事件・事故・裁判

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

自転車事故:歩行者との事故、過失相殺認めず 自転車側に高額賠償

 ◇東京など4地裁「新基準」

 自転車の車道走行ルールを厳格化するため道路交通法が改正された07年以降、自転車で歩行者をはねて死亡させたり重傷を負わせた場合、民事訴訟で数百万~5000万円超の高額賠償を命じる判決が相次いでいることが分かった。これと並行して東京や大阪など主要4地裁の交通事故専門の裁判官は今年3月、「歩道上の事故は原則、歩行者に過失はない」とする「新基準」を提示した。高額賠償判決がさらに広がるのは必至の情勢となる一方、車道走行ルールが浸透していない現状もあり、今後議論を呼びそうだ。(社会面に「銀輪の死角」、3面に「質問なるほドリ」)

 自転車は道交法で「車両」と規定され、従来、原則車道走行だが定着せず、歩道での自転車と歩行者の事故が急増。このため07年の道交法改正(施行は08年)で歩道を走れる条件を明確にし、車道走行のルールを厳格化した。高額賠償が相次ぐ背景には、この厳格化を司法が酌み、加害者の自転車に厳しい態度で臨んでいることがあるとみられる。

 こうした流れの中、交通訴訟を専門的に扱う部署のある6地裁(東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸)のうち、京都、神戸を除く4地裁の裁判官は今年3月、法律雑誌で誌上討論。自動車やオートバイの事故では、歩行者側の過失の程度により車両側の責任を軽減する「過失相殺」の基準が東京地裁の研究会などにより示されているが、自転車にはないため、4地裁の裁判官は自転車にも基準の必要性を確認した。

 その上で、横浜地裁の裁判官が、歩道上の事故については道交法で自転車の走行が原則禁止され、通行できる場合も歩行者の安全に注意する義務があると指摘。「事故の責任は原則、自転車運転者に負わせるべきだ」とした上で、運転者が児童や高齢者でも変わらないとし、他の3地裁も基本的に一致した。

 「新基準」に、4地裁は「検討が必要」としているものの、あるベテラン裁判官は「各地裁は参考にしていく」と、その影響力を指摘。別の裁判官は「自転車には非常に厳しいが、自転車の台数増加など事故の要素が多くなっていることを受けたものだろう」と評した。

 一方、自転車の交通事故を担当する弁護士は「自転車の車道走行は一般的に浸透していない」と新基準に疑問を呈する。さらに、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)のように所有者が強制加入する保険がないことから「加害者の資力が問題」と懸念を示している。【北村和巳、馬場直子】

 ◇件数、10年で3.7倍

 社団法人「自転車協会」の調べでは、全国の自転車保有台数は08年3月時点で約6910万台。最近10年で約398万台増えた。警察庁によると、09年の自転車関連事故は15万6373件で、交通事故全体の21・2%を占める。自転車事故の増減はこの10年ほぼ横ばいで、8割以上は対自動車だが、対歩行者事故に限ると、99年の801件から09年は2934件。10年間で3・7倍に激増した。自転車同士の事故も09年は3909件で、10年前の4・4倍に増えている。

 自転車側が過失の大きい「第1当事者」となった2万4627件のうち、未成年の占める割合は39・6%。訴訟では13歳前後から賠償責任を負うとの判断が多く、未成年が高額な賠償を求められかねない実情が浮かぶ。これらを含め、自転車側に法令違反があったのは、自転車事故全体の3分の2に及んだ。【馬場直子】

==============

 ■ことば

 ◇過失相殺

 損害賠償訴訟で被害者にも責任や過失があった場合、その程度に応じ裁判所が賠償額を減らす仕組みで、民法に規定されている。例えば交通事故被害者の損害額が2000万円だったとしても、被害者に周囲の安全を確認しなかったなどの過失があり、賠償額から差し引くべき割合が20%と判断されれば、賠償命令額は1600万円になる。一般の訴訟では裁判官が事案に応じ自由に過失相殺の割合を決められる。

毎日新聞 2010年8月21日 東京朝刊

PR情報

事件・事故・裁判 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド