○興南(沖縄)6-5報徳学園(兵庫)●(20日・第14日準決勝第1試合)
興南が底力を見せ、5点差をひっくり返した。五回に慶田城、我如古の連続適時打で3点。六回も1点を返し、七回は中前打の国吉陸を送って1死二塁から我如古が右中間を破る三塁打。さらに真栄平の適時打で逆転した。島袋は直球を狙われ二回までに5失点。しかし三回以降は立ち直った。報徳学園は一回に中島の適時打で先制し、二回も中島の走者一掃の適時三塁打などで4点。大西は緩いカーブでかく乱したが、中盤以降に力尽きた。
走、守、そして打。鍛えられた興南は、どこまでも確信に満ちていた。
五回、1死二、三塁から慶田城が左前へ2点打。「応援も審判の声も聞こえない。どんな球を打ったかも覚えていない」。反撃は無心と集中から始まった。だが勢いを加速させる次の1点は、的確な判断で呼び込んだ。
我如古の中堅への打球は、決して深くはなかった。だが二塁をスタートした慶田城はためらわず三塁をける。返球を待つ捕手を外へ回り込んで避け、滑り込みながら指先でベースの端に触れた。
慶田城は投手の動きを見て、普段より大きくリードを取っていた。三塁コーチャーの国吉将は、試合前ノックで見た中堅手の肩の力から、本塁突入を指示できる打球方向を事前に見極めていた。慶田城は捕手の位置を測り、「本塁より2歩分は手前。あの位置から本塁へタッチに来ても届かない」と読み自信満々でかいくぐる。「実はすべて練習通り」と慶田城。我喜屋監督が「50センチの(違いにこだわる)判断」と評した走塁も、興南には難のないことだった。
六回の守りでは報徳学園・八代の左中間に抜けた打球を、中堅-遊撃-三塁が一直線に並ぶ鍛えられた中継で刺殺。相手の勢いを封じ、直後の七回に最初のストライクを逃さない本来の連打で襲撃。決勝点の本塁を踏んだ我如古は「最後まで冷静に、練習してきたことをしっかり出せた勝利」と胸を張った。
5点を先行され、さすがにベンチがピリピリしたという。それでも春の覇者は揺るがなかった。地元の報徳への大声援を浴びながら役目を果たした国吉将は「雰囲気はアウェー。展開は緊張。でも終わって見ればそれも楽しかった」とニヤリ。沖縄初の夏制覇へ、たくましく王手をかけた。【石井朗生】
三塁走者が生還すれば延長戦という場面。興南の島袋は報徳学園の4番・越井に対し、5球すべて最も自信のある直球を続けた。変化球の制球が甘く、序盤から直球勝負が目立った試合。二回にはこの日最速の145キロを中島に痛打されていた。外角一辺倒の配球を修正し、その後は「直球をばらつかせて幅広い投球を心掛けた」。
球数は150を超え、越井には「意地で投げた」という。力を振り絞った最後の1球。バットにかすらせもせず、空振り三振で試合終了。1週間で1000球など、甲子園を想定した練習を続けてきた成果か、終盤にも球威は落ちなかった。「(決勝は)ゼロに抑えたい」と春夏連覇を誓う。
○…「低めを突いても、しっかり打ってきた。相手が上だった」。敗れたものの、報徳学園の大西の表情は晴れやかだった。四回まで110キロ台の緩いカーブを巧みに織り交ぜ、興南打線を翻弄(ほんろう)。「3月に興南と練習試合をした時に、緩い球を振っていたので多めに使った」。対戦経験を踏まえた頭脳的な投球だった。
唯一、顔をゆがめて悔やんだのは七回1死二塁、我如古に投じた「今日の一番悪かった球」。低めのボール球で打ち気をそらすはずの初球は高めに抜け、鋭く右中間に運ばれる同点打に。ここでマウンドを降りた。試合後、興南の島袋に、「優勝しろよ」と声を掛けた大西。「力は出し切れた」と胸を張った。
毎日新聞 2010年8月20日 18時50分(最終更新 8月20日 22時43分)