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歴史に残す罪

2010年8月21日0時2分

 英誌「エコノミスト」が「ビッグマック」の各国の値段を基に算定した1ドル=85円台という円・ドル相場の理論値(購買力平価)からして、今の円相場は著しく経済実勢からかけ離れているとはいえない、という旨の記述が某経済新聞の社説にあった。驚きである。また、今の円高が「短期的には輸出や企業収益の下押し要因になる」「国内経済への影響を注意深く見ていく」という政府・日銀の危機意識の無さは何なのだろうか。

 今や製造業各社はコスト削減のために海外調達比率を上げようと必死である。例えば鉄鋼業界は機械設備の調達先を海外に求め、機械メーカーは使用する鋼材を韓国、中国製に切り替える。鉄鋼業各社と機械メーカーとは本来自らの製品を使ってもらう客同士である。だが背に腹は代えられない。お互い内需に見切りをつけ成長著しい海外市場を目指す。だが資機材を海外に求め、売る先が海外ならば国内生産を続ける意味はない。もとよりこの円高下では輸出の採算確保は至難の業である。自動車業界などは既に海外生産に軸足を移し始めた。

 一方で海外調達のために各業界こぞって海外メーカーにノウハウを開示し技術を指導している。それは取りも直さず我が国製造業の競争相手を海外に育てているということである。

 中小の部品メーカーがまず見捨てられ、そして大手企業の製造拠点も消えていく。内需は縮小し、雇用の場は確実に失われる。異常な円高による被害は足元の企業収益や景気回復がどうとかいうような次元の問題ではなく、我が国経済にとって取り返しのつかないものである。ことの重大さが分からぬ政策当局の日本の歴史に残す罪は重い。(啄木鳥)

    ◇

 「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。

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