なキス。
ああもう太一は、分かっていたんだろうか。もしかして何も分かっていなかったのはあたしの方だったんじゃないか。やっぱり、何かと良い立場にいるのは彼なんだ。
太一は唇を離して、ニヤリと笑みを浮かべた。ぞっとするほど綺麗に笑って。
半分もうどうでもよくなっていた。彼のキスがもらえれば、あたしはやっていけるのかもしれない。そしてまた、彼の顔が近づいて、あたしは瞼を閉じた。
(彼に溺れる、)
12199406 小川きなり 2009/05/27 21:02:51 削除依頼
2.二回目のキス
「うわああああ!」
何あいつ。きもちわるい。叫び声が聞こえた直後にそんなことを思って罰が当たったのか、反射的に見てしまったそいつと運悪くも目が合った気がした。やばいやばい、一瞬で目を逸らして握っていた携帯画面を見つめるフリをする。けれど今は授業中、此処は誰もいない昇降口玄関。あたしのわざとらしい振る舞いも完全にバレているようで、さっきまで奇声を発してた男の視線がこっちに向いているのをビンビンに感じる。ちくしょう、誰もいないと思ってこの時間帯を選んだのに。あたしってつくづく運のないヤツ。
何か言われたりする前にこっからおさらばしよう、大丈夫、あたしの靴はあと二、三歩進めば届く距離。
「ちょっと、彼氏が床とキスしちゃったのにスルーですかおねいさん」
12199450 小川きなり 2009/05/27 21:03:45 削除依頼
え。聞こえた言葉に思わず歩きかけた足を止めて男を見ると、やっぱり誰だかは分からない。あ、そういえば今日コンタクトしてないんだったと思い出した。ぼやけて見えた顔の男は近付いてきて、だんだんと顔がはっきり見えてくる。男はショーヘイだった。あたしの彼氏。分かった? とへらへら笑う男はやっぱりショーヘイ。ってちょっと待って、今ショーヘイ‘床とキスした’って言った?
「アホでしょう」
「ちょっと! 慰めの言葉くらいあるでしょうユキちゃん」
とか言っているけれどすごく楽しそうなショーヘイ。何か企んでそうなニヤニヤ笑い。柱に寄り掛かってポケットに手を突っ込むショーヘイは、やっぱり企みがあったらしい。ショーヘイは綺麗な形の唇を口角をあげたまま呟く。
「消毒、してよユキちゃん」
いやよ。
12199502 小川きなり 2009/05/27 21:04:30 削除依頼
「俺の今日のキスのお相手が床だなんて嫌だー毎日ユキちゃんとしたいのにいー」
「……っやめてよその言い方」
あたしがあらかさまに嫌な顔をしても、寧ろそれを見るのが楽しいとでも言うようにショーヘイはまたへらへら笑う。ショーヘイの指先があたしの髪に絡む。思わず目の先にある綺麗な唇を見つめてしまう。だめだダメだ駄目だ。これじゃいつものショーヘイに流されるパターンだ。頭の中の自分は酷く焦っているはずなのに、身体は吸い付かれるようにショーヘイへと近づく。
「消毒……してよユキ」
床のことも。これからのことも。
掠れた声でそんなことを言うから、あたしはショーヘイの思うがままに動くしかなかった。
(彼に敵わない)
12210058 小川きなり 2009/05/28 15:03:59 削除依頼
「ナコ、今日お父さんもお母さんもいないって」
帰ってきてコイツが発した第一の言葉に、あたしは「へえ」と目を合わせずにそう返した。
「今日のご飯なに?」
さっきまでリビングのドアらへんから聞こえてきた声が、いきなりあたしのすぐ後ろから流れてきて、思わず「うひゃあっ」と声を上げた。振り返ってみればコイツはあたしの肩から覗き込むように、あたしの手元にある鍋を見ている。独特のクリーミーな匂いが鍋から溢れた。もう煮込みはいっか。
「シチュー」
先程のコイツの質問を返しながら、食器に盛ろうと棚に向かう。
「手伝うよ」
二人分の皿を出そうとしたら横から大きな手が伸びてきた。
12210070 小川きなり 2009/05/28 15:04:48 削除依頼
その手を辿ってヤツの顔をふと見てしまう。
綺麗に象られ、それでいて少し薄めに揃えられた眉毛。すっと切れた二重。筋の通った鼻に綺麗な形をした唇。
切れた目があたしと似ているその顔は、嫌でもかっこいいと思わざるを得ない。
カズヤ。
………あたしのお兄ちゃん。
「ナコ、DVD見ない?」
「え……、一人で見なよ」
「やだよ怖いヤツだからナコと見なきゃ」
「…………」
12210084 小川きなり 2009/05/28 15:05:26 削除依頼
シチューを二人で黙々と食べた後、カズ兄の一言であたしたちはホラー映画を見ることになった。カズ兄は怖いのが苦手なくせにホラー映画をよく見る。一人で見るのは嫌だから誰かとなら大丈夫、らしい。DVDをセットしてソファに座ったカズ兄は、空いている隣をポンポンと叩いてあたしに座れ、と示す。答えずにあたしはカズ兄の隣に腰掛けた。離れている訳じゃないけど、近い訳でもない距離。兄妹のキョリ。カズ兄がリモコンをいじくって前ふりの長ったらしい宣伝を抜かすと、何とも不気味な音楽が流れ始めた。
前にも、こんな風に二人で映画を見た時があった。そんなに昔の話じゃあない、確か何ヶ月か前の休日。今日と違ってお日さまの日差しが窓から差し込むお昼に、アクション洋画を見た。それは丁度あたしの大好きな俳優さんが出演してる映画で、あたしは興奮してひとりでわいわい騒いでいた。ストーリーもいよいよクライマックス、ラスボスと主人公の対面! ……って時に、あたしはカズ兄にキスされた。どんな風に、なんて、もうよく覚えてない。真剣にテレビ画面を見ていたはずなのに、気が付いたらあたしの目の前にカズ兄の長い睫があって、くすぐったかった気がする。キス、っていうより唇が触れた、と言った方がいいくらいそれは一瞬のことで、あれは事故だったんじゃないかと思ってもいいくらい。けれど忘れることがどうしても出来なかった。カズ兄はそれ以来、何事も無かったかのような素振りで。あたしはどこに心を置いていいのか分からないまま、数ヶ月が過ぎていた。
12210094 小川きなり 2009/05/28 15:06:13 削除依頼
「…………」
「……」
「…………っ、」
「……」
「……………ぅっ」
「……怖いオーラ出すのやめてよ」
さっきからビンビンと感じる、カズ兄のオーラ。呆れて隣に目をやると、顔を手で覆いつつ指の間から覗くように画面を見たり、ぎゅっと目をつぶってみたり、何ともマヌケな兄の姿が。カズ兄はさっきからそんなことを繰り返してる。そんなんなら見なきゃよかったのに、とあたしは心の中で溜め息をついて、ふとカズ兄をからかってやろうと思った。茶化すように、
「そんなに怖いなら慰めてあげよっか?」
とかまかけると、カズ兄は顔を覆ってた手を除けてこっちを向いた。あ、なんか不機嫌。
「お前んなこと言ってー…………あ」
何か思い出したようにカズ兄はそう呟くと、不機嫌な表情から一変してニヤニヤし始めた。あれ、あたし何か可笑しかったのかな?
12210108 小川きなり 2009/05/28 15:07:04 削除依頼
「慰めるってちゅーしてくれんの?」
…………っ何を冗談を。
ニヤニヤしながら言うカズ兄は、何だか変。というか変。絶対変! 普段そんなこと絶対に言わないはずのあたしたちなのに。んなの大人しい妹に言うな! いや、かまかけたあたしも悪いのか。もうどっちがどっちだか。とりあえず予想外の言葉に、あたしの心臓はばっくばくだった。
「え………な、ななななな何言っちゃってんの」
「え!? 想像以上の噛み具合い!」
あたしは無言でテレビ画面に目をやった。
お腹を押さえてひいひいと爆笑するカズ兄を殴りたくなったのは言うまでもない。
もう、いいや。こうなったら無視するしかない。あたしはそう決め込んで前を向く。うん、映画に夢中になれば大丈夫、馬鹿にされたことなんか忘れよう。うんカズ兄は今日は変、ってことで――……
12210121 小川きなり 2009/05/28 15:07:52 削除依頼
ふいに腕を捕まれ、引っ張られた。驚く間もなく、押し付けられた唇。あたしは目もつぶらずに、カズ兄を受け入れていた。数秒触れた唇が離され、呆気に取られるあたしの目の前には、舌をちらつかせるカズ兄のニヤニヤ顔。
「な……んで」
やっとのことで絞り出した言葉は、掠れた声でしか言えず。
「ナコが可愛いから、つい」
カズ兄の気まぐれな行動に、あたしはいつも翻弄されている。
(禁断の愛を彼と、)
12333718 小川きなり 2009/05/31 22:33:44 削除依頼
4.下手くそなキス
「Uは1から100までの数字であることから事象は……」
数学の先生が並べる言葉も数字も公式も、集中力が途切れた途端に、みんな何かの呪文のように見えてくるから不思議だと思う。あたしは止まらない欠伸を噛み殺して、下がる瞼を必死に擦った。駄目ダメだめ、頑張れ自分、寝るんじゃない。眠りそうな心の自分を叱咤する。それでも先生の声はあたしの脳に届くことなく耳を右から左へと流れてしまう。ああ、本当に寝たい……。寝たい時に寝るのが身体にとっては一番良いんじゃないか、という屁理屈さえも思ってしまう。
けれど、寝てしまったら。もしも、寝てしまったら。あの言葉が聞けなくなるのを、あたしはちゃんと分かってる。
「ねえ……俺眠たいんだけど、中西どう思う?」
前の席の茶髪野郎が、振り向きざまにあたしに問いかけた。大きくて眠たそうな瞳があたしをとらえる。そんな小さな動作一つだけで、あたしの心臓はいとも簡単にはね上がってしまう。
仲田くん。
数学の授業だけ一緒の教室の、隣のクラスの男の子。
「あたしもー……でも寝たらついていけなくなっちゃうよ」
「俺は大丈夫だよ。頭良いから」
「仲田くんはね……あたしはダメ」
12333752 小川きなり 2009/05/31 22:34:31 削除依頼
「じゃ、また何かゲームやる?」
仲田くんのこの言葉を聞くために、あたしは学校へ来てるようなものだ。
「うん!」
嬉しくて、でもこの気持ちが見抜かれないようにと思いつつも、あたしは笑顔で答えた。
ゲーム。
いつからやるようになったかはもう覚えていない。ある日授業が本当に眠たくて、「眠い……」と思っていたら思いっきり口にしてしまい、誰も気付かないで欲しいと焦りながら願っていたら、前の席の仲田くんが振り返ってこっちを見ていたのだ。それまで一度も喋ったことが無かったのに、仲田くんは独り言を言ったあたしを嫌がることなく、俺も、と笑ってくれた。
何て優しい人なんだろう、と思った。
「今日何のゲームにする?」
これから起こる事にわくわくしてあたしは仲田くんに尋ねる。
仲田くんはそんなあたしに口の端だけを上げる、あたしに手を伸ばして頭を撫でた。
あたしはこの感じが好き。仲田くんの手の温もりが好き。もはや優しい仲田くんが好き。
12334036 小川きなり 2009/05/31 22:42:04 削除依頼
「じゃ質問ゲームしよ」
「なにそれー、どんなゲーム?」
「何でも質問してくんだよ、何で校長はハゲているのか? とか」
他愛のない会話でもいい。どうでもいいようなことさえも、仲田くんは楽しくしてくれるからすごいと思うし、すごく安堵に似た気持ちが沸いてくる。それはきっと、緊張感の途切れないこの進学校の雰囲気にあたしが未だ慣れていないから、というのもあるんだと思う。
「じゃあ中西からね」
「ん……どうして我が高校は一年生のジャージが真っ赤なのか」
「ああー分かる分かる! 何でセンス悪い色にしたのか永遠の謎だよな」
何が分かるのか、何が永遠の謎なのかは分からないけど、あたしはただ仲田くんとこうして会話してることが嬉しくて嬉しくてしょうがない。
次仲田くんの番ね、そう言いかけて「お前らうっせえぞ」と先生に怒られた。気付くとさっきよりも静かな教室。喋っていたのはあたし達だけではなくちらほらといたが、特に仲田くんの低い声が響いていたみたいだった。仲田くんは楽しそうな目でちらりとあたしを見て、椅子ごと前を向いてしまった。
なんだ、先生のあほ。ばか。
心の中で先生に悪態をつくあたしの気持ちなんて露知らずに、先生はどんどん授業を進めていく。皆が授業にちゃんと集中するように、注意深く周りを見ながら。そんな先生に反抗してあたしは机に突っ伏す。いくら先生だからって、仲田くんとあたしの貴重な会話の時間をとっちゃうのは許せないもん。他の人にとってはなんてことないかもしれないけれど、あたしにとってはすごく大事なこと。
12334062 小川きなり 2009/05/31 22:42:41 削除依頼
ふて腐れて心の中でぶつくさと文句を言っているとふいに、頭をこつんとつつかれて顔を上げた。目の前には体を後ろにして座り、いかにも"先生の話なんか聞いてません"って感じの仲田くん。意地悪そうに片方の口の端だけ上げて笑う仲田くん。
あたしは仲田くんの顔が見れたことの嬉しさと、いきなり目の前にアップの仲田くんの顔があることの恥ずかしさと、先生に怒られないかって焦りとで、上手く言葉が出ないまま仲田くんの射るような瞳からから目が離せない。
仲田くんが動くと分かるミントの匂いに、頭がぼーっとしてくる。
仲田くんの右手があたしに伸びてくる。
あたしの頬を包み込むようにすると、左手をあたしの机に置いて、だんだんと顔を近づけてくる。
均整のとれた顔から目が離せない。
仲田くんの視線があたしの目から唇に移る。
あたしは何も考えられなくって、ただただ仲田くんのすることを受け止めてて。
体も動かないくせに、何も考えられないくせに、何故か心臓だけは口から飛び出すんじゃないかってくらい動いてる。
そのまま仲田くんの顔がこれでもかってくらい近づいて、あたしは、あたしは――
12334095 小川きなり 2009/05/31 22:43:33 削除依頼
――……あたしの唇と仲田くんの唇が、触れたか触れてないか分からないくらい近づいて、離れた。
え?
と思わず声に出してしまう程拍子抜け。
目を見開いてぽかんとするあたしに、両手で顔を覆って呆れた感じの仲田くん。でもそれは、あたしに呆れているていうより、自分に呆れてるって雰囲気だった。
「しくった………」
蚊の鳴くような仲田くんの低くて小さな声。でもあたしにははっきりと届く。いつもは意地悪い仲田くんの耳が真赤に染まっている。仲田くんは覆った手の指の間からちらりと放心状態のあたしを見て、すぐに前を向いてしまった。
あたしにとってはとても気の長くなるようなことが、皆にとってはほんの数秒だったみたいで、誰もあたし達に気づいた人はいなかったみたいだった。五分ほど手も頭も動けずにいたあたしの体は、「中西なにやってんだ」という先生の声に押され、ようやく動いてノートを取り始めた。
放心状態でもだんだん落ち着いてくると、先程のことに顔が火照るのを隠し切れなかった。心臓がバクバクいいすぎて、上手く字が書けなかった。さっきのは一体なんだったんだろうか。キスとも言い難い行為にあたしはノートに書き込みながら首をひねった。っていうか何で仲田くんはあたしに……。もしかして、いやそんなわけがない、という言葉が頭の中で何度も交差する。
ほんの少しの期待と不安と疑問とで頭がいっぱいのあたしの耳に授業終了の合図が鳴り響いた。チャイムが鳴った瞬間、いつもはダルそうにゆっくりと教室が出て行く仲田くんが、今日は誰よりも早く席を立った。
行ってしまう。
12334150 小川きなり 2009/05/31 22:44:56 削除依頼
そう思ったら、自然と体が動いて、すでに教科書を脇に抱えて出て行こうとする仲田くんの学ランの裾を掴んでいた。仲田くんがぴくりと反応して止まる。あたしは息を吸い込んで震える胸を押さえた。
「な…仲田くん……」
「……」
「さっきの……どうして……?」
「……」
なかなか言葉を発してくれない仲田くんに不安を感じ始めた時、いきなりあたしは腕を引っ張られ、椅子から立たされ、気づいたら仲田くんと廊下に出てた。
目の前に立つのは顔を真赤にしながら頭を掻きむしる仲田くん。いつもの大人っぽいイメージとは違う、何だか可愛い仲田くん。仲田くんはちょっと迷ったように目をキョロキョロさせて、何か言おうとして口を閉じて、を繰り返してから、意を決したようにあたしを見た。
「中西に…その……キス、しようと思ったんだけど……失敗…しちゃって……」
最後の方はもう口を見なきゃ分からないくらい小さな小さな声で仲田くんが呟いた。
直後、いきなり振り絞るように「ごめんっ」と言い捨てて、踵を返して歩き出してしまった。
12334176 小川きなり 2009/05/31 22:45:30 削除依頼
行ってしまった仲田くんを追うように見つめて、でも体が動かない。
だけど心臓はさっきからドンドンあたしの身体全部を叩く。
何かを急かすかのように。
何か言葉を吐き出すかのように。
あたしはゆっくりゆっくりと、自分の教室へと足を運んだ。
……明日の数学の時間は、あたしから仲田くんを呼び出そうと思う。
(仲田くんって実はかわいいんだね)
(かっ、かわいいとか言うな)
12336327 四万十ユウリ 2009/05/31 23:54:13 削除依頼
はじめまして*
おきこさまの小説を読んでいて、なんだかこう、とてもキューンとしました。
わたしの中に眠っていた女子の部分が、久しぶりに姿を現したというか…笑
短篇なのに、登場人物の性格だとか細かいところまできちんと伝わってきて、すごいなあと思いました。
おかしな文章ですいません;;
ではでは、更新頑張ってください。
12362798 小川きなり 2009/06/01 23:39:39 削除依頼
ケアベア♪さん、
コメントありがとうございます。
お褒めの言葉すごく嬉しいです。
才能は全くありませんが(;ω;`)
お話の違う短編を1つずつ書こうと思っているので、
続編は書くつもりはありません。ごめんなさい(;ω;`)
ですが続きの気になるような小説を目指していたので
そう言っていただけて嬉しいです。
更新頑張ります。
四万十ユウリさん、
コメントありがとうございます。
文章全然可笑しくないですよ!
とても丁寧に読んでくださっているようで、
本当に嬉しく思います。
わたしも素敵なお題で小説を書けて嬉しく思ってます。
お題に恥じぬよう、
頑張っていこうと思います!
ありがとうございました。
12362916 小川きなり 2009/06/01 23:44:43 削除依頼
5.不意打ちのキス
誰にだって望みはある。どんなことにも望みはある。たとえ小さくても大きくても。たまに、"望み"が基本的に大きすぎる人がいる。そして、足元を見れば希望もあるのに、いくら経っても叶わない"望み"を諦めてしまう。目の前を見れば叶う別の"望み"があるのに、大きすぎる"望み"を捨てきれなくて目の前の"望み"を叶えられない。あたしがよい例だ。俯き加減な顔を上げ、吐き出したい溜め息をこらえてごめん、とあたしは呟く。
「好きな人いるから」
目の前に"自分を好きでいてくれる人"がいるのに、叶うはずのない恋を捨て切れなくて、彼氏が欲しいという別の"望み"を叶えられないでいる。
「……そっか。ありがとう」
くたっと笑う印象の隣のクラスの男の子は、あたしにそう微笑んで行ってしまった。彼に呼び出された階段の踊り場で、あたしはようやく溜め息を吐き出す。こんな不甲斐ない自分にイライラする。あたしって何て欲が強いんだろう、もう諦めればいいのに。自分にそう言い聞かせても無駄なのはもう、とっくの昔に分かりきっていること。
「あーあ、見ちゃった」
12362933 小川きなり 2009/06/01 23:45:39 削除依頼
背後からはっきりと聞こえる、低い声。心臓が大きく踊りだす。咄嗟に振り向くと、数段下の位置に立ってダルそうに壁に寄りかかるあの人があたしを見上げて無邪気に笑っていた。この人がいるだけであたしの周りはきらきらと輝いて見えるから不思議だ。彼が一歩一歩段を踏みしめて踊り場へ上がってくるごとに、あたしは逃げたくなる衝動に駆られる。だめ、近づいて来ないで、そう言いたくても口が開かない。動きたくても体が言うことを利いてくれない。ああそうか彼が近くにいるから息がしづらいんだ、だから酸素が体に回らなくて上手く働いてくれないんだ、なんて無意味に納得してみる。もうすでに彼はあたしの目の前に立っていた。鼓動が最高潮に速くなる。なに、なんなの、あたしに言いたいことでもあるの。そう彼には言わないが、緊張と期待に頬が熱くなる。いつのまにかあたしが見上げている色素の薄い髪と、何かを喋ろうとする唇。
「あれ、もしかして付き合ったの?」
至極楽しそうに笑う彼に、頭の奥からひんやりと冷めていくのが分かった。そうだ、結局この人はあたしなんか見てないんだ。いくらあたしがこの人を意識したって、なにも変わりやしないのだ。ただ、"あたしの周りに起こることが楽しい"だから、この人はあたしに構ってくる。何を期待するんだろう、これ以上。少しずつ、自分の莫迦さ加減に怒りがふつふつと沸いてくる。先程とは違う蔑んだ目をしたあたしに、彼が驚いたように目を見開いた。うん、そうなの、とあたしは彼に吐き捨てる。
12362946 小川きなり 2009/06/01 23:46:23 削除依頼
「だからもうあたしに近づかないで頂戴」
あたしは彼の横を通り過ぎて階段を下る。わざと上履きの音を鳴らして一歩一歩踏みしめる。これでいいんだ、と口の中で呟いた。あたしは彼から離れたほういい。こんな、苦い思いするなら、好きでいたって仕方がない。どうせあたしはクラスでいつも一人の冴えない女で、どうせ彼は皆から好かれる人気者なのだ。
はあと溜め息をつこうとした。彼の大きな手があたしの肩口を掴んであたしを振り向かせたのでそれは出来なかった。逆に息を呑んでしまいむせそうになった。彼の表情から彼が何を思っているのかは分からなかった。笑っているとも、怒っているともいえない、ただ無表情。あたしはなに、とも、どうしたの、とも言えない。さっき吐き捨てたセリフが、あたしに少しのプライドを持たせたようだ。
一瞬のことだった。あたしの肩口を持ったまま彼は顔を横に傾けてあたしの唇に自分の唇を押し付けた。バニラとチョコの混ざった味がした。どうやら彼はチュッパチャップスを舐めていたらしい。確か名前はチョコバニラ。なんて、冷静になろうと色々分析してみた。けどあたしには無理みたいだった。そういえば今日は課題出されたんだった、あ、さっき告白してくれた男の子の名前はなんだったのかな、今日あたし寝癖あるから絶対頭変だ、そんな関係ないことなんて考えられなかった。もう彼しか見えない。いや彼が他を考えさせてくれないんだ、だってこんな熱い瞳で見つめられたらなにも考えられない。気づいたらあたしの頬を彼の手が包み込んでいた。おれ、と呟く彼の低くて甘い声があたしの中で響く。
「あんたに男出来たら」
12362963 小川きなり 2009/06/01 23:47:05 削除依頼
彼はわざと言葉を切る。あたしを焦らすかのように。
「あんたと男がどうやったら別れるかっていっぱい策練って」
彼の言葉は続く。
「最高のやり方で別れさせてやろうと思ってたのに」
口端をわずかに上げて呟く彼に、あたしは背中をなにかで引っ掻かれたような感覚に襲われた。背中が、歯痒い。頭が歯痒い。心臓が歯痒い、こころがはがゆい。
彼に言わせてみればこれも、遊びの一部に過ぎないのだろうか。あたしは期待してもいいのだろうか。解からない、分からない。彼が読めない。胸がときめく、ってこういうことなのだろうか。分からない、全てがわからない。彼に聞けば教えてくれるのだろうか。ああもう、彼が近いからまた何も考えられないのだ。だけど聞かなくては。彼の顔がまたあたしに近づく。はやく、はやく言わなきゃ。自分の喉から声を絞り出して、
(ふ、いうちよ)
12385019 小川きなり 2009/06/03 00:50:59 削除依頼
6.思い出のキス
それは少し経った沈黙の後だった。
『ねえ』
彼の唐突な呼びかけにどきりとしながらも私は余裕を装って、ん?と返した。あの時、彼と私は同じ帰り道を並んで歩いていた。はく息が白くなってきた頃だったのを覚えている。彼がなかなか次の言葉を言わないものだから、それまで俯き加減だった頭を上げて右側を見ると、、彼もまた同じように俯き加減に歩いていて、何かを言葉に出そうと口を開きかけては閉じ、瞬きしては口を開け、を繰り返していた。私は彼が何を言おうとしているのかはなんとなく分かっていた。噂は様々な人から聞いていたし、彼がそれを私に伝えるのが今日かもしれない、ということも聞いていた。だけど、戸惑っているような彼を見るのは初めてだったので、その時私は彼を穴の開くほど見つめてしまったのだ。飽きる程に見てきた彼の横顔、見る度に胸がどきどきすると気付いたのはいつからだったろうか。
彼の唇が言葉を紡ごうとした時、あたしはもう自分の心臓の音しか聞こえないくらいに緊張していて、
『俺さ、お前のことずっと好きだったんだけど』
でもその時の彼の声は今でも耳に残って離れない。
12385027 小川きなり 2009/06/03 00:52:17 削除依頼
「麻美、」
呼びかけられて気がついた。柔らかいソファに自分の身体が沈んでいる感触。うっすらと瞼を開くと、愛しい人があたしを覗き込むように見ていた。もう外は随分暗くなっていて、光りが入ってこない部屋は薄暗い。淳は目覚めたあたしに優しく微笑んで、ずっと寝てたよ、と教えてくれた。
まどろみの抜けない体を起こし上げると、淳が部屋の電気をつけてくれた。どうやらあたしは昼からずっと、寝ていたみたいだった。
「あ、夕ごはん、まだつくってないの」
ソファに腰掛けたままそう呟くと、淳は声を上げて笑った。今の何が笑えたのかはよく分からないけれど、淳が「何か面白い夢でも見てたのか?」と楽しそうに話を振って来たのでそれを聞くのはやめた。そして思い出す。
「昔の夢を見たわ」
そう言って、片手でネクタイを解く淳を見上げた。
「初めて告白された時のこと」
淳はふふと笑みを零す。それは優しくて艶やかな微笑みで、私は背中がぞくりとした。ネクタイを解きかけたまま淳は私の隣に腰掛けた。
「あの時は若かったのね」
淳の手が私の頬に添えられて、優しい眼差しのまま私を見る淳に鼓動が大きくなってく。
「ねえ、キスしてもいい?」
あの時の声と淳の声が頭のなかで重なる。淳は意味ありげに口角を上げる。わざととしか思えない。絶対淳は私をからかっているんだ。
12385039 小川きなり 2009/06/03 00:53:04 削除依頼
「ずるい、のね」
近づく淳の顔に、吐息に、瞳に、頭が白くなっていく私が出した声は掠れていた。
閉じた瞳に、さっきの夢がフラッシュバックする。あの時の彼は淳と同じことを私に問うて、そうして答えなんて聞かずに私に唇を重ねていた。彼の唇は熱っぽくて柔らかくて、少しかさついていた。強引なところは昔から変わらない。
唇が離されて、淳の顔見たさに目を開ける。けれど顔を見る前に、頬にあった手が私の後頭部にまわって、もう片方が私を抱き寄せるように腰にまわり、恥ずかしさで淳の顔を見れずに俯いた。彼の手が優しく、誘うように私の頭を撫でて、髪に指を絡ませる。「麻美」甘い甘い声に私は誘導され顔を上げる。こんな艶やかな彼が私の前にいるのは、あの時があったからなのだ。そう思うと淳をとても愛しく思った。「淳、」今度は私が彼の頬に手を添える。私はもう一度目を閉じた。
(思い出される今)
12590945 小川きなり 2009/06/10 22:25:49 削除依頼
7.約束のキス
「あ、ユキちゃん」
そんな声が聞こえた気がした。放課後、部活のない生徒が学校から帰る時間帯。あたしも人混みに紛れて校門をくぐろうとした時だった。こえ……音がしたのは多分右側から。校門に寄りかかっている一人の長身を視界の端に見つけた。でもあたしは気にしてないフリをする。自分の名前を呼ばれて一瞬立ち止まってしまったけど、気にしてないフリをする。大丈夫、夕焼けがあたしを呼んでる。早く帰って今日はあの番組見なきゃ。なんとか右を向かないよう、前方を睨みつけて歩く。でも、一歩歩くごとに近づく気配。いや、その気配だけじゃない。今になって、校門付近にいる生徒という生徒の視線を感じた。声が聞こえたあたりからあたしは見られていたらしい。皆の注目を浴びて、別に自分が悪いことをしてるわけでも、間違ったことをしてるわけでもないのに、あたしは恥ずかしくなって俯く。もう観念しようかと思いかけた瞬間、腕を掴まれて引っぱられた。思ったより強く引っぱられたあたしの体は、重力に逆らえずに後ろに傾いて、そのまま背後にいたショーヘイの胸の閉じ込められる。抱きつかれたまま顔を上げると、意地悪く笑っていて、嬉しそうなショーヘイがいた。
12803167 小川きなり 2009/06/19 17:21:09 削除依頼
「一人で帰るなら俺を誘えばいいのに」
どことなく得意気なショーヘイに、あたしは小さく溜め息を吐いて、自分の前に組まれたショーヘイの腕を解きながらわずかに睨んだ。
「あんたと帰ったら、色んな人の目が気になってしょうがないもの」
「俺とでなくてもユキちゃんは充分有名だから大丈夫だよ」
結局並んで歩くことになり、あたしは観念することにした。
「何であんなところに居たの?」
ユキちゃんに会いたかったから、なんて言われそうであたしは慌てて「あたし以外の理由で」と付け加えた。ショーヘイは一度んーと唸り、あたしを横目でちらりと見、とびきりの笑顔で、
「起きたら学校、終わってたんだよねえ」
などと言いやがった。
呆気にとられたあたしは勿論すぐに反応なんて出来なくて、え? と辛うじて声にした疑問は、多分ショーヘイが言ってから何秒も経った後だった。いくらあたしでもそこまで寝坊する奴じゃない、一体ショーヘイはどこまで時間感覚が狂ってるのだろうか。
12803191 小川きなり 2009/06/19 17:21:56 削除依頼
「あんた。ちゃんと学校来なよ」
溜め息と共に吐き出し、おまけに睨みつけた言葉に、ショーヘイは何故かあたしの頭をくしゃりと撫でた。それは優しく子供をあやすように、……じゃない。何か希望を見つけたような、喜びに満ちた顔で、モノのようにあたしの頭をがっつり掴む感じだった。多分ショーヘイは撫でようとしたんだろうけど、喜びのあまり指に力がこめられていて、当のあたしは軋む頭の痛さに顔が歪みそうになる。
「それって学校来たらユキちゃんがご褒美くれるってこと!?」
ショーヘイがあたしの頭を掴んでいたのはほんの少しで、咄嗟にショーヘイの手首を両手で掴んだあたしは、すでに頭から離れたショーヘイの手を自分の方へ引き寄せるようにしてしまい、恥ずかしさに「そういうことなら俺、毎日学校来るよ~」と話を勝手に進めているショーヘイを見上げ睨んだ。
「あたしまだ何も言ってないんだけど」
「そういう顔してんじゃん。他の男の前でそんな顔しちゃダメだよ?」
優しく笑いながらそう言うショーヘイに不覚にもときめいてしまうあたしは、ショーヘイのことなんか言えないのだろう。
12803216 小川きなり 2009/06/19 17:22:38 削除依頼
*
「……で、どういうこと」
「見ての通りでございまず、はは」
今日はあの会話があった週の金曜日。あの後何故か「今週いっぱい学校に来たら、ユキちゃんからキスをもらえる」と言いふらしていたショーヘイ。そんな約束した覚えは微塵もなかったのに、いつものようにバッサリ言ってしまうことも出来たのに、毎朝校門に立ってあたしを待つショーヘイの笑顔を見ていたらそれもいいかと思えてしまった。そして今日、最終日に限って彼は風邪を引いたらしい。その原因は高校に入って久しぶりに規則正しく生活をしたかららしい。……そしてあたしはどこまでもショーヘイに甘いらしい。
「でもユキちゃんがお見舞いに来てくれるなら風邪引くのも悪くないよね!」
12803264 小川きなり 2009/06/19 17:24:07 削除依頼
「そういうつもりで来たんじゃないから」
いつもの調子で歯向かってみたけれど、頼まれてもないのに保健室の椅子に座ってショーヘイにスポーツドリンクを渡すあたしにはもう何を言っても意味が無いようだった。
ドリンクをコップから零さないよう両手でショーヘイに渡そうとして、ショーヘイの手があたしの手ごとそれをとる。ショーヘイの掌が異様に温かくて、思わず顔を上げたらショーヘイの綺麗な顔が近くって、胸の奥から甘酸っぱいような、痺れるような感覚が溢れ出した。ショーヘイはコップをわきの机に置くと、そのまま手を握られてるあたしの頭をふわりと撫で、顔を近づけてくる。もう、敵わない。敵わないと思いつつもそれを無意識に求めているあたしは、恐らくショーヘイ馬鹿。
(あれ、結局ユキちゃんからキスしてくれなかった……)
(あんたが先にするからでしょ!)
14956547 小川きなり 2009/08/21 00:15:51 削除依頼
こんばんは。
ご無沙汰してしまいすみません。
ここ2、3ヶ月色々と忙しくなり、
小説を書く時間が激減してしまいました。
今日久しぶりに覗いてみたら
レスしてくださっていた方がいて超びっくりしました。
ずっと放置してしまい本当に申し訳ないです(;ω;`)
御題をすべて書き終えるまではこのスレを手放すつもりはありません。
一つの御題が終わるごとにUPしたいので
今以上に亀更新になると思いますが、
長い目で見てやってくれると嬉しいです(;ω;`)
レスしてくださった方
次のレスでお返事します!
お待たせしてすみませんでした(>_<)
おきこ
14957179 小川きなり 2009/08/21 00:32:15 削除依頼
☆絵理奈★さん、
コメントありがとうございます!
約2ヶ月も放置してしまい本当にすみませんでした(;ω;`)
御題は全部で10題あるので、残り2題あります。
一つ一つに続きがあるわけではありませんが、
どうか最後までお付き合いいただけたらと思います。
ありがとうございました。
* くらうちさん、
コメントありがとうございます!
まさに綺麗な文章を目指していたので
とっても嬉しいです。
亀更新で本当に申し訳ないのですが、
気軽に読んで頂けたらと思います。
ありがとうございました。
NO.43さん、
コメントありがとうございます!
お話しが分かって頂けて本当に嬉しいです。
実は短編の中でも裏設定があるので
色々想像して頂けると嬉しいです。
ずっと放置していて本当に申し訳ないです(;ω;`)
気長に付き合って頂けたらと思います。
ありがとうございました。
14993545 †千紗† 2009/08/21 22:27:38 削除依頼
あと3題じゃないですか?
前が7だったから…。
短編小説っていうのがいいですね。
読みやすいしうまい!!
この小説読んでるときとか、めっちゃドキドキして、うらやましくなります。
ネクネク!
16219258 小川きなり 2009/10/02 22:40:20 削除依頼
☆絵理奈★さん、
残り3題でした…
間違いすみません(;ω;`)
そしてとてつもなくのろまな更新ですみません(>_<)
お褒めの言葉ありがとうございます。
どうか長いで目で見てもらえると幸いです(;ω;`)
16219281 小川きなり 2009/10/02 22:41:06 削除依頼
8.不器用なキス
彼がわたしに教えるものごとは必ずしも正確さを含んでいるわけではない。それは彼が正直であり素直であり阿呆である証。そして教えられたひとつひとつはするりとわたしの頭へと入り込み洗脳する。それはわたしが彼に対して従順で素直で純粋な証なのだ。
彼の言葉がわたしを誘(いざな)うのは決まって夜だ。
ことばだけではない、彼が毎晩横になるふかふかな柔らかいベッド、彼の匂い、わたしを呼ぶ重低音の声、人間の男性にしては細い長い指、愛おしむように細められる瞳、満足げに孤を描く唇、すべてがわたしを彼の元へと引き寄せる。わたしが擦り寄ると彼は、わたしを胸の中に抱き寄せてさまざまなことを教えてくれるのだ。たいていはその日の出来事。彼は小さな雑貨屋という名前のものを営んでいた。彼はその細くてしなやかな、しなやかな指でわたしの頭を撫でながらぽつりぽつりと話す。彼の唇から出ることば全てを知っているわけではない。ただ「たま、」それがわたしのなまえであることは知っている。だから彼が時折わたしの名を呼ぶと、わたしはたまらなく彼に擦り寄りたくなるのだ。
16219319 小川きなり 2009/10/02 22:42:14 削除依頼
そしてわたしは時々思いふける。彼のようにわたしが人間であったら。鏡という、もうひとりの自分を写すことのできる不思議な板の前に出たとき。その黒い毛に覆われた身体と光る黄色の眼をもった自分を見つめたとき。彼のようにせめてことばだけでも、発することが出来たらと。
彼が人間とキスというものをしていた。
人間といっても彼とは大分違っている。彼より幾分か小さく、髪はわたしの身体のように黒く、艶やかに長く、彼の胸にすっぽりと納まりそうなほど華奢な肩、そして彼とは違う甘いによいをしていた。わたしもあんな姿をしていたら、キスというものをくれるのだろうか。
ふたりをベッドの隅で眺めていたら、人間は近寄ってわたしの顎を撫で、そして出て行ってしまった。人間の出ていったドアを見つめた後、彼はわたしに手招きをする。「おいで、たま」たま。わたしのなまえ。彼からもらったもの。たま。すぐにベッドから飛び降りて差し延べられた彼の腕の中に入り込むと、彼はまた愛おしげにわたしの頭を撫でる。「たまが世界でいちばん好きだよ」彼のことば。意味はよく分からない。ただ、彼がわたしの名を呼ぶだけで、わたしはたまらなく擦り寄りたくなる。
16219338 小川きなり 2009/10/02 22:42:53 削除依頼
彼の顔が近いものだから、見よう見まねでキスというものをしてみた。柔らかい彼のくちびる、甘いによいがした。
「たまのキスは不器用だなあ」
彼の笑い声。意味はよく分からない。ただ、彼がわたしの名を呼ぶだけで、わたしはたまらなく彼に擦り寄りたくなるのだ。
もう一度彼の唇に触りたくて、思わずひと舐めした。甘いによいにくらくらした。
(黒猫の恋愛模様)
16253298 †千紗† 2009/10/03 23:04:20 削除依頼
いえいえ!
更新~!嬉しい♪
よびタメいいですよ~。ってか、私もうタメだし…。
えっ!黒猫だったんですか~。驚きました!
でも良いですね~。更新されてるってわかった時から、ドキドキしてたの♪
でも49のレス読んだ時になぜ?とかって思ったんだけどね。
黒猫かわゆい♪(^v^)
あと2つ!夜眠れるかな?
これを読んだ後って、主人公を自分に置き換えて、
想像?妄想しt/やめようか?
ドキドキが止まんない!
もう一回最初から、1から読み直していこうかな。
多分夜眠れなくなr/じゃあ、やめようか?
わぁぁぁぁ~!長文だ~!
next!
20095172 小川きなり 2010/02/09 01:52:16 削除依頼
†千紗†さん、
いつもコメントありがとうございます。
すごくすごーく更新が遅れてしまって、本当にすみません…土下座
じゃあ今度からタメでよろしくお願いします(^^)
頑張ってあと2話、どうにか完成させるので
これからも見守ってやってもらえると嬉しいです(>_<)
20095181 小川きなり 2010/02/09 01:54:25 削除依頼
9.さよならのキス
「おはよう」
「おはよう」
「ねえ唐突なんだけど、質問してもいい?」
「なあに」
「別れ際にキスする時って、どんな気持ちなの?」
「いきなり何を言うんだこの娘は」
「気になって」
「そもそも別れたこともましてや付き合ったことさえもないおれに質問するのは如何なもんかと」
「質問していいって聞いたじゃない」
「そうだけどさあ」
「よくドラマとかであるじゃない、キスしてさようならのパターン」
「逆に聞くけど、お前は別れ際の…それはどんな気持ちだと思う?」
「なんでキスって言わないの」
「言ったら恥ずかしくなるだろばか」
「恥ずかしいの?」
「普通は女の子が恥ずかしくなるの」
「言えばいいのに」
20095185 小川きなり 2010/02/09 01:55:11 削除依頼
「いいだろ別に、それでどう思うんだ?」
「うーん…最後の見納めみたいな?」
「なんではてな?」
「わたしも経験したことないもの」
「あー、そうだったな。おれの見る限りでは」
「まあ小さい頃からずっと一緒だからね」
「おれの経験不足もそれが原因だ」
「経験したいの?」
「そりゃ男子ですから」
「他のひとと?」
「え?」
「わたしじゃない可憐で清楚で恥じらいがあって可愛いくて美人な子と経験したいの?」
「何を言っているんだ」
「恥じらいがあった方がいいの?」
「近づくな。緊張する」
「あ、恥じらってる」
「普通は好きな人の前だと恥じらうもんなんだよ」
「じゃあわたしのこと好きなの?」
「……」
「わたしは好きだけど」
「…お前って凄いよな、そういうことが素直に言えて」
20095190 小川きなり 2010/02/09 01:55:56 削除依頼
「素直に言ってみてよ」
「……」
「また恥じらった」
「まだ心の準備が」
「準備期間なんてとうに過ぎたよ」
「お前いつから気づいてた?」
「なにが?」
「おれの気持ち」
「さっき自分で自白したくせに」
「そうだったな」
「焦らさないで早く言ってよもう」
「何でそんなに急かすんだ」
20095194 小川きなり 2010/02/09 01:56:32 削除依頼
「女の子はね、言葉にしてもらえると安心するの」
「……」
「……」
「……好きです」
「すみません」
「おちょくってんのか」
「嘘だよ一回やってみたかったの」
「こういう時に試すもんじゃないぞ」
「でも試せる相手あんたしかいないし」
「…それもそうだな」
「あ、にやけてる」
「やめろ」
「じゃあお付き合いのしるしにキスね」
「やめろ!」
「恥じらってる」
「だからこういうのはなあ、」
へたれな男の子、マイウェイな女の子
(今までの関係にキスでさようならしよう)
20111054 小川きなり 2010/02/09 21:55:02 削除依頼
10.もう一度キスを
コータローと二人でショッピングモールに寄った学校帰り。ふとわたしは、学校で噂のカップルを発見した。
「ねえ、あの先輩達すごく素敵だと思わない?」
うっとりするわたしとは正反対に、コータローは横のショーウインドウに並ぶ服にみとれていたので、少しばかり小突いて注意をこっちへと向かせた。わたしが指差す先の同じ制服の二人を見てもまったくぴんとこないようで、首をかしげている。
「これだからいつまでも万年へたれなのよ」
「よく意味が分からないが」
「ほら、よく見て。ユキ先輩とショーヘイ先輩だよ」
20111130 小川きなり 2010/02/09 21:57:23 削除依頼
普段はショーヘイ先輩がユキ先輩にくっついている以外、二人でいるのはほとんど無いのに、今は仲の良さそうに本屋に入っていく。遠目だからあまり分からないけれど、ユキ先輩を見つめるショーヘイ先輩の横顔がとてもとても優しげだった。
「いいなあ、ああいうカップルになりたいなあ」
溜息をついて言うと、かなり強い力で小突かれた。見るとコータローは不機嫌な顔。おれじゃ満足出来ないのか、なんて言葉が彼の口から出て来そうだ。
「アカリ、おれじゃ満足しないのか」
「惜しいね」
何が、と大声で反応するコータローに答えるつもりはないのでそのまま続けた。ユキ先輩はすっごく美人でクール。だけどショーヘイ先輩はどっちかっていうと可愛いくて犬みたいにユキ先輩に懐いてる印象で、アンバランスに見えるけどお似合いだと思う。
20111171 小川きなり 2010/02/09 21:58:52 削除依頼
つらつらと、あたかもそれが理想のように言葉を並べていくわたしには、また不機嫌なコータローが想像出来ていた。へたれだからしょうがないんだよね分かるよ。そんなコータローが小さい頃からずっと好きなのだけれど。
「いやいや案外二人になると立場逆転してたりすんのかもよ」
けれど返ってきたのは意外なコータローのことば。
「願望ですか?」
「おれのこと相当の腰抜け野郎だと思ってんだろう」
腰抜けとは思ってないけどごめんねへたれだとは常日頃思ってる。なんて台詞はあまりにも可哀相な気がしたので、少し考えてから言わないでおくことにした。あと少し歩けば本屋さんだ。先輩たちにつられるようにわたしの足は本屋へと向かっていく、が、本屋に入る寸前に腕を引かれ、立ち止まった。驚いて振り向いたらコータローの、ちょっぴり眉が下がった自信の無さそうな顔があった。
「おれが腰抜け野郎なのは認めるよ、お前本当にああいう恋人がいいのか?」
口を開けばどこまでもへたれで可愛いコータロー。心配しなくてもわたしはあなたのこと好きなのにね。好きだからからかいたくなるだけなのにね。女の子は時折小悪魔に変身して彼の心を揺さ振って離さないようにするのよ。
20111237 小川きなり 2010/02/09 22:01:05 削除依頼
「…コータロー」
だけどコータローの恥じらいながらも下がった眉がちょっぴり、ちょっぴり可愛そうになったので、わたしより15センチほど高いコータローのくちびるに、背伸びしてほんの少しのキスをした。
「これが愛のしるし。わたし、コータロー以外の男の子と学校帰りに寄りたいとこなんてないから安心してね」
アプローチをしてるのはいつもわたしからなのに、コータローは初めてだと言うように頬を真っ赤に染めて、目をまんまるに開いてくちびるを魚のようにパクバクさせている。そして未だに見つめるわたしに気づくと、片手で自分の髪の毛をくしゃりとかいた。
20111268 小川きなり 2010/02/09 22:02:13 削除依頼
「…お前はほんと、素直にそういうことが言えていいよなあ」
「ねえ、今度はコータローからやってみてよ」
「出来るわけないだろばか! 公共の場だぞ」
「もうさっきやったし」
「やめろ近づくな!」
「ここ曲がり角だからあんまり人いないよ」
「やめろ恥じらいを持て!」
へたれ野郎の意気地無し。もうわたしコータローと付き合わない。
至近距離の恥じらうコータローにそう言ったら、観念して優しいキスをくれた。そんなへたれなところがわたし好きよ。
(ユキちゃんユキちゃん、あの子たちチューしてるよ)
(ばかショーヘイ見ちゃだめよ)
20111830 小川きなり 2010/02/09 22:20:08 削除依頼
あの日のキスを10題
消 化 完 了 ・・・!
やっとやっと終わりました、終わりました。
どんだけ時間引き延ばしたんだ自分。
お題をお借りしたサイト様、ありがとうございました。
わたしの阿呆な文章に素敵な素敵なコメントくださったみなさま、本当にありがとうございました(´;ω;`)
そしてすごくすごくのろまな更新で本当に申し訳なかったです。
のろま過ぎて今となっては見放されても致し方ありません(´;ω;`)
自分としては、ステキお題さまのお陰でとっても楽しく書くことが出来ました。
こうなったらいいだろうなあという妄想を膨らませるのが楽しくて(笑)
機会があったら是非また挑戦したいお題です。ありがとうございました。
書くことは好きなので、
また妄想が膨らんだら小説書きたいなと思ってます。
だけれどわたし長編は絶対書かない!(笑)
持続力が身についたら書きます。(笑)
長文になってしまってごめんなさい。
またお会いできることを願って。
おきこ
20246528 †千紗† 2010/02/14 22:51:04 削除依頼
10題まで投稿されてる…!
お疲れ様ですノ最近ログインしてなかったんで、来れなかったんですが、今日久々のログインして来てみたら終わってたと言う。
新しい小説書かれたらそちらにも行きます!
タメでとか言ってたんですけど、敬語…ですねorz
お疲れ様ですノ
20271608 小川きなり 2010/02/16 07:30:46 削除依頼
千紗さん
コメントありがとう(´`*)
9と10は一緒に書いたので
すぐ投稿しちゃいました。ふふ。
新しい小説はいま、構想を練ってるので
気長にお付き合いいただけたらと思います。
わたしが敬語から抜けるのが出来てなかった(>_<;)のでいまから抜けてみる。
新しい小説を投稿するまでにまた御題を消化するやも…いや、野暮なことは考えません。笑
これからもどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
20273782 小川きなり 2010/02/16 16:09:44 削除依頼
ナーサンさん
コメントありがとうございます。
読みづらくてすみません(>_<;)
本当は小説を少しでも見やすくするために改行などしていくべきなんだと思いますが、
私自身が改行しない、ずらりと書かれている小説がどうも好きなんです。書いていくうちに私の小説にはそれがあうと感じ、今現在改行をほとんどしないスタイルで書かせてもらってます。あまり改行することはしたくないんです。すみません…
だからこそ、こんな自己満な駄目小説に付き合ってくださってる貴重な方がたには感謝しています。
小説を書く以外に色々と余裕が持てたら、考えていこうと思います。
貴重なアドバイスありがとうございましたm(_ _)m
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