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[20464] 【習作】 ダイバー (マブラヴ×各種 オリキャラ)《チラシの裏からやってきました》
Name: るー◆584161b8 E-MAIL ID:96b32de8
Date: 2010/08/13 12:25
―西暦XXXX年 夏―



―日本国 帝都―


―帝都大学 キャンパス


一人の青年が息を切らせキャンパス内を走っている


彼の名は佐橋祐樹、ここ帝都大学の三回生である

なぜ、彼は走っているのか?それは趣味のために全力疾走中

彼は世間一般的にいうオタクという奴だ。ただこの時代のオタクとしてはかなりマイナーなクラシック作品嗜好

クラシック作品とは?一般的には西暦2000年頃のエンターテイメント作品等のことをクラシックと言われてる。

現代人の実に6割ほどは存在を知らず知っている者も大半はそういう物があるという程度の認識しかないほどの古い作品群達である。

その彼の趣味にひっかかるのが本日発売の‘MUV-LUV ALTERNATIVE タイムダイバー版‘である

この他にもこの時代に発売された作品のタイムダイバー版が発売されるが目下、彼の優先順位はこのマブラヴのみとなっていた。




『タイムダイバー』

大手ゲームメーカーのアクタイオン社が開発した次世代インターフェース型スピリットダイブシステム。

専用のコントローラーを体に装着、五感等すべてを転送しあたかも自分自身がゲーム内に存在しているかのようにプレイできる。

また世界観やキャラクター等の設定や原画等を放り込むだけであとはコンピュータが自動的に演算、作成等を行うため、ソフトメーカー側からも人気がある。

ゆえに、現在世界のゲーム業界の7割のシェアを誇る大人気ハードである

今回、祐樹が買うソフトも過去の作品は著作権の保護期間が過ぎているため
ある企業が保存していたデータを再利用しコストをかけず売り上げをということで日の目を見ることとなった





















―京都 とある専門店


「は~~ふ~~、なんとか間に合った、かな?」

若干息が切れながらも目的地に到着

店の前には早くも列ができている。昔からゲーム等は初回限定やら○○店限定特典が付いてくるのはこの時代でも普通のようだ

かく言う彼もこの系列店舗限定のPAK(パッケ)データとポストカードがほしいため大学からここまで汗だくになりながらも急いだ

文中に登場したPAKについて話そう

PAK(パッケ)とは頭文字をとっての略称で名称は

○Personal ○Apparatus ○Keepingsystem

というモバイルを指す。様々な形や色に種類があるのだが彼が持っているのは流涙型イヤリングタイプ

クラシック的には携帯電話と呼ばれるものに、ほぼ同等の機能を持ってる。他にも色々できるがここでは割愛させていただく


さて列も少なくなってきたようだ。
「いっらしゃいませ~本日発売商品の予約者ですか?」

「あっはい、そうです」

「PAKをお願いします」

店員に言われ、彼は外部端子を店員が差し出した接続部分にセット

「えーとMU(マ)ブ・・・?」

「MUV-LUV ALTERNATIVE」

「少々お待ちくださいね(あー確か3本ほどしか入荷してないやつだったな・・)」

「お待たせ致しました、こちらでよろしいですか?」

「はい、大丈夫です」

店員がPOSにコードを通す

「こちら一点と」

さらに黒いディスクケースもPOSに通すが

「(うん?これ読み込んでも出ないってことは特典か?)」

と不思議に思うがこういう商品にはありきたりについている特典だと思いそのままスルー

「こちら一点で○○○○円になりますね」

「はい」
財布からお札を取り出し店員に渡す

「○○○○○円お預かりのお釣のほう○○○○円になります」

「ありがとうございました~~」

店員の掛け声を後ろに彼は逸る気持ちで急ぎカウンターから離れ家路へと着いた。





「次の方どうぞ~~」

店員は次の客に声をかけた

「自分も前の人と一緒のソフトで」

とそれに答えた次の客がレジに近づきながら要望を伝える

「PAKのセットお願いします(3本しか予約入ってない連続とかめずらしいな)」

さきほどと同じようにPOSに通すが

「お会計○○○○円になりますね」

「あれ、自分のは付いてないんですか?」

彼はさきほど祐樹が買った場面を見ていたのであろう
そう質問し、手でディスクケースの形を作る

「?何がですか?」

「いや、前の人に渡してたじゃないですか黒いディスクケース」

再度、彼は手でディスクケースの形を作り出す

「そういえば・・・・・・少々お待ちくださいね」

そう言葉を残し彼はレジ内の商品棚の方に姿を消した

それから色々と捜索してみたが見当たらず、若干のクレームとなるがそれ以降は特に問題はおこらずその日のこの店舗の営業は終了となった。
















[20464] ダイバー 第二話
Name: るー◆584161b8 E-MAIL ID:96b32de8
Date: 2010/08/13 16:49






―自宅前


祐樹は逸る気持ちを抑えられないようなのか、顔に笑みを浮かべながら自宅の門をくぐろうとしていた

そこに彼から横に見て2~3メートルから隣近所にも聞こえそうなほどの音量で声がかかる

「おっ祐樹じゃん、お~い!!!」

顔全体で、めんどくさいという表情をかもし出しながら聞こえてないふりで玄関まで歩いていく


「って無視すんな!!!!」

いつの間に移動したのかすぐ後ろからの怒声に、祐樹は若干驚つつ答えた

「あ~~も~~なんだよ、ゆかり!」


彼女の名は村上ゆかり
幼稚園の頃に佐橋家の隣に引越してきてから祐樹とは腐れ縁。だと祐樹は思っている
祐樹の印象は、ことあるごとに絡んでくる。面倒事を持って来る。の傍迷惑な奴という認識

最近はほっといてほしいという思いが強く、いささか辟易としていた。

彼女の容姿は日本人とイギリス人のクォーターらしく若干、ほりの深い顔に目の色素が薄いのか淡い紫で立っていると街いく男性の7~8割は振り返るぐらいに美人と形容できる。

祐樹からの視点では口やかましく、御節介焼きな奴でうっとしいと思うこともあるという認識

実際は、周りからの評価は明るく社交的で容姿をハナにかけず、男子女子わけ隔てなく接するためかなりの人気者である。まぁ学業の方はお世辞にもいいとは言えないが……

そのためか、祐樹は彼女宛のラブレターの仲介等を二桁ぐらいこなしているし、周りからは
特に親しい仲に見えるため男子連中のやっかみや嫉妬の対象になりやすい

そのためか、祐樹的には彼氏でも作ってさっさと落ち着いてほしい……いや構わないでほしい
と思っている。なんたる贅沢者であるか……

「おい、こら何時まで無視すんのよ!!!」

実際、黙って難しい顔で彼女の方に向いているだけだったためか
顔を赤くしながら怒鳴りつけてくる

「うっさいな~~、なんか用でもあんの?」

いかにも、めんどくさいです。を全身であらわにしての返答にゆかりは若干気をされたのか

「べっ、別に用はないけどさ・・会ったら挨拶ぐらいしちゃダメなわけ?」

しりつぼみに声を発する

「あ~~はいはい、こんちは~~~と。」

さらに、どうでもいいを前面に押し出しながらの対応にゆかりは

「き~~何その投げやり感!むかつく~~!!」

怒りをあらわに詰め寄ってくる

が祐樹は無視して玄関を潜ろうとドアノブに手をかけようとした時

「って待ちなさいよ( ゚д゚ )クワッ!!」

ゆかりにしてみれば不愉快きまわりない対応のみで無視しようとする祐樹を止めるため、襟首に手をかける

「ぐえっ」

祐樹から情けない声があがる

「ふふ、さんざんコケにしてくれたわね……」

首が絞まっているのか、地面にタップを繰り返すが

「罰として今日の晩御飯あんた特製のあんかけチャーハン…って。」

気づいてもらえるわけもなく、そのまま意識を失った……

「わ~~~!!!!!!!」






「はぁ~~~やっちゃった……」

伸びてしまってる祐樹を見て、ゆかりは盛大な溜息がもれでる……
村上ゆかりは今現在、憂鬱な気分だ・・

小さな頃から、いや出会ったときから彼、佐橋祐樹になにかとアプローチをかけてきているが一向に気づいてくれない……

いかせん佐橋祐樹というやつは好意に鈍感であるとゆかりは結論づけている…

が、恋する乙女という者にはそんなことを考慮に入れる余裕がありはしないのだからますます腹が立つのであろう。

ゆえに、現在進行形で憂鬱になっているのだ

なんでこいつは!!と思ったのであろう

憎憎しく祐樹の顔を凝視してみたものだが。

「(まぁ顔は及第点ってか、かなり整ってるし…でも全体的に前髪が長いせいか左目側に関しては完全に前髪で覆われてるから、近くで見ないとこいつの顔わかんない。だから女子連中には結構、根暗ぽっいって思われてるけど……実際ネクラだし……正直これのおかげで他の子から見向きもされないから助かってる。
まぁでも何年かに一回こいつ追っかける子がいたけどね……なんとか本人が気づく前に追っ払ったけど!!!!!!!)」

まったく別次元に思考が飛んでいる……

「(体つきは細いからなよって見えるけど、この前あいつが着替えてるとこみたら
けっこう引き締まってた…あれよ、そう豹のような必要な筋肉だけがついてるって感じかな?
おじ様が外交官だからか、よくハワイに連れ行ってもらって拳銃の練習とかブートキャンプってやつに参加してる。日本じゃ拳銃なんて持てないし、危ないからやめてって言ったけど。
「そうかな…?でもやっぱし親父が一緒に居てくれるから続けたい」
って微笑まれたら……まぁその正直、一緒に連れて行ってもらったときの練習中の真剣な顔には……❤)」

「(で趣味は知ってのとおりで古臭いし……元々あまり人と関わろうとしないからあんまし友達もいないらしいし、私も興味ないからあんましそっち関係では話せないため、よくネットの中の趣味が合う人と話し込んでる。
おかげで休みに誘っても一緒に遊びに出かけてくれない!!!
休日にこいつが出かける時なんてもっぱらジムとか走りこみの時だけ。
ほんと、むかつく!!!!!!!!!!!!!!!!!
あとは料理が上手・・・私よりも・・・・・・・・・・・・
おば様が壊滅的に料理ができないせいで、もっぱらあいつが作ってるからだろうけど・・・・・・・・ちょっっっっっっとだけ悔しい・・・・・・・)」

終いにはまったく違うとこへと……
いささか、頭の弱い子なのであしからず……

そんな感じにゆかりが思考を彼方へ飛ばしていたところへ

ゆかりの腕に動きが伝わる

「あっ目覚ました?」

そう問いかけると

「うん?ああそうだな。」

締め落とされたのに淡々とした返答
いつものことなのでいい加減あきらめている

「とりあえずさ、中に入りましょう。」

「わかった。」

「うち来るの?」

「なによ、行っちゃ悪い?おば様にいつでもいらっしゃいって言われてるし。」

「わかったよ、であんかけチャーハンだっけ?」

「あっうん。」

「おばさんに飯、家で食うの伝えときなよ。」

「わかってるわよ!!」

終始、こんな感じで淡々と会話が続くが彼等にはこれが日常である









―夕食後 自室


ゆかりも夕飯を食し帰ったことなので祐樹は自室へと戻り

タイムダイバーのハードを取り出してソフトのパッケージ開封していた

「(うん?そういえばこれ何だろう?予約特典とかなかったと思うんだけど…)」

そう思いつつ黒いディスクケースも開封、中には走り書きみたいな印字で

'MUV-LUV 19XX~20XX アペンドデータ'

と書かれたディスクが姿を現した。

幾分思案したが結局、アペンドと銘打ってるので追加データか何かだろうと解釈し

二つをタイムダイバー本体にセットしインストールを開始する

約2分程かかったが無事セットアップ完了

コントローラーを装着し

ダイブ!!!!!!!


視界が一瞬、緑色の海に潜るような景色を映し出して


佐橋祐樹は白い世界にやってきた。





[20464] ダイバー 第三話
Name: るー◆584161b8 E-MAIL ID:96b32de8
Date: 2010/07/25 02:13
















―白き世界




電脳世界に降り立った祐樹はその場で背伸びを行う


「なんどやってもこの感じだけはなれないな……。」

祐樹はダイブする時の感覚にいつもの不快感を表す

「ようこそ、プレイヤー様。このたびはMUV-LUV ALTERNATIVE タイムダイバー版をお買い上げありがとうございます。」

と祐樹の前に小さな妖精みたいな女の子が現れ丁寧に挨拶してきた。

「かわいい……。」

そう即座に思える容姿
ショートにシャギーが入ってる麻色の髪に、耳がメカ耳
肌はほんのり上気したピンクがかかったようなきめ細かそうな肌、服はフリル付のワンピースで……若干胸が大きい……
どこか箱入りのお嬢様という感じのする子


「プレイヤー様?」

と上目遣いに彼女は問う

「あっごめん、その、見とれてた……。」

赤くなった顔を下方にやりながら答えた

「えっ、その……。」

彼女も顔を赤く染め答えづらいのか言葉詰まりに

「あ~と君……は?」

お互いに照れが入ってしまってるため祐樹は名前を問う

「あっはい、すみません。わたくしは本ゲームのシステム案内係りです。」

「へ~君が……ところで名前は?」

名を問うたのに役職を返してきたのでもう一度質問

「?」

こちらの問いを理解してないのか全体で?をあらわす彼女

「君、名前ないの?」

「えっとプレイヤー様が指すところの名前というものは……。」

そう彼女は寂しそうに答えた

「そっか、それじゃちょっと呼びづらいから……そうだな…。」

腕を組み思案する祐樹。一拍後おもむろに口が開く

「ノルンってどうかな?」

「ノルンって・・・・もしかして私の名前ですか?!?!」

体全体で驚きをあらわす彼女に

「あっゴメン勝手に付けられたらいやだよね……。」

祐樹は名前を勝手につけたことによる怒りと解釈してしまい、しりつぼみに言葉を発す

「いえ、そんなことありません!!そのちょっと意外でして……では今から私はノルンと名乗らせていただきますね。プレイヤー様♪」

名前を付けられたのがよっぽど嬉しいのだろう。

花が咲くような笑みに、今にも軽快なステップを踏み出しそうな雰囲気をかもし出す彼女……いやノルン


「あっうん……よかったよ。」

祐樹はほっと一息つき胸を撫で下ろす

「あっと……自己紹介まだだったね。俺は佐橋祐樹。」

と胸に手をつき微笑みながら自己紹介を

「佐橋祐樹様ですね、では祐樹様と。」

一句一句に思いを込めるかのように名前をつぶやき、ノルンは笑顔で祐樹の名を呼ぶ

「いやいや、様はいらないから」

焦って様の部分を訂正させようとするが

「ではご主人様と」

さらにワンランク上の対応に…

「いや、恥ずかしさUPしてるよ!!!!!普通に佐橋か祐樹でいいから!!」

「呼び捨てになんて、できません!!!せめて祐樹さんと……」

「あっうん!!それでいいよ!!!」

なんとか、穏便な形に持っていけたため知らず知らずのうちに声が上がっていた


「(しかしタイムダイバーのシステム案内って音声だけじゃなかったけ…?)」

ふと脳裏に疑問が湧くが些細なことだと思いすぐに考えを打ち消す











―日本国 某所


薄暗い部屋の中、一組の男女がぼそぼそと会話を交わしている

「であのディスクは彼に渡ったのだろうな?」

声の主は男であろう、苦りきったような声で傍らの女に問いかける

「ええ、行き渡ったわ。」

「しかし、行き渡っただけでは意味がない。ちゃんとインストールするよう仕向けたのだろうな。」

と苛立ちぎみに声を吐く

「それも大丈夫。ちゃんとインストールするようにあのケースには特殊加工で潜在意識に刷り込むよう包装してあったし、それにほらこれ…。」

と男にこの部屋の唯一の光源であるPCの画面を向けた

「インストール信号は受理されている……か。」

画面内には信号の受信ログが表示されていた

「なんにせよ、ここからが始まりだ。」

「ええ、わかっているわよ……これが果てしなき道への第一歩なのは…。」

女の顔はむごく疲れたような様相をかもしだしている

「そうだ、これが‘あいとゆうきのおとぎばなし‘への……。」

そう呟く男の顔には絶望と希望を混ぜたかのような不可思議なものが貼りついていた


















―白き世界



「さて、それじゃあ、ノルン案内をお願いするね。」

祐樹は宙に浮かぶノルンに声をかける

「はい♪お任せくださいではご案内いたします。」

ノルンはうやうやしく一礼をしてから様々な半透明のウィンドをあたりに展開していく、そのうちいくつかのウィンドを祐樹に回してきた。

「では祐樹さんこちらの項目を埋めていってくださいませ。」


名前

選択軍事技術 三枠

拠点と母艦製作

技能選択 三枠

搭乗機選択

パートナー選択

と各項目が並ぶ

まず、選択軍事技術の項目を選択するとずらりとならぶ数々の作品名。
そこにはガンダム・エヴァンゲリオン・コードギアス・グラヴィオン・ゲッター・ナデシコ等様々なロボットアニメ等、軍事技術が使われた19XX年代~20XX年代の作品群がずらりとならんでいた……


「ノルン・・これってこの中から3つ選べばいいのかい?」

呆けたような声でノルンに問いかけるが

「はい、そうですよ~~。」

笑顔で即答

若干、冷や汗を垂らしながら祐樹はその項目をじっと見続けると…

‘スーパーロボット大戦OGシリーズ‘

いわずと知れた2000年代に流行ったロボットSLGの傑作作品、本来は色々な他社作品を集めてオリジナルシナリオをクリアしていくゲーム

これはその会社が歴代の作品で出してきたオリジナルロボットやキャラクターだけを集めた作品。シリーズを追っかけてる人には特に人気の高い作品だ

かくいう祐樹も、このゲームは大のお気に入りで何十週もクリアしたほど

「まずは、一つ……」

もう一度リストに目を通し気に入った作品がないか検索

‘機動戦艦ナデシコ シリーズ‘

相転移エンジンにディストーションフィールド、グラビティブラストという
古代文明の産物を備えた戦艦をメインにドタバタラブコメディとリアルロボットによる戦争を描いた作品である。
劇場版になると作品性がまったく別になり主人公による復讐劇が描かれている

これもまた、祐樹のお気に入り作品のひとつである

「二つ目も決まったけど……」

さらにリストを検索するが、今のところ祐樹の琴線に触れるものがない

「ねぇノルン?二つは決まったけど…三つ目は今決めないといけない?」

疑問を口にした

「いいえ、現在は保留にしてのちほど決めることもできますよ」

「じゃあ、それでお願い」

「かしこまりました」

今決めなくていいのなら実際動いてから決めよう。と祐樹は思い選択を保留に

「では次はこちらの項目を。」

拠点と母艦製作

「ノルン質問。地球に拠点作ったらさ、周りにはどんな風に認知されるの?」

とあらたな疑問が湧いたので質問した

「ぽっとできた拠点ですね。」

「えっと、所属不明の怪しい拠点になる……?」

怪訝な表情で問いかけてみたとこ

「はい、そうですね♪」

と笑顔で断言され、顔が引き攣る…

「(ってことは地球上だと難しいのかな?だったら)」

「宇宙空間とかにも作れるかな?」

「はい、太陽系内ならどこででも作成可能ですよ。」

と壮大な答えを返してきた

「(そうだな、ナデシコにあやかって木星圏に作ろう、距離はジャンプで誤魔化せるしここなら変な干渉も受けないだろうし)」

「じゃあ、ノルン木星圏にコロニーを作りたいんだけど…」

「かしこまりました、木星圏ですね」

そう返答を返したノルンは手元にあるウィンドに何かを書き込んでいる様子

「では、木星圏に標準的なコロニーを作成しました。施設等は常識的な範囲で設置しておりますが、現在は祐樹さんの生命活動の維持と所有機体の整備および母艦・コロニーの整備のみ稼動状態」

現在の状態を簡潔に答える

「ん?それってどういうこと?」

疑問に思ったので問いかけたところ

「ようはですね、他の設備等を稼動させたり、食料の増産や技術向上には資材やお金、時間等が必要になってくるんですよ。」

「どこの世界でも先立つものお金ってことだね……」

世界のひとつの真理に深く共感するが、さらなる疑問が頭を掠めた

「お金とか資材ってどうやって稼ぐんだい?」

無一文で進めていかなければならないのか、と思ったが

「大丈夫ですよ、ちゃんと祐樹さんとシステムの間でのみ有効の通貨がありますので稼ぎ方も後ほどお伝えします。」

と安心させるようにノルンはやんわりと答えた

「戦艦は…(ナデシコ側の方が母艦性能はよかったし…)ユーチャリスで。」

劇場版の主人公が乗っていた戦艦を選択し

「ノルン、バッタとかも付いてくるのかな?」

と装備について聞いてみたところ

「はい、250体ほどコバッタが。他に拠点内にも配備されています。主に整備や雑用等に使用する機種ですね。」

とウィンド内の項目を伝え

「次の項目お願いします。祐樹さん」

ひょいっとノルンは宙に浮くウィンドを祐樹に流してきた







次の項目である技能選択においても

「ねぇ、ノルン?俺がこれまでしてきたことかもゲームに反映されるの?」

疑問に思い問いかけた

「そうですね~~~。」

ノルンは頤に指をあて考え込むような姿勢で答えてくれる

「祐樹さんがこれまで現実世界で体験したことや経験したことはそのままフィードバックされますね・・いくらゲーム内の仮想人物といっても元となる物が現実の自分自身ですから現実にできることができないとなると。おかしな話なりますからね」

と説明し、納得したので祐樹は了承を返す

「ノルン、技能獲得したらどんな感じになるの?」

「えっとですね、体を動かしたりするものとかはイメージしたり無意識に出来たりしますし、知識の類だと必要な状況で頭の中にこうぴっぴと浮かんだりしますね……実際、習得して使って見ないことには実感はできないかと…」

習うより慣れろの精神で選択するしかなさそうである。

しばらくリストとにらめっこしていた祐樹だが決まったのであろう、ウィンドから目を離し目蓋を押さえた

「(次は特殊技能か…しかしこのリスト内容だとかなり迷う……)」

そう思いつつ画面をスライドさせていく。上から

人工念動力・強運・擬似A級ジャンパー・マシンチャイルド化etc

《人工念動力》武装またはシステム作動等に必要な技能、能力があがれば生存本能とあわさって自身の戦闘行動に対して能力ブーストがある。
原作のような事前に危機や異能に関しての察知能力等は付属されない。

《強運》敵機撃墜時の加算Gを1・5倍にする。さらに撃墜時等における死亡・重症になりにくくなる。

《擬似A級ジャンパー》原作通りに単独又は同伴でのジャンプが可能になる。ただし時間移動は不可能。A級は初回選択時のみ選択可能
B級以下は技術能力により習得可能。

《マシンチャイルド》原作通りの能力。専用IFSを習得し、IFS対応端末からなら完全に能力を発揮するが、この世界の端末から
だと能力が7割にランクダウンする。初回選択時のみ選択可能

他にもあるが、目下祐樹が迷っているのはこの四択で

時間をかけるがこれも選択を終了した



そして搭乗機の選択へと項目を移していくが

「ノルン、リストを。」

「どうぞ、祐樹さん。」

そこには戦術機だと吹雪又はF-15E。
ナデシコ系列だと陸戦型エステバリス。
OGだとゲシュペンストMK-Ⅱ・M。

「(とりあえずエステバリスをベースにしてもこの世界のパイロットつまりは衛士には流用できない。まぁ役立つ技術は盛りだくさんだけどベース機にはちょっと…だとすると戦術機またはOG系列の機体を動かして実戦経験とノウハウを積んだほうがいいな…しかし、OS関係になると白銀が介入しないかぎりOGの方に分があるんだけど……)」

「ノルン、白銀とかの主人公クラスは参戦するよね?」

ふと疑問に思ったことを問いかけたが

「いえ、白銀武は参戦しませんよ?」

なぜ、そんなことを?という疑問を顔に乗せノルンは答えた

「他の主人公達とかはどうなるの?」

素朴に疑問に思ったのか再度質問するが

「一部登場しません。この作品はプレイヤー様の行動で変わる世界ですので、そんなところに原作の主人公達が居れば原作通りになってしまう確率が高くなってしまいますので…」

とノルンは答える

「(白銀が居るから207とかA-01とかには接触しない方向で遊ぼうと思ったんだけど……こうなるとXM3が配備されないから衛士の死亡率も変わらず、さらには207自体が任官とかできない?!)」

驚愕の予想に焦り、思わず

「となると、2001年頃の横浜基地に介入しないといけなくなるな・・・」

と呟いた

「いえ、無理に原作通りに進められなくても構わないですよ?」

とノルンは答える

「いや、一応俺のせいで白銀が登場しないなら、せめて俺が面倒みないと…まぁただの自己満足なだけだけど……(下手したら桜花作戦すら発動しないことにもなりかねない…)」

祐樹も人類滅亡シナリオを回避しようと別方面から梃子入れしようと思ってたいたが、これでは元から崩れてしまいそうなので原作に介入することを決意する


「(さっきの話を加味するとゲシュペンストがいいかな。XM3の概念なんて俺にはわからんし、まだいくらかOGの方が詳しいしな…)」

最終的には色々な要素を含めた戦術機を開発すれば戦力になるし、同じ人型機動兵器だから共通できる部分も多いだろう。そう結論づけた。

機体も決まった。最後は


パートナー選択


「じゃあ、ノルン、パートナー選択したいんだけど。」

「あっはい……かしこまりました。」

なぜか、切なそうな顔でノルンは返えしてきた。









祐樹の要請に応じ、ノルンは眠りにつく同胞達のカプセルを周囲に展開した

「では、この中からお選びくださいませ。」

と周囲のカプセルに入ったノルンのような少女達を指す

「パートナーって妖精なの?・・・・・」

「はい、そうです。私達、電子妖精が一体、祐樹さんのパートナーに着きます。」

そういって再度、周囲の同胞達を指し示す。

「気に入る子が居なかったのでしょうか・・・・・・?」

「いや、そんなことないよ?!」

両手を横に振って激しく否定する。

ほっ・・とノルンは一息入れて安著し、いったいどの子が気に入られたのか疑問に思い祐樹に問いかける。

「して、どの子を連れて行かれるのですか?」

「えっと……そのさ……」

辺りに視線を迷わすが決心がついたのであろう。

「ノルンを連れて行きたいんだ。」

そう、力強く宣言した。

「…わたくし……ですか……?」

呆然と自身を指差し、呆けるノルンに

「あ~無理なのかな?」

無理な選択だったかと思い、ためらいがちに問うたが

「いえ!!!!!!!そんなことありません!!!!!!ご一緒させていただきます!!!!!!」

びっくりするぐらいに大きな声でノルンは了承した

「そ…そうかい…これからよろしくね。」

実際、祐樹は面食らったのか戸惑いがちにお願いする

「不束者ですが、これからよろしくお願いします。」

三つ指ついて、祐樹にそう申し上げるノルンに、祐樹はしたたかに地面に顔面をぶつける……

「祐樹様、どうかなされましたか?」

まるで、なんでもないかのようにきょとんとした顔でノルンは問うたが

「大丈夫ですか、祐樹様?!」

祐樹が鼻を押さえたからかノルンが焦ったように聞いてきた。しかしそれよりも祐樹は

「ノルン呼び方が前に戻ってるよ!!」

と呼称の方に突っ込む!

「ですが、祐樹様はわたくしの主様になるられるお方・・以前のようなお呼び方は絶対にしたくありません!!!!!」

絶対に引かないと全身であらわにして抵抗する。

「だから、様づけされるような人間じゃない、恥ずかしいよ!」

「でしたらご主人様。」

「余計に悪化してる!!!」

「では旦那様・・❤。」

「変わんないから!!!」

「うう、祐樹様は駄々っ子ですか?!」

「いや、逆切れされても……。」

意味を成さない押し問答のすえに

「では100歩譲りまして、ますたーと。」

「もう…それでいいから、普通に発音して……。」

「はい❤マスター。」

若干、嵌められたような気がしなくもないが、無理矢理己を納得させた…


「でノルン、大体のことは決まったみたいだけど・・次はどうするんだい?」

「はい、ではまずは基本的なシステムからご説明しましょう」


そうノルンが告げるとあたりが暗闇とかし次の瞬間には




青い星を正面にして宇宙空間に浮いていた・・・






























色々省いたりとか追加しました。
じゃさん、アペンドディスクを使ったのは本文中のとおりです…
元々設定の段階で何者かの思惑で使用させると
前回の???は複線にしようと思ったのですがまったく複線になってないと痛感し
今回のようにしてみました。



[20464] ダイバー 第四話
Name: るー◆584161b8 E-MAIL ID:96b32de8
Date: 2010/07/27 13:16

―電脳世界 宇宙空間?


目の前には、ありきたりだが青く美しい星が輝いている

だが祐樹にとっては初めての光景ゆえに感激に身が震えていた


「マスターはこの世界、MUV-LUV ALTERNATIVEにて自由に行動することができます。」

と基幹部分を説明するノルンに祐樹は慌てて振り返る

「行動目標は自由です。ただしこの世界の暦で西暦2030年には強制的に終了となり、この時点でマスターが行動した結果が反映されたエンディングとなります。まぁ2030年を待たずにエンドすることもできるので、マスターが満足したと思ったら終了させることも可能ですね。」

と半透明のウィンドに図を出し解説していく

「さて基本はこのようになりますので。次にシステム関連ですね。」

新しいウィンドを展開し祐樹の周りに集める

「さきほど、お聞きしたお金は、BETAを駆逐した数=報酬金として支払われます。これはこの世界の貨幣とはまったく異なりシステム関連のみに使用できるものです。ありていに言えばポイントみたいなものですね。またBETAの種類によって獲得できる額には差がありますし場合によっては同じ固体でも獲得できる額にも変動がありますのでご注意を。」

ウィンド内に二等身のデフォルメBETAに=が付きその先に紙幣などのお金の絵が配されている


「さらに、G元素を確保した場合においては特別報酬を渡させていただきます。」

さきほどのウィンドの上に新たにウィンドが展開されデフォルメされた反応炉に=特別報酬という丸文字で斜め書きされた文字が映る

「次に、技術に関しましては。」

と今までのウィンドが消え新たに各項目の横にS~Hまでのアルファベットが表示される

「このS~Hまではおのおののランクとなります、Sが最高にしてHが最低という風に表記します。」

「このランクを上げるためには先ほど伝えたお金……そうですねGとでも呼称しましょうか、お金だとこう…雰囲気がでませんですし……。」

ノルンは苦笑を浮かべて、確認してきた

「そうだね…それでいいんじゃないかな…?」

祐樹も苦笑しながら問いを返す

「では以後はGと呼称します。でこのGを消費して各ランクをあげていくことができます。」

Gの絵が各項目に分配され、それに応じランクも上がっていくという図が載ったウィンドが展開された

「また、このGを消費してライフラインの整備や工場の増設、資材の調達等も行いますので使用には気をつけてください。」

「さておおまかなシステムはこんな感じですので、次にマスターのステータスについてご説明します。」

すべてのウィンドが消え目の前に一枚だけ展開され、そこには

技術
マブラヴ 現地参照
ナデシコ Hランク
OG Hランク

特殊技能
《人工念動力》LV1
《強運》LV―
《マシンチャイルド》LV1

技能
パイロットLV1
剣術・天真正伝香取神道流合戦礼法LV1
射撃術LV5
機械工学LV1


と記されている

「現在はこのような感じになってますが、技術と特殊技能はGを消費すればあげることが可能です。技能に関しては修練するごとにあがりますのでこの数値はたんなる目安とお考えください。現実のように何かを勉強したりしたら新たにステータスに表記されます。最後にこの世界の技術はその時代に合わせた物がブートされますので、考慮に入れられなくて大丈夫なので。」

そういってノルンはいったん言葉を切る

「さて、では実際にGを割り振ってみましょうか♪初回のみ技能にもGが触れるのでぜひ、考えに入れてくださいね♪」

とウィンド内に2万Gが表示され各項目に割り振れるようになった

「わかった。」

返事を返して祐樹はさっそくGを割り振る。結果


技術
マブラヴ 現地参照
ナデシコ Hランク
OG Gランク

特殊技能
《人工念動力》LV2
《強運》LV―
《マシンチャイルド》LV1

技能
パイロットLVMAX
剣術・天真正伝香取神道流合戦礼法LV5
射撃術LV5
機械工学LV5


とそのほとんどを技能関係に割り振った…

「マスター、変わった振り方ですね~~」

と感慨深いのかしきりに顔縦に振ってウィンド内を見る

「ああ、そうだね。技術にも、もっと振りたかったけど、まずは自分自身が生き残れなかったら意味がないからさ……だからパイロットに大半のGをつぎ込んだよ。実際、技能関連は消費が低いのか最初100次に200って感じだったけど、技術と特殊技能はいきなり1000からスタートだったしね……。残りは何かあったとき用に残したし。」

と淡々と受け答えた

「そうですか~~。決まったことですし、早速チュートリアルに移行致しましょう。」

ノルンはそう言うと再度、辺りが暗闇に覆われ


凛とした空気をかもし出す道場へと移り変わった。



















―電脳世界 道場




「では、実際に色々と試していきましょう。」

そうノルンは告げる

「うわっ、いつの間に……」

情景を変えた時にか、いつの間にか胴衣に着替えており手には竹刀が持たれていた

「仮想敵、作成。」

その言葉に、祐樹の対面に黒い半透明で人間の形をした影が手に同じように竹刀を持って姿を現した

「では、御武運を……。」

その言葉と共に影が祐樹に躍りかかる!

「な!!くそっ!!」

とっさに竹刀で受け、鍔迫り合いに持っていく

「(いきなりかよ……しかしノルンが言ったようにっ!!)」

さして力がないのであろうか?はたまた祐樹の技量が上なのか?、簡単に影を弾き飛ばし距離をとり八相の構えを取る

「今まで、握ったこともないのにな……」

油断なく構えるその姿は長年の修練を積んだ者ように様になっていた

「ふう……、イメージ……」

頭の中をクリアにし、ただ剣だけのことを浮かべる…

五津之太刀(いつつのたち)
七津之太刀(ななつのたち)
神集之太刀(かすみのたち)
八神之太刀(はっかのたち)

等の一部の技・型が浮かび上がってきた


「はぁ!!」

そしてお返しとばかりに上段からの袈裟斬りを放つ!!

影はあまり反応できなかったのか、それに対して咄嗟に逆袈裟斬りで応酬するが…

「それでは、な!!」

振り下ろす動作に対して振り上げる動作では結果は見えている
案の定、影の竹刀は弾かれそのまま体にその斬撃を受け、霧散した

「ふうっ……」

祐樹が竹刀を振り一息いれたところで

「お見事です!!マスター。」

とノルンは拍手を送ってきた

「ひどいな……ノルン…。」

と疲れた顔でノルンにジト目を送る祐樹

「いえ、マスターならこのぐらい片手間に済ませられますから。」

素知らぬ顔で平然とのたまった……

「まぁ…いっか、実際感覚はわかったし。」

さらに深く見つめるが反省する兆しが見えられないため、諦めて己の掌を眺めながらつぶやく

「では、次に機体操作に移りましょう。」

そう、告げた言葉で辺りが又も変化し荒野となり、ノルンの後方に突如ゲシュペンストが膝立ちに姿を現した

「これが……。」

感慨深げに祐樹はその鉄の巨人を見上げた。カラーリングは量産機と同じ紺である

「では、搭乗しましょうか。」

その言葉と一緒に胴体部分が開閉され、コクピットが姿をあらわし昇降用のウィンチが降りてきた

祐樹はそのウィンチを取り、コクピットに乗り込む

「しかし、胴衣で搭乗することになるとは……。」

服装とコクピット内がまったく合わず、どことなくシュールな雰囲気が漂ってきそうである……

「あっ、いけない。」

いまさら気づいたのかノルンはウィンドを展開し操作すると

「うん?まぁ妥当か……。」

祐樹は99式衛士強化装備を装着していた

「他の物が宜しかったですか?」

「いや、これでいいよ。OGもナデシコもパイロットスーツはこれに勝らないし。ただヘルメットも頼めるかな?頭全体を覆えるマジックミラー式の。」

「わかりました。……これでよろしいですか?」

とノルンが作成したものは……

「……なんで、ギアスのゼロ仮面…。」

そう、コードギアスのあのゼロの仮面を渡してきた…

「あっそうですね、それだと不自然ですよね。」

とさらにマントまでも渡してくる始末……

「いや……ノルン?」

引き攣った顔でノルンに問うが……

きらきらとした目で彼女は祐樹を見つめる……

「はぁ……(顔が見えなきゃ、それでいいんだし…)」

その期待する目を裏切れないのか祐樹は溜め息をつき、仕方なく妥協した






「(気を取り直して)機体チェックと武装確認」

コンデション オールグリーン

武装
M360マシンガン×1
メガ・ビームライフル×1
スプリットミサイル×2
ジェットマグナム《厳密にはプラズマステーク》
36ミリマガジン×5
エネルギーパック×5



マシンガンを右手に持ち、ライフルは腰のアタッチメントに、ミサイルは背中の兵装ラックに担いでいる形で予備弾薬はスカート内に設置、もちろん左腕にプラズマステークは装備されている





「それでは、模擬戦闘を開始しますね。ですが本物のBETAを使用していますのでご注意ください。」

「ああ、わかった。」

その宣言通りに対面にBETA共は姿を現した……

「正面に要撃3、突撃1さらに後方に光線1!」

「なんて気味が悪い…。」

祐樹は嫌悪感をあらわにし、要撃級の一体に前腕を上げさせないうちに360をセミオートで浴びせ体液を撒き散らしながら沈黙させた

それに反応したBETA共はおのおのに行動を開始

「要撃一体撃破!」

ノルンの報告を聞きながらも祐樹は舞い散った体液を見て吐きそうになるが、体が反応しレーザーを横っ飛びに回避、そのままもう一体の要撃に360を再び浴びせるが……

「前腕には効かないのか!」

掲げた前腕にあたりびくともしない

同じ36ミリ口径なのだから当然、セミオート程度では要撃級の前腕に効くはずもなく…

「フルオートなら突破できるだろうけど…。」

ここで一体に手こずっていたら、他の奴にやられてしまう。そう判断し

ゲシュペンストの左手にビームライフルを持たせる

「食らえよ!!!!!」

咆哮をあげながらのダブルショットにて要撃を撃つ!!

一発目で軽く前腕に穴を開け、二発目で貫通しそのまま胴体を穿つ

「さらに要撃1撃破!!」

耳元に居るノルンから撃墜報告が上がる

「ライフルだとダブルショットで前腕を突破できるか……。」

感慨深げに頷くが、左から最後の要撃級が詰め寄り前腕を振り上げている

「マスター!!」
「くっ!!考えるからこういう目に!!!」

咄嗟に機体を捻りなんとか掠る程度に抑えたがプラズマステークにかすり無残にも右部分が折れる

「モース硬度15以上はさすがか…。」

と緊張感が増し至近距離で右の360をフルオートで放つ!!

至近距離からの36ミリのフルオートでは前腕の堅さに意味はなく
あっけなく、体液を撒き散らすが……

「うおえっっっっ」

もろにその汚物のような体液を被ったためかモニター内に映し出され
たその中には、人の眼球や指に似たものがあった……

たまらず祐樹は吐いた

「マスター?!くっ…失礼致します!!」

とノルンは呪文のようなものを唱える。

‘驕らず…高ぶらず…ただ虚空に舞う霞がごとし’

そう唱えた瞬間に祐樹の中から今まで感じていた、嫌悪感・不快感等がなくなり澄み切ったか空気を吸うような感覚に心が落ち着いた

「ノルン、今のは……。」

問いかけながらも周りを冷静に見渡せるようになったのか、後ろに回っていた
光線級からのレーザーを後ろを向いたまましかも射線をほんのわずかにずらしただけで回避する、お返しとばかりにライフルを振り向きざまに一発放ち仕留め、すかさず、間合いをつめていた突撃級の突進をいなす

「精神に暗示をかけました…これで楽に戦えるはずです。」

「すまない。恩に着る。」

さらに突進してきた突撃級に対しバーニア・スラスターを使用し上方に飛ぶ……レーザー級が居れば自殺行動に見えるが現在この場にはもう居らず、仮に居たとしても祐樹は回避できると断言できるほどの腕前を確信していた

「終わりだぁぁぁぁぁ!!!」

ウェポンラックに積んでいたミサイルを全弾突撃級に発射、ものの見事に突撃級は爆散した

























一旦、コクピットから降りた祐樹とノルンは休息を取っていた

「ノルン、ありがとう。それとごめん……。」

「いえ、元はといえばわたくしのせいです…考えれば民間人出のマスターがいきなりBETAとの戦闘行動が行えるはずありません。しっかりとメンタル面を補佐していればこんなことには…。」

顔伏せて目に涙を溜めながら言葉をこぼす

「それでも、あの時ノルンがああしてくれなければ、俺は死んでいたよ…。」

自嘲気味につぶやく

「そういえば、あれはこれからもノルンが施してくれるのかい?」

疑問に思い、問いかける。祐樹は正直言ってあれがなければ戦闘はできないと感じていた

「はい、実際はもうセットしましたのでマスターが戦闘行動等に類似する類に遭遇した場合は即座にかかりますのでご安心ください。」

涙をふきながらノルンは答える

「ではこれで、チュートリアルを終了します。」

落ち着いたのかそう宣言し

「これ以外のことはゲーム内にて随時お伝えしていくことになります。果てしない道のりですが、マスター一緒にがんばりましょう!!」

と両の手を拳にして肩の部分まで持ってきて体全体であらわす


そのとき……


機会音声で警告音がなる!!!!!!

「エラー!!当該機に不正アクセス者」

その音声と共に風景が最初の白い世界に戻りあたり一面に、警告音とウィンドが散乱する!!!!

「な、なんだ?!」

「え、何これ…きゃぁぁっぁあっぁぁぁぁ」

「ノルン?!」

ノルンから悲鳴があがり、祐樹はとっさにそちらを振り向く

そこには……

「あなたが…‘適格者’…なのね……」


ノルンに似た、浅黒い肌と赤い目を持つ女が立っていた


2010年7月27日 若干修正



[20464] ダイバー 第五話
Name: るー◆584161b8 E-MAIL ID:96b32de8
Date: 2010/07/30 13:45
注意、史実ストーリーに多少オリジナルが入っています。認められない方はこれ以降は見られない方がよいかと






































































―白き世界




さきほどまでノルンが居た位置に、今は見知らぬ女が立っている…

いや、肌と目の色それに背丈の違いを除けばノルンに瓜二つの容姿……

どことなく既視感持った人が祐樹の目の前まで近寄ってきた。

「あなたが…そう……。」

ノルンと同じ声音だが、冷たさの中に疲れと懐かしさをない混ぜた声で呟いた

「誰………なんだ?…あなた…。」

祐樹を遠慮の欠片もない視線で観察してくる女性にそう問いかける

「ふふ……私が誰かなんて、あなたには関係ないんじゃない?それにほら、そんな悠長にしていていいのかしら?」

先ほどから鳴り響く警告音を指し祐樹に問う

「っ?!あなた……」

警戒心を強め、さらに苦虫を噛んだかのような形相で呟く祐樹

実際にこんな押し問答をしてる暇はないと判断してかダイブアウトを行うが

「なっ?!脱出できない?!?!」

ダイブアウトに驚愕し、呆然とする

一方、警告音は増していき今ではあたり一面に真っ赤なウィンドが飛び散りエラーを発し続けている

「あら、脱出しないの?」

不敵な顔で問いかけてきたが

「くっ…あなた、いやお前の仕業だろ……!」

若干、語尾を荒げて吼えるように言い放つ

「あら、心外ね。私は何もしてないわよ。しいて言うならせいぜい、ここにアクセスしたくらいだわ。」

「それのせいだろうが……!」

「いいえ、ちがうはよく警告音をお聞きなさい」

忠告してきたので、しぶしぶながら耳を澄ますとデータ内にバグが発見されたための警告音だとわかる

「しかし…。」

納得できないのか女に詰め寄ろうとするが

「何が?!」

その場から一歩も動けなくなった。さらには自身の体にノイズが走っている!

「うっ……なっ?!」

「ふーん、あなた面白い選択ね…。」

そんな状況の祐樹を無視し女は手元にウィンドを展開して祐樹のステータスを閲覧していた

「何だ、これは!くそっ……!」

祐樹は焦り己の右手で左手を掴もうとするが、すり抜ける…

「でも、これだとちょっと不都合なのよね…。」

祐樹の状態を無視し、ウィンド内にあるステータス項目に手を加える


技術
マブラヴ 現地参照
ナデシコ Hランク
OG Gランク

特殊技能
《人工念動力》LV2
《強運》LV―
《マシンチャイルド》LV1
《擬似A級ジャンパー》LV―

技能
パイロットLVMAX
剣術・天真正伝香取神道流合戦礼法LV5
射撃術LV5
機械工学LV5


「これでよしと…」

加え終わり実行すると

「なぁ!!!」

祐樹の体が粒子状に変換されていき、上へ昇り消失していく!

「アレがあなたを呼んだのか…それとも、あなたがアレを呼んだのかはわからないけど、私にできるのはここまで。」

そんな祐樹の状態に目もくれず、虚空を見つめながら女は呟く……

「ただ、これだけは言える…GOODLUCK (幸運をその手に)

切なげなその言葉を最後に、祐樹と女はこの世界から消えさった






















































―ゲシュペンスト コクピット内






「うっ……くっ…。」

瞼に光を受け祐樹の意識は覚醒へと向かう

「生きてるのか……?」

そう呟きつつ、さきのおぞましい感覚が蘇ったのか、背筋に寒気を覚えながらも四肢を動かし確認する

「どうやら無事、五体満足でいられたようだ…。」

案著しているところに

「ご無事ですか?!マスター!」

シートの後ろからノルンが飛び出してくる

「っ?!……ノルンも無事だったかよかった!」

感激をもらしたところ、ノルンが呟く

「マスター……。」

「どうしたんだ?ノルン?」

「目の色が…金色(こんじき)に。」

口元を押さえ驚愕の表情でノルンは祐樹の顔を覗き込む

「えっ!……ああ無事に変換されたんだな。」

「どういうことですか?」

「これは、マシンチャイルド特有の目の色なんだ。」

祐樹は己の瞳を指差しながらノルンに説明する

「そうなんですか……てっきり先ほどのエラーで……」

深刻そうな顔で言葉が漏れる

「一体、さっきはなんだったんだ……?」

「わたくしにも、わかりません…頭に痛みが走ったと思ったらここに居たので……。」

ノルンは困惑した声音で言葉を紡ぐ

「なんにせよ……現状の把握か…」

祐樹は機体チェックを行う。結果はオールグリーン

模擬戦闘後に整備・補給したかのような状態であった

「マスター、コロニーとユーチャリスへのコンタクトが取れました。現在どちらも木星圏にあります。現在位置ですが南京北部そして………。」

ここが……南京?祐樹が呆然とするほど、周りには高層ビル等の廃墟と先ほど大破したのであろう戦術機の残骸、殲撃8型から立ち上がる黒鉛しか見当たらない……


「年代は1993年……時期は九―六作戦における後退時です……。」

ノルンは深刻な顔と震える声でそう告げた

「そうか……ここはもうオルタで…戦場なんだな……」

もう一度見回し感慨深げに頷く

「マスター、どういたしますか?ユーチャリスも現在木星圏ですし…PAKのガイドビーコンによって呼べますが…かなりの時間を要してしまいます……。」

困惑したノルンは祐樹にそう問いかける

「どうするにしても、今現在戦場とかしているここに留まっても仕方ないな…ここは帝国軍が撤退した、哈爾浜に向かおう。これからのことは脱出してから考える。」

行動の指針を決めたそのとき、ゲシュペンストの生体センサーが反応する

「なっ!生存者が居るのか?!」

すばやく反応のある地点を探るとビルの屋上に一人の少女が見えるが前方にはにじり寄る12体の闘士級!!!!

その容貌に耐えられなかったのか、または絶望したのか…少女は崩れ落ちる

「くっ…間に合えぇっぇぇぇぇぇぇ!!」

祐樹は雄たけびを上げながらスラスターを吹かせて右腕を突き出しながら突っ込む!

間一髪、踊りかかる瞬間に右腕がビルの一部ごと全ての兵士級を屋上から叩き落す

「無事か……?ノルン後頼む。」

そうつぶやきながら周囲に生存しているBETAがいないかチェック…

残敵が確認されなかったので祐樹はハッチを開放し、屋上に躍り出た

そこには、髪をツインテールにし、根元部分を外側にアクセントし。黄色い丸リボンが結わえられた年の頃10歳前後の少女が気絶している


「この子は……?」

祐樹はこの少女にどこかであったような気がしたが、現在の状況を瞬時しその考えを捨てコクピットに戻りハッチを閉鎖した


「マスター!勝手に飛び出さないでください!!」

コクピットに戻った祐樹にたいして、ノルンは怒ったような形相で迫るが

「話はあとだ、とにかく哈爾浜へ。」

ノルンを無視し機体を起動、発進させた





















―1993年 九―六作戦撤退時 南京国際空港付近



あのあと、祐樹は市街地より離れ崩壊した高速道路に沿うように前進し
時折見られる、標識を頼りに哈爾浜を目指していた

「どれぐらいで、着けそうだ?」

「そうですね……スラスター等を併用してショートカットして行けば約一時間程で着くと思われます。」

「厳しいな……。」

膝に腰掛けさせ、自身の胸板に寄りかからせながらハーネスで固定した少女を見つめながら答える

「ずるいです……ひいきです……。」

何事かノルンは呟く。が小さすぎて、祐樹の耳に入らない。

少女の搭乗の仕方で先ほどノルンは盛大に抗議していたことに関係するが今は関係ないので省く…………いと哀れ……

そんなやり取りを交わしていると前方東側より銃声音と黒鉛にBETAの光線級のレーザーが空港近くで飛び交っているのが見える

「戦闘状態か……。」

「どうされますか?」

「できれば合流したいがこちらは荷物持ちに加え…。」

少女に視線を向けついで

「さらにはこいつだからな……。」

「ですね……。」

祐樹とノルンが合意したように頷く

現状どこの軍にもゲシュペンストは登録されておらず、不信に思われる確率が高い

「だが……ここで無視するようなら、介入した意味がない……。」

言葉をこぼし、一息入れる

「たとえ、拘束される確率が高くてもやるさ!!」

決意を胸に宣言する

「マスター…。」

ノルンが憂いの表情で答える

「いくぞ。」

その言葉と共にスラスターを吹かせゲシュペンストの姿勢を前に倒しすべるように空港に向かう








































―南京国際空港 500k地点 荒野塹壕


「ううっ、だめなの?!」

現在、この地点では六機の戦術機が戦闘を行っていた

其の内の一機《撃震 【げきしん】77式戦術歩行戦闘機 (TSF-TYPE77/F-4J)》に搭乗した女性衛士から声が漏れる……

「テメェ!隊長が弱音吐いていいと思ってんのか!!!」

もう一機の《撃震》に搭乗した柄の悪そうな衛士が怒鳴る

そのやり取りの間にも盛大な爆発音と黒鉛を上げ一機、重光線級のレーザー照射を受け……

「ああ!!」

「くっそ!加藤っっ!!」

今まで同じ部隊だったのであろう彼女ら以外の最後の《撃震》が落とされた

あたりにはその機体を含め《撃震》が二体、《殲撃8型 【ジャンジ はちがた】 (J-8)》が四体。スクラップと化している

「ひよっこ共わめくな!!お前らも死にたいのか?!」

《殲撃》に搭乗している、統一中華戦線の衛士が怒鳴りながらも女性衛士
に接近していた要撃級数体に82式戦術突撃砲をバラ撒く

「いやぁぁっぁ!!!!」

錯乱したかのような悲鳴を上げながらも女性衛士は要撃級に87式突撃砲を大量に浴びせ殲滅する


「くっそっぉぉぉぉぉ!!これじゃあジリ貧すぎる!」

《撃震》の男性衛士が盛大に悪態をつけながらも120mmを放ち突撃級を仕留める

「だからと言って後退できるわけないだろうが!!」

先ほどの《殲撃》とは違う衛士が語尾を荒げて答える

彼らの後方には南京基地から非難してきた非戦闘員や歩兵・看護兵等が

C―5ギャラクシーへの搭乗を急いでいる最中である

なおも、搭乗が済めば離陸出来るかと言われればNOと答えるしかないが…

幸いこれだけの規模にもかかわらず要塞級は一体しかおらず光線級30体、5体の重光線級で済んでいる……これをなんとかしない限りは輸送機は離陸できない


まさに地獄絵図がここに展開され、各々がここで果てるのであろうと脳裏に描いていたところに







後方より大量のミサイルが降り注ぐ!!




























―ゲシュペンスト、コクピット内


「なんとか持っているようだな……。」

駆けつけざまに祐樹はスプリットミサイルを広域発射。特に光線級が密集しているとこを重点に放った

結果、奇襲によるものもあったのであろう光線級を殲滅し小型種も爆風等であらかた屠ることに成功


「支援する!!」

オープン回線で宣言しながら祐樹は勢いそのままに、ライフルと360を連射しながら右翼に突撃する

ライフルの連射になすすべもなく、要撃・突撃は沈黙していき360で戦車級をミンチに変えていく

陣形内に突撃しさらに内部で周囲に乱射しながら突破
祐樹は現行の戦術機では考えられない機動…高速移動しながら機体を空中で反転させ方向転換…を行い、同じようにBETAに喰らいつく!







「なんなんだ、ありゃ……。」

呆然と呟く《撃震》の男性衛士。それに檄が飛ぶ

「ぼさっとしてないで、動けひょっこ!!誰だかわからんがBETA共を釘つげにしてくれてんだ!!さっさとぶちのめせ!!」

最初に一喝した中華戦線の衛士が82式戦術突撃砲を放ちながらまたも怒鳴る

「っ!了解!!……ぶっ殺してやる!!」

犬歯を剥き出し、男は吼えた






「すごい……こんなの見たことない……!!」

女性衛士が唸るほどに祐樹の機動は常識はずれである。

誰がたった一機でBETAの群れに跳躍ユニットをフルブーストしながらその速度のまま突貫するだろうか……

しかも長刀も使わず、左腕に装備された三本の杭で突撃級の腹を打ちつける…その時淡い青色が発光したかと思えば突撃級は痙攣しその図体を地面に落とし、返す刀で右腕に装備されたライフルから赤い光を発する物が二発発射され接近していた、もう一体の突撃級を沈黙させる


彼女の中で先ほどの絶望はなく、希望が胸に広がりだしてきていた











祐樹は一旦、右翼から抜け出し塹壕内に向けて疾走し飛び込む

ライフルにエネルギーパック(以降、EPと表記)を装填ついで360にもマガジンをスリットさせる

「(とりあえず、現状360は使い勝手が悪い…たかだか100発発射しただけで玉切れは悪い冗談にしか思えない…なんとか工夫しなければ使えたものではないな…ライフルは有効性が高いが1パックで50発前後…ダブルショットで使用すれば、あっという間にエネルギーが尽きる…)」

武装に対して思案し、コロニーに戻れたら改良しようと決めた

「ノルン、戦況はどうか?」

今まで、この戦域管制、さらに軍戦略司令部にアクセスしていたノルンに問いかける

「ここは、そろそろ落ち着きますね…マスターの奇襲が成功して今や陣形はズタズタ。ですが、軍部の方が……。」

渋い顔でノルンは答えた

「軍部がどうしたんだ?」

「今、先ほど大連北方および南京の戦線放棄を決定。戦略核の使用も決定してしまいました…。」

「つまり……。」

「はい、急がなければここにも核が打ち込まれます…。」

想定していたことであるが、実際ノルンから告げられる事態に背筋が凍る


そんな、やりとりをしていると一機の《殲撃》が近寄ってきた

「支援感謝する。あんたのおかげで何とかなりそうだ。」

オープン回線でそう告げる衛士、声音からして30代付近だろう。
快活そうな声で祐樹に感謝を示す

「いや、当然の事をなしたまでだ。」

こちらもオープン回線で返答した

「それでもだ、あんたが駆けつけなきゃ、何機かに自爆攻撃命じなきゃならん事態に発展してたさ…。」

語尾を落としながらも再度、感謝を示す

「それでなんだが…あんたはどこの所属だ?見たとこ、そいつも新型かい?」

疑問をぶつけてくる衛士に祐樹は

「極秘事項ゆえに、私の氏名・所属・階級・機体については答えられない。」

一瞬、心の中でドキッとしたが動揺せずに答えられた

「うさんくさいな……本来なら取調べになるんだが…。」

前置きし

「現在、この地区のCPも全滅、上級将校もあの空港にゃいないし、とっくの昔に司令部は吹っ飛んじまってるから命令する奴も拘束する奴もいない。それに俺はただの衛士だ、そんなことするのが仕事じゃない。」

おどけるように語り

「今はただ、窮地を救ってもらった同胞に協力を申し込みたい。」

最後に真剣な声でそう祐樹に願い出た

「………了解、出来うる限りで協力しよう。」

「ありがたい!!」

祐樹は了承のみねを伝え、衛士が喜ぶ

「なんにせよ、今は……。」

「ああ……、仕事の再開だな。」

二人の男は互いに頷きあい、タイミングを計って二機は一斉に塹壕から飛び出しBETAに踊りかかった












祐樹は先ほどと同じ要領で今度は左翼に切り込み、殲滅させ

残りは重光線級四体と要塞級のみとなった

「要塞級はそちらに任せた!!俺は重光線級を殺る!!」

「了解!!」

「さて、どう出るか…。」

バーニアを吹かして一直線に向かう!!

好機と判断したであろう重光線級の内三体がゲシュペンストにレーザーを照射するが

「甘い……。」

照射寸前、バーニアを上方に吹かして回避

「なっ?!」

《撃震》に乗る女性衛士が驚愕の声をあげるが

「見え透いている……!」

続く残り一体からの照射も空中で身を捻って避けながら

「がら空きだ……持って逝け。」

照射のために開いた粘膜にダブルショットを3セット後方に居る奴に放ち、

「ジェット……マグナム…!」

すかざずバーニアを吹かして突進し前方の残り一体の粘膜にプラズマステークを叩き込む

「エンドォォォォォ!!」

そう言い放ちプラズマを放出。こうして四体の重光線級を始末した祐樹

「う……ん……。」

そのとき膝に乗せていた少女が覚醒しだし

最後の要塞級が地に伏せたのも同時であった








































―南京空港


あのあと、覚醒した少女は取り乱し暴れるが…祐樹が頭を撫でながら、宥めたところ少女は首元にしがみ付き号泣しだしたのだが、事は一刻を争うのでそのまま空港に立ち寄った………その後ろでノルンは親の敵を見る眼つきで少女を睨んでいた……


がここで問題が発生した


機体から降りようと膝の上の少女を持ち上げようとするが、頑なに首下にしがみ付き、頭を振って拒否する。さすがに困った祐樹は少女に問いかけた

「大丈夫だよ、もう怖い奴はいないから……。」

穏やかな声で安心させるよう諭すが

「いやぁぁぁぁ。」

小さな声でしゃくり上げながらその瞳に大粒の涙をためつつ祐樹を見上げる

「うっ……。」

10歳前後の少女であるが掛け値なしに美少女と形容できる容姿に祐樹はたじろぐ……

「まぁぁすぅぅたぁぁ…。」

地獄からの呼び声とはこのことであろう声音で、祐樹にイッちゃった笑顔を向けるノルン

「ええい!!仕方ない!」

と少女のハーネスをすばやく取り外し、抱っこしながらハッチを開けウィンチに飛びかかる

「あとで、お仕置きです……。」





そんな祐樹を先ほどの衛士達であろう人物たちが出迎える

「うおっ……どこの騎士様だよ……。」

先ほどの《撃震》の男性衛士が呟く…

そう呟かれるのも仕方がないほど、幼い少女を抱えた祐樹は目立つ

「うおっほん!初めまして、俺が先ほど通信した者でワン・フー【王・風】中尉だ。」

と空気を変えるかのように、敬礼しながら統一中華戦線の衛士が答える。想像したとおり30代半ばに見える男臭い風貌であごに無精ひげを生やした180cm以上の身長でガタイのいい男だ


「こちらこそ。」

答礼を返す

「しかし、機体も新型なら強化装備も新型かい?もしかしてその子もかな?」

99式と少女を指しながら問いかける

「この子は南京の廃墟で保護しただけです中尉。それと先ほどお伝えした通りに答えられません…申し訳ない。」

すまなさそうに答える祐樹に対して

「いや、こちらこそ悪かった…。」

と、ばつの悪そうな顔で頭を掻きながら詫びる

そこに

「中尉、私にも紹介してください。」

凛とした声が通る

祐樹が振り向いた先には



「お初にお目にかかります。帝国軍ブレード中隊隊長、神宮司まりも少尉であります。」

ピンと背筋を伸ばし完璧な敬礼を祐樹に送るまりも









そうこれが






















佐橋祐樹と神宮司まりもの初の出会いである。





























2010年7月27日 修正



[20464] ダイバー 第六話
Name: るー◆584161b8 E-MAIL ID:96b32de8
Date: 2010/07/30 13:44












―1993年 南京国際空港

















神宮司まりもの敬礼に対して祐樹は呆然とする


「あの…。」

敬礼の姿勢のままにまりもは祐樹に困惑した声をかける

「っ…!すまない、神宮司まりも少尉」

答礼を待っているのであろう、その様子に慌てて祐樹は返す

「はっ!いえ、申し訳ありません。出過ぎた真似を……。」

上官に対するかのように接するまりもに祐樹は困惑を隠せず

「神宮司少尉、私はあなたの上官ではない。さらに言えば身分も明かせない不審者に代わらない、そんな私にそのような真似は……。」

申し訳なさそうに伝える祐樹に対し

「いえ!窮地を救っていただいた方に対して礼を失する等、帝国軍人として恥ずべきことです!!」

声を大にして返答するまりも

「それに、あなたには不審な部分はありますが…現在はそのようなことに構っていられるほど、私達に余裕はありません……。」

最初は普通に話していたが、だんだんと語尾が小さくなっていく

まりもの言うとおり、あたりを見回せばさまざまな人達が忙しそうに駆けずり回っている。
C―5への搭乗はまだ済んでいないのであろう。搭乗する者にかけるさまざまな声やセッティングをしている者の声が、怒声のごとくあたりに響く

さらに戦術機達を見上げれば、そのほとんどが損傷を負っており
酷いものには、片腕をもぎ取られたかのような機体まである


「ここで、押し問答していてもしょうがないさお二人さん。まずは少しでも休息を取ろう。」

祐樹とまりものやり取りに先ほどの衛士、王がエントランスを指しながら移動を促す

「そうだな……」

「ですね……」

二人は了承し、祐樹と衛士達は空港のエントランスに向かう































―空港 エントランス内


エントランス内に入った祐樹達に、近くに居た看護兵がねぎらいと共に飲み物を渡してくれたので受け取り、そのまま、王とまりもと一緒に祐樹は隅の座席に座る

他の衛士達は少し離れた場所に固まって休息を取るようだ

「さて、現状把握といきたいとこだが……お前さん、なんて呼べいい?あとその子はどうするんだ?」

先ほどからずっと祐樹の首根っこにしがみついたまま無言の少女を差しながら王は問いかける

「俺のことは…ゼロ…と呼んでくれ、コールサインみたいな物だ。」

己の呼称にノルンが用意してくれた衣装を思い出しとっさにそう答えた

「この子は…」

祐樹自身も扱いに困っているのであろう

困惑した表情で王に言葉を返す

離そうとしたら頑なに拒む少女に祐樹は困り

仕方が無いので祐樹は彼女にまずは名を聞くことに

「君はなんて名だい?」

優しく祐樹は問いかけた

「いーふぇ…つい・いーふぇい。」

擦れそうな涙声、しかし至近距離の祐樹にはしっかりと聞こえた…だが、その名を聞き驚愕する

「(つい・いーふぇいって…あの崔 亦菲?!しかし彼女は台湾出身のはず…もしかしてあの二つの祖国って……)」

「あのゼロさん……?」

まりもが祐樹の表情に疑問に思ったのか、問いかけてきた

「いや、なんでもない…現状確認をしよう。」

一瞬、崔 亦菲のことを考えようとしたが、まりもの問いかけにその思考を捨てた……



「さて、どこから話したものか…」

祐樹の言葉に王が話し出す

「まずは、隊のことからだな……。」

「現状、ここには俺たち統一中華戦線所属の【暴風(タイフーン)】中隊と。」

王の言葉を引き継ぐように

「私達、帝国軍所属のブレード中隊がおります。」

まりもが答える

「といっても、今じゃ各中隊共に欠員が出てとても隊とは呼べんがな……、俺らは四機、先ほどの戦闘で落とされてここに着く前にも五機の合計五機脱落の現在三名。で神宮司少尉のとこも合流する前に二機落とされて、さっき一機落ちてこちらも二名。」

一旦、言葉を切り

「で、俺たちは元々南京基地の衛士なんだが…西より前進してきたBETAに防衛線を破られ基地に侵入。その際、出撃中だった俺たちは基地の救難信号を受け後退してきたんだが、その頃には壊滅一歩手前状態…生き残った奴らを護衛しながらここに辿り着いたってわけだ。」

王が淡々と答え次に

「こちらは帝国軍大隊司令部より南京基地よりの救助要請により二個中隊、ブレードとシールドを現場に派遣、基地防衛についたのですがBETAの圧倒的な物量に苦戦…。司令部も破壊され、シールド中隊も壊滅…大隊司令部にも連絡がつかず、友軍撤退支援のため彼らと合流し、ここまでやってきました…。」

まりもが苦々しく答えた

「わかった……それで、これからどこに向かう?」

祐樹は王にそう尋ねると

「C―5を飛ばして上海まで護衛する。幸い長距離通信装置を持たされた奴が居たのでな、大連の本部に連絡を取ったところ上海まで護衛しながら撤退しろと下った。」

「そうか、神宮司少尉達は?」

「我々は司令部よりの連絡が無い以上、一度司令部まで向かおうと思います。」

模範的な回答を返すまりもに王が呆れた口調で返す

「司令部に向かう?ばかいうな!!南京にBETA共が現れた以上、帝国軍は突破されたに違いない!もはや壊滅している場所に向かうだと?!」

祐樹もその回答に驚き

「少尉、俺も無謀だと思う。さらに、詳しくは言えないがこちらの情報網に帝国軍大隊の壊滅が入ってきてる…さらに帝国は生き残りに哈爾浜まで撤退指示を出した。」

祐樹は史実を知っているからか、もっともらしい風にまりもに哈爾浜まで撤退することを暗示する

「そんな?!」

王と祐樹の言葉に信じられないのか、瞳を見開き驚愕の表情で声を荒げる

「嘘だと思うなら、通信装置があるのだろう…大連の帝国参謀本部に連絡を取ってみたらいい。王中尉、通信機を借りられますか?」

祐樹はまりもにそう答え、王に質問する

「ああ、いくらでも使ってくれ。」

王は快諾する

「失礼します!!」

敬礼し、早足にてこの場から去り通信機に向かうまりも

「で、ゼロだったか?お前さんはどうするんだい?」

祐樹の今後の行動に王は問いかける

「王中尉達は、上海基地に向かうんですね。」

「ああ、となると……。」

察してくれたのか王は呟く

「ええ、行動を共にはできない…。あちらには俺と機体に疑問を抱き必ず拘束しようとする奴が出るはず…。」

行動予測を答える

「だな……」

「それに、ここから先は人類圏だ。C―5の足でも上海までなら、そうそう追いつかれたりしないだろう。」

一旦、言葉を切り

「実際、帝国軍は哈爾浜への各自撤退中だ。たかが新米衛士二人のために救援は出さないだろう…となると誰かが、お守りをしてやりなきゃならん…。」

淡々と答える

「だが、しかしお前さんにそんな義務はないだろう…それに十中八苦、帝国に拘束されるぞ?!」

声を荒げながら王が食ってかかる

「なにも、哈爾浜まで付き合うわけじゃないさ、近くまで送るつもりだ。」

淡々と答えるが、内心で祐樹は哈爾浜まで共にする気だ

現状では大陸から脱出する手段がなく、たとえ拘束されてもゲシュペンストの技術を代価に取引を行うつもりである

そこに、肩を落としたまりもが戻ってきた

「どうだった少尉?」

祐樹は問いかけ

「ゼロさんの言った通りです…各自、自力撤退にて哈爾浜まで向かえと…。」

まりもは力なく答える

「そうか…中尉ではそういうことだ。」

「わかったよ…」

王が力なく同意するのに不思議に思ったのか

「どうかされたんですか?」

まりもは問う

「よかったな、ひょっこ隊長さん。助っ人がお前らを哈爾浜まで送るだとさ。」

口調は皮肉げだが、満面の笑みで王は答えた

「えっ、どういうことですか?!」

「何、俺が君たちに同行するだけの話さ……。」

まりもの困惑に祐樹はおどけながら答えたところ


『まもなく、C―5の離陸準備完了となります。残っておられる方は速やかに搭乗を、衛士の方は戦術機への搭乗をお願い致します。』

アナウンスが流れ

「さて、行動開始だ」

祐樹の宣言に衛士達は慌ただしく戦術機へと向かった
















































―南京国際空港付近 高速道路インターチェンジ跡












あのあと、王中尉達とC―5の離陸を見届けた祐樹達は高速道路跡付近まで来ていた


「結局、その子ついてきてしまいましたね……」

99式とまりも達の衛士強化装備をデータリンクさせたので網膜投影からまりもの困惑顔が見える

まりもが指摘するのは祐樹の首根っこにしがみつく崔 亦菲のこと

「仕方がないさ、頑なに離してくれないし…かといって無理矢理あちらに引き渡したところで迷惑になる。一応、私に懐いているしな…まだこちらで受け持った方がいいだろう」

崔 亦菲の頭を撫でながら祐樹は答える

崔 亦菲も気持ちよさそうに受け入れた

「ですが、こちらは戦術機です。子供が戦術機の機動に耐えられるかどうか……」

まだ、不安に思うのかまりもが問いかけるが…

「心配するな。こちらの機体は揺れをほとんど感じない、それにこの子には…」

崔 亦菲が祐樹をすねた目で見つめながら「いーふぇ…」と呟く……

「イーフェには酔い止めを飲ませる。」

その瞳に負けイーフェと呼称するが、シートの後ろから黒いオーラが吹き出る…。……彼女達のせいで表に出られないノルンがそこに居た……

「スポコラミンをですか?!」

驚愕するまりも

「ちがう。似たような効果だが体にかかる負担はまったくない物だ。」

祐樹はそう否定しコクピット内のメディカルキットから酔い止めと水を取り出しイーフェに渡す。

「これを飲んでくれるかい?」

「うん」

素直に聞くイーフェ

「いい子だ。さぁこれも付けてくれるかな?」

ハーネスを取り出し、しっかりと祐樹とイーフェをシートに固定する

これもイーフェは嫌がらず装着し、体勢的に祐樹の膝の上に尻を置き
手は首に巻かれた抱きつき状態となる。


「…うらやましすぎますぅぅぅ…まぁすぅたぁのばかぁぁっぁ……」

どこからか、か細く暗い怨念に満ちた声が聞こえるが誰の耳にも届かない……合掌(Ω\ζ°)チーン)




「お二人さん、準備は出来たのかい?」

先ほどの《撃震》に搭乗していた男性衛士…新井が尋ねる

空港にてデータリンクする際、お互いに自己紹介は済ませている

もっとも祐樹はゼロと名乗っただけであるが……

「ああ、こちらは大丈夫だ。」

「ええ、こちらも。」

「なら隊長、出発しましょうや。」

新井はふてぶてしく、そう告げる

「では、ゼロさんお願いします。」

「了解。」

了承の旨を返し、彼らは機体を発進させた。

























あのあと、巡航機動で哈爾浜を目指していた祐樹達はBETA達に遭遇することなく、ここ杭州の山岳地帯までたどり着く

そんな折、祐樹はイーフェの表情を確認し

「少尉、ここで一時休憩を取ろう。」

まりもに提案する

「どうかされましたか?ゼロさん?」

「何、イーフェがな…」

よく観察してみると膝の上におとなしく座っているイーフェだが若干、顔色が悪い

「(いくら、戦術機よりも揺れないとはいえ、子供にはつらいのはかわらんか……)」

そう思っての提案にまりもと新井は

「そうですね……私から見てもそう判断します。」

「ったく…やっぱ、そいつのためにもあっちに預かってもらえばよかったんじゃないか?まぁ…俺も賛成だ。」

まりもは即賛成し、新井は言葉は荒いがイーフェを心配しているのがはっきりと感じ取れる口調で賛成する

「了解、感謝する。」

そう言いながら、祐樹は周囲を索敵チェックし危険がないのを確認してからハッチ開放…外気を入れハーネスを外す

まりも達もハッチを開放した


―10分後

若干、イーフェの顔色が元に戻ってきたので行動を開始しようと通信を入れようとする祐樹だが

『マスター大変です!!』

「ノルン?!」

祐樹はノルンの言葉に驚きを返す。イーフェは祐樹の突然の言葉に?顔作っている…ノルンの言葉が聞こえてないのだろう

『マスター、声には出さないでください。現在99式の秘匿回線より集音にて声を繋いでおりますので…それよりも、大変です!!軍部が核を発射しました!!ここ一体にもかなりの衝撃が来ます!!』

祐樹はその報告に驚愕し、ハッチを即閉鎖。まりも達に通信を入れる

「すぐに、コクピットに戻れ!!核の衝撃が来る!」

その連絡に新井は元々コクピット内に居たためハッチを閉鎖し山陰に隠れるが……

まりもはコクピットから抜け出してハッチの先端に立っていたため、即座に反応できず


すさまじい衝撃が彼らを襲う!!!!!!!!!

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

まりもは悲鳴を上げながら《撃震》より弾き飛ばされ空に舞う……

「少尉ぃぃぃ!!」

あわや地面に激突するかと思われたその時、祐樹のゲシュペンストがまりもを受け止める

しかし、まだ続く衝撃にゲシュペンストも揺られるが祐樹は巧みに衝撃を逃がしながら制御し、まりもをゲシュペンストの両腕マニピュレーター内に包み込む

さらに、前方にあったゲシュペンストが隠れられる山陰に退避した








しばらくして衝撃波も止み、あたりに砂塵等が舞うなか

「無事か?!少尉!!」

ハッチを開けながら、祐樹はまりもに声をかける

「大丈夫です。ゼロさん!!」

強化装備のおかげか、あれほどの衝撃の中で額に浅い切り傷だけで済むまりも

しかし……

「くっ、撃震が……。」

祐樹の視線の先には、まりもの《撃震》が渓谷に落ち大破していた

仁王立ちにて停止状態のところに、さきほどの衝撃を受け落下してしまったのであろう

運悪く、ハッチが開放されていたコクピットブロックに大きな岩が突き刺さっていた……

「あれでは、使えないな…。」

祐樹の呟きにまりもは呆然とする

「大丈夫か、隊長?!」

そこに声をかけながら、新井が合流する。

「……ええ、大丈夫よ。」

呆然と自身の《撃震》を見下ろしながら答える

「成ってしまったことは、仕方ない…新井少尉、そちらで神宮司少尉を受け入れられるか?」

「いや、それが…」

「どうした…?」

訝しげに祐樹は問う

「さっき、慌てて山陰に入るさいハッチ付近をもろにぶつけて……。」

「開閉できなくなったと…。」

「すまない…。」

「仕方がない……少尉、私の機体に。」

祐樹は肩を落とし、まりもに搭乗するよう伝える

「よろしいのですか?!」

驚くまりもに

「いいも悪いもそうするしか無かろう?さぁ早く。」

ハッチを開放し祐樹はまりもに催促する

「…失礼致します。」

この状況で選択肢があるわけもなく、恐縮しながらまりもはハッチに足を架ける


そして、まりもは改めてコクピット内を見て驚愕する。戦術機のコクピットとはまるで違うのだから驚くのも無理はない

「少尉、驚くのはわかるが早くこちらに。」

祐樹はシート後部の少し開いている空間を指差す。

まりもはそちらに移動しシートの後ろにある取っ手を掴む際、何かが動いたように感じたが

「では、急ぐぞ」

祐樹の言葉に気を取られ確認はしなかった





























―哈爾浜 帝国軍撤退集合地点




やっとの思いで哈爾浜手前まで到着したのだが……


前方西側に黒鉛やレーザー等が見え、東側には三隻の大隈級と五隻の大和級が見える

「(北部のBETA共は核で始末したが西から…重慶ハイヴからのBETAが押し寄せてきたか)」

祐樹は現状を予測し

「神宮司少尉、イーフェ降りるんだ。」

イーフェと祐樹を固定していたハーネスを外しながら伝える

「なっ?!どうされるのですか?!」

まりもは驚きながら問い返すが

「俺は西側のBETA共を相手する。新井少尉、ここからなら二人をマニピュレーター上に乗せて移動してもすぐ着く…あとは頼む。」

「おいお…」

「いや!!!!!離れたくないよ!!!!」

祐樹達の問答にイーフェから強い拒絶が返ってくる

「イーフェ……。」

「イーフェちゃん……。」

「ぜろ、おいていかないで!!!父さんと母さんみたいにおいていかないで!!!」

イーフェの一心不乱の願いに祐樹は一瞬たじろぐが……

「イーフェ……君を置いていかない。ただ、このお姉ちゃんと一緒に先に行っててほしい。大丈夫、必ず迎えに行くから……」

「やだよ~~!そういって父さんも母さんもわたしをおいてかえってこなかったもん!!」

瞳からとめどなく涙を流し、しゃくりあげながらもイーフェは答える……

「ならイーフェ“拉小指立誓”をしよう。」

祐樹はそういい、小指をイーフェの小指に絡ませながら歌う

「~~指切った!さぁ、これで俺はイーフェとの約束破れなくなった。」

微笑みを浮かべ、優しい声で頭を撫でながら祐樹は言う

「うう……ぜったいだよ!!ぜろ!!」

小指を掲げながらイーフェはしぶしぶ了承する

「では神宮司少尉、あとを頼む。」

祐樹はまりもに託す

「えっ!?あっ、はい!了解しました。」

なぜか、頬を赤く染めながら返答するまりもに

「うう~~~」

なぜか、イーフェはまりもへとジト目を送っていた……

そしてまりもはイーフェを抱えながら

「御武運をお祈りします…。」

そう祈りを捧げ、新井機のマニピュレーターに移り

彼女らは船に向かう









「さて、すまないな。ノルン。」

「すまないな。ノルン…じゃありません!!」

シート後方より元気よくノルンが飛び出してくる

「まりもさんまで、搭乗させるなんて…おかげで私メディカルキット等の隙間に隠れざるおえなくなりましたよ!!」

プンスカと怒るノルン

「仕方がないだろう…あの時はこうするしかなかったのだから…。」

「ですが!!マスター!!」

声を荒げるノルンの返そうと口を開こうとした時






祐樹の視界が白く染まる





「やっと、繋がった。」

目の前には、あの白き世界と同じような景色が広がり

あの時の女が目の前に居る

「あなたは……」

「久しぶり…というほど久しぶりじゃないわね…」

「あなたが、俺をここに呼んだんですか?……」

警戒しながらも祐樹は問う

「あら、そんなに警戒しなくてもとって食いやしないわよ。」

「……」

「信用ないわね~~。まぁ、いいわ。ちゃっちゃっと本題を進めましょう。」

そう言いながら、祐樹に半透明のウィンドを送ってくる

「それ、あなたのステータスと乗ってる機体に積んである物のリスト」

「なっ?!」

そこには、付加した覚えのないジャンパー能力とさらにゲシュペンストにジャンプフィールド発生装置が取り付けられていると記載されている……

「信じる・信じないはあなたの勝手だけど、真実はかわらないわ。」

なげやり気味に祐樹に伝える女

「じゃあねぇ~~。」

女がそう呟いたとき、またも祐樹の視界はぶれ…一拍後には祐樹の姿はこの世界からなくなっていた。

「それにしても彼……本当に面白いわ……研究させてくれないかしら?」

彼女の手元には先ほど祐樹が見ていたウィンドがあり、最後まで祐樹は確認していないのであろう……見ていたらさらに驚愕する一文が乗っていた










「マスター、マスタァー!!」

「あっ…。」

「どうかされたんですか?」

不思議な顔でノルンは祐樹の顔を覗き込む

「いや……ノルン、一度ゲシュペンストをサーチしてくれないか?」

「えっ?わかりました…。」

さらに、疑問を顔に浮かべるノルンだが祐樹の言われたとおりにサーチを開始する

「っ?!なぜ、ジャンプフィールド発生装置がゲシュペンストに搭載されて?!」

ノルンは驚きながらも祐樹に報告した

「…いったい、あの人は…」

小さくそう呟く祐樹

「マスター?」

「なんでもない……脱出手段は手に入った。ある程度、支援して俺達も離脱しよう。」

「了解です、マスター!サポートはお任せを、いつでもジャンプできるように準備しておきます!!」

「さぁ、行こうか……」


祐樹はスラスターを吹かせてゲシュペンストの姿勢を前に倒し滑るように戦線へと向かった





















―哈爾浜 帝国軍撤退地点 西側800k 塹壕






「くっそたれぇぇぇぇぇぇ!!」

《撃震》に乗った衛士の叫び声があがる

現在、船が停泊して居る地点より800k程離れているこの地点には、

30機の戦術機と70機の90式戦車が防衛線を構築し展開している

艦隊司令部より彼らは撤退時刻まで、ここを防衛するように命令を受けていた


「ブロッサム1よりCPへ!!もっと艦砲射撃はできないのか?!」

「CPよりブロッサム1へ現状以上の艦砲射撃はできない。」

「ええい!!これじゃいつ瓦解するかわからんぞ!!」

衛士の言葉通り、彼らの視界一杯に続くBETA共……

いくら、倒しても湧き出てくるかのごとくに前進してくる

幸い地形が山と山の間の一本道より押し寄せてくるので、なんとかなっているが山を越えてこられたら終わりだ


「うわぁぁぁ!!!!!」

そんな問答を返している内に、レーザーを受け爆散する僚機

「くそがぁぁぁぁ!!撤退はまだなのか?!」

突撃砲に戦車からの120mmの飽和攻撃を仕掛けているため、なんとか持っているが櫛の刃が欠けるがごとくにポロポロと僚機が落とされている

何時まで持つのか……、ブロッサム1は忍び寄る死に諦観の表情を顔に浮かべる


その時、右前方の山頂より青い何かが見えた









―ゲシュペンスト コクピット内



祐樹はBETAの真横から強襲するため、山間部に入り山頂まで上ってきた


「EPは残り四、マガジンも四……どこまで持つか…。」

右にライフル、左に360を構えて祐樹は眼下を見る

山間部の一本道に夥しい程のBETAの群れ、さらに地平線まで見やっても途切れないほど……

祐樹から見て右側には必死にBETA共に弾幕を浴びせる帝国軍が映る

「……まさしく、人類の未来の縮図だな…。」

必死の抵抗も空しく、一機また一機と戦術機ならびに戦車が落ちる…

「だが……必ず、変えてみせる……!!」

さらなる決意を胸に勢いよく空を舞う

短時間ながらもゲシュペンストには滞空能力が備わっている

それを利用し反対の山頂に駆け抜けざまにライフルをBETA共に連射

特に重光線級を狙い打つ。上方よりの攻撃にBETAは即座に対応できず

次次と屍を晒すが全体数からすると微々たる量であった

「しっ……!!」

祐樹は息つく暇もなしに、反対側の山頂部を右足で蹴って空中にて方向転換しながら又も眼下に放ちBETA共を屠る

「ちっ……まさしく焼け石に水だ…。」

そう吐き捨てながら、ライフルのEPを装填。再度、空に舞うが

BETAもバカではないらしく、光線級に重光線級が数えるのも嫌になるくらいのレーザーをゲシュペンストに放つ

「なんとっぉぉぉおおぉぉ!!!」

雄叫びをあげつつ、バレルロールを敢行しレーザーを避けつつライフルを乱射

何発か見当違いの場所に飛ぶが、概ねBETAに着弾し倒す

そして山頂部に着陸し、すかさず山陰に隠れる。一瞬後山頂部をレーザーが凪ぐ

「ちっ、やはり無理がある機動だったか。」

山陰に隠れた祐樹はモニターの端に映る機体コンディションに目をやる

そこには、右脚部ならびにスラスター、及びウイングバインダーにイエローが灯っている

「もう少し、減らしたかったんだが……仕方ない…ノルン戦況は?」

「微かにですが、帝国軍への圧力が弱まった模様。艦隊司令部からは今だ撤退許可は下りてな……今降りました!!撤退時刻を繰り上げて出航する模様!部隊には後退許可が下りました!!」

「そうか、少尉達は無事辿りついたか?」

「はい、現在大和級にて保護されておられるようです。」

「なら、送り狼は一匹も通せんな。」

祐樹はそう言いながら、山肌を駆け下りていく


















「ブロッサム1よりCPへ!あれはなんだ?!」

彼は眼前にて山頂部から山頂部へと移動する戦術機をCPに問う

「CPよりブロッサム1へ、詳細な報告を求める。」

「だから、あれはなんだ?!うちの機体か?!」

拡大映像をCPに送りながら彼はさらにわめく

彼には今、目の前で起きていることが到底理解できないでいた。

《撃震》…いや、全世界の戦術機をもってしてもあのような機動はできるはずがない

山頂部より飛び出しながらライフルを連射。ついで着陸姿勢を取らずにそのまま足で蹴りだして元居た位置へさらには空中にてバレルロールまでしだす……

衛士の腕も凄まじいが、機体の化け物ぶりに鳥肌が立つ……


「CPよりブロッサム1へ当該機はデータベースにない……不明機(アンノウン)です。」

「アンノウンだと?!どこかの新型ということか?!」

「答えられない。なお可能ならば捕獲するよう通達が出た」

「この状況でか?!それにアンノウンは山頂より現れたんだぞ!その気ならば俺達に攻撃することもできたはず、だがBETA共の横っ腹に噛み付いた…ということは少なからず人類だろう!!それをこの状況でわざわざ敵に回すのか?!」

「ブロッサム1、あなたの意見は聞いておりません。司令部よりは捕獲するように命令が届いてます。」

「っく!!了解!可能ならば捕獲する!!通信終わり!!」

彼は一方的に通信を切り、悪態をついた

「できればだろ!!できれば!」

司令部に居るアホ共に現場がどうなっているか、その身に味合わせたいと彼は強く思った

















今や、防衛線は窮地に陥っていた

戦術機は九機まで減っており、戦車に至っては全滅していた

湾内の艦船も大隈級と大和級、各一隻残して他は沖にて待機しながら艦砲射撃を行っている

船舶まであと500mを切ったがここで離脱すればもろに船舶が狙われるため

衛士達は脱出できないでいた

「くそっ!あと少しなのに!!」

「こいつら、しつこすぎる!」

各衛士が悪態を吐く

「ブロッサム1よりCPへ!!もっと艦砲射撃は出来ないのか?!」

「CPよりブロッサム1へ!現状が最大射撃です!!」

「万事休すか…!仕方がない…」

彼は自分を囮にしようと前進しようとするが

「行け!!」

祐樹からのオープン回線により踏みとどまる

「ここは俺が抑える!!さっさと行け!!」

怒鳴りながら、360とライフルをBETAに叩き込む

「あんたは…」

ブロッサム1が問いかける

「問答している暇など、ない!!さっさと行け!!そう長く持たない!」

祐樹は声を荒げながら再度、撤退を促す

「どこの誰だかわからんが…すまない……」

深い感謝の念をこめた言葉を最後に彼らは撤退し船が出港する

BETA共は出向する船に目もくれず執拗にゲシュペンストだけを狙う

「ノルン!準備は出来てるな?!」

「はい!あとはマスターのイメージのみです!!」

「わかった!!」

そう言い祐樹は99式のデータリンクからまりもの強化装備に通信を入れる

「少尉、無事か?!」

一拍後、まりもの声が返ってくる。

「はい!こちらはもう沖に居ります!!ゼロさんも早く!今なら大和級に飛び乗れます!!」

「BETAはあきらかに俺狙いだ。そんなことはできん……」

「ですが?!」

まりもの問いかけと同時に機体に衝撃が走る

レーザーを回避し続けていたが、とうとう無理がたたって右脚部へのレスポンスが渡らず、そのまま突進してきた突撃級に左腕を持っていかれる

さらに光線級からのレーザーも一発、右脚に受け融解し転倒しそうになるが

スラスターを一気に吹かして後方にジグザグに下がる

「少尉!!イーフェと変わってくれ!!早く!」

「っ?!…」

「…ぜろ?!」

素直に変わってくれたのであろう。イーフェの呼び声が聞こえる

「イーフェ、お姉ちゃんと仲良くするんだぞ。」

戦闘中でありながらも優しい声でイーフェに告げる

「ぜろ、やくそくやぶるの?!“拉小指立誓”やぶるの?!」

イーフェの涙声がコクピット内に響く

「破らない!!」

大きくも優しい暖かな声で祐樹は宣言した

「必ず、イーフェを迎えに行く!どこに居ても必ず迎えに行く!!だから今はお姉ちゃんと一緒に行くんだ。」

「ほんとう……?」

「ああ!!“拉小指立誓”したろう?」

「うん……ぜろ、まってる。ずっとまってるから!!」

一拍後

「ゼロさん!!」

まりもが若干涙声で声をかける

「少尉か、すまないがイーフェを頼む。」

「わかりました!責任を持ってお預かりします。」

「見ず知らずの俺なんかの願いを聞いてくれて感謝する……。」

「いえ!ゼロさんは命の恩人です!!あなたが居なければ今頃…。」

「そうか、ありがとう」

「変ですよ、ゼロさん。それは私のセリフです。……また会えますよね?…」

「必ず…!」

静かだが力強くまりもに答える

「さよ……」

突然、まりもの声が途絶える…リンクの範囲外に出てしまったのであろう……


「ノルン!」

「はい!!」

「ユーチャリス…格納庫内…ジャンプ!!!!!!!」



その言葉と共にボソンの光を残してゲシュペンストは消えた…




















このあと、新井の機体に残された映像により、まりもやブロッサム1達は軍に事情聴取を受ける。が収穫はなく各国と国連に情報提供を求めるが手がかりすら掴めなかった……


そうして、くしくもこの世界においても、こう呼ばれることになる…






“Gespenst”(亡霊)……“見えざる脅威”と












今や滅びた国の言葉で……



[20464] ダイバー 第七話
Name: るー◆584161b8 E-MAIL ID:96b32de8
Date: 2010/08/13 16:49















―1999年 木星 コロニー ユーチャリス格納庫内













盛大な騒音を響かせて仰向けにゲシュペンストは倒れる

さきの戦闘により喪失した右脚のため立つことができないためだ



「ふぅ……」

祐樹は大きなため息をつき、コクピットから這い出る

「なんとか、なったな……」

戦闘の緊張感より開放された祐樹はそう呟きながら倒れた

「マスタァー?!」


























コロニー内 メディカルルーム


「うん…ここは…?」

視界に白い天井が写った瞬間、頭上よりノルンの顔が逆さに飛び出てくる


「目が覚めましたか?!マスター!!」

「ああ…俺は?」

「コクピットから出たら倒れられて…。」

「そうだった……。」

祐樹は戦闘時のことを思い出した

いくら技能を持っているとはいえ、初陣には変わらなかった

にも関わらず恐怖や焦り等は一切感じずに戦えたのもひとえにノルンのおかげである

暗示が解けたのであろう今、過ぎたことなのに体に震えが走った

「こればっかりは慣れなきゃいけないな…そうだ、少尉達は無事に日本にたどり着いたのかな?」

「マスター……そのことを含めてお話することが……。」

ノルンは顔全体を強張らせて真剣な声で告げる


「現在、わたくし達は1999年10月22日…。」

「なっ?!1999年だって?!」

祐樹は驚き話の腰を折るが

[マスター、お静かに]

突然、祐樹の眼前に半透明のウィンドが浮かぶ

「うわっぁぁぁ!!」

いきなり、目の前にウィンドが展開したため祐樹はベッドから仰け反り床に落ちてしまった

「あっこら!!オモイカネ!マスターを驚かしてはだめでしょう!!」

ノルンがウィンドを窘める

「これは……?」

ウィンドを指しながら祐樹はノルンに問う

「これはユーチャリスに搭載されていたオモイカネです。マスター。」

[初めまして、あなたが僕の主ですね。固有名称はまだないのでオリジナルと同じ呼称使ってるよ。よろしくお願いします。]

ウィンド内にそう文字が浮かんだ

「オモイカネ…」

祐樹はそう呟き

[うん、そだよ。オリジナルのコピーになる。僕としてはノルンみたいに主に名称を付けていただきたいけどね。]

新たにウィンドを展開する

「そうか……ならハーリーはどうだい?」

[……仮にも僕の自意識は女性。それを男性のようなものはどうかなと…。]

「えっ?!君、女の子なの?!」

[…傷つくよ、マスター……では…。]

そのウィンドが出た瞬間、目の前にOGのキャラクターであるヴィレッタ・バディムの姿が現れる

「んなっ?!」

[どうだい?マスター。]

ヴィレッタの姿をした彼女は人差し指と親指の間にウィンドを展開する

「こらぁ~~!卑怯よ、オモイカネぇ!!!それにそれ、ホログラフィクでしょ!!」

ノルンが歯軋りしながらオモイカネに指摘した

[細かいね~~ノルンは。あなたはマスターと触れ合えるだ。少しぐらい、いいじゃないか。それにマスターも満更ではなさそうだし……。]

そうウィンドを展開しながら彼女は両腕で胸の谷間を作り、熱を帯びた表情で祐樹に迫った

「☆△○×!!」

驚きながら顔を真っ赤にして床を這いずる祐樹

[効果的面だね♪マスターの好みは把握済み♪いっそ肉体を作って僕の自意識を……。]

「いいかげんにしなさぁぁぁい!!わたくしの目の黒い内はそんなことさせません!!!」

[ちぇ…。]

そうウィンドに映して姿が掻き消え、元のウィンドのみになった

「話が逸れました…本題に。」

[ちょっと待って、僕の名前!!]

「ちっ……仕方ありませんね。」

舌打ちしながらも、自身も名を持たなかったゆえに邪魔することをせず祐樹に名前を付けるように促す

「そうだね……サラスヴァティってどうだい?」

[サラスヴァティ…ヒンドゥー教の知識を司る女神で、日本では七福神の弁才天だね。]

「うん、オモイカネも知識神の名前だからね…女性ならそっちだろうと。」

[悪くないね。では今後、呼称は短くしてサラと呼んでね。]

「わかった、サラ。」

「ごっほん!!」

ノルンが無視されるのに耐えられず、わざとらしい咳をする

「ほ・ん・だ・い・で・す・が!」

「先ほども伝えた通り、現在は1999年の10月22日です。どうやらわたくし達は、時を越えたようです……。原因はゲシュペンストに搭載れていたジャンプ装置に細工がしてあったようで、この時間軸に現れるように設定してありました。」

「わかった…で現在の状況は?」

立ち上がりながら祐樹は質問する

[僕から説明するよ。マスターが消えた1993年…つまり6年前から僕はマスターの捜索を実施したが、何も見つけられず仕舞い……。]

[捜索の傍ら、いつマスターが戻ってもいいように僕はオリジナルの記憶にマスターのプロフィールデータとこの世界の知識を吸収し、コロニー内の設備等の強化を実施することにした。]

[で、現在このコロニーには作業用コバッタが5000機作成。コロニー全体に多連装GBを装備、局所的にしか張れないけどDFも装備、工場を作成して自衛用に自立制御型ゲシュペンストMK―Ⅱ・Mを20機配備、現在作成中のMK―Ⅱ・Mが10機。食料の生産もやっていたよ、全部天然育成。ユーチャリス自身は僕の自意識にも関係されると思ったので手を施してない。]

「コバッタ5000機に防衛用ゲシュペンスト20機、さらにはコロニーにDFと多連装GBの装備か……すごいな。」

祐樹は驚き、顔綻ばせるが疑問が浮かぶ

「しかし、資材はどうしたんだ?それに多連装GBにDF装備…百歩譲ってDFは作れたとしても多連装は俺の習得ランクからしたら不可能のはず?」

[一個ずつ説明するね]

サラは前置きを映し

[資材はね、火星から調達したんだ。僕自身、は軌道上から即座に撤退できるようにしてコバッタを数機火星に降ろしたんだ。]

「だが、火星にはBETAが居る。」

祐樹はそう断言した

[そう…マスターの言うとおりに火星にはBETAが居る。この世界の知識を吸収した僕は、最初は物は試しでやってみたんだけど……不思議なことにBETAに発見されても、やつらまったく反応しないんだ。]

「どういうことだ?」

[僕も不思議だったから、コバッタに色々させてみたけど反応なし…ゲシュペンストが作成できた頃合に捕獲してみたんだ。意思疎通はできないから解体してみたら体内の一部にチューリップクリスタルの性質に似た部分が出てきた……、もう少し詳しく調べようとマーズゼロに数機送り込んだら、これもスルーされたんだけど最深部の重頭脳級の階層まで突入したら…]

一旦、ウィンドを切り新たに展開された

[そこには…遺跡があったんだ。マスターも知っていると思うけどボソンジャンプの演算装置の遺跡が……マスターがジャンプした時点でどこかにあると思ったけど、まさかBETAの手中とは思わなかったよ。で演算ユニットを持っていこうとしたら攻撃を受けて全機破壊。僕も撤退した。でそれ以降はコバッタも攻撃対象になったらしくて接触すれば破壊されるようになった……けどやつらのテリトリーは以外に狭いらしくて、マーズゼロの反対地点なんかにはBETAが展開されてなかったから、そこから資材を調達したわけ。]

[さらに火星から離れれば追ってこない。なんで定期的に採取に出掛けているよ。]

一区切りつけ、再度新しいウィンドを出す

[二つ目の質問だけど……これはある意味チートもしくは違反かな?さっきも言ったとおりに僕はオリジナルの派生。つまりオリジナルを継承している……盲点だったのかオリジナルが得た全ての情報を僕は獲得することができた。オリジナルを育成した星野ルリがそうなのか、貪欲に本社等のデータもハックしてたみたいだから、大抵の物は作れるよ。ただ…その…まぁ…マスターのデータと統合して自分が空想の産物であったと知った時はかなり参ったけど…]

最後の方の文字が小さく映る

「サラ……」

[でも結局、僕という自意識はこの世界に存在している。それに元々マスターみたいな生命体じゃないし、深く考えても仕方ないってことで落ち着いた。]

あっけらかんとした文がそこには乗っていた

「いいのか?それで?」

祐樹自身があっけないほど、簡単に納得しているサラに疑問を抱いた。

[ねぇ、マスター、そんなこと考えてもさ、仕方ないよ?ここに居る以上、それが全て。仮にだよ?マスターは死後どうなるか考えたことある?]

「いや、そりゃ一度は……」

考え出して、結局結論なんて、でるわけないと思考放棄した覚えがある

[問題は違うけど、似たようなもの。結局考えても結論が出ないなら、考えるだけ無駄ってことだよ]

「お前、オモイカネ級の癖にエライ、アバウトだな……」

[仕方ないよ、元々こんなんだからさ。]

「サラ自身が納得してるなら、それでいいか……」

そうして、話題を打ち切った


「さて、ユーチャリス及びコロニーの大体の現状はわかった。」

祐樹はそう答えた

「とりあえず、今後の方針を決めようか。」

「その前に、マスター、PAKをご覧ください。現在ステータス等や獲得G等が閲覧できます。」

ノルンの言葉に祐樹は耳元のPAKを伸ばして、手元まで持ってくる。そこには





技術
マブラヴ 現地参照
ナデシコ ―ランク
OG Jランク

特殊技能
《人工念動力》LV2
《強運》LV―
《マシンチャイルド》LV1
《擬似A級ジャンパー》LV―
《?????》

技能
パイロットLVMAX
剣術・天真正伝香取神道流合戦礼法LV5
射撃術LV5
機械工学LV5



所持G  6万8000



《?????》

<次ページ>




こう、映し出されていた

「なんだろう《?????》って」

そう思いつつ、次ページを選択すると


OG関連

習得システム
テスラ・ドライブ


習得可能設計図

ゲシュペンストMK―Ⅱ・M【0G】
ゲシュペンストMK―Ⅱ・R【10000G】
ビルトシュバイン【8000G】
シュツバルト【5000G】


注・作成時には別途、資材(資金)が必要。


<戻る>




「OG関連の設計図ページが追加されていたけど、ナデシコのランクが線引きされている……」

[やっぱし、僕のせいかな?]

「まぁサラの言うとおりなら、得したしそれに元々エステを主流に考えてなかったからな。」

「I・F・Sのせい、ですか?」

「そうだね…この世界にこの体質者はいないし…わざわざそのためにナノマシンを作成するにも膨大な費用がかかるだろうしね。」

祐樹は自身の手の文様を触りながら言う


「さて、Gも増えたし、さっそく使ってみるか…と思ったけど……」

「どうれさました?」[どうかした?]

ノルンには小首を傾げられ、サラにも疑問符付のウィンドを表示される

「まずは、ご飯にしよう……」

空腹が目立ってきた祐樹は自身の腹を抑えながら力なく答えた


























―ユーチャリス内 祐樹の自室



あのあと、食材確保にコロニー内を散策したところ、生い茂る緑の数々・澄み切った湖に優雅に泳ぐ魚・放牧されている家畜達を見渡し感動に祐樹は震えた


食材は既に加工された物……スーパー等で売っている消費者が買う寸前の状態……にされていたものが食料庫の中に保管されていた

[マスターが戻ってきた時に、ある程度処理したんだ。]

サラの心遣いに感謝である

さすがに、鶏とか牛の解体なんてやったことないし、やりたくもなかったので祐樹はほっと一安心し、調理を開始した


献立は、ご飯に鮭のムニエルに御味噌汁、さらに野菜もほしいからきのこの胡麻和え

調理が終わり食事を終わらせた祐樹はシンクに食器を入れて一息つく

「ふぅ、ごちそうさまでした」「ごちそうさまでした」

電子妖精たるノルンに食事が必要とは思わなかった祐樹は唖然とし、ついで用意しようとしたが

「この体格ですから、マスターの分をほんの少しいただければ……」

もじもじと顔を薄く染めて申し出るノルン

もう一度作るのも大変なので祐樹は了承するが

[くぅぅぅ!!僕も肉体がほしい!!]

サラの悔しがる言葉がウィンドに映る……毎回この調子では本気で作り出しそうである……


なんだかんだで、実際Gを使うことに

「さて、まずは食料だが俺とノルンだけなら余裕で10年以上は賄える……衣食住は大丈夫そうだな。」

[ああ、うん…服とかも自室に用意してあるよ。(最初、なんにもなかったから無断でGを使ったなんて言えないな……)]

「となると、資材だけど…」

[現在、作成中のゲシュペンストに資材、回してるから二・三機作成するぐらいならいけるけど…量産体制となると無理だね。]

「それに、武器作成に改造・弾薬も必要になります…そちらの分も加味してご検討くださいませ。」

サラとノルンからの忠告を受け取り

「なら……」

祐樹はPAKに入力する

OG G→Fランク

にし再度確認すると

T-LINKシステム


ゲシュペンストMK―Ⅱ・M【0G】
ゲシュペンストMK―Ⅱ・R【10000G】
ビルトシュバイン【8000G】
ビルトラプター【10000G】
シュツバルト【5000G】

そして、祐樹は全ての設計図を習得した


「FでビルトラプターとT-LINKシステム追加か……あまり追加されないんだな。」

1ランク上げて、追加された物が少なかったので残念に思う祐樹

「……設計図を確認しよう。」

気を取り直して、設計図のデータを読む

「Rは……現行のM型を改良した方が早いな…それに安く上がるし、俺が乗っていた機体は大破状態だしな…これをベースに作成する。シュツバルトも同様だな。サラ」

[なんだい、マスター。]

「DFとか装備できそうか?」

[搭載することはできるよ。ただPTサイズだと出力的にも局所的にしか展開できない。まぁエステバリスよりか範囲は広がるだろうけど…それに、コストかかるよ……?]

「どれぐらいかかりそう?」

祐樹は嫌な予感を覚えたのか、顔を強張らせて答えを待つ

[一機に付き10000Gくらいかかると思うよ?まぁオーバーテクノロジーだし、PT用にさせるとなる手間がかかるしね…]

「そんなにも……」

多大な出費に目眩がする

[ただ、性能は折り紙付だよ。なんせ重光線級のレーザーも弾くしね。まぁ空間を歪ませてるから、当然といっちゃ当然なんだけど…搭載させるなら、考えて搭載しなきゃ。]

「ああ…となると……今はビルトラプターにのみ搭載しよう。フライヤーモードを使うなら、例え局所的でもレーザーを無効化できるなら必要だ。」

さらに祐樹は続けて

「ビルトシュバインも作成。こいつにはエステが使用した、ローラーダッシュを付加しよう。」

[了解、RとシュツバルトM型を経由して直ぐに取り掛かるから一ヵ月。ビルトラプターはDFの件もあるし作成には一年もらうよ。シュバインは四ヵ月程かな?]

「結構かかるな……。」

[マスター…いくら設計図があるといっても実際組み立てるとなると、食い違うとことかあるものだよ。それにここには人間がマスターしか居ないんだ、すべてコバッタ達でやると細かなとこはどうしても時間がかかる…。これでも本来、人間じゃないとできない部分もある程度賄えるだから、贅沢言わないでよ!]

ウィンドを大きく展開して、怒りを表現するサラ

「わかったよ…。」

祐樹はしゅんとしながら頷く

「マスター、気を落とさず……サラの能力が足りないだけですので気になさらないで。」

ノルンは会話に参加できなかったためか、毒を吐きつつ祐樹を慰める

[ノルン……喧嘩売ってる(#^ω^)]

器用にウィンド内に顔文字を映し出す

「さぁ?」

ノルンは素知らぬ顔で、明後日の方向に顔を向けた……

「さて、マスター。武器の改良等も致しませんと。」

「そうだね。まずは360の改良。あとはどんな物が作れるんだい?」

「現在作成できる物はこれですね。」

ノルンは祐樹にウィンドを飛ばす。中身を確認してみると

スプリットミサイル【0】
サークルザンバー【0】
ハイパー・ビームライフル【0】
三連マシンキャノン【0】
ツイン・ビームカノン【0】
M950マシンガン【0】
G・リボルヴァー【200】
M13ショットガン【200】
メガ・ビームライフル【0】
スラッシュ・リッパー【500】
ブーステッド・ライフル【800】
コールドメタルナイフ【100】
ビームソード【300】
ネオ・プラズマカッター【400】

「これも設計図かな?それに各機体の固定武装まで…」

祐樹の質問に

「はい、そうですね。習得された機体の武装は設計図に記載していますので…。作成には別途、資材等が必要になりますがね。」

注意を促しながらノルンは肯定する

「とりあえず、360の改良から始めたい。サラ」

[なんだい?マスター?]

「戦術機及び武装関連はどうなっているんだい?」

[1999年までに製造された物なら大体はデータが揃っているよ。ただし、僕が情報収集していたのは、帝国と米軍と国連のみ…ここら辺がまだネットワーク関連が整っていたからね、あとはあまり……]

「そうか、なら360の改良は87式突撃砲とラピッドライフルの合成でやってみよう。」

祐樹の提案にノルンは

「ようは、87式の装填弾数にラピッドの弾速力を複合させるんですね?」

「ああ…そんな感じで。」

「わかりました、マスター。」

「習得武装は」

M13ショットガン【200】
スラッシュ・リッパー【500】
ブーステッド・ライフル【800】
コールドメタルナイフ【100】
ビームソード【300】


祐樹はこれらを選択した

「これで。残り2万3100Gだけど……、何があるかわからないし、武器弾薬に機体の生産もある…ライフルの改良もしたいしね。今はこれで終わらそう。」

そうノルンとサラに告げた

[了解。]「わかりました。」









「さて、今後の方針を決めていこうか。」

一息入れて、祐樹はそう話し出す

「まず一つは、量産戦術機の確立…戦術機をベースとして俺達が持つ技術を融合させた物の開発。」

人差し指を上げて祐樹は真剣に告げる

「現在の不知火には"発展性のための構造的余裕"がまったくない。つまりこれ以上のスペック上げができないらしいが…それはこの世界の技術のみだけでの話だ。」

「今、考えられるだけでも主機をプラズマ・ジェネレーターに、OSをTCに、これだけでもずいぶん変わると思う。実際は色々検証しなきゃわからないけど……」

「最終的には現状の不知火を上回る量産機を作成したい。だから……」

祐樹は深く息を吸い、一拍おいて

「XFJ計画に介入する。」

そう宣言する

「現地に介入されるのですね?」

ノルンの言葉に祐樹は答える

「ああ。俺たちにできることには限界がある…。ならばこの世界の人達と協力していかなきゃ。」

祐樹はそう断言した

「次に、戦術機適正が低い者にも動かせるように、テスラドライブ搭載型・量産型ゲシュペンストを作成。これはコストがかかるがBETAに有効な三次元機動…つまり人型機動兵器に乗れる人間がこの世界には一部にしかいないという現状を打破し総戦力を上げる。」

中指を立てながら続ける

「これはテスラドライブを完全に重力制御仕様にして、ジャンプや機動の揺れ等を極限まで無くして戦術機に乗れない人にも動かせるようにという計画。」

「最後は。」

薬指を立て一息入れて話す

「持ち込んだ技術を利用した機体・武器を生産。有効かそうでないかを確認していく。」

「これら三つを2001年までにある程度、形にしたい。」

祐樹はそう締めくくる

[やることは一杯あるね。]

「ですが、それがマスターの望みです。わたくしは精一杯手伝わせていただきます。」

ノルンがサラを牽制しながら祐樹に優しく微笑む

[僕だって!!マスター見ててよ!!絶対、納得いく物作るからさ。]

サラも対抗して祐樹にアピールする


「ああ、二人共。頼りにしてるよ。」

祐樹は穏やかな微笑みを二人に向ける

「はい❤」[任せて♪]

ノルンは頬に朱を指して了承し、サラはウィンド内をピンク色にしながら映し出す


「ここから…なんだな……」

祐樹は感慨深げに呟き、瞳を閉じる












































そう、ここから……


佐橋祐樹が長く、苦しくも、もがきながら描いていく

















"あいとゆうきのおとぎばなし"(MUV-LUV ALTERNATIVE) である









[20464] ダイバー 第八話
Name: るー◆584161b8 E-MAIL ID:96b32de8
Date: 2010/08/13 16:54



















―2000年 3月25日 木星 コロニー








あれから、約五ヵ月が経過した……

結局のところ、サラの指摘通りに作成中問題が発生したり

祐樹が追加注文…コクピットをOGをベースに衛士強化装備を流用できるように改装…ならびにCIWSの搭載…近接防御用砲塔ようはバルカン…等行ったため

PTのロールアウトは現在、MK―Ⅱ・Rとシュツバルトのみとなっている

両機共、ロールアウトは一月前で評価試験も実施しており、さらに作成した武装も評価は済んでいる

結果、シュツバルトは予想通り、重装甲による機動性の低さによる対応の遅さが欠点となり使えて支援機ぐらい…それならばM型にツイン・ビームカノンを乗せて済まそう。ということになり解体となった……

ツイン・ビームカノンは足を止めての砲撃、さらに出力が必要だが、BETAに対する打撃力は高いので有効性を確認できた、重量の増加はあるが……

MK―Ⅱ・Rは概ね祐樹の予想通りに、M型の強化発展型という位置づけに、ふさわしいスペックを発揮

ただ…やはり量産機にするにはコストがかかる上に、整備性はM型より悪化したのでワンオフ機となった

カラーリングはダークブルーに

コクピットはOGと戦術機の融合…OSも改良したので名称はXM3をもじって"XMO"と名づけた

武装は

ビーム・ソード×1
CIWS《近接防御砲塔》×2
360マシンガン改×1
試作ギガ・ビームライフル×1
スプリットミサイル×2
ジェットマグナム《厳密にはプラズマステーク》
36mm砲弾倉×5
EPⅡ×5

CIWSは前述の通り近接防御砲塔、群がってくる小型種に対しての防御用バルカン。これは戦術機にも合うように開発した

360は前回の通り改良、試作ライフルは威力UPを成功させたが大型化、ついで小回りが利き難くなり戦術機の手腕に装備させることも難しいため
一丁のみ作成した

EPⅡはエネルギー圧縮率を高め、前回の二倍のエネルギーを積めることに成功、正式採用とした

36mm砲弾倉はこの世界の物である

ビーム・ソードは突撃級の前面装甲殻に傷を付けられたので、これも採用とした

この他に作成したM13ショットガンは小型種には有効であるが、射程が短く、散弾ゆえに有効性が低くお蔵入り

メタルナイフは65式近接戦用短刀と性能がかわらなかったため不採用

スラッシュリッパーはその携行性に、手腕を使わずどの体勢からも使用でき、前面以外からの攻撃が有効と判断。ただしモース硬度15以上にぶつけるとこちらが粉々になるが…

ブーステッドライフルは折りたたんでのウェポンラックへの収納が可能なのと狙撃が可能になることから採用、威力も申し分なかった。が

本職の狙撃兵なみの超長距離の狙撃には向かない……折りたたみによる微調整ができない部分が欠点である

評価試験は火星のBETAを誘き出してテストした







「大体、こんなところか。五ヶ月でここまでできたら上出来か…。」

祐樹は経過報告書を見ながら、カフェオレをすする

「戦術機の改良も併せて行っていますからね……。」

ノルンが答えた

「その戦術機だけど…XFJ計画への介入準備は大丈夫?」

「はい。こちらから"XMO"のデータ…この世界の技術のみが載った空白だらけだが、最終スペック能力表…に"ゼロ"と"見えざる脅威"の名を記載した通信を巌谷 榮二中佐に送っています。」

ノルンはウィンドを展開し、その中にに送ったデータを表示した

「で、反応は?」

祐樹の問いに

「面白いほど、反応しています。特に"見えざる脅威"と"ゼロ"に…」

ノルンは含み笑いを浮かべながら答えた

「まさか、この世界にも"Gespenst"と名づけられるなんてな……」

考え深げに呟く祐樹

「まぁ、たった一機で戦場を翻弄させ、あまつさえ掻き消えたのです。それに神宮司少尉達からの報告もありますし、現在でも捕獲命令は生きてますしね。」

「中佐の持つ情報網がフル活用されていますが…引っかかるわけもないです。仮にもわたくしは電子妖精です、ログすら残しておりません、追跡は不可能ですし…わたくし達は木星ですからね。」

胸を張ってノルンはそう宣言した

「ほんと、ノルンには感謝してるよ。」

優しく人差し指でノルンを撫でながら微笑む祐樹

「光栄です……❤」

顔真っ赤にしながらもノルンは続ける

「ですが、マスターにもできることですから……。」

「そういえば…俺、チャイルドだったな…。」

忘れていたのか、手のひらを拳でたたく




「さて、ノルン。巌谷中佐に連絡を…一週間後、会いに行くと。」

「いよいよですね?」

「ああ」

「では!ようやくあの装備が役立つ時が!!!」

目をキラキラさせながらノルンはコバッタに例の装備を持ってこさせる

「うぇ…」

祐樹は顔を引き攣らせながら呻いた

例の装備とはゼロ仮面にマントである……

しかも、あのあと独自に改造が施され仮面には超小型変声機によりル○ーシュの声音に、対弾性能、各種センサー付加

もちろんマントにも対弾・対刃性能が付加され、小型のジャンプフィールド…元々、個人用のジャンプ装置はほしかったのだが強化装備に取り付けられなかったので仕方なく……かなりのGも消費した…も搭載

最初は「フハッハッハハハ」と調子こいて遊んでいた祐樹だが、実際これで人前に出るのは勘弁してほしいと思ってる

「ノルン…勘弁して……」

「何を言うですか?!マスター!!これから行くのは敵地に変わらない場所!顔も声もばれず、圧倒的な性能を誇るこの装備を!!勘弁してくださいと?!」

ノルンは目を三白眼にしながら激しく祐樹に詰め寄る…

「わかった、わかったよ!ノルン付けてくよ…。」

ノルンの迫力に負けた祐樹は力なく肩を落とす

「さすがはマスター!!♪」


感性のおかしい子だと……祐樹は内心、思ったのであった




























―2000年 4月1日 地球 太平洋 高度50k ユーチャリス



「はぁ……。」 

[元気出して、マスター。]


溜息を吐く祐樹に対してサラは励ましのウィンドを展開する

現在、ユーチャリスには祐樹のみが搭乗。ノルンには何かあった時のためにコロニーに待機してもらっている

祐樹がなぜ、溜息をついているのか…それは現在の服装のせいである

出発前に部屋に置いてきたはずなのだが、青筋立てたノルンが搭乗口前にコバッタと共に待っていた……

その無言に笑顔の圧力に負けて祐樹は泣く泣く着用…現在に至る


「こうなりゃ!とことんゼロを演じてやる!!」

自暴自棄になったのか祐樹は血走った目で声を荒げて宣言

[ちょっと?!マスター?!]

「行ってくる、サラ。」

変声機を起動させて答え、雰囲気が戦闘時の暗示状態となり祐樹はジャンプした……


[マスタァッァァァッァァァー?!]

サラの大きく展開したウィンドが艦橋にむなしく踊った……




























―帝国軍技術廠・第壱開発局 副局長執務室



現在、ここでは一人の屈強かつ顔に大きな傷が入った男が厳しい視線でモニターを見つめていた

表示されているのは約三ヵ月前に通信先不明の通信に添付されていたデータ……

そこには、現在のOSを遥かに上回るスペックを記載された、ところどころに空白が目立つ設計図

さらには、"ゼロ"と"見えざる脅威"の文字……

今も覚えている……1993年に九―六作戦に参加した衛士が持ち帰った、青い機体の映像……

当時、それを見た巌谷は、背筋に震えが走るのと一緒に、そこに人類の希望を垣間見た…

なんとしてでも、あの技術を手に入れる!!その思いが走りだし持てる力全てを使って、かの機体の捜索を実施したが手がかりすらつかめず仕舞い……現在の帝国の衛士強化装備も事情聴取を受けた女性衛士の装備に残された、データリンクの情報から飛躍的に性能が上がったのだ

強化装備だけで、あれだけの成果に今だ帝国軍内にて、かの機体の捕獲命令が生きているのもその事実があるからこそ

そして今、眼前に一週間前に届いた通信を展開させる

「2000年 4月1日 14:00時に執務室にて一人でお伺いさせていただく。願わくばそちらもお一人で……か。」

座っていた椅子を軋ませながら呟く。もちろん文末にはゼロの名前が入っていた

本来なら、XFJ計画の始動前ゆえに忙しい身であったが…三ヶ月前のメールによりすべての予定が狂った

技術部にデータを検証させた結果、当てはまる物が検討つかないが概ね、これが事実ならスペック表どおりだと……

そのために、計画立案を一時中止にし技術者にデータを手渡したし、解析・討論を行ったがまったく進まず頓挫状態

もし、これが実現するならわざわざ米国と共同で戦術機開発をしなくても既存の不知火を強化できる……

さらには技術提供によっては当初の目標を上回る戦術機すらも開発が可能になるだろう


胸中に焦りと切望が混ざった不思議な感情が湧き出す

「14:00まで、あと30分を切ったか……」

時計を見つめながら巌谷は呟いた……


















―14:00 執務室 





巌谷の眼前で発光現象が起こる!!


「なっ?!これは?!」

驚愕し、椅子から立ち上がる

発光現象が収まり、眼前に黒い仮面にマントを羽織った人物が立っていた

「はじめまして、巌谷中佐殿。」

「君が……ゼロかね?」

喉を鳴らしながら問うと

「そうです。私がゼロです。」

祐樹は冷たい声音で答えた

強化装備に残されたデータには素顔が残っておらず、報告だと黒髪に金目のアジア系男性のはずだが……

岩谷がそう思うと

「失礼だが、仮面は付けさせたままにさせていただく。何、素顔が醜くてね……」

あかさまなことを祐樹は告げる

「……こちらには報告が来ているのだがね。」

「おや?そうですか?ですが私の素顔に何か意味があるのですかな?」

「顔も見せられないような奴の言う事を信じるかね?」

「ええ、私なら信じられませんね。では今回の会談はなかったことで。」

祐樹はマントを翻した

「っ?!……待ってくれ。」

突如としてこの部屋に現れた人物だ、脱出するのも簡単であろう……

巌谷はそう推測し、祐樹を留める

「おや、どうされましたかな?」

「仮面の件はいい……本題に入りたい。」

苦々しげに岩谷は告げ

「賢明な方は好きですよ……」

含みを含めた声で祐樹は答えた

そうして岩谷はソファーに祐樹を案内し、自身は対面に座った

「さて、本題と入りましょうか?」

「ああ、貴君が送ってきたデータについて……」

巌谷は唾を飲み込み、プリントアウトした"XMO"を設計図をテーブルに置く

「単刀直入に聞く。これはあれ…"Gespenst"に搭載されており、かつ君はこれの完成図を持っているのかね?」

「ええ、ゲシュペンストに搭載されていますよ。何をそんな当たり前のことを…。」

「それが、どいうことかわかって発言しているのか?!」

「ええ。」

「これが!!実現すれば!!戦術機に革命が起こると言っても過言ではないのだぞ!!」

岩谷は声を荒げてテーブルを叩く

「そうです。革命です。戦術機の革命!!」

ソファーから立ち上がり、マントを翻しながら部屋の中央に向かう

「そう、現在のOSが霞む程にこれ…"XMO"は計り知れない恩恵を戦術機に与える!!」

岩谷に体を向けながらマントを大きく広げる

「戦術はもちろん戦略すらも書き換えてしまう…BETA共をこの日本から追い出すことができる!!夢のOS!!!」

大げさに誇張しながらも祐樹は言葉を続ける

「その夢を…あなた方に提供いたしましょう。」

「なぁ?!」

目を白黒にさせながら、巌谷は驚愕した

「ただし、こちらからの条件を飲んでくれるのであればですが。」

すかさず祐樹は告げる

「……まずは、聴こう…。」

「一つ、XFJ計画を我々との合同開発計画にしていただきたい。」

「?!?!どこでそれを?!それに!」

さらなる驚愕に巌谷は声を大に叫ぶが

「話は全てをお聞きになってからで……」

祐樹は勤めて冷静な声で岩谷を誡める

「っ!すまない……続けてくれ。」

「一つ、現在建設中の国連横浜基地に我々を捩じ込んで頂きたい。」

「一つ、我々に帝国軍の軍籍を用意していただく。今のところは以上。」

祐樹は一気に言い切る

「…XFJ計画はこちらとしても願ったらかなったりだ。それに帝国軍の軍籍も用意させることはできる……。」

言葉を一度切り

「だが…国連に関しては私にはどうすることもできん。」

さらに一拍おいて岩谷は問いかける

「それに、なぜ我々と技術提供を?はっきり言って苦々しいが我々が保持する技術とそちらの技術には格差があるようだが…」

渋い顔で告げる巌谷に祐樹は答えた

「ええ、たしかに。ですがこと組織力で言えば、あなた方、帝国軍もなかなか。ゆえにですよ。」

祐樹は仮面を手で覆うようにしながら言葉を紡ぐ

「技術はあれど、我々には量産体制を持つことができない……ようは持ちつ持たれつです。中佐殿。それに……。」

祐樹は部屋内を見渡す

「中佐は私からの願いに応えた…。一対一の会談に。私には付近の様子がすぐにわかる…誰かが潜んでいる、または扉近くに待機しているようなら早々に退出していましたよ。」

おどけた声ながらも信頼の言葉を祐樹は告げた

「ふふ…私も衛士の端くれ。いざとなったら自力で切り抜けるぐらいはできますぞ?」

岩谷も空気が弛緩したのを感じ微笑を浮かべながら祐樹の軽口に付き合う

「はは、それは恐い。」

祐樹も声を笑わせながら応える

「今は、まだ私の正体を明かせませんが、時期が来た時には。」

「わかりました…。これからよろしくお願い致しますぞ、ゼロ殿。」

握手を交わしながら祐樹は告げる

「ええ、共に日本の未来……人類の未来を」

万感の思いを言葉に乗せながら祐樹は呟く

「ああ、必ずや…!!」

その言葉に巌谷は確信を持つ。よき同胞にめぐり合えたと……







この後、祐樹と巌谷は会談を続け詳細を詰めていった


























季節は四月、雪が解け、春を告げる風が舞う……





















人類の未来にも小さいながら春を告げる風が舞いだした…























[20464] ダイバー 第九話
Name: るー◆584161b8 E-MAIL ID:96b32de8
Date: 2010/08/06 08:23


















―2000年 4月1日 地球 太平洋 高度50k ユーチャリス






あのあと、巌谷中佐との会談は一区切り付き、祐樹はユーチャリスに戻っていた

「ふぅ~~、なんとかなった。」

服装はゼロスーツからインナーをブラウンのタンクトップにダークブラックのレザージャケット

に同じカラーのストレートのスリムレザーパンツ。首元にロザリオのネックレスを架けている

[お帰りマスター。一時はどうなるかと思ったよ…。]

サラはウィンドを展開する

「我ながら、よく協力を取り付けられたなと思うよ……。」

[まぁ無事に帰ってきたことだしね。成果は?]

「上々だよ、帝国軍の軍籍も用意してもらえることになったし。本命のXFJ計画は俺達との共同開発ってことで合意してもらったから、"XMO"を餌に上層部を黙らせて見せるって中佐、息巻いてた。」

顔に微笑みを浮かべて祐樹は語るが

「だけど、横浜基地については保証できないと…まぁなんとか帝国からの協力者的な感じで捩じ込めるか試してみるって言ってたけど……」

[まぁ、十中八苦、無理だろうね。]

「だろうな~~。」

サラのウィンド内容に祐樹は同意する。相手は"極東の魔女"の名を持つ香月夕呼である……そうは問屋がおろさないだろう…

「00ユニット開発……たしか"生物根拠0生体反応0"の機械に人間の魂を宿したモノ……ここに似たような奴が居るのにな。」

[まぁ僕の自意識を人間の魂と判断するか、微妙だけど……]

ウィンドを展開しその背景に?を無数に浮かばせる

「いや、それこそ魂ってなんだよ?って話にならないか?俺はサラは立派に魂を持ってると思うし。」

至極当然のように答える祐樹

[マスター…]

「あと量子電導脳……正直オモイカネ級に匹敵すると思う?」

[うーん……無理じゃない?正面から電子戦でもやらかせば、どれぐらいのものか判別できるけど…マスターの助力がなくても僕一人でなんとかできそう。]

「時代背景からして、まず無理だよな。」

祐樹はサラに同意しながら首を縦に振る

「となると、香月博士へのカードはサラがジョーカーってことか……」

艦橋に唯一あるオペレーターシートに背を預けながら座る

[でも、さすがに運は僕にはどうしようもないけどね。]

「まぁ、かなり参考にはなるだろう。もともとオーバーテクロノジーの塊だし、サラは。」

[僕自身を生贄にしないでよね……]

サラが展開したウィンドはただのウィンドのくせに、ジト目を向けてきてるかのような雰囲気をかもし出している……

「しないよ!!」

祐樹はあわてて否定する

[まぁ、マスターがそんな奴だとは思ってないけどね♪]

ただのウィンドからイシシシとした笑いを浮かべてるような雰囲気を感じるのは、気のせいだろうか…

「さて、中佐からの連絡が来るまでになるべく詰めとくか。」

[そうだね。]

祐樹の眼前に浮かぶウィンド……

そこには不知火をベースに考案した戦術機の設計図が浮かんでいた







































―2000年 4月15日 帝国軍技術廠・第壱開発局 副局長執務室




「おひさしぶりです、中佐殿。」

ボソンの光の中から祐樹は挨拶する

二日前に祐樹宛に中佐からの通信がPAKに届いたので本日窺わさせて頂く。と返信し

ジャンプで直接、執務室まで飛んできたのだ

「ひさしぶりだな、ゼロ殿……前回も思ったのだが、どうやってここに?」

驚きながらも前回の特徴的な服装がすぐに目についたので、巌谷は慌てずに迎えられた

「ふふ……中佐殿。お教えできればよいのですが、あいにくと……」

仮面の口元に人差し指を立て、内緒のジェスチャーを返す

「気になるとこですが……仕方ありませんね…。」

苦笑を浮かべ、肩を竦めて返す巌谷

「さて、まずはそちらからの条件……ある程度整えましたぞ。」

祐樹をソファーへと案内しながら本題へと巌谷は入る

「帝国軍の軍籍はこちらです。」

そういい、何かの小箱とネームプレートを祐樹に渡す

「……ほぉ、技術局…テクノオフィサーの少佐ですか。」

「ああ、さすがにラインの少佐は持ってこれなくてね…。」

「かまいませんよ。しかし中佐が少佐の地位を用意できる等、かなりの権限を持たせてもらってるよう……ああ、なるほど。」

祐樹は答えながら、巌谷の襟元…階級章が大佐に変わっているの確認する

「先日、受け取った"XMO"のデータでね……他人の成果で昇進するとは思いもしなかったよ。おかげで今や局長で、ここは局長室だ…。」

「よいではありませんか。あれの有用性に気づいたのはあなただ、いかに優れたものでも見るものが変われば屑と判断されることもある。」

膝を組みながら祐樹は一旦、言葉を切る

「あなたは見事、私との交渉に成功し技術を獲得なされたのです。その評価でありますよ…、それに大佐が局長であれば、これからは動きやすくなる。」

「そうだな……。」

渋い顔は変わらないが納得したのであろう…祐樹の言葉に頷く

「さぁ、まずは私からお渡しするものはこちらです。」

プリントアウトした書類の束を巌谷に渡す

「ふむ……」

巌谷は書類に目を通しだす

「全て、目を通して理解して頂いてからでないと話は進めませんので…。どうぞごゆっくり。」

祐樹は巌谷にそう告げる

「わかった…では、今の内に施設の案内をしよう。」

そう巌谷は告げ、書類をテーブルに置いてデスクに向かい内線を使う

「篁中尉をここへ。」







―五分後


「篁 唯依、要請により出頭いたしました。」

山吹色の帝国斯衛軍の制服を着た女性が敬礼して入室する

「おお…篁中尉、忙しいところを申し訳ない。」

顔を崩しながら朗らかに声をかける巌谷

「いいえ、大佐。それと…軍務中でありますので……。」

しかし唯依は生真面目に返し、巌谷にそれとなく注意した

「いかん、いかん…ゼロ少佐、彼女は篁 唯依中尉。」

巌谷と祐樹は一瞬、目を合わせる

「…初めまして、篁 唯依と申します。」

祐樹の格好を見て、若干詰まりつつ自己紹介する

「はじめまして、篁中尉。私のことはゼロとおよびください。」

ソファーから立ち上がり挨拶を返す祐樹

「ゼロ少佐……ですか…?」

何かひっかかるのか、唯依は訝しげな顔をしながら呟く

「篁中尉、ゼロ少佐に開発局をご案内してあげなさい。」

「はっ!承知いたしました、大佐。」

巌谷からの命令にひっかかっていた思考を破棄し即座に受ける

「ゼロ少佐、これを。」

巌谷は、先ほどのネームプレートと小箱を指す

それに祐樹は行動で返し、小箱の中には階級章がありマントの襟につけネームプレートをマントの胸元に付ける

「では、篁中尉案内をお願いする。」

祐樹は二つを取り付けたあと、唯依に案内を頼む

「畏まりました、少佐。」

敬礼し、唯依は扉に向かう

「大佐、読み終わりましたらお呼びください。」

「うむ…。」

巌谷は答えつつ、視線は書類に向かっていた










―帝国軍技術廠廊下


唯依を先頭に案内を受けるが……

先ほどより、すれ違う人間に怪しい視線を送られるがネームプレートまたは階級章を確認したところで、慌てて敬礼を返す

そんな行動を受け続けていた……

やがて唯依は我慢出来なくなったのか

「その……少佐、仮面とマントを脱ぐことは…できないでしょうか?」

「中尉、すまないが脱ぐことはできない。」

「そうですか……。」

訝しげな眼つきで唯依は祐樹を見る

「ふふ……」

そんな表情に祐樹は含んだ声を上げる

「っ?!何かおかしいことでも?」

唯依は元々、見たときから怪しいと思っていた…この開発局に着任してからゼロという少佐の話を聞いたこともなければ、記憶にある在籍名簿にすら名前が載っていなかった

いくら、相手が少佐でもここまで怪しい格好だと疑ってしまう

「いいや、そんなことはないさ中尉。」

祐樹は唯依の思惑が手に取るようにわかる表情に、さらに声に苦笑をのせる

そんなおり、ふと窓を見れば遠くに不知火が4機…演習場であろう場所で機動していた

祐樹はそちらに目線をやり、観察した結果

「どうやら"XMO"の試験中のようだな…。」

その機動の仕方に"XMO"を搭載した動きだと推測した

「なっ?!なぜ少佐が?!」

驚愕の声で唯依は祐樹に問い、顔を強張らせていく

「何、アレを開発したのが私だからだ。」

「えっ?!少佐が"XMO"を?!」

祐樹の口から飛び出した言葉にさらに驚愕する唯依

しかし祐樹はそんな唯依を無視しさらに不知火を観察するが…

「……しかし、本来の"XMO"の3割程度しか発揮できてないようだな。」

「!!3割程度?!しかし、従来の不知火を遥かに上回る性能を発揮しております!!あれこそ"XMO"の力によるもの!!」

唯依が祐樹の言葉に噛み付く

「たしかに機動性、即応性は上がっている…しかし"XMO"の本質はそんな部分じゃない…。」

一旦、言葉を切り祐樹は思案する

「(ふむ…どうやら根本的なことを理解できてないようだ、従来通りの動きでは"XMO"の真価は発揮できない……ここはひとつ…)」

「見ている感じ、衛士の腕が悪いな。この程度の腕しか帝国にはいないのかね?篁中尉。」

祐樹はわざと唯依の逆鱗に触れるような言い方で聞く

「っ?!」

息を詰まらせ、祐樹を睨みつける唯依

「これでは、宝の持ち腐れだ…この様子だと帝国斯衛もたいしたことないのであろうな。無駄なことをした。」

祐樹は心底、失望した声で唯依に言い放つ

顔を伏せ、肩を戦慄かせる唯依

「先ほどから聞いていれば……少佐と言えど暴言が過ぎます!!!」

唯依が怒りに顔染め、怒鳴る

「事実を指摘しただけなのだがね。」

さらに怒りに油を注ぐ祐樹

「黙って聞いていれば……たかがテクノオフィサーごときが衛士を侮辱する等ぉぉぉぉ!!!!!!」

怒り狂う唯依、祐樹を射殺さんとした視線が刺さる

「では、そのたかがテクノオフィサーが実証して見せようではないか。」

「なんだと!!ふざけるのも大概にしろ!!!!」

「ふざけて等、いないさ。中尉、では私と模擬戦形式で試合をしないかね?」

「どれだけ人をコケにするつもりだ……」

「ふっ…逃げるのかね?まぁ仕方ない。あの程度の腕しかないのだから、おのずと斯衛の腕もわかる……。」

「貴様ぁぁぁぁぁ……いいだろう、私が相手になってやる。」

低く怒りに震える声で唯依は承諾した

「では、お互い準備が出来次第、あそこの演習場に。」

「その首…落としてやる……」

幽鬼がごとき表情に凍りついた声音で唯依は告げ、強化装備を取りに向かった

「さて、条件はクリアした。こちらも準備をするか……」

近くのトイレの個室に入りユーチャリスにジャンプし祐樹も準備する













―15分後


あの後、準備…マントの下に強化装備…を終えた祐樹は演習場に向かった

そこには唯依に三人の男性衛士と一人の女性衛士達が待ち構えていた

唯依から祐樹の話を聞いたのであろう、各衛士からもするどい視線が投げられる

「遅かったな。」

唯依が冷たい声で言い放つ

「何、少々準備にかかってな。」

「ふん、逃げ出したかと思ったぞ。」

「何をばかな…この程度の腕の奴ら相手に、逃げ出したらBETA共を狩ることなぞ夢のまた夢ではないか。」

くっくっと声を漏らしながら祐樹は挑発する

「なっ!」「この野郎ぉ!!」「馬鹿にしやがって!!」「……ちっ」

各衛士から罵声や悪態が漏れる

「なんなら、お前達全員を相手にしてもいいんだがね…?」

嘲りながら祐樹は告げた

「中尉!!ここまで馬鹿にされて黙っていられません!!!!なにとぞ自分達も参加させてください!!」

一人の衛士が唯依に懇願する

「……わかった。相手が承知したのだ、お前達も参加しなさい。」

唯依は腸が煮えくり返っているのも手伝って、祐樹からの五対一を受ける

「ルールはCPからの致命的損傷判定にて決める。」

「わかった。」

「後悔しなさい。」

その言葉を吐き捨て唯依達は機体に搭乗していく


そして祐樹も機体に搭乗する

「渡した"XMO"をそのまま再現したか…。」

コクピット内はMK―Ⅱ・Rと同じ内装であった

「なら……。」

祐樹はコンソールにコードを入力しマニュアル操作に変更し、起動させる

その直後、CPより通信が入った

「初めまして、今回の模擬戦闘のCPを勤めます。伊隅 やよい中尉です。」

網膜投影に映った顔に祐樹は驚く!!!

「なっ!!(なぜ彼女がここに?!内務省勤務のはず?!CPということは軍人だったのか?!)」

「どうかれましたか?」

やよいの声に祐樹は

「(今は考えても仕方ない…)いや、なに知人に似ていてな…。」

「そうなんですか……。」

その時、電子音がなる

「あっ…篁中尉の方は準備が整ったようです。少佐の準備はよろしいでしょうか?」

「問題ない。いつでも開始してくれ。」

「何を言いなさったのか、わかりませんがお気をつけて…。」

不安げな表情でやよいは祐樹を心配する

「ああ、ありがとう中尉。」

「では、カウントします。」

「5」

「4」

祐樹は

「3」

戦術機の腕を上げ、マニピュレーターを立て

「2」

マニピュレーターの人差し指にあたる部分から

「1」

順番に折りながら挑発した

「開始!!!!」


















「なめるのも大概にしろぉぉぉぉぉ!!!」

先ほどの男性衛士の一人が雄たけびを上げ、跳躍ユニットを吹かしながら突っ込んでくる

それにもう一機が続き、後ろから唯依達が援護射撃を行う

「ふん…。」

予想通りの行動に鼻を鳴らし、前方に高くムーンサルトを行いながら87式のペイント弾を突撃してきた不知火の胴体に浴びせる

「「「「「なぁ!!」」」」」

おのおのが驚愕し

「オメガ3、胸部被弾、致命的損傷、大破!!」

CPよりの報告にオメガ3の不知火が動きを止める

さらに祐樹は空中にて右手でウェポンラックより刃を潰した長刀を引き抜きながら

後続の不知火に自身の重量を付加した一撃を左の肩の付け根に叩きつける!!!

刃を潰しているが、重い一撃に不知火の肩から先がもげかけバランスを崩し

そこに87式をコクピットに部分に発射

「オメガ2、左腕ユニット大破!胸部被弾、致命的損傷、大破!!」

さらにCPの判定で動かなくなるオメガ2の不知火


二機をあっさりと始末した祐樹に

「はぁぁっぁ!!!」

唯依はすかさず、87式を連射する


が祐樹はしゃがみ込み、オメガ2の不知火を盾にする

「オメガ1!!」

唯依の掛け声にオメガ1は跳躍ユニットを噴射し、長刀を持つ右側に迂回し射撃体勢を取ろうとするが

「従来通りの動かし方ではな!!!」

体勢が整う前に祐樹は長刀を一直線に振り抜くように思い切り投げる!

切っ先から不知火の胴体部分に当たり

「オメガ1、胸部貫通!致命的損傷、大破!!」

CPの判定に崩れ落ちる

「なんて非常識な!!」

唯依はコクピット内で罵る



三機をわずか1分で屠った祐樹に対して

「こなくそ!!」

オメガ4が長刀を捨てたのを好機と思い突撃し長刀を振り下ろすが

その場に祐樹の不知火は居なかった……

「どこ?!どこにいったのよ?!」

周囲を見渡すが見当たらず

「オメガ4!!真上!!!」

唯依の言葉に反応し頭上を見上げようとするが87式に蜂の巣にされる



残ったのは唯依ただ一人となった……



「なめていたのは……どっちだったのだろうな…。」

自嘲気味に唯依は呟いた

模擬戦開始、わずか1分20秒でオメガ部隊壊滅……

しかも…

「"XMO"……少佐の仰る通りだったな…。」

祐樹が言ったとおりに3割しか…いや1割も扱いきっていなかったであろう

祐樹の機動を見た今、そうとしか思えない

あんな機動ができるのだ…"XMO"は

宙返りしながらの射撃 、さらには空中で抜刀しながらの切り下ろし、最後は長刀を投擲しての敵機撃墜

最後のは、いささか無謀な判断だと思ったのだが…現にオメガ1が反応できていない時点で有効手段には違いなかった

しかし、長刀を捨てたのは接近戦で不利になるのは自明の理

唯依はいつでもユニットを点火し接近できるよう体勢を整え、祐樹の出方を待つ







「唯依姫は待ちか……。」

祐樹の前方には油断なく待ち構える、唯依の不知火

こちらが長刀を捨てた為であろう。やや前のめり気味な体勢で87式を左で長刀を右にぶら下げている

「ふっ、接近戦がお望みか……では応えてやろう!!」

祐樹は不知火を前倒しの姿勢にしながらユニットを点火、滑るように唯依に肉薄しながら87式を乱射する

唯依も横に動きながら87式を発射する

そして、祐樹は残り10メートル付近に近づいたとき

87式を唯依に放り投げる!!

唯依は再度、驚愕し87式を迎撃するが……至近距離での迎撃により

「87式大破、爆発判定により篁機の87式大破、爆破!左腕大破判定!!視界爆煙により一時途絶!!」

CPよりの判定により、一瞬視界が暗くなりついで左腕が反応しなくなる

「終わりだ……。」

祐樹は呟き、両腕のナイフシースから短刀を逆手で抜き出しつつ接近

そのままコクピットを挟み込むように短刀を打ちつけた


「篁機、コクピット横からの斬撃により致命的損傷、大破!」




こうして約2分20秒で模擬戦は終了となった




























―帝国軍技術廠 戦術機ハンガー


「「「「「誠に申し訳ありませんでした!!!!!!!」」」」」


不知火をハンガーに戻し、コクピットから降りた祐樹に対して

唯依達からの第一声が響き渡る

「何、こちらも暴言であったのには変わらない。許して頂きたい。」

祐樹の問いに

「そんな?!少佐の言うとおり…我々は"XMO"を使いこなせていなかったのです!!!」

「さらには上官に対しての暴言の数々…誠に申し訳ございません!!!!!」

代表して唯依が答え、深くを頭を下げた。後ろの衛士達もそれに続く

「そういってもらえると助かるな。」

マントを翻し唯依達を置いて格納庫から立ち去るが

「少佐!!お待ちください!!!」

背中越しに唯依の掛け声がかかり立ち止まる

「なにとぞ、私に修正をお願い致します!!今回の件はすべて私が発端ゆえに、どうか!!!」

唯依の発言は自分のみに罰を下してほしい…後ろの衛士達は巻き込まれただけであると

「ほぉ~……。」

祐樹はマントを広げながら唯依の方に向かい

「?!?!?!」

唯依の頤を指で持ち上げ、唇と仮面がつく寸前まで仮面を寄せる

「では……」

仮面のギミックを動かし、自身の金の瞳で唯依を射抜き言葉を発しようとするが



―ゼロ少佐、至急局長室までお急ぎください


館内放送が入り祐樹は唯依から離れ、足早に局長室に向かう

「………………はっ!!少佐お待ちください!!!」

顔を真っ赤にして沈黙していた唯依だが祐樹がハンガーから立ち去って数秒後、再起動し慌てて追いかけるのだった……





















―帝国軍技術廠・第壱開発局 局長執務室



「大佐、要請により出頭致しました。」「失礼致します!!篁 唯依、入室いたします。」

祐樹と唯依は声を上げながら入室し、デスクに肘を付け手を額に当てた格好の巌谷を見る

その表情と重々しい空気が流れるが数瞬後

「ゼロ少佐……いや、ゼロ殿ここに書かれていることは誠か?」

唯依が居るにも関わらず、ゼロ殿と呼ぶ巌谷

「ええ、全て事実のみ。概要も記載しているはずですが?」

「貴君は何者なのだ……。」

書類に目をやりながら呆然と呟く

「"XMO"に続き、87式を超える突撃砲!!各アクチュエーター部の新機構!!現在の装甲を上回る生成法!!!極めつけは、戦術機に搭載できる核融合ジェネレーター!!!!」

激高しながら巌谷は吼える!!!!

「一体、貴君は何者なんだ………。」

しかし、声が尻つぼみになり力なく椅子に崩れ落ちる……




祐樹は少し間を置いて


「未来を望むもの。」

力強く祐樹は答えた

「力の源は心にある。我らの心はただ一つ。」

手を胸にあてる

「進むべき道は険しいが、だからこそ明日という日は我らにある。」

マントを広げ、悠然と祐樹は言葉を発し、巌谷に手を差し伸べる


巌谷は、手を中空に彷徨わせるが決意の瞳と共に祐樹の手を掴む


「巌谷大佐、我らの明日は?」

「そうなのだな……ここで躓くわけにはいかん……我々…いや人類の明日のために。」


巌谷は迷いを振り切り虚空を見上げる



「では、早速取り掛かると致しましょう。」

「ええ、よろしくお願い致しますぞ…ゼロ殿。」

万感の想いと共に、握っている手に力を入れて想いを伝える


「篁中尉もご協力をお願いしたい。」

今まで渦中の外に居た唯依に祐樹は声をかける

唯依は呆然としながらも

「はっはい!!」

了承の意を返す


「早速、開発室へと向かうとしよう。ゼロ殿…ゼロ少佐、篁中尉。」

「了解致しました、大佐。」「了解です、大佐。」

三人はそのまま執務室を抜ける

先頭を巌谷と祐樹が会話を交わしながら進み

後ろに唯依がついて行く構図となる















「進むべき道は険しいが……だからこそ明日という日は……我らにある…。」

唯依は口の中で先ほどの祐樹の言葉を繰り返した……












時に西暦2000年 4月15日 


こうしてXFJ計画は始動する。


五ヵ月後、この計画の試作一号機


暫定名称“不知火・弐型”が完成するのであった









[20464] ダイバー 第十話
Name: るー◆584161b8 E-MAIL ID:96b32de8
Date: 2010/08/09 13:39
OGを独自解釈している部分があります。あまりにもおかしいと思う部分は指摘をしていただければ、うれしいです。

































―2000年 9月22日 帝国軍技術廠 戦術機ハンガー




眼前に仁王立ちで聳え立つ鉄の巨人

暫定名称"不知火・弐型"

目の前のハンガーにつるされている戦術機こそ

この世界のXFJ計画によって作成された試作一号機である


「あれから、五ヶ月ですか……。」

唯依が感慨深げに呟く

「そうだな、ひとまず試作一号機は完成した。」

祐樹は仮面とマントの格好で答え、手元の資料に目を通す

ジェネレーターを核融合に変更、出力が不知火の60%増

新型アクチュエーターの搭載により可動性及びパワーも40%増

新装甲は強度は変わらないが重量が30%軽くなり機動性も上がった

固定へ兵装にCIWSを搭載して防御性能もUP

各部にPTと同じ、姿勢制御スラスター・索敵レーダーも搭載

不知火と呼ぶには、あまりにも変貌を遂げてしまったのがこの"弐型"だ


「あちらの二号機・三号機は……。」

「ああ、三号機は一ヵ月以内にはロールアウトするが、二号機はな……。」

少し、離れた位置にある二号機・三号機には多くのメカニックが群がっている

「三号機は一号機をベースにテストベッド用に今後の拡張性を持たせるため、フレームから何から弄くっているが。」

祐樹は三号機に視線をやりついで、二号機を見上げる

「あの、二号機には従来の核融合ジェネレーター……今回一号機に搭載されたのはある意味、劣化版の戦術機用ジェネレーター。」

「対するあちらは、本来の核融合ジェネレーターを搭載するために構造変更…従来の戦術機の規格から外れているために、一から作成しているからな…。完成には、少なく見積もってもあと、四・五ヵ月はかかるだろう。」

祐樹は唯依に答えた

「そうですか……しかし、たった五ヵ月でこれほどの機体ができあがったのは、まさに少佐のおかげです!!」

目を煌かせ、笑顔で唯依は言葉を発する

「……。」

祐樹は沈黙で返し

「では篁中尉、私は今日はこれで上がる。"コレ"の正式名称も考えてやらねばならんしな。仕上げは頼む。」

「了解致しました、少佐。」

そうして祐樹は計画が始まった時に、与えられた執務室に向かい

扉を開け、執務室のカメラにダミー映像を流し

ジャンプにてユーチャリスに戻った
















―太平洋 高度50k ユーチャリス 私室


[お帰り、マスター。]

「ただいま、サラ。」

スーツと仮面にマントを脱ぎながら祐樹はサラに答える

[どうだい?順調に進んでる?]

「うーん……一号機・三号機に関しては概ね。」

[ということは、やっぱし二号機は…]

「正直、無理があるかな…完成したとしてもコスト面から正式採用される可能性がかなり低い…まぁ技術力向上には役立ったけど…」

[うーん、となると戦術機をPT化させるのは、やっぱし断念するしかないね…]

「しょうがないよ…技術体系が違うんだしさ……」

私服に着替え終わり、祐樹は椅子に座る

「現状は帝国軍の既存の戦術機には随時、"XMO"に換装させてるし、新規生産はデフォルトになった…それでも一部の戦線にしかまだ投入されていないが……。」

中空にウィンドを展開し、今までの行動表を浮かべる

「で、俺たちの方はビルトシュバインをロールアウト。」

ウィンド内にビルトシュバインの映像が表示される

「火星にて試験運用、結果は良好だけどやっぱし、コスト面から量産に向かないし、ベテランの衛士クラスなら扱えるスペック…まぁ、やっぱしワンオフ機になったね。」

一旦言葉を切り

「でも、これは驚いたよね……」

自身の耳に付いているPAKのコードを伸ばし画面を表示させる


OG関連

習得システム
テスラ・ドライブ


習得可能設計図

☆ゲシュペンストMK―Ⅱ・M【0G】
☆ゲシュペンストMK―Ⅱ・R【10000G】
☆ビルトシュバイン【8000G】
☆ヒュッケバインMK―Ⅰ【13000G】
☆ビルトラプター【10000G】
☆シュツバルト【5000G】


注・作成時には別途、資材(資金)が必要。


<戻る>


「機体を作成・運用した段階でなんだろうな…派生先が現れるのは。」

PAKのデータを見ながら祐樹は呟く

[そうだろうね。まぁヒュッケ作成は四ヵ月前に入ってるし、あと一ヵ月程で完成するよ。その時はノルンが連絡してくるって……まぁあのブラックホールエンジン(以降BHエンジン)は搭載してないゆえの期間だけどね…]

サラもウィンドを展開して祐樹の呟きに相槌を返す

「元々、プラズマジェネレーターを搭載してのロールアウトを、EOTI期間の横槍でBHエンジンの搭載に変更したのが始まりだからな~。」

[まぁ、さしずめOGの009と同じってことだね。]

「そうだな~。でもカラーリングは008と同じにするけどね。緑……微妙だし…。」

祐樹は渋い顔で告げた

[はいはい、ノルンにも連絡しておいたよ。]

「ありがとう。さて」

そう言い、祐樹は再度PAKの画面を見る

技術
マブラヴ 現地参照
ナデシコ ―ランク
OG Fランク

特殊技能
《人工念動力》LV2
《強運》LV―
《マシンチャイルド》LV1
《擬似A級ジャンパー》LV―
《?????》

技能
パイロットLVMAX
剣術・天真正伝香取神道流合戦礼法LV5
射撃術LV5
機械工学LV5



所持G  13万6000



《?????》

<次ページ>


「この二つの《?????》気になるけどカーソル合わしても表示すらされないし、現状は放置だな…。となるとGを使って、技能を上げるか。」

[結構溜まってるね。どれに使うの?]

「こうするよ。」

PAKを弄って各項目にGを振り


技術
マブラヴ 現地参照
ナデシコ ―ランク
OG Eランク

特殊技能
《人工念動力》LV4
《強運》LV―
《マシンチャイルド》LV4
《擬似A級ジャンパー》LV―
《?????》

技能
パイロットLVMAX
剣術・天真正伝香取神道流合戦礼法LV8
射撃術LV8
機械工学LV8



所持G  10万6700


表のようにした

「よし、これで…」

OG関連のページを開く


OG関連

習得システム
テスラ・ドライブ


習得可能設計図

☆ゲシュペンストMK―Ⅱ・M【0G】
☆ゲシュペンストMK―Ⅱ・R【10000G】
ゲシュペンストMK―Ⅱ・S【20000G】
☆ビルトシュバイン【8000G】
☆ヒュッケバインMK―Ⅰ【13000G】
☆ビルトラプター【10000G】
☆シュツバルト【5000G】


注・作成時には別途、資材(資金)が必要。


<戻る>

続いて武装項目を開ける

スプリットミサイル【0】
サークルザンバー【0】
ハイパー・ビームライフル【0】
三連マシンキャノン【0】
ツイン・ビームカノン【0】
M950マシンガン【0】
G・リボルヴァー【200】
M13ショットガン【0】
メガ・ビームライフル【0】
バースト・レールガン【800】
G・レールガン【800】
スラッシュ・リッパー【0】
ブーステッド・ライフル【0】
マグナ・ビームライフル【1000】
ツイン・マグナライフル【1000】
コールドメタルナイフ【0】
ビームソード【0】
ネオ・プラズマカッター【400】
アサルトブレード【600】

となっていた

「機体は…タイプSが追加!!武装はレールガン系にビーム実体弾系か…」

「まずはタイプS獲得…初の特機系の設計図!!」

「武装も追加された物は全て獲得しよう。」

祐樹はさっそく、PAKを操作する

「残り8万3100か。」

[いいや、マスターS型の作成費用。]

「え?火星で採掘した資材はまだあるはず…。」

[それ、M型の量産とヒュッケに回してるよ。マスターが指示したじゃないか。]

ぷんすかとした雰囲気をかもし出すウィンドをサラは展開した

「あ~~……、そうだったな…。」

[三万ほど、いただくよ。]

「うっ…わかったよ」

しぶしぶながら祐樹は許可を出す

[特機か~~、初めての分野だからどれぐらいかかるか。今は検討つかないよ…。]

サラがウィンドを展開し

「できるだけ早くロールアウトしてほしいな、実機による戦術機との比較が試してみたい。」

[わかってるよ、マスター。]



「さて、そろそろ香月博士に接触するか…。」

[いよいよだね、マスター。僕もPAKの方に意識の一部を移すよ、直接助言とかI・F・Sとナノマシン脳を介して思考共有もできるし。]

「ああ…、あの香月博士、相手だからな……よろしく頼むよサラ。」

[任せて♪マスター♪♪]

「現在の横浜基地はオルタネイティヴ4占有区は完全稼動で、基地自体は四割程の完成…元は帝国の敷地だから一応の報告が回ってきていたのが助かった…イメージはゲームと同じ執務室を浮かべればいいか。」

祐樹はそういい、夕呼の執務室をイメージしていき、ジャンプしようとするが……


頭にノイズがかかった重頭脳級の映像がよぎりジャンプがキャンセルされる!!

「っ?!」

[どうしたの?!マスター?!]

サラの問いに祐樹は背筋に悪寒を感じながら返答する

「イメージを固めようとしたら…突然、BETAの重頭脳級の映像が頭をよぎったんだ……。」

[?!?!……マスター、タイプRのコクピットにジャンプできる?]

「やっ……やってみる。」

祐樹はつまりながも答え、イメージしジャンプを行う

そして

「できた……。」

タイプRのシートに座った状態で呟く

[その状態で、タイプRごとマーズ・ゼロのハイヴにジャンプしてみてくれない?]

「なっ?!自殺行為だぞ?!」

[僕の仮説が正しければ、マスターは100%そこにジャンプできない…。]

「わかった……外縁部にジャンプしてみる…できたら速攻で戻ってくるからな!!」

自棄気味に祐樹は吼えた

[わかってるよ、マスター。]

そうして祐樹はイメージしていくが…

再度、先ほどの映像が脳裏に浮かびジャンプがキャンセルされる

その光景にサラがウィンドを展開し

[やっぱし……マスター、たぶん演算ユニットがBETA共に占拠されているからなんだろうけど、ジャンプに規制がかかってるみたい…。]

「俺もそう思う……しかもイメージからして。」

[うん、たぶんハイヴとかBETA共の拠点とか重要地点にはジャンプできないだろうね……。]

「ということは、横浜基地には……。」

[うん…生きてるハイヴがあるから、それでキャンセルされたんだろうね。]

「となると帝国からは突っぱねられたし……潜入しかないのか…。」

[ぽいね……。]

「そんな…スネークじゃあるまいし、俺が潜入技能関係の経験とかあるわけないだろう……」

祐樹は意気消沈して肩を落とす

[うーん……なんとかなるかも知れないけど、時間がかかるのが一つ心当たりあるんだけど…。]

「なんだそ。」

祐樹の言葉にユーチャリスの通信機能に緊急連絡が入ったコール音が大きく響く

「一体なんなんだ?!」

通信先を見て帝国軍からと判断

内容を確かめると

「巌谷大佐からの緊急呼び出し……。とにかく行ってくる!!」

[気をつけて、マスター!!]

祐樹は私室に戻り、スーツ・マントを着込み、仮面を装着して

帝国軍の自身の執務室にジャンプする




















―帝国軍技術廠・局長室


執務室にジャンプ後、ここまで駆け足で来た祐樹

息を整えてノックし入室する

「大佐、連絡を受け参じました。」

祐樹は巌谷に告げる

「ゼロ少佐?!待っていたぞ!!さぁこちらに!」

室内には巌谷以外に唯依が詰めていた

祐樹は促されるままに巌谷のデスクに近寄ると

「少佐、単刀直入に告げる。BETA共が第二次防衛線に突如、大量侵攻して来た。」

唯依が言葉を引き継ぎ

「現在、第二次防衛線でなんとか防いでいますが何時まで持つかという事態になっており……。」

祐樹はその言葉に

「で、ここから救援を派遣しろということか……。」

空気を察してそう答えた

「ああ…、上層部がこの機会に試作一号機を戦線に投入して戦果を上げろと言ってきた……今だ、テスト運用すらもしていない機体を実線投入せよと…!!」

巌谷が歯を食いしばりながら吐き捨てる

「付近の基地からも増援を送っていますが、それでも現状維持が精一杯で……。」

さらに唯依が顔を曇らせながら告げる

「ふふ…大佐、良い機会です。試作一号機で私が出ましょう。どうせ上層部はこの展開を打開する術が現状、すぐに用意できないために我々に時間稼ぎをさせたいのでしょう。」

「実際、我々の部署は金食い虫ですからね…上層部は使った金の分、しっかりと成果をあげろと…遠まわしに言ってきている。ならば戦果を上げ黙らせるに限る。」

一旦、言葉を切り再度話し出す

「ここには、オメガ小隊に…篁中尉のホワイトファングス、“XMO”の教導部隊練成のために詰めていたのが幸いでしたね。」

祐樹は優雅にマントを広げて告げた

「しかし……」

巌谷は詰まるが

「大佐、万が一、試作一号機が破壊されたとしても一ヵ月後には三号機がロールアウトします。それに一号機の機体データは採ってあります…、この上は実戦データの収集を致しましょう。」

祐樹はさらに巌谷に告げ

巌谷は少しの間のあと

「わかった……少佐の言う通りにしよう…上層部からの要請もあるのだ。どの道、一号機の出撃を免れないなら少佐に任せよう…。」

「ご配慮ありがとうございます、大佐。」

祐樹は恭しく礼をする

「ただ……少佐はテクノオフィサーだ…申し訳ないが部隊指揮権は篁中尉が執ることになる。」

「かまいません。」

「では、準備が出来次第、出撃を。」

「はっ。」「了解致しました。」

祐樹と唯依は敬礼で返し、足早に部屋を出て強化装備に着替える

その後、機体に搭乗し一行は第二次防衛線と向かう


































西暦2000年 9月22日

本来の歴史では起こらなかったBETAの第二次防衛線への大量侵攻

これが吉兆か、はたまた凶兆となるか






それは誰にも知りえないことであった……








[20464] ダイバー第十一話
Name: るー◆584161b8 E-MAIL ID:96b32de8
Date: 2010/08/11 04:13




















―第二次防衛線 ラインより20k 





現在、祐樹達は防衛線に向かって進軍中である

部隊編成は祐樹が試作一号機、唯依は"XMO"を搭載した山吹の武御雷

ホワイトファングスは一機、《不知火・壱型丙》で残りは全て《不知火》の5機

オメガ小隊も《不知火》4機、計11機

全ての機体に"XMO"は搭載済みである

他にCPが乗り込んだ82式指揮戦闘車両が一機と三機の補給車両と87式自走整備支援担架が続いている



「さて、"コイツ"の試運転が実戦になったが…いつも通りにやるのみ。」

祐樹はコクピットにて呟きつつ、コンソールを弄る

「しかし、正式名称がないとやりづらいな………………決めた"真改"と名づけよう。」

祐樹は刀の業物より名前を引用しCPに繋げる

「伊隅中尉、現時刻より暫定名称"不知火・弐型"は"真改"とし、コールサインはリベリオン1とする。」

指揮車両に搭乗するやよいに祐樹は伝えた

結局、やよいの経歴に関しては事務を専攻していたが、BETA大戦における人材不足の煽りを受け軍事カリキュラム受け

現在はここに任官していることしか、わからなかった……

深く考えても仕方ないので、能力の高さも加えて現在は祐樹の事務やCP等を勤めてもらっている

「了解致しました。現在より"真改"と呼称、コールサイン、リベリオン1を部隊及び本隊にも連絡致します。」

「頼む。」

さて、その真改の武装だが

CIWS《近接防御砲塔》×2
360マシンガン改×1
ブーステッドライフル×1
74式近接戦闘長刀×1
65式近接戦闘短刀×2
36mm砲弾倉×5
ライフル弾倉×5

となっている

CIWS、360にブーステッドライフルは開発した物を流用し、近接装備は従来のままである

ただし、長刀は専用のウェポンラックを開発し鞘に見立て物を腰に装備、抜刀後も納刀することができるようにしている

「見えてきたな……。」

前方に要塞級の図体とレーザー、黒鉛にマズルフラッシュが見えてくる

「篁中尉。」

祐樹は唯依に問いかけ

「車両隊は、司令部に合流。各機はアローフォメーションへ、少佐。」

「私は遊撃に徹する。」

祐樹の言葉に唯依は驚愕しついで

「少佐、危険です!!」

網膜投影に写された唯依の表情は固い

「何、いくら教導を施したところで私は君たちとの連携訓練を積んでいない…そんな者が組んでも邪魔になるだけだ。」

祐樹は唯依を見返して返答する

「しかし……!!」

「何、中尉も私の腕は知っているはずだ。それに大佐には、ああ告げたが《真改》が破壊されるのは防ぎたいからな…無茶はせんよ。」

そう祐樹は唯依を優しく言い含めた

「…………了解致しました。」

長い沈黙のあと、唯依は顔伏せながらか細く了承した

「すまないな中尉、恩に着る。」

データリンクの回線を切り

「さぁ……《真改》よ、貴様の全力…見せてみろ!!」

祐樹は吼えながら、跳躍ユニットを吹かしマッドブラックカラーの戦術機は飛び立った












戦線はがっぷり四つに組んで、一進一退の攻防を表している


そんな中、前線より少し外れた地点で




「きりがないわよ!!」

数体の要撃級に87式を浴びせながら後退する一機の《陽炎》

その戦術機に乗っている女性衛士は愚痴をこぼした

「部隊も私を残して全滅……そろそろ潮時かしらね…。」

弱音を吐くほどに追い詰められ、徐々に包囲されていく

「けど……ただじゃ、死んでやらないわよ!!!」

機体に搭載されたS―11を準備しながら彼女は叫ぶ



そこに《真改》が踊りかかる!!


周囲を包囲していたBETAに上空から360を次々と浴びせる

「そこの《陽炎》!!この隙に包囲網を突破しろ。」

「?!っ」

その言葉と一緒に包囲網の一角が崩され、迷うことなく一気に脱出する《陽炎》

そのまま祐樹は下降しながら360を発射しつつ、長刀を構えてBETAの群れに突入

手近いの化け物へと次々に斬りかかる

右袈裟斬り、左逆袈裟斬り、払い、斬り降ろし、……

流れるように長刀でBETA共を屠りながら攻撃を回避していく

さながら、殺戮のダンスを踊っているように見える

そうして五分もしないうちに周囲のBETAを殲滅し終えた祐樹

「ふむ……やはり実体剣の方が扱いやすいな、それに《真改》も上々の仕上がり具合…。」

コクピット内のコンソールを弄り、機体チェックを行う

そこに

「救援、感謝致します!!」

《陽炎》のパイロットから通信が入り、またも祐樹は驚く

「(伊隅まりか?!……ああ、そういえば彼女は第二防衛線配属だったな…)」

「……どうかさましたか?…。」

こちらの仮面とマント姿と黙った状態に怪訝な反応を返すまりか

「いや、中尉なんでもない……。私は帝国軍技術廠・第壱開発局所属のゼロ少佐、コールサインはリベリオン1だ。」

「っ?!し、失礼致しました!!帝国陸軍本土防衛軍・第十四師団・第314中隊所属 伊隅まりか中尉にあります!!」

コクピット内にて恐縮しきった態度で敬礼をする

「そう畏まらないでくれ中尉、ところで貴官の部隊は……。」

「……みな、立派に…。」

暗に、自爆攻撃(スーサイドアタック)や戦死したニュアンスが伝わる

「そうか……先に逝った仲間達のためにも中尉、君は生き残らねばならない。」

「………。」

悲痛な表情で押し黙るまりか

「生きて仲間達を語り継ぐ…それが衛士なのだろ?」

「ですが!!……まだ、私は戦えます!!」

「中尉、外観からでもそちらの機体状況は芳しくなく映る。それに弾薬なども心もとないだろ?」

まりかの機体は跳躍ユニットに攻撃をもらったのか一部欠けている部分や

脚部及び碗部にも何箇所か損傷を負っている

「まだ、戦うつもりなら予備機または補給・修理を受けるべきだ…現状のままだと正直、足手まといにしかならない。」

祐樹は淡々と告げる

「っ?!…。」

唇をかみ締めて、まりかは無念の表情を作る

「リベリオン1からCPへ、第314部隊の生き残りを保護した。そちらに向かわせる。」

間髪いれずにやよいが返答する

「CPよりリベリオン1へ!少佐!!保護した第314部隊の衛士とは?!」

「安心しろ中尉、運がよかったというのも変だが…君の妹君は健在だ。」

祐樹は苦笑しながらやよいに告げる

「CPよりリベリオン1へ、了解致しました。こちらへ誘導は私が行います。」

安著の溜息が漏れながらやよいは返答した

「頼む。」

短く祐樹は返答し

「やよいお姉ちゃん?!?!なんでここに?!」

まりかの素っ頓狂な声が上がる

「伊隅中尉、今は軍務中よ。ガイドデータをそちらに転送しました、こちらへと帰投願います。……戻ってきたら教えてあげるから今はね…。」

やよいは優しく諭すようにまりかに伝える

「!!了解しました。ガイドに従い、そちらに合流致します。」

まりかはそう返答した

「篁中尉。」

切っていた唯依との回線を祐樹は繋げた

「少佐!!!言ったそばから、いきなり飛び出すとは!!!」

顔真っ赤にさせて、怒っている唯依が網膜に映る

「悪い悪い中尉、さっそくだがそちらの方で彼女をエスコートしてほしい。」

声を笑わせながら、悪びれた様子もなく祐樹は要請した

「少佐…!!わかりました……、オメガ3・4彼女を後方まで送れ、その後合流せよ。」

唯依はオメガ小隊の衛士にそう命を下す

「オメガ3、了解。」「オメガ4、了解。」

両衛士は受諾し、まりかの機体に寄る

「少佐、ありがとうございます。」

「ではな中尉、また会えることを願う。」

「はっ!!」

そうして三機の戦術機は後方へと下がって行った





「さて、我々も動くぞ。」

「少佐!!勝手な行動は慎んでください!!!」

なおも唯依が声を荒げながら祐樹に釘を指すが

「何、説教は帰ってから受けるよ中尉!!!」

その言葉と共にまたも祐樹は《真改》を飛ばし一気に前線へと駆けていく

「しょうさぁぁぁぁっぁ!!!!!」

そんな祐樹に唯依は腹の底からの怒声を上げるがもはや通信が切れた状態であった……






「ふぅ…帰ったら唯依姫からの雷が落ちるのは確定か……。」

若干、憂鬱に言葉を吐く

「しかし、武御雷といえど《真改》に追随できん…なればこそ単独による遊撃が最も効果的。」

今までの操作により、実際のスペックを肌で感じた祐樹

《武御雷》で無理なら、現行の《不知火》等たかが知れている…

さらに跳躍ユニットを盛大に吹かしながら空中を疾走し、ブーステッドライフルを構える

光線級の射程範囲に入ったのだろう、網膜投影にアラートが映り警告音がなる

「跳躍ユニットも改良…もといいPTの物を流用した方がいいな……空中機動が取りづらい。」

そうして重光線及び光線級からのいくつ物のレーザーを横にロール、回避しながら祐樹は呟く

「何にしても、色々と課題が残っているが……今は貴様らを屠るのが先決!!」

祐樹はお返しにとライフルを姿勢制御を巧みに行使して反動を散らしながら、重光線級を優先的に撃つ

120mmより強力な徹甲弾をがその柔らかなBETAの肉を穿つ

お世辞にも連射性能は高くないが一発の威力が強い分、弾を消費せずに片付けられる

「…射程もいいし、威力も悪くないが…やはり取り回しが不便だな。並みの衛士なら射撃体勢を取らなければいけないとこもだな…。」

祐樹の考えでは打撃支援(ラッシュ・ガード)砲撃支援(インパクト・ガード)この二つのポジションが装備することを考えている

「ビーム兵装がこの世界で生産できれば…よかったんだが。」

さらに襲い掛かるレーザーすらも驚異的な機動で回避し、ライフル二発ずつを撃ってきた奴らにプレゼントする

溜息が漏れるでる祐樹の表情はやるせなさをかもし出している

この世界の技術力ではビーム兵器の開発が困難な状態だ…いずれは技術を渡し育成していくつもりではあるが、現状ではまったく対応できないため今回は見送った

「核融合の件もある、焦らず土台を築いていくしかないか……。」

呟きつつも祐樹は光線級を駆除する

装填中のライフルの弾倉が尽きたため下降しながらラックに収納し、360を構えて乱射しながらNOEにてBETAに接近していく

そして、距離がつまり先頭の要撃級に抜刀しながら一撃を加え、そのままBETAの群れに突っ込む!!

斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬っ!!!!!!!!!

駆け抜け様にひたすら長刀を振るい、右後方に飛び出して行き、反転して360を無防備な背中に浴びせる《真改》


その様子を見ていた、近くの戦術機に搭乗した衛士は後のこう表した

「まるで黒い武者」

「カラーリングから悪鬼を想像した」

等、そのすさまじい戦果に戦慄するのであった


さて祐樹が再度、同じ突撃を三度かけ敵陣をズタズタにし一旦後方に下がり、弾倉の交換を行おうとしたときCPより通信が入る

「CPよりリベリオン1。」

「こちらリベリオン1。」

「少佐の突撃により、全体の約四%が殲滅されました。」

「約四%……つまり…。」

祐樹の言葉に

「はい、今だ7000規模のBETAが顕在しています。」

やよいは顔を窄める

「篁中尉達はどうだ?」

「現在、一機も欠けることなく全機奮戦、戦線を支えております。」

「後方は?」

「おかげで、こちらへのBETA侵攻は受けておりません。」

「上層部は、なんと?」

「現状を維持しつつ、各員奮戦せよ…としか。」

この問答に祐樹は押し黙る

「中尉、一旦回線を切る。私から連絡が入らない限りこちらに通信は送らないでくれ。」

「了解致しました、少佐。」

そう言って通信が切れるのを確認すると回線をロック、祐樹は仮面を外し耳元のPAKを正面にやり

「サラ、聞こえるか?」

[感度良好!!なんだい、マスター?]

虚空に映し出されたウィンドからサラの返答が来る

「ユーチャリスのGBをスタンバイさせて、この空域になるべく隠密に来てくれ。」

[…………マスター、難しいよ…航行だけなら雲の合間を縫って進めば多少は誤魔化せるかも知れないけど、GB撃つとなる地表に向けて撃つわけにはいかない……そうなれば、ユーチャリスの存在をばらす事になるよ。]

「わかっている…しかし、軍から指示が現状維持のみしか司令部にも伝わっていないなら最悪の事態を考えなければならない…。」

[…わかった、準備して向かうよ……でも急いでも一時間はかかるからね、それまで持ちこたえてよ。]

「ああ…。」

そうして祐樹はサラとの通信を切り、仮面を装着しCPに繋げる

「リベリオン1よりCPへ。」

「こちらCP。」

「残存戦力はどのようになっている?」

「後方の戦車大隊76機、戦術機が我々を含め36…35機となります。」

「わかった、引き続き遊撃に徹する。報告と戦線救援要請は随時頼む。」

「了解しました。」

やよいとの会話を切り、祐樹はBETA共がひしめく戦場へと再度突入した








時が立ち場所は変わり、こちらは唯依率いるホワイトファング&オメガ小隊混成部隊


「オメガ3、ファング3!!前に出すぎだ!!下がれ!」

唯依の怒声が響く

現在、司令部より70k先の地点にて唯依達は防衛線を構築

唯依達の戦術機9機にさらに6機の《撃震》《陽炎》《不知火》が健在し

ここより南方の地点でも押し上げてくるBETA共を相手に祐樹を除いた残りの戦術機が展開している


唯依の怒声に応じ、《不知火》と《不知火・壱型丙》が若干さがる

ここまで、誰一人唯依の部隊が欠けていないのは"XMO"の恩恵と祐樹との訓練によるものである

しかし、戦線は下がり終にここまで後退せざる終えない状況となった

「ファング1よりCPへ!!残敵は?!」

唯依からの問いかけに

「現在2000程までに!!」

「くぅぅぅ!!まだそれほど居るのか!!」

唯依達が戦線に参戦してから一時間以上は立っている……

機体もさながら衛士達自身の体力及び集中力も低下してきている中、今だそれだけのBETAが居るとなると最長士気を保つのも危うい

そんな、やりとりをしている中、突然BETAの群れが左右に割れ光線級が姿を現す!!

「えっ……?」

一瞬の空白のあと、機体からのレーザーアラートと警告音が鳴るが反応できず

目を閉じ、最後の瞬間となる時に浮かんだのは黒衣のマントと仮面をつけた人物との数々の思い出が浮かび上がる…

たった五ヵ月程度の付き合いだったが、驚きの連続とその言葉に想いが詰まっていたため色鮮やかに脳裏をよぎった





「(少佐!!!)」







レーザーが照射され






「唯依姫ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」


間一髪、高速のNOEから唯依の《武御雷》へタックルをかける《真改》

その甲斐あって唯依はレーザーの射線から逃れるが

「くっっ!!」

代償に祐樹の《真改》はライフルを携えていた左腕の肩から下を持っていかれた

しかし、すかさずラックから360を引き出し光線級に乱射し屠る

「少佐?!?!」

いつまで経っても意識が途切れないことを不思議に思い目を開ける唯依

その網膜投影に映った《真改》の状態に悲鳴を上げる

先の一撃の他にも全体的に損傷が見える、跳躍ユニットのノズルには焼け焦げた部分もあり満身創痍を表していた

「唯依姫!!無事か?!」

祐樹からの問いに唯依は

「はっはい!!ですが少佐の方が?!」

「問答は後だ!!とにかく弾幕を張れ!!!」

「っ!了解!!」

有無を言わさない祐樹の言葉に唯依は87式を構えてBETAに浴びせる

オメガ・ホワイトファングに他の衛士達も87式を構えてありったけの弾幕を張る

祐樹は唯依への言葉と共に再度、ユニットを吹かして飛び上がり光線級のレーザーを一手に集めながら回避していき、光線級が群がる地点に360をばら撒く

機体を酷使してきた影響か一瞬《真改》のバランスが空中にて崩れ、一本のレーザーが頭部センサーを掠めて機能を持っていかれた

「ちぃぃぃぃ!!」

網膜映像に一瞬、砂嵐が映るがすぐにサブセンサーによって映像が切り替わる

「視界が悪くなっただけだ!!貴様らの垂れ流す"害意"はわかるんだよ!!!」

語尾を荒くしながら祐樹は吼え、内に秘める【念動力】によって感覚がさらにシャープになっていく

もはや、モニターやレーダーを見ずにもBETAの"害意"から敵の位置を感覚にて知る祐樹

そうして空中から360をばら撒き、弾倉が尽きて放り捨てる

腰の長刀を引き抜き、上空より《真改》の重量を乗せた斬撃を重光線級に振り下ろす

これで、重光線級は全滅したが、まだまだBETA共は残存していた

「はぁぁぁぁっぁ!!!」

着地後も修羅のごとく長刀を振り回す、BETAは密集していたのが仇となり身動きが取れずになすすべもなく切り刻まれる

「うっとうしいぃぃぃぃぃ!!!」

群がる小型種にはCIWSをばら撒き排除、さらに跳躍して光線級が群れる場所に着地し暴れる

しかし、それでも損傷が増えていく《真改》

「(仕方がない、サラに救援を頼むか……)」

今後の行動に支障が出るが全滅するよりかマシと判断し、仮面を取りかけるその刹那……

「敵中に居る戦術機!!!今すぐ退避せよ!!!」

オープン回線による男の声に祐樹は考える間も無く、咄嗟に上空に飛び上がる

その時、司令部方角よりおびただしい程の弾幕と共に40機近い黒い不知火達が突撃してくる

「私は、帝国本土防衛軍 帝都守備連隊所属 沙霧尚哉大尉である!!貴官達の援護に回る!!!」

その掛け声と共に次々と突っ込んでくる、黒い不知火達

「CPより全部隊へ、救援到着により補給が必要な部隊はローテーションを組んで補給を受けよ。」

やよいから全部隊に通達が入る

祐樹も救援到着によって、ユーチャリスを出さずに済み。内心一息付くが億尾にも出さずにやよいに告げる

「リベリオン1よりCPへ、206・208隊の者より補給に行かせ、次にオメガ・ファング部隊の者を行かせる。」

その言葉を伝え終わった祐樹にすかさず唯依は

「ファング1よりCPへ!現在、リベリオン1がもっとも損傷がひどく戦闘に耐ええるものと思えない!!ゆえに一番最初はリベリオン1も同行、以降はそのままにてお願いします!!」

「篁中尉!!」

祐樹の大きな声に唯依は負けない怒声を上げる

「お言葉ですが少佐!!現在、もっとも損傷が目立つのがご自身です!!さらに部隊指揮権は私にあります!!!」

一旦言葉を切って

「206・208隊の者もよいか?!」

唯依の問いかけに両部隊の衛士は即座に肯定する

今までの祐樹の活躍を見聞きし、先ほどの獅子奮迅たる行動…さらには遠目からですら目立つ程の損傷

「そういうことです!!少佐!!!ここはお引きください!!!!」

唯依はさらに声を大きく張り上げながら言い募る

「しかし!!!」

「しかしもかかしもありません!!これ以上、私を不安にさせないでください……。」

段々と語尾が小さくなり、仕舞いには涙声と瞳より一筋の涙が零れてくる唯依の様子に他の衛士達は

「あ~~あっ、少佐泣かせてしまいましたね~~。」

「少佐~~女性を泣かせるなんて最低ですよ~~~。」

「少佐!!女性を泣かせる等、帝国軍人の風上も置けませぬ!」

おのおの好き勝手に言い出す衛士達……

「………。」

祐樹もこの状況に居たたまれなくなり沈黙するが

「……わかった中尉、後退するよ…。」

深い溜息と共に降参を示す

「わかってくれたらいいです……。」

瞳を潤ませ、涙声でかすれる様な声で答える唯依に

「中尉も一緒に後退してください。」

ファング2より通信が入る

「しかし!!」

「戦況は連隊のおかげで覆せています。それに少佐のことです、もしかしたらすぐに予備機に乗り換えて舞い戻ってくるかもしれません。」

内心、祐樹はドキリとする……ファング2の言うとおりに予備機があればそれで出撃しようと考えていたためである

「監視のためにも篁中尉にお願いしたいのです。越権は承知ですがここはどうか……。」

「…………わかった、ファング2あとの指揮は頼む。」

若干の沈黙のあと唯依は了承し指揮をファング2に頼む

「了解です。」

その言葉と共に戦線を構築している連隊の支援にオメガ・ファング両隊は向かい206・208は補給に向かう

そして祐樹と唯依も後方に下がることになった






































―後方 司令部 指揮車両



あのあと、巡航機動にて補給車までたどり着き、機体から降りた祐樹に

同じく唯依も機体から降りてき、そのまま真っ直ぐに祐樹に飛びかかる

「おっと……。」

うまくバランスを取り、唯依を抱きとめながらたたらを踏む

「ひっく……うっく……。」

涙を見せまいと祐樹の胸元に深く顔埋めてる唯依

「すまない……中尉。」

祐樹はそう言いつつ、唯依のたおやかな黒髪を撫でる

「少佐のばかぁぁ………。」

それから幾ばくかの沈黙の後

「少佐が言ったんですよ……。」

今だ、胸元に顔埋める唯依からくぐもった声が上がる

「進むべき道は険しいが、だからこそ"明日"という日は我らにある。」

「あなたが……言った言葉です…。」

顔上げ、涙に濡れた顔を祐樹の眼前にさらし

「だから、無茶をしないでください…私は"明日"という日をあなたと迎えたい……。」

そうして花咲くような笑顔で唯依は祐樹を見つめた

「そう……だな…唯依姫。」

再度、唯依の頭に手置いて撫でる








そんな祐樹と唯依を山吹の《武御雷》と《真改》が見守る















このあと、二人が出撃することはなくBETAは殲滅される

多大な犠牲を払うが、過去に例を見ないほどの戦死者の少なさ

"XMO"の真価を発揮して従来の不知火以上の戦果を打ち立てた部隊

さらには圧倒的な力を見せた《真改》と祐樹










時に2000年9月22日

こうして第二次防衛線における激戦は幕を閉じる

この後、今回の戦闘は【スノードロップ作戦】と呼称される








残暑は厳しいが希望の花が芽吹いた季節となった……





















[20464] ネタ 見る価値もないですよww
Name: るー◆584161b8 E-MAIL ID:96b32de8
Date: 2010/08/11 04:13
めっちゃ短いです。しかもIFです


ぶっちゃけ脳裏にひらめいたんで書いてしまいました(∀`*ゞ)テヘッ














あのあと、感動の抱擁から醒めた唯依は慌てて祐樹から飛びのく

「うっ…あっ…その。」

居たたまれなくなり顔を地面に向けモジモジとする

「………。」

祐樹もどう対処していいのか、わからず沈黙のまま立っているだけだ

そこに

「あらあら、お暑いことね~~」

地獄も閻魔も裸足で逃げること間違いなしの声音でやよいが声をかける

祐樹はブリキのおもちゃのようにギッギッとやよいの方に顔を向けると


真っ赤な顔したまりかの横に



























夜叉がいた…………









「本当にお暑いことですわね、少佐♪」

暦は9月…

なのに祐樹は自身の背中から冷や汗が流れ、悪寒が走る







まりかは真っ赤な顔で視線をそらし


唯依は……


「☆△○×!!!!!」

声にならない声を上げ祐樹に


どりるみるきぃふぁんとむをかまし

逃げ去った……



「ぐふぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

もろにソレを食らう祐樹

天高く舞い頭より地面に激突するが仮面のおかげで大事に至らず、尻を掲げた状態で突っ伏す

そこに













「ふん!!!!」

「☆△○×!!!!!」

やよいからの金的を受け、背中に線を背負ってビタンビタンと地面をはねる……





そうしてやよいもどこかへと消え場には


股間を押さえ悶絶する祐樹と顔真っ赤にしたまりかに










祐樹と同じように股間を押さえる男性一同が居た



















襲撃…ちがった終劇……















ちゃんちゃん






















[20464] ダイバー 第十二話
Name: るー◆584161b8 E-MAIL ID:96b32de8
Date: 2010/08/15 01:14

























―2000年12月23日 帝国軍技術廠・第壱開発局 ゼロの執務室




【スノードロップ作戦】より早三ヶ月……



祐樹はデスクの椅子に背中を預けて、脚を組み思考の海に没していた 


三ヵ月前、祐樹達が後方に下がったままBETAの駆逐に成功し防衛戦を勝利したあの日







しばらく抱擁が続くが……

周囲の視線が気になりだしたため、どちらからともなく離れる祐樹と唯依

「その……少佐…私のこと……名前で…。」

唯依は自身の呼び名が苗字から名前に変わっていることを恥ずかしそうにモジモジしながら

「それに……姫って…。」

さらに名前に姫とまで付くのを不思議がっている表情で首を傾げながら問うが、祐樹からの唯依姫という呼び声を再度脳内で再生してしまったため地面に真っ赤にした顔を向ける

それに対して祐樹は……

「…………。」

沈黙しながら唯依に背中を向けて指揮車の方に歩き去っていく……

「…………………少佐?!待ってください?!?!」

何時まで経っても声がかからないのを不思議に思い、顔を正面に向けると祐樹が指揮車に乗り込むのが見え慌てて追いかけるのであった……






この時の祐樹の心情は以下の通りである

(言えるわけないだろ!!イクリプスのラジオデータ聞いてたからなんて!!!)















指揮車内に乗り込んだ祐樹に対してCPのやよいが敬礼をする

彼女以外は今は居ないようだ

「お疲れ様です、少佐。」

柔らかな笑顔を浮かべ、包み込むような雰囲気を出しながらやよいは祐樹に水とタオルを渡す

「ありがとう、中尉。」

しかし祐樹はどちらも手で断った

「戦況はどうだ?」

「少佐が奮戦していたおかげで離脱時には1500程度までに減り、守備連隊の突撃により現在は500程度までに。」

「さすがは、帝都守備連隊…精鋭ぞろいだな……しかしなぜ守備連隊がここに?」

祐樹は疑問を口にし、それをやよいが答える

「ここを抜かれましたら途上にある基地は建設中の国連の横浜基地のみ……上層部は国連の手を借りるぐらいならと派遣されたようです。殿下の口添もあったようで…。」

「煌武院殿下の……。」

祐樹は呟くように名を口にする

その時、コンソールモニターに通信が入る

「こちら守備連隊隊長、沙霧尚哉。BETAの駆逐を確認、以降小型種の警戒に努められたし。」

「了解、ご協力感謝いたします。」

沙霧からの報告にやよいは感謝をこめて返答した

「…そちらに居られますのは。」

モニター内に映る祐樹に視線をやる沙霧

「初めまして、沙霧大尉。私の名はゼロ、帝国軍技術廠所属の少佐だ。」

祐樹は自己紹介をする

「御噂はかねがね…。」

「この度の協力に感謝する。」

「いえ、自分は殿下のご命令に従ったまで……。」

沙霧は謙遜しながら答えた

「では、私達はこれにて戻ります。」

「了解した。」

「失礼致す。」

その言葉と共に通信は切れ、黒の不知火達は帝都方面へと消えていく

「沙霧尚哉か……。」

祐樹は虚空へと呟くのであった






同時刻

「あれが、噂のゼロ少佐か……。」

くしくも沙霧も祐樹のことに思いを馳せる

「あのマッドブラックの不知火に似た機体……各所に新装備が施され、腰に長刀を下げていた…。」

「動きも従来のモノとは一線を隔いている……あれが噂の新型なのであろうな。」

沙霧の脳裏には《真改》の姿が映っていた

「ゼロ少佐……機会があれば、会ってみたいものだ…。」

沙霧の心からの呟きが漏れる……



















思考の海から祐樹は脱し、手元のモニターに眼をやった


あの後、《真改》の実戦投入にキナ臭いものを感じていた祐樹はサラと一緒に能力を活用して情報を収集した結果

大伴 忠範…帝国陸軍参謀本部付き中佐…右派国粋主義の急先鋒の暗躍によるものだと判明

元々のXFJ計画が米国との共同開発計画だったゆえに、今回の祐樹との開発計画も他国からの技術提供によるものと周りに伝えていたため

今回の事態を引き起こした……結果的にいうと《真改》と"XMO"のお披露目は成功し【スノードロップ】戦の情報、映像が帝国内に回りだした

現在、各方面軍からの矢継ぎ早の《真改》及び"XMO"の配備が叫ばれている

このような事態となり大伴からの更なる嫌がらせがあるものだと祐樹は警戒したが……

大伴自身が《真改》の戦果に深く感動してしまったゆえに、逆に便宜を図りだしてきていた

特に《真改》の鞘に惚れてしまってとのこと……

これは特に五摂家と武家の者にすさまじい程の人気が噴出した

さらに"XMO"を搭載した機体ならモーションデータを各自で作成すれば、ある程度の自ら納めた剣術を戦術機に反映できる

これにも前述の者達は沸くが

もっとも嬉しがった理由……「武士の魂たる刀は腰に帯びてこそ」そこに集中した

これにより、生き残った刀鍛冶を急遽集めて本格的な戦術機に装備できる刀の作成を開始した……

まぁ、作成されたとしても殆どが儀礼用の武装となるだろう、さすがにBETA戦においての日本刀の特徴はやっかいでしかない

これがオリハルコニウム・ゾルオリハルコニウムを素材とした場合は話しが変わってくるが……

また現場の衛士からも長刀を別の部分への収納及び再収納が可能は喜ばれ、ウェポンラックに空きが出来ると

若干、重量がかさむが選択肢が増えるのはいいことである


そういうことで軍部の反対派すらからも賛同が得られたXFJ計画は次のステップへと続く

試作一号機たる《真改》の実戦データをフィードバックして各部を改良し、オーバーホールに回した

しかし、やはりこの世界における戦術機のメカニックにおける核融合炉の技術は今だ一つという点があり

今回得られたノウハウによって祐樹が従来の戦術機のエンジンを元にサラとノルンの知恵を借りて新型を開発

"山茶花・壱型"と名づけたジェネレーター…《不知火》に搭載されたジェネレーターの30%は上回る性能を誇りながら同等のコストで作成

正式量産機には、これを搭載することが決定した。元々がこちらの技術なので別段特別な教育を施さなくても、カタログ等から現場でも整備できるようになっている

引き続き、開発局のエンジニア及びメカニックには核融合炉の技術教練を行っていく

三号機は後継機のテストベッド用に保管されたが……二号機の開発は中止、一号機のデータを使った量産機に力を向けることに相成った

中止した二号機は祐樹自身が引き取り、今後のために木星のコロニーにて開発を続けていくことに

対外的には、解体処分として秘密裏に運び出した……



さらに跳躍ユニットは祐樹の持つ技術を織り交ぜて改良、高機動型の《武御雷》に匹敵するほどのものを開発、こちらも《武御雷》にくらべてコストを抑えるのに成功、さらには各部に小型スラスターを装備、本体自身も可動部分を広げより柔軟な機動が取れるようになった。名称は"鳳仙花"

《真改》にも搭載し、量産機も正式装備となった



さらにウェポンラック…兵装担架…も改良、《真改》と同じPT兵装も搭載できる規格を設計し従来の二基ではなく四基へと増やした

下部の二基は展開すると腰へ(ガンダムF91のウェスバーのような位置取り)移動する

手腕に上部・下部を展開すれば六門の87式による面射撃が行える…その分、これも重量が嵩むが…祐樹の考えでは二基は使い捨ての武装、スプリットミサイル等の搭載を考えている

そこら辺は現場の衛士達等の判断に任せる感じになる。なんにせよ選択肢は多いに越したことはない


さて、これらを装備した正式量産機…《不知火・零型(ぜろがた)》が現在までに10機生産されている

《不知火・零型》…当初、祐樹は量産機には弐型の名称が付くと思っていたが自身の名をもじって付けられてしまった。

祐樹はこれに反対したが

「何、《武御雷》も形式番号ではTSF―TYPE00…そこからの由来とてある。」

テストパイロットが乗り込んだ試作機と唯依の《武御雷》、一対一の模擬戦とて唯依の腕を持ってしても辛勝であった結果も反映されてのこと

そう巌谷は答え、祐樹はしぶしぶながらも了承してしまった……これが後に多大な影響を及ばすとは祐樹は夢にも思わなかったが……



現在、ようやくテストも終え、急ピッチで《零型》の量産が進められている





モニターを見ていた祐樹の耳に訪問のチャイムが響く

扉に設置されたカメラより、やよい及びまりかの姿が確認できたので、受話器を上げ入室の許可を出す

「「失礼致します」」

両者共、室内に入り祐樹に対して敬礼をする

「ご苦労、ソファーに。」

祐樹は座りながら答礼し、彼女達に着席を促し自身も対面へと移動し座る

「ご報告致します。かねてより少佐のご要望でした、伊隅まりか中尉の我が部署への転属が決定し、本日着任致しました。」

やよいからの報告のあと、すかさずまりかは立ち上がり直立不動で再度敬礼する

「本日より着任いたしました。伊隅まりか中尉です!!よろしくお願い致します!!」

はきはきと言いながらも緊張の色が隠せない様子

「中尉。」

「「はっ」」

両者が返事をする

「っと……そういえば階級も苗字も同じだったな。」

仮面のあごに手をやり思案する祐樹に対して

「でしたら、私のことはやよいと…お呼びいただけますか?」 

やよいが自身の胸に手を置き返答し

「私のこともぜひ!名前で呼んでいただけませんか?!」

まりかもすかさず自己主張する

一瞬、やよいとまりかの間の空気が張り詰めるが祐樹は気づかず

「わかった…ではやよい中尉にまりか中尉と呼ばせていただこう。」

「「はっ!ありがとうございます!!」」

またもや二人はお互いの視線を交差し、火花を散らせるが一瞬で返答を返して元に戻る


まりかは【スノードロップ】戦のあと、部隊壊滅による再編成のおりに祐樹が臨時的にスカウトし上層部と交渉

期間付きで、こちらに出向していたのだが…祐樹は実績を積んだおかげで軍内部において少しではあるが発言力を持ち、巌谷大佐の助力もあって

自らの部下に引き抜いた。

《零型》の試作機のテストパイロットも彼女が勤めていた

そのまりかからは、最初はやはり怪しげな服を着た人という認識もあったが…【スノードロップ】戦の戦いに、《真改》及び《零型》の開発が

全て祐樹の功績と知り尊敬の念を抱き、この三ヵ月の間に"XMO"の教導を受け衛士として実力を改めて確認、目標とするのであった


「やよい中尉、現状は?」

祐樹からの問いにやよいは

「現在、少佐の考案した360マシンガンは87式にそのノウハウを反映し"零零式突撃砲"と名して87式のラインを零零式に変えて随時生産。」

手元の資料を見ながら報告を続ける

「ブーステッドライフルもラインに乗り、こちらも順調に生産中ですが……肝心の《零型》が…。」

語尾を濁し、苦渋の表情で伝えるやよい

「ふむ……では、富嶽重工・光菱重工・河崎重工等、日本の各社にライセンス生産を打診するか……。」

「?!?!よろしいのですか?!」

「何、大佐からの許可は下りてある。どの道、我が軍の生産設備だけでは全軍に行き届くのに時間がかかる、ならば日本国内のメーカーに卸し、技術向上させるのも悪くない…優先的に帝国軍内からの配備は徹底させるがな。」

「了解致しました、手筈を整えます。」

「頼んだ。」

祐樹はさらに思い浮かんだのか、姉妹に質問する

「そういえば……中尉達の幼馴染はご健在か?」

話しの流れから相応しくないが、前から疑問に思っていたことを聞く

「「幼馴染……?」」

姉妹そろって首をかしげながら問い返す

「前島正樹という青年が居たはずなのだが……。」

内心の動揺を隠しながら、祐樹は再度問うが

「いえ、そんな人は居りませんが。」

まりかがはっきりに答える

「(居ない?!どうなっているんだ?!)」

「「少佐?」」

再び息のあった呼び声に祐樹は思考を破棄し、居ない者は居ないと結論づけた

「ああ、いや…忘れてくれ……。」

祐樹はそう言い続けて

「他に報告はないか?」

「いえ、現在は先ほどの報告以外は特に。」

「わかった……。」

祐樹からの言葉によりやよいとまりかは立ち上がり扉前にて再度敬礼し、退出した


「それにしても、変なとこでオリジナルと違うな……」

祐樹は溜息とともに呟く

その時、PAKに通信が届きウィンドが展開される

[マスターそろそろ訓練の時間だよ、戻ってきて。]

「ああ、すぐ戻る。」

部屋をロックして、ダミー映像を流し祐樹はユーチャリスにジャンプした

前回、横浜基地への侵入に対する案としてサラが上げたのが

マシンチャイルドを生かして、各種技能の情報を習得し"システム"を利用して技能を向上させるという案

"「現在はこのような感じになってますが、技術と特殊技能はGを消費すればあげることが可能です。技能に関しては修練するごとにあがりますのでこの数値はたんなる目安とお考えください。現実のように何かを勉強したりしたら新たにステータスに表記されます。最後にこの世界の技術はその時代に合わせた物がブートされますので、考慮に入れられなくて大丈夫なので。」"

祐樹はこの世界に介入する前に聞いたノルンからの説明と実際のシステムに若干の違いがあることを確認した

この前、ステータスにGを振った時、何の問題もなく技能欄にも割り振れたが…あとになって考えてみるとおかしい点に気づきサラとノルンに相談

ノルンは驚愕していたが、サラは逆に運がいいと思い今回の事態を思いついたのであった

結果、今回手に入れたGも使って現在のステータスは

技術
マブラヴ 現地参照
ナデシコ ―ランク
OG Eランク

特殊技能
《人工念動力》LV4
《強運》LV―
《マシンチャイルド》LV5
《擬似A級ジャンパー》LV―
《?????》

技能
パイロットLVMAX
剣術・天真正伝香取神道流合戦礼法LV8
居合いLV5
射撃術LV8
機械工学LV8
潜入工作LV8



所持G  12万3100



となっている

「しかし、結局知識と意識した行動のみだからな~~こうやって訓練しなきゃ咄嗟の時困るんだし、便利なんだか不便なんだか…。」

獲得したGを使ってサラの記憶にあるナデシコに搭載されていたVR室を設置し、その仮想空間ないで祐樹は訓練をしていた

[八方塞よりかマシだと思うけどね、僕は。]

サラが仮想空間内にてウィンドを展開する

「そうだね~~。」

祐樹は覇気のない声で返事をしながら黙々と課題をこなしていき、クリアする

VRの展開が終わり、本日の訓練は終了となった

[まぁ、明日は本番なんだ、気をつけてねマスター。]

この三ヵ月空いている時間等は訓練に費やしてきたのも明日の夕呼への接触のため

「ああ。」

祐樹は短くも強い意志をこめて返答した




















―2000年 12月24日 横浜基地外周



[マスター準備はいい?それとアレも注入した?]

「大丈夫だ。」

サラのアレとは、社やイーニァのリーディング及びプロジェクションに対する対策として

脳にある、ナノマシン脳において計算されている思考…数値の羅列…を表層にするナノマシンのことである

「やるか……。」

目の前のフェンスに対して腰に帯びたスーパーカーボン製の刀を構える

「ふっ!!」

居合い斬りによってフェンスを切り裂く

フェンスの斬り口をこじ開けて基地内に侵入し、オルタネイティブ4区画へと潜り込む





「……腐っているな…。」

祐樹は思わず悪態をつく

先ほどから、遭遇する歩兵等の様子からほとんどの人間が後方に位置しているかのような

ある種の緊迫感のなさが…かもし出されていた

舌打ちし、今も近づいてきた者をやり過ごして奥へと進む

各ブロックの扉を携帯型I・F・S端末から端子を繋ぎハッキングして開けていく

そうして、強化装備をつけた人物達が居ることからここがシュミレーター室なのがわかり少し様子を見ることに

「かぁ~~負けた負けた。」

シュミレーターから男の衛士がボヤキながら出てくる

「今夜のおかず、一品あたしの物だね。」

もうひとつのシュミレーターからも女の衛士が出てくる

「次は負けねぇからな!!」

「ははは!!何度やっても同じだよ!!それよか現場でヘマしないことを祈りな!!!」

「ば~か、ここでスクランブルなんざ、抜き打ち訓練の時ぐらいじゃねぇか。」

「ちがいない!!!」

周りに居た衛士達も大声を上げて笑っている

その様子に祐樹は

「……ギリッ!!」

仮面の下に隠された素顔は憤怒に染まり、奥歯を噛み鳴らす

様々な思いが脳裏を過ぎるが今は、香月博士との接触が先だと自身に言い聞かせて先を目指す



そうして、香月博士の研究室のブロックに辿り着き

扉の近くにより仮面のセンサーを使って内部に生命反応がないかを確かめる

「反応なしか……。」

センサーに反応なし…室内は無人を示していた

端末機で扉を開け、室内に侵入そこにはゲームと同じ光景が目に映る……

「ここが……本当にオルタに来たんだな…。」

思ったことを口にした

「さて、香月博士が居ない間に……。」

PC及び、書類をサラと共に解読していく

[ふぅ~ん、さすがは天才と呼ばれる人だね、面白い理論だよこれ。]

「俺には、さっぱりだがね……。」

サラはPCの中と書類に記された理論と実験内容等を面白そうに読んでいるようだ

[とりあえず、PCの中のデータは丸ごと僕の中に保存したし、書類内容記憶したよ。]

「ロックされていなかったか?」

[マスター、僕を侮っていない?電脳世界で僕に勝てるモノがこの世界にあると思う?]

「今更だったな……。」

祐樹は肩を窄めて投げやりに返した

その時、仮面のセンサーに生体反応が入る

「サラ、一旦ウィンドを消せ…反応が二つこちらを目指してる」

その言葉と共にサラはウィンドを消すが、祐樹の周りに意識を置く






そうして目の前のドアが開き


「初めまして、香月博士、社少尉。」



一人の女性と少女に祐樹は挨拶した



























―横浜基地 夕呼の執務室



「誰?!」

部屋に帰ってきたら、夕呼のデスクには仮面とマントを羽織った怪しげな人物が座っていた

「さて、他人に名を求めるならまずは自身が名乗るべきと思うが。」

怪しげな人物…祐樹はそういってデスクの椅子から立ち、デスクを後ろにして立つ

それに対して夕呼は

腰に吊るしたホルスターから銃を引き抜き片手でこちらに向ける

「くっくっ……。」

祐樹の押し殺した笑いが漏れる

「何がおかしいの?!」

「私の問いに対してあなたは、銃を構えた。」

指で銃の形を作り祐樹は続ける

「日本語、理解できますか?」

馬鹿にしたような口調で夕呼に問いかける祐樹

夕呼は銃を撃つことにより返答としたが

祐樹の前に出来た半透明の壁…個人用DFに当たり弾は天井に埋め込まれた

「っ?!」

「くっくっ…はははっはっは!!」

祐樹はルルーシュばりの高笑いを上げた

その時、夕呼は隣に居た霞に視線を送るが

「無駄ですよ、香月博士。社少尉のリーディングは私には無意味です。」

こちらの思考を読み取った発言にまたもや夕呼は驚く

「……本当にあんた誰よ…。」

歯を噛み鳴らしながら夕呼は再度問う

「まぁ…いいでしょう。」

祐樹はマントははためかせて

「我が名はゼロ。」

「ゼロ……もしかして最近、帝国で噂の…。」

「さて、どうでしょうか?」

祐樹のあいまいな返答に

「……食えない奴ね…。」

断言した場合、帝国に抗議できる材料となるがこの格好だと素顔は確認できない。最悪、似た奴だと判断されてこちらが非難される

「そんなことはどうでもいいのです…さて本題に入りましょう。」

祐樹はデスクに乗っている書類を持ち

「因果量子論…面白いモノを研究されていますね……。」

「…………。」

夕呼は沈黙する

「さらには並列処理コンピューター理論、半導体150億個分の並列処理コンピューターと同等の処理能力を持つ演算装置を手のひらサイズで作成するか……。」

祐樹は資料を捲りながら続ける

「そして………00ユニット。」

資料を閉じながら祐樹は呟く

「?!?!」

今まで一番の驚愕した表情を一瞬見せた夕呼

先ほど効かなかった銃を再び構えて怒鳴る

「この際、正体なんてどうでもいいわ。00ユニットを知った限り生かしておけない!!!」

「くっくっ…その効かない銃で私を殺すつもりですか?」

「…………。」

強く睨みつけて、引き金に力を入れていく夕呼に対して

「2001年 12月24日。」

夕呼はその言葉に怪訝な表情を浮かべる

「オルタネイティブ4が終わる日ですよ、香月博士。」

「なぜ、それが言い切れるの?」

「あなたの因果量子論によってですよ。」

祐樹は意味深な言葉を伝える

「……まさか。」

支えていた銃を降ろしながら夕呼は呆然と呟く

「そう、そのまさかです。」

「ならあんたは……。」

「ご想像にお任せしますよ。」

「ふん……いいわ、話を聞こうじゃない。」

夕呼はそう言い祐樹の横を通り自分のデスクの椅子に座る

祐樹はデスクに座った夕呼に向き直り

「さて、その前にサラ。」

祐樹の言葉で空中に浮かぶウィンド

夕呼はそれに目を白黒させながら問う

「あんた…ソレ何?」

[ソレとは失礼な!!僕はサラ、マスターのパートナーさ。]

ウィンド内にそう表示する……ノルンが居たら大反発を受けることを間違いなしな内容をさらっと

「コレ……何よ?」

夕呼はまったく理解できない現象に呆れ、霞はそれに興味を持ったのかウィンドを突っつくが指が通り抜ける

「博士の00ユニットの開発における一つの答え。」

祐樹の問いに顔を一気に真剣にさせてウィンドを凝視し

「これ……一体どういう原理?理論は?数式は?」

祐樹に対して矢継ぎ早に問いかける

「くわしくは、サラより……サラもう解読は済んだだろう?博士のPCにデータを送ってくれ。」

[了解。]

そうしてサラは夕呼のPCにデータを送り

「…………そうよ、コレ!!!コレが言いたかったのよ!!!!!」

送られてくるデータを読みながら夕呼は狂喜乱舞する

「あんた!!……ゼロだったかしら?もうあんた最高よ!!!!」

夕呼は感極まって祐樹に抱きつく

[あ~~~~!!!!!!マスターから離れろ~~~~~~!!!!!!!]

ウィンドを縦横無尽に跳ねさせるサラにそれを目で追いかける社

「喜んでいただけて……。」

祐樹は平坦な声で答えた

夕呼も抱擁を解き

「で……あたしに何をさせたいの?」

「話が早くて助かりますよ。」

そう言い祐樹は述べていく

「一つ、帝国軍から出向してくる"ゼロ少佐"を受け入れる。」

「一つ、訓練部隊207A・B小隊の訓練に少佐を教導として配置する。」

「一つ、A―01の指揮権及び訓練教導に少佐を配置する。」

一旦言葉を切り

「そして、オルタネイティブ4を完遂する。」

「あとは、その時の状況によって要請することに協力していただきたい。」

祐樹は言い切った

「…………もし反すれば?」

夕呼は目を細めて問い、祐樹はその答えに首を掻き切るポーズをとる

「……あたしに選択権はないと…この香月夕呼に対して。」

怪しげな笑みを浮かべながら夕呼は問う

「くっくっ、完遂できないと?」

「ふん、ばかおっしゃい。頼まれなくったて完遂してやるわよ!!!」

夕呼は不敵な笑みで祐樹に吼える

「まぁ、いいわ……せいぜい利用して散々に使い倒してやるわ。」

唇の端を吊り上げて夕呼はせせら笑う

「ボロ雑巾のように使い捨てますかね?」

祐樹は苦笑しながら嘲笑うように問う

「いいわね、それ!!」

夕呼は可笑しくなったのか盛大に笑いながら声を上げる

そうして

「このあたし…"極東の魔女"たる香月夕呼と契約を交わした、あんたは一体何者かしらね~。」

夕呼は笑い声を上げながら祐樹に問い

「さしずめ、捨てられた皇子…といったところか?」

祐樹も声に含み笑いを入れながら答える

「あははは!!あんた最高!!!!」

夕呼は耐えられなくなったのか大声を上げながら笑う

「ふっははっははっは!!!」

祐樹も盛大に笑い声を上げる

































かくしてここに魔女との契約は成った





この日、救世主(メシア)たるイエス・キリストが生まれた日





何の因果か反逆者は生まれ出でた……






人類滅亡という運命に反逆(リベリオン)するために







[20464] ダイバー 第十三話
Name: るー◆584161b8 E-MAIL ID:96b32de8
Date: 2010/08/15 03:39



















―2000年 12月31日 木星コロニー 私室





夕呼との接触及び交渉を終えて、祐樹は一旦木星のコロニーへと戻っていた


「マスター、お食事はいかがですか?」

ひさしぶりのノルンの声

彼女はどういうわけ身の丈にあったエプロンを纏っている……自ら作成したらしい……

「いや、今はいいや。」

祐樹は辞退する……結局、自身で作るしかないのでノルンの問いかけはおかしいのだが…
「……もしかしてノルン、ご飯食べたいの?」

その問いかけにノルンは真っ赤になり顔伏せて、首を縦に振り

「だって……マスターと久しぶりにお会いできましたし…ご飯も、マスターが作ったものがおいしいので……。」

恥ずかしそうに言い切る

「そっか…ならご飯にするか。」

祐樹はそう言い祐樹は私室のキッチンへと入り、冷蔵庫内にある食材を掴み調理を開始した

メニューは

季節は冬なのでクリームシチューにフランスパンとロールパン

シチューはブロッコリーを細かくして堅さを無くしてスープと一緒にすする感じに鶏肉、じゃがいも、にんじん等は一口サイズに大量に煮込む

これで具沢山なシチューをメインにした庶民的な洋食の完成である

それを祐樹とノルンは一緒に食べていく…まぁ鍋にはあと二日くらい分残っているが最悪、夕呼への差し入れとして持っていこうと考えている

「さて、これからのことの段取りだな。」

「はい。」[そうだね。]

食事も終わり、祐樹の問いかけにノルンとサラは肯定する

「PTの生産はどう?」

「現在、M型が80機完成。ヒュッケバインはロールアウト済み。S型は基本フレームの製造中。」

「ビルトラプターの評価試験と調整は終わってるしな。」

「では……やはり…。」

ノルンの問いかけに

「ああ…横浜基地を襲撃する。」

祐樹は力強く断言する

「あのような、腐った空気が蔓延していたら今後の計画に不備が出る可能性がある…それに香月博士も同意した。」

元々、夕呼も今の基地上層部に居る楽観論者、親米派等をこの機会に一掃したいことも聞いている

実際の本編において、捕獲したBETAをばら撒いたのもそのためだったし。と祐樹は考えた

「それに神宮司軍曹の件もある。」

あのあと夕呼と祐樹の相談は長時間に渡って続けられ

案件の一つである、訓練部隊の教導は現在まりもが受け持っているとのこと

ここは史実通りでほっとしたが……

「しかし、イーフェがな……。」

それと同時に崔 亦菲がA―01部隊に所属していると聞き、愕然としたの思い出す…

夕呼に突っ込まれたがそれとなく回避した……

経歴を調べてみたところ、あの後まりもに保護された崔 亦菲は1998年に帝国議会が女性の徴兵対象年齢を16歳まで引き下げる修正法案を可決

した折に満16歳となっていたため自ら帝国軍に志願、入隊し一年前にまりもの誘いを受けて国連軍に移籍した

元々アジア人といえど他国人である、崔 亦菲にとって、いささか帝国は居づらかったようだ

そうして移籍して、夕呼の検査を受けたところ彼女もアカシックレコード、00ユニットの候補者に連ねる結果となる

「イクリプスの方では、どうだったか知らないがイーフェも00の候補…他国ゆえに検査に引っかからなかったのか?」

思案するがどうにも思いつくわけもなく

「どうされるんですか?マスター?」

「なんとか、約束は果たすよ…"拉小指立誓"だもんな……。」

祐樹は小指を見つめる

「マスター……。」[マスター……。]

「さて、続きを。」

祐樹は空気を変えるように催促する

[僕から、マスターの指示通りに日本の各メーカーにラインを降ろして生産開始、《零型》が随時増産中…ただ。]
 
「ただ?」

[各メーカーから今回の機体設計者及び部品開発者に合わせてくれとのオファーが続出…しかも巌谷大佐、これは好都合と合同パーティーをセッティグしちゃってるよ……。]

「…………。」

嫌な汗が背中と後頭部に流れるのを感じる祐樹……

[たぶん、マスターのお披露目を主体に色々策を張ってるよ…。]

「わかった……戻ったら大佐と打ち合わせする。」

顔を引き攣らせながら、なんとか答えた

「他には?」

[マスターの懸念事項だった、ODLの生成だけど。]

「どうだ?」

[サンプル貰ったからね……色々と未知の物質が含まれているけど複製するぐらいなら、なんとか。]

「よし!!これで最大の懸念だった反応炉を停止させることができる!!」

祐樹は声を張り上げて嬉しそうに言うが

[でもマスター、複製はできるけどソレ専用の設備を作らなきゃいけないから…どうしても時間かかるし、このコロニーの設備でならの話だよ。]

「そうか……どのぐらいかかる?」

意気消沈するがめげずに聞き返す

[そうだね……八ヵ月はかかると思うよ。]

「わかった……最悪、香月博士を引き入れるかODLの輸送手段を確保しよう。」

言葉を切り

「事態は動いている…二月に入ればBETAが新潟に上陸もしてくる。各自の出来ることを精一杯やろう。」

「了解です!!マスター!」[了解だよ、マスター!!]

頼もしい味方からの返事に祐樹は満足した表情を浮かべてた

































―2001年 1月16日 横浜基地より1000k先 海上 ユーチャリス



艦橋の正面モニターには夕呼が映っていた

「いよいよね……。」

「ええ……。」

「しかし、あんたも大胆なこと考えてたわね?」

夕呼はおどけた声で祐樹に問いかける

「今の横浜基地は見るに耐えない……。彼らには劇的な試練が必要だ。」

「まぁ、私も賛同したから言えないけど…こちらからの加減は出来ないわよ。」

「ふっ……それはお互い様です。こちらとて実弾を使用しますのでね…最初の取り決め通りに。」

「ええ、私も司令部に詰めることになると思うから…A―01部隊のことも気にしないで。」

打ち合わせでは夕呼は司令室に詰め、社は地下ブロックにて待機することに

司令部への攻撃はしないが上がってきた戦術機とは実戦をこなすことになる

その際に、A―01も関係なく撃墜してもいいとのこと

「まぁ、これぐらい生き残ってくれなきゃ…00ユニットの候補にならないしね。それよりも……。」

夕呼は目くじら立てて祐樹に問いかける

「あんたからの指示で00ユニットの開発中止したけどさ……反応炉の件、本当なの?」

胡散臭そうに言い放つ

「おや、あの高名な香月博士が全貌のわかっていない敵施設を利用するおつもりで?」

祐樹はあざけるように祐樹も答える

「………それに関しては反論できないけど、ちゃんとあんたとこでアレ生成できるんでしょうね?」

「それは、サラからのデータで確認されたでしょう…実際のモノは時間がかかりますがね。」

「そのせいで、あたしは今暇ってか…餌を目前にちらされた犬同然よ!!」

夕呼の半狂乱したような顔で言い募る様に

「ですからアレをお渡ししたじゃありませんか……」

祐樹は苦笑をうかべ渡したデータを峻さする

「まぁ、あれのおかげで暫く暇は潰せそうね…。」

そのデータとはビーム兵器の概略に設計図のことだ

「あんたからもらった手札は二枚…"XMO"に"ビーム兵器"これで当面は時間が稼げるわね…。」

「"XMO"はすでに帝国にて普及していますのでアレですが…。」

「っとに…あんたは何で真っ先にあたしに連絡しなかったのよ!!」

「ふふ…ご冗談を。"極東の魔女"たるあなたに何の準備もなく接触できませんよ…。」

祐樹はおどけながら夕呼に伝える

「あっそ…食えない奴。」

夕呼も呆れながら返答し

「では、後ほど…。」

「ええ…。」

祐樹は夕呼との通信を切って

「さぁ、撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ…貴様らにはその覚悟があるか?」


祐樹は虚空に向かって呟き、ビルトラプターに乗り込んだ




さて、ビルトラプターの装備だが

カラーリングはデフォルト

DFを装備し

ビームソード×2
ハイパービームライフル×1
360マシンガン改×2
36mm弾倉×10

以上がPT形態時での武装になる

フライヤーモード時は追加させる形で翼に空対地、又は空対空ホーミングミサイルを四機搭載

機体下部中央にハイパービームライフル(以後HBライフル)とマシンガン×2が装着されており発射可能

他にオプションで投下爆弾も搭載できるが今回は装備しない

HBライフルはメガ・ビームライフルと同じように扱うことも出来れば、スコープを展開し、威力を増強させた一撃を放つことも可能

しかし、ジェネレーターに直結しているため連射は不可能…よくて出力を絞ったものを2連射するぐらいだ

大きさもメガ・ビームライフルより大型なので取り回し難いが使い勝手はいいので量産するか検討中だ…少しコストもかかるゆえ



今回、フライヤーモードにて出撃するため空対地ホーミングミサイルを搭載して出撃する…正直、BETA戦では役に立たないが人類戦だと役に立つ…




「いくぞ!!ラプター!!」

掛け声勇ましく、火の入ったカタパルトによって加速力をつけて空へ



白き隼は飛び立った!!!!!!!!
















―横浜基地 司令部 


ひとりのオペレーターが管理しているレーダーに識別不明の反応が入る

「なんだこりゃ?」

疑問の声をあげるが

「どうしたの?」

現在、当直の左官が一時的に席を外していたため

隣のオペレーターが問いかける

「いや、なんか上空から戦闘機なみの速度で近づいてくる反応が…。」

「戦闘機って……今のご時勢に戦闘機並の速度を出せるって言ったら戦術機ぐらいじゃない…しかも何?洋上から一機だけの反応?」

「ああ、もしかして計器の誤作動か?」

「先月もあったしね……中佐が戻ってきてから報告を上げればいいわよ。」

「そうだな……。」

二人のオペレーターは互いに頷きあう




「ふん……今だ警報もならずか。」

確実に警戒ラインに到達しているはずなのに基地は静寂を保っている

「いつまでも後方勤務と思うな……。」

祐樹は一気に加速しながら接近した




「うわぁ!!」

「どうした何があった?!」

先ほどのオペレーターが声を上げ、席をはずしていた中佐が問う

「その……先ほど探知致しました、高速にて当基地に接近する機影をキャッチ。」

「ばかもん!!とっと照会して警告を出せ!!!」

中佐は一喝してオペレーターに指示する

「接近中の機体に告ぐ、所属コードを送られたのち直ちに停止せよ!繰り返す、所属コードを送られたのち直ちに停止せよ!」

その問答の間に夕呼は司令室にやってきた

「香月副指令……いかようで?」

中佐は慇懃な態度で応対するが、声に厄介ごとやって来たという感じのものが含まれていた

「特に用はありませんが…それとも、わたしがここに居ていけませんかね?」

夕呼は意味ありげな視線で問う

その間にもオペレーターは必死に問いかける

「接近中の機体に告ぐ、所属コードを送られたのち直ちに停止せよ!…だめです!!中佐止まりません!!」

「なんだと?!」









「本当に馬鹿なのか?こいつらは……。」

先ほどからオープン回線で通信が入るが切っている祐樹

「なんにせよ…貴様らの認識の甘さがこの状況を招いた……。」

そうして祐樹は基地に侵入しホーミングミサイルを発射した









「機影を確認!!さらに……ミサイル発射を確認?!?!」

女性オペレーターからの悲鳴交じりの報告に

「なんだと?!?!」

中年の中佐は度肝を抜かれる

対して夕呼は口元に手をやって唇を吊り上げる










祐樹の発射したミサイルはヘリの格納庫に四発とも命中し炎上する

その時、ようやく警報が鳴り始めた

「さぁ…どうでる?」

手元のタイマーをセットして祐樹は呟き

周囲を旋回しだした







「現時刻よりかの機体を敵性機と断定する、戦術機及び攻撃ヘリを発進させよ!!」

「だめです!!先の攻撃によりスクランブル待機のヘリは全滅致しております!!」

「ええい!!ならばさっさと戦術機を出せ!!!」

司令部はにわかに忙しくなり、

「防衛基準態勢発令1!!繰り返す防衛基準態勢発令1!!これは訓練ではない!!!」

「スクランブル待機中のソバット隊は速やかに出撃せよ!!」

「シャーク隊、ファルコン隊も準備出来しだい出撃せよ!!」











「6分……7分……8分…やっとお出ましか。」

祐樹はミサイルを放ってから始まったタイマーを見ながらカウントしていた

「スクランブルに8分もかけるとは……よほど死にたいらしいな!!」

奥歯を噛みしめながら祐樹は吼える

そうして旋回行動を止め、上がってきたF―15E《ストライクイーグル》四機にフライヤーモードのまま突撃する!!


「其処の戦闘機!!おとなしく止まりな!!!さもなくば打ち落とすよ!!!」

一機の《ストライクイーグル》からのオープン回線が開くが

祐樹はその答えにHBライフルで返す!!!

上空から紫に輝く粒子に胴体を貫かれ《ストライクイーグル》は爆散する

「なぁ?!」「撃ってきやがった!!」「貴様~~~!!!」

その光景に一瞬目を奪われ、怒りの咆哮を上げるが

続いてHBライフルで先ほどの《ストライクイーグル》の右隣に居た奴にも胴体にビームをプレンゼントし爆散させる

「うわぁっぁぁあ!!」

残った二機はこちらに87式を打ってくるが祐樹は地表スレスレまでバレルロールにて回避

NOE並みの低空飛行にて正面から突っ込みながら2丁の360を胴体部分に浴びせる

87式より威力の高い射撃を受け、装甲をあっさりと貫通され停止

そうして祐樹が駆け抜けたあと主機に食らったためか一機が遅れて爆散しその爆風に呑まれたもう一機も爆散した


かすか2分で四機の《ストライクイーグル》が鉄屑となった……



さらに左右の別エレベーターより四機ずつ合計八機の《撃震》が姿を現す!!

「奴を生かして帰すなよ!!!」

表れたと同時に発砲してくるが祐樹は旋回しながら弾幕を回避し右から表われた《撃震》達の真上を取り

太陽を背にしながら突撃する

「ぐっ?!?!」

ラプターを見上げた一人の衛士は呻きを上げた瞬間にその意識が途絶えた






「なんて奴だ……。」

左側より上がってきた《撃震》のパイロットの一人が呟く

先ほど祐樹が反対側の《撃震》の真上を取りその下に居た者が上に87式を構え、一瞬硬直した瞬間に二条の紫の光と二丁のマシンガンから放たれた弾に

全機的確に胴体を狙われ二機は胴体が光線級に照射されたかのように溶け、残りの二機も蜂の巣にされ動かなくなった

そうして地面スレスレで急旋回するところをチャンスと彼らは87式を浴びせるが……

半透明の壁に阻まれてラプターに届かなかった

「やつは、化け物か?!」

同僚の衛士からのデータリンク越しの声に震えが走っている

「くそぉぉぉぉぉ!!」

自身を鼓舞するかのように雄たけびを上げながら彼らは87式を乱射した






一方、司令部


「何事かね?」

司令室にパウル・ラダビノッド 准将が上がってくる

「それが…。」

中佐からの報告を受け、パウルは目を閉じ次いで戦術画面に目を通し、窓越しに戦場を見渡す

「過ぎてしまったものは仕方ない……。今は眼前の敵機を排除せよ。」

そう命令を下し、夕呼の近くによる

「香月博士……。」

パウルは夕呼に耳打ちしながら

「A―01は出せますかな?」

「ええ、司令。」

「では、お願いしたい…。」

「それほどの敵だと……。」

夕呼の問いにパウルは戦術画面を横目で見ながら

「ええ。」

その言葉と同時に画面上の撃震四機が消える














「……恐慌したか、トリガーを引きっぱなしだ。」


右側の《撃震》達を片付け、旋回し左側に攻撃しようとしたところ…二機ほど先ほどDFで受け止めてからずっと撃ちっぱなしの機体が居た

「有効射程から離れていることにすら気づいていないとは……どれだけぬるま湯に漬かっていたのやら。」

祐樹のラプターは今や遥か上空にて旋回しながら眼下の《撃震》達を見つめている

僚機の様子に残りの二機はなんとかなだめようとしているが…

「待ってやる義理はないんでな…。」

さらに上昇しHBライフルのスコープを展開しチャージする

「逝け……。」

チャージ完了し、すかさず機首を地面に向けてなだめている《撃震》をロックして発射

先ほどよりも大きな紫の粒子に頭部から機体を貫通され爆散する

その爆風と僚機の破壊にさらに恐怖したのか隣に居た奴ごと転倒しそうになる

続けて祐樹は混乱していない最後の機体をロックし、HBライフルを発射

間一髪、その《撃震》は回避するが転倒しかけて膝立ち状態の《撃震》に足を取られ不安定になる

さらに追撃のHBライフルによって胴体を撃たれ沈黙

やっと残った二機は立ち上がりこちらに、87式を構えるが

「弾切れだ……あほが。」

120mmも36mmも先ほどの恐慌時に打ちつくしてたため、空しくトリガーを引く音が響く

「だが……逃げないことは褒めてやる!!」

それに気づいた《撃震》達は長刀を構えて待ち構えるが

祐樹はラプターの機首前方にDFを槍のように展開し突っ込む

「本家よりも弄ってあるのでな…威力は受けて確かめろ!!!!!」

二機の《撃震》を紙切れのように引きちぎりながら駆け抜ける

下半身のみが地面に立ち、上半身が地面へと落ちていき

数秒後爆発した……



その爆発と共に中央エレベーターからUNカラーに塗装された《不知火》が5機表われた






機体を有効射程範囲より外し上空を旋回する

「ほう~~。《不知火》か……現時点での横浜での《不知火》配備はA―01のみ…香月博士もお人が悪い…。」

「悪くなければ、"極東の魔女"とは呼ばれんか……。」

苦笑を浮かべながら祐樹は呟く

「通信ではああいったが、死なすには惜しい腕だ。ただのえこひいきだが致命傷は避けるか……。もっとも俺の腕が通用するかが問題だが…。」

祐樹はラプターを太陽を背に急速下降させる!!




「はん!!同じ手は食わないわよ!!!」

速瀬 水月はそう吼えながら自機を下がらせながら太陽を直視しないように空中を見上げ87式を構えるが

「「「「「なぁ?!?!」」」」」

戦闘機がいきなり戦術機へと変貌したのに驚愕し

「きゃぁっぁぁっぁ!!」

水月は悲鳴を上げ

凄まじい衝撃が自身を襲った






「妥当な判断だ。」

標的にした《不知火》の迅速な行動に賞賛を送るが……

「しかし、こいつを戦闘機と勘違いしたのが運のつきだ。」

空中にてフライヤーモードからPTへ変形しながら、その突撃前衛(ストーム・バンガード)仕様の《不知火》に踵落としを決める!!!

見事に頭部に決まり拉げ硬直したところに、両腰のスリットからビームソードを取り出し刃を形成、その《不知火》を達磨にする

「やはり……斬れすぎるな…手応えがまるで感じられん。」

祐樹はビームソードの手応えに不満を感じながら残りの四機に目をやる





「なんなんの?!あの機体は?!」

戦闘機が戦術機に変形するだと?!私は夢でも見ているの?!その思いが風間 祷子が感じた思いだった

それに…

「速瀬中尉を一瞬にして無力化するなんて!!!」

そう言いつつも祷子は87式を敵機にばら撒く

敵機は左にステップその場でまた変形し高く飛翔する

「宗像中尉!!!」




「了解!!風間少尉!!!」

祷子の射撃により敵機は空中へと逃げ出した、それを追撃する宗像 美冴

「祷子が作ってくれたチャンスだ…仕留めさせていただくよ。」

先ほどからの戦闘で敵機には後方に対する攻撃を行っていない…加えて戦術機にはなったが現在のフォルムは戦闘機

背後からの攻撃に対して有効な迎撃手段は持ち合わせていないと美冴は判断した

敵機を追い自身も跳躍ユニットで追撃する

11秒くらいで肉薄することが出来たが再び敵機が変形し

「えっ……?」

気づいたときには美冴は落ちていた









金翅鳥王剣(インメルマンターン)…。」

垂直機動からの反転落下しながらの攻撃

空中にて重力反転地点において一気に反転する技

呼吸を掴むのはかなりの技量を必要としたが祐樹はなんとかこなすことができた

変形しながらの"金翅鳥王剣"、すばやくスリットからビームソードを抜き

迎撃後衛(ガン・インターセプター)仕様の《不知火》の両肩付け根に突き立て、上に払い斬った

両腕を失いながらも器用に空中でバランスを取りながら着地したのを尻目に

こちらを狙っていたもう一機の不知火にHBライフルを最小出力で牽制がわりに放つ







「くっ!貴様は後ろにも目をつけているのか?!」


HBライフルを放たれた伊隅 みちるは射撃を諦めて機体を捻って回避する

すかさず再度、上空に87式を向けるが敵機は見えずレーダーを確認すると

目前まで迫っていた

「くっぅぅぅ!!」

慌てて87式を向けるが左の光る赤い刃に構えていた腕を切り落とされ、さらに両脚を右の刃で纏めて斬り裂かれ

さらに回転して後ろ回し蹴りを上半身に喰らいそのまま地面へと落ちた

「亦菲!!風間を連れて後退しろ!!!」

自身との腕に圧倒的な差を感じみちるは亦菲にそう叫ぶ






「大尉…どおやら見逃してくれそうにありませんよ!!!」

亦菲は敵機が腰に構えている赤い刃に注意を払いながら自身も長刀を構える

「しかし、このフォルムどこかで……?」

敵機の頭部モジュールにどこかで見た印象を受ける亦菲

その時、目の前の敵機が右の赤い刃を振り上げながらこちらに突っ込んでくる

それにあわせるように両の長刀を振るうが

「やっぱし、ね!!!!」

スーパーカーボン製の長刀は真ん中より綺麗に斬られた

長刀を捨て後退しつつ、マウントしている二丁の87式を放つが

やはり半透明の壁に阻まれる

「風間少尉お願いします!!」





「これでぇぇぇぇぇ!!!」

その言葉と共に祷子は92式多目的自律誘導弾を一斉発射

計36発のミサイルが敵機に向かう

「亦菲!離脱しなさい!!」

祷子の言葉が届く前に敵機は半透明の壁を前面にして亦菲にタックルをかけて横転させ、次いで赤い刃で持って四肢をなぎ払い

亦菲機の跳躍部分を掴み、その場をスラスターを吹かせて離脱する

スラスターすらも《不知火》が敵わないほどの即応性とスピードを発揮していた






「ひやひやさせる……。」

いつ間にか後方に下がっていた制圧支援(ブラスト・ガード)仕様の《不知火》からのミサイルを

強襲前衛(ストライク・バンガード)仕様の《不知火》を連れて離脱した……

一歩間違えれば、友軍殺しになっていたがDFのせいで攻撃が通用しない以上、現有火力でもっとも威力が高い92式多目的自律誘導弾をぶつけるは必至だったのだろう

制圧支援(ブラスト・ガード)仕様の《不知火》から87式が発射されるが全てDFに防がれる

「終わらせるか……。」

祐樹は手に持っていた強襲前衛(ストライク・バンガード)仕様の《不知火》を放り投げ

スラスターを吹かせながら右にビームソードを持ってDFを展開しながら突っ込む

懸命に抵抗するがまったく歯が立たず…最終的に達磨にされてしまった











「…………。」

夕呼は目の前で起きた戦闘に唖然とする

《ストライクイーグル》四機に《撃震》八機、《不知火》五機の部隊が立った20分で全滅したのだ

《ストライクイーグル》、《撃震》は文字通り全滅であったが《不知火》は四機が達磨にされ、残った一機も両肩から奪われて戦闘不能……

あの様子から腕にある程度、自身があったのはわかっていたが…まさかここまでとは思いもよらなかった

それに……

「あのフォルム…"Gespenst"に似た頭部…。」

夕呼は小さく呟くが回りの喧騒で掻き消える

そうして件のビルトラプターが司令部に近づいてくる

「うわぁぁっぁぁ!!!」

「いやぁぁっぁっぁぁ!!!」

司令の命令も出ていないのに勝手に持ち場を離れる者が続出する

先ほどの中佐等、一目散に逃げ出している

イリーナ等、一部は懸命に基地内に避難命令を出し司令に指示を請う者いたが全体の三割ほどでしかなかった……

司令部の窓にラプターのバイザー部分が重なり、見ようによっては目線を合わせているかのように見えた

そうして緊迫した空気が流れたがパウルが近くのマイクから告げる

「当横浜基地は降伏する。これ以上の戦闘行為を中止していただきたい。」

はっきり降伏を宣言した。

「司令?!」

イリーナが驚愕の表情でパウルを見上げる

「全員武装解除、非戦闘員の脱出は随時行いたまえ…なんとか時間を稼いでみる。香月博士、あなたも脱出してください。」

そう告げるパウルであったが

その時、窓から見えるバイザー部分がチカチカと不規則に点滅する

それに夕呼は訝しげに反応するが…

「イリーナ!!モールス信号!!!翻訳して!!」

イリーナに対して声を上げる

「えっ…?あっはい!!」

バイザーの点滅がモールス信号だと理解したイリーナは解読する

「横浜基地司令の英断に敬意を表する…つきましてはよき"環境"を作られんことを願う…・以上です。」

イリーナがそう読み上げるのと同時にビルトラプターは離れ変形し飛来した方角へと消えていった






「なんだったのであろうな……。」

基地の惨状を眺めながら呟くパウルに

「さぁ?…ですがこれで横浜基地は変わりますわ。」

「…………。」

「今回の騒動によって浮かんだ様々な問題…特に蔓延していた後方意識はこれで払拭されるでありましょう。」

夕呼はきっぱりと言い切る

「……災い転じて福となすとでも?」

「あら、インド人の司令が日本のことわざをおぼえていられて。」

「……茶化さないでいただきたい…。」

「ふふ……なんにせよ、ここからですわね。」

「…………。」

























そこから見える景色は破壊のみ……




だが破壊のあとには必ず復興がある



どんなに踏みつけられ、虐げられても人は立ち上がり明日を求める



彼ら…横浜基地の者達もまた明日を求める者達なのだから……









[20464] ダイバー 第十四話
Name: るー◆584161b8 E-MAIL ID:96b32de8
Date: 2010/08/19 18:03




















―2001年 1月16日 横浜基地より1000k先 海上 ユーチャリス



モニターには祐樹が次々と横浜基地の戦術機を落としている映像とコクピット内部が映し出されている

[ノルン……恐れていた事態が起きたようだよ…。]

サラの呟くようなウィンドが展開される

コクピット……祐樹を映すモニターから感じられる禍々しい"モノ"

機械の身であるサラにも感じ取れる程の"モノ"が祐樹を覆っていた……








































横浜基地より離脱した祐樹は、そのままユーチャリスへと帰還した

「ふぅ~~~~……。」

コクピットから出て、タラップへと足を着けて仮面を取りながら背伸びをする祐樹

「(思ったよりか、なんとかなったな……。A―01もXM3が現時点でないこの世界ではまだまだといったところか…?)」

そう思案しているところにサラのウィンドが展開される

[お帰り、マスター。]

「ただ今、サラ。」

軟らかく微笑みながら返す

その様子に先ほど、サラが感じた"モノ"は一切しない……

[あのさ、マス…。]

その時、横浜基地から通信が入った

[(ちっ…間の悪い)マスター、香月博士から通信が入ったよ。]

「展開してくれないか?」

祐樹はそう言いながら仮面を装着する

[了解。]

サラは自身と同じくらいのウィンドを祐樹の前に展開する

「やっと繋がった!!遅いわよ!!!」

夕呼の怒り声が響く

「おや、どうかされましたか?香月博士?」

「あんた……わかってやってるでしょ…。」

こちらをジト目で見つめてくる夕呼

「なんのことですかな?」

すっとぼける祐樹に対して

「まぁ…いいわ。こっちもああ言った以上、何も言えないわね…。」

溜息をついて肩を窄めながら言いながら鋭い目を向けてくる

「"Gespenst"……まさか、あんただったとはね。」

「………。」

顎に手をやり苦笑しているポーズをとる祐樹

「先ほどの"Sterbenfalke"(死を運ぶ隼)…さっきの可変型戦術機のコードネームね…頭部モジュールの類似に、送られてきたビーム兵器の資料、あんたが使っていた赤く光る刃…あれもビーム兵器でしょ。」

咳払いし

「で…これらを統合し1993年に目撃された"Gespenst"の記録映像を考えれば、驚くほどの類似点…。持っているんでしょ"Gespenst"。」

「………。」

祐樹は今だ沈黙を続ける

「寄越しなさい!!"アレ"は表側には隠しているけど各国が血眼になって探している物!!"アレ"があれば今後の展開に有利になる!!」

一気に巻くし立てる夕呼に対して

「くっくっくっ……ふっはっはっはっはぁぁ!!!!!!!!」

祐樹は盛大に笑い声を上げ

「笑止!」

一喝する!!!

「あなたの推察通り、"Gespenst"は我々が保持している兵器……香月博士。」

言葉を切り、祐樹は仮面越しに夕呼を睨みつける

「たしかに我々は利害関係が一致したゆえに契約を交わした……だが!!」

声高らかに放つ

「我々はあなたが提供したODLサンプル及び反応炉のデータに対して、"XMO"及びビーム兵器に関する資料をお渡しした。」

「最初に提示した四つの案件に、こちらの要請に応えて貰うということに対しては、あなたがもっとも行き詰っていた00ユニット開発に貢献することで答えた…。」

一旦言葉を切り、呼吸を整え

「"悪名"高き香月博士ですからね…あれだけでは足りぬと申されるのかな?」

侮蔑したかのようにせせら笑いながら祐樹は言い切った

「…………。」

苦虫を噛んだようにしかめっ面をさらす夕呼

「まぁ…いいでしょう、近いうちにお渡し致しましょう。」

あっさりと伝える

「はぁぁぁ?」

今までのやりとりはなんだったのかと、夕呼は怪訝な顔を作る

「ですが…強請るだけの者に、私は協力しない。今のあなたにはこの言葉を送ろう…。」

「強請るな、勝ち取れ。」




祐樹の言葉に夕呼は

「ふふ……そうね、どうかしてたわ。」

くすくすと夕呼は小さく笑い声を上げながら

「そうよ…あんたに言われるまでもない!」

「あんたが認めた香月夕呼は伊達ではないことを証明してやるわ!!!!」

一気に捲くし立てた

「それでこそ、"極東の魔女"…。」

くくっと苦笑しながら呟く

「なんだって、利用してやるわよ…あんたが何者であろうと、使えるモノ、提供されるモノ、全て。」

憤慨し、そっぽを向きながら夕呼は宣言する

「まぁ、あんたの受け入れは二週間ぐらいかかると思うは…今回の件もあるし。」

「そうですか…"ゼロ少佐の件"はこちらに連絡を…。」

祐樹はニュアンスを強めながら伝える

「あ~はいはい。」

夕呼は内心、めんどくさい奴だと思いながら通信を切った

「二週間後か……まずは、大佐へ出向の件を了解していただかないと。」

[順番逆じゃない?]

「仕方ないだろ…大佐も開発局の顔になったゆえに、忙しくなっている…まぁ今回の件は前から伝えてもいるし、パーティーの件も伺うよ。」

再度祐樹は仮面を外しながら答える

[うん……。]

サラの歯切れの悪そうなウィンドが浮かぶが祐樹はとくに気に止めなかった



























―2001年 1月20日 帝国軍技術廠・第壱開発局 局長室


「失礼致します。」

祐樹はそう言いながら入室する

「久しぶりだな、ゼロ少佐!」

朗らかに笑いながら迎える巌谷

「大佐、かねてからお伝えしていたように……。」

「そうか…行くかね?」

肩を窄めながら残念そうに巌谷は聞く

「ええ、成すべき事がありますゆえに……ところで大佐。」

「なんだね?」

「日本の各メーカー及び帝国斯衛軍を交えてのパーティーを企画されているとか…。」

声に冷たさを乗せながら祐樹は巌谷に問いかけた

「あ~~、その、なんだね……。企業からぜひ!!!とまぁ…それに。」

一旦言葉を切り、表情を真剣にさせる

「斯衛の方ではどうも、"XMO"に懐疑的でね……唯依ちゃん達が現在、各方面軍から出向してきた帝国軍の者には教練しているのだが…」

「【待雪草】戦(帝国内ではこう呼称されている)でも《真改》に関しての戦果報告に疑いをもたれている…。」

溜息をつきつつ巌谷は続ける

「メーカー側の希望に斯衛の態度が重なって今回の運びにしたのだよ。」

「……そうですか…ですが事前に連絡はほしかったのですがね…。」

「すまない…。少佐には時期が近づいたら教える手筈でね、開催日は3月24日を予定している。」

「では、大佐そのパーティーの企画立案は私にお任せいただけますか?」

「少佐が?」

「はい……この機会を最大限に有効活用したいので…。」

恭しく祐樹は告げる

「……詳しく聞かせてもらうおうか。」

「はい。」

そうして祐樹と巌谷は詳細を詰めていく



























―2000年 2月1日 横浜基地 正門前


「着きましたよ、少佐。」

やよいの声に祐樹は

「ありがとう、中尉。」

礼を述べて軍用ジープから降りる

開発局から帝都へ向かい、そこからジープを調達してここまで祐樹達はやって来た

後ほど、《真改》も輸送されてくる手筈だ

そして正門前には夕呼とイリーナが待ち構えていた

「いらっしゃい、待っていたわよ。」

夕呼のあいさつに

「初めまして香月博士、お呼びいただき光栄です。」

「堅苦しい挨拶はいいわ、着いてらっしゃい。」

夕呼は手で制しながら基地内へと歩き出し、それにピアティフが続く

それに祐樹達も続いた



「博士…あの方が。」

「そう、あんな憂さ臭い格好しているけど帝国で話題になっている、ゼロって奴。」

「そうですか…。」

後ろを歩く祐樹とそれに寄り添うように静々と歩くやよいに目線をやり

夕呼の答えにピアティフは感慨深げに頷いた




一度、司令室へと向かいパウルへの挨拶を済ませ夕呼の執務室へと到着した

その間にやよいはピアティフから案内兼ここでのCP関連の説明を受けることになる


「さて、あんたの基地での認証票にその他諸々。」

夕呼は机の上に無造作にあった物を祐樹に手渡す

「執務室と私室も用意したわ、他に足りなかったら言って頂戴。」

「了解した。」

祐樹は簡潔に答えた

「で、あんたはどうするの?」

「これから、訓練部隊の様子を見に行くつもりだが……。」

「まぁ、あんたからの条件のひとつだものね、あの子達…特にB小隊の件は。」

「もちろん存じておりますよ。」

「そう…ならいいわ。まりも…神宮司軍曹呼ぼうかしら?」

少し間をおいて祐樹は

「お願いする。」

そう答えた

「わかったわ、それからA―01はどうする?今、機体を"XMO"に換装させてるわ、明日には終わるけど。」

「今は彼女たちは何を?」

「あんたから一緒に貰った仕様書と特徴を掴むためにシュミレーター漬けよ。」

夕呼の言葉に祐樹は考えをめぐらせて

「私の実機は三日後の朝に搬入されるので…四日後に実機訓練を設定していただきたい。」

「わかったわ……前回みたいなことは勘弁してよ。」

夕呼は暗に死人を出すなと釘を指す

「ふふ…何のことやら?まぁ訓練で死人を出したら元も子もないので心配なさらず。」

祐樹は惚けながら返したところに

インターフォンが鳴る

夕呼は机に備え付けてあるモニターを見てドアを開け

「失礼致します。要請により神宮司まりも出頭致しました。」

ドアからまりもが現れる

「まりも、この間言ってたあんたと一緒に訓練兵の教練に関わるゼロ。」

祐樹を指しながら夕呼はまりもに告げた

「あの…香月博士、この間って……。」

まりもはそんな話聞いてない!!とい顔で夕呼に聞く

「あれ?言ってなかったかしら?まぁ、いいわ決定事項だし。」

「はぁ……。」

額に手をやりながら何時も通りの夕呼に呆れる

そこに渦中の祐樹はまりもに挨拶する

「初めまして神宮司軍曹、私の名はゼロ…以後お見知りおきを。」

祐樹は慇懃に挨拶をする

「あっ、こいつ少佐だから。」

夕呼はまりもに一言告げて

「はっ!私は神宮司まりも軍曹にあります。」

格好に怪訝な表情をするもすぐに上位者だと知り顔を正すと敬礼しまりもは答える

「(ゼロって……でも声は似てないし…。)」

内心で"あの時"の事を思い出すが

「では神宮司軍曹、訓練兵のところに案内をお願いしたいのだが。」

祐樹はまりもに願い出る

「はっ!かしこまりました、ご案内させていただきます。」

祐樹に敬礼し夕呼の方に向くと手をひらひらとさせ退出を促していた

そうしてまりもと連れ立って祐樹は訓練兵の元へ向かう










その道すがら祐樹とまりもはこれからのことを軽く打ち合わせる

そして、まりもは祐樹に質問した

「少佐、質問してもよろしいでしょうか?」

言い難そうにまりもは問う

「なにかな?軍曹。」

「その……私には少佐と同じ名前…というのもアレなんですが、そう呼んでほしいと言っていた知り合いが居まして。」

「ほう…奇遇ですね。」

祐樹は感慨深げに相槌を打つ

「その…少佐は私のことを存じているかと思いまして…。」

まりもは上目遣いで祐樹を見上げるが

「あの子達が訓練兵かな?」

遠めにトラックを走っている少女達が見えそちらに祐樹は足を向けはぐらかした


















―横浜基地 衛士訓練学校敷地 グラウンド



「207訓練小隊集合!!」

まりもの盛大な声がグラウンドに響く

そうしてトラックを走っていた少女達が二つのグループに別れて集まる

「207B小隊、集合完了いたしました」

「同じく207A小隊、集合しました」

千鶴と茜がまりもに報告する

その間他の者達は祐樹へと視線を向けていた

「お前達に紹介する、このたび私と共にお前達を指導することになるゼロ少佐だ。」

祐樹を紹介するまりもの声に続き祐樹は口を開く

「帝国開発局から出向してきた、ゼロだ。君たちの教導に加わるが私自身は戦術機過程に入ってから指導することになる。」

その言葉に唖然とする者、目を白黒させる者、糸目になる者と様々な反応を返す

共通しているのはいかにも胡散臭いとい表情だ

そんな中、一人が挙手をする

「少佐…質問。」

糸目の彩峰がまりもに聞く

「なにかね?彩峰訓練兵。」

「…ああ、君達のパーソナルデータには目を通してある。」

若干驚いた慧に祐樹は続けて答える

「その格好は趣味ですか?」

ビシッとこちらを指差して言う慧に

「こら!!彩峰!!!!」

まりもが叱咤した

「かまわないさ軍曹。何、諸事情で素顔を晒す事ができなくてな……仮面だけだとおかしいのでこういう格好をしている。」

肩を竦めながら祐樹は語り

「………。」

全員沈黙する中、さらに祐樹は慧の表情を見て

「納得できない…というよりも不信感に満ちているな、彩峰訓練兵。」

図星を突かれたゆえか慧は一瞬を眉を動かす

「あや」

まりもが口を出そうとしたのを遮り

「彩峰訓練兵、軍隊とは上からの指示に疑問を抱かず忠実にこなす事を求められる。」

「もし、疑問等を口にしたければ君が上に立つことだ。」

一旦言葉を切り

「しかし君の疑問もわかる……ここは一つ余興を行おうか。」

人差し指を立て祐樹はそう告げる

それに彩峰はきょとんとする

「君の得意とするモノで君が納得するまで勝負をしようか、パーソナルデータは確認してあるのでな。」

その言葉に慧は不敵な表情を浮かべ

「時間、場所はどうする?」

祐樹に問いかける

「今この時、この場所で。」

即答する祐樹

すぐさま彩峰が構えるが

「待て!!彩峰!!少佐もおやめください!!!」

まりもが大声で遮る

「軍曹、邪魔しないでいただきたい…この子達には私の実力を見せた方が早い。」

「ですが!!!」

強く言い放つが

「軍曹」

一言呟くように言われ、まりもは押し黙ってしまった……

「では、軍曹これを頼む。」

そういい祐樹は自身のマントを手渡し、仮面とスーツ姿となった

「わかりました…。(あれ…この匂い……)」

受け取ったスーツの匂いを感じまりもは思考しだすのと同時に

「いつでもいいぞ、彩峰。」

その言葉と共に慧は祐樹に襲い掛かる






「すごい……」

たまが感慨深く呟く

まさに慧と祐樹の間には拳打の嵐が吹きすさんでいる

慧が右を出せば祐樹も右、左を出せば左、ハイキックを出せば同じくハイキックを出し、お互いの拳と足がぶつかり合う

「慧さん…やっぱしすごい!!」

興奮しながらたまは言うが

「たしかに…あやつの動きは相当のものだが…。」

慧の動きに冥夜が感服しながらも言葉を濁す

「どういうこと御剣?」

千鶴が質問した

「私には拳のぶつかる瞬間が見えているのだが…ぶつかる地点が両者の境でぶつかっておる。」

「?あたりまえじゃない?」

茜が会話に参加して疑問符を浮かべる

「考えてみてくれ…仕掛けているのは彩峰で少佐は受け手に回っている。」

「………あっ!!!」

聞き耳を立てていた晴子が大声を上げる

「そうだ、彩峰の行動を見てから少佐は同じ行動に入っているのに衝突点がお互いの中間点…つまり少佐の方が動きが早いのだ……。」

一同、唖然とする中

「それに彩峰は、今や汗だくになりながら動いておるのに対して…あの格好だから詳細はわからんが…少佐はかなりの余裕を持っておられるようだ…。」

その言葉に驚愕の表情を作る訓練兵達

その時、慧は持てる力を振り絞りラッシュをかける

右・右・左・ロー・左・右・左アッパー・右・ミドル・右・左・ハイキック

対して祐樹も

右・右・左・ロー・左・右・弾き・右・ミドル・右・左・ハイキック

全て迎撃していく

「どうした?もう終わりか?」

一度、距離をとった慧に祐樹は涼しい顔で言い放つ

「はぁ…はぁ……くぅ!!!」

肩で息をしながら彩峰は突撃しながら祐樹の右前腕部を掴み極めてから投げようとするが

「それではな!!」

腕を極められる前に祐樹は慧の背中を踏み台のごとく掌で押して体勢を崩させ自身を高く舞わせる

そうして宙で回転し

天座失墜小彗星(フォーリンダウン・レイディバグ)。」

這い蹲っている慧の顔をスレスレに通過しながら地面に踵落としを叩きつけた

















全員、その光景に声も出ない……

部隊内において格闘戦でトップを張る慧、あのまりもですら基地内にて慧を格闘において上回る者はいないと断言する程である…

「終わりかな?彩峰訓練兵。」

祐樹は足を地面から話、自然体で慧に聞く

一瞬ビクッと体を震わせるが、立ち上がり直立不動の体勢で深く頭を下げる

「申し訳ございませんでした。」

「顔を上げろ彩峰訓練兵。何、君の疑問は尤もなものだが私以外の相手では問答無用に修正を食らわせられるとこだぞ。」

おどけながら祐樹は言い顔を上げた慧の頭に手を置き

「だが、目を見張るセンスだ…これからも訓練に励んでほしい。」

そう言いつ慧を頭をゆっくりと撫でる

「あっ……。」

その心地よい感触に頬に朱を差して、目を細めながら夢見心地に慧は撫でられる

「さて、他にも不満な奴は居るか?」

訓練兵達を見渡す祐樹

その言葉に全員一斉に首を横に振る

若干、一名は何か言いたそうな目をしているがこの場では周りに倣った

「そうか…では彩峰訓練兵戻りたまえ。」

祐樹の言葉に慧は

「んっ……慧でいい。」

そう答える

「ふぅ…先ほども言っただろう…慧戻れ。」

理解してない慧に溜息をつきつつ祐樹は再度指示し

「了解。」

慧は即答しグループに戻っていく

「さて、では私はこれで失礼する…軍曹あとは頼む。」

全員を見渡し表情に納得した祐樹はまりもからマントを受け取り、執務室に向おうとするが

「はっ!!あの少佐。」

まりもの呼び声に祐樹は振り返る

「なにかな?軍曹。」

「今夜、21:00時は空いておりますか?」

真剣な表情で聞くまりもに祐樹は

「…ああ、空いてる。」

「でしたら、執務室にお伺いさせていただきたいのですが。」

「……わかった、待っている。」

そう返して祐樹は再び執務室に向かう


祐樹が向かったあと、まりもは先ほどの態度に注意し再度少女達に訓練を課す

その時の慧は若干まりもを不満そうな目で見ていたことを記す……


























―21:00 横浜基地 ゼロの執務室



インターフォンにまりもと亦菲の顔が映る

「どうぞ、軍曹。」

祐樹は手元の受話器で伝えてロックを解除する

「「失礼致します。」」

二人が敬礼後、入室してくる

「少佐…お時間を頂きましてありがとうございます。」

まりもは礼を述べながら祐樹を逃がさないような視線で見つめる

隣に居る亦菲は不安と期待を内混ぜた顔でこちらを伺っている

「こちらはA―01に所属している、崔 亦菲少尉に在らせられます。」

一歩前に出て亦菲は敬礼し下がる

「単刀直入にお伺いさせていただきます……少佐は1993年の南京でお会いしたゼロさんですね?!」

語尾を荒げながらまりもは言い募る

イーフェも真剣な表情でこちらを見つめる

「失礼ながらお預かりした。マントから漂う甘い香り……私はあの匂いを嗅いだのはコードネーム"Gespenst"に搭乗した時にしかありません!!」

切羽詰って捲くし立てるまりも

「軍曹、何を。」

祐樹の言葉を遮りまりもと亦菲

「間違いありません!!ゼロさんなんですよね?!」

「ゼロ、あの時のゼロなんでしょ?!あたし亦菲、崔 亦菲!!"拉小指立誓"の約束したでしょ?!」

涙をこぼし、しゃくりあげながら叫ぶ二人に祐樹は


「………………はぁ~。」

深く溜息をつきながら

「ここで見たこと聞いたこと全て他言できないと誓えるか?」

その質問に二人は

「「はい!!!!!」」

盛大な声で同意する

その言葉を聞き祐樹はダミー映像を流してから自身の仮面を取っていく


「「あっ……あああぁぁぁ!!!」」

感極まった二人は祐樹に飛びつく

そこには八年前と変わらない優しい雰囲気を湛えた金の瞳、左側を完全に覆った艶のある漆黒の黒髪

あの頃とまったく変わらない風貌に彼女達は咽び泣く

「ぜろ!!ぜろ~~~!!!」

しゃくり上げながら首元にかじりつく亦菲

「ぜろさん~~~~!!」

胸板に縋りついてすすり泣くまりも


そのふたりの背中を優しく撫でながら慰める祐樹




















































ここに再び、彼女達は巡り会う……














漆黒を纏う優しき反逆者に…










時は2001年 1月20日


こうして新たなる時代は幕を開けた……








[20464] ダイバー 第十五話
Name: るー◆584161b8 E-MAIL ID:96b32de8
Date: 2010/08/19 18:03


















―2001年 1月20日 ゼロの執務室




ひとしきり泣き終わったのか二人は涙をぬぐって祐樹に質問しだした

「ゼロ……なんで直ぐに会いに来てくれなかったの?!」

亦菲がジト目で祐樹を見上げ

「そうです!無事なら、なぜ連絡してくれないんですか?!」

まりもも亦菲に続いて追撃する

「機会がなかったんだよ……。」

ぽりぽりと頭を掻きながら祐樹は伝えた

さらに冷たい目で見据える二人

「すまない。」

祐樹は素直に頭を下げて謝った

それに二人は嘆息してしょうがないなという表情をしながら許す

そうして近況を話し合う三人だったが、ふとまりもは

「そういえば……、少佐はあまりお変わりありませんね?」

祐樹の容姿が八年前とまったく変わっていないことに突っ込む

「そういう軍曹こそ、お変わりない…出会った頃のようですよ。」

内心あせりながら微笑んでそう切り返す

「えっ!そうですか……?」

まりもは赤くなりながら頬を両手で包んで照れる

その様子に亦菲は

「むーーーー!」

と頬を膨らまして可愛く嫉妬している

「亦菲は綺麗になったよ…今年で何歳だい?」

「十九歳よ、もう結婚もできるし。」

意味深な視線を祐樹に送りながら亦菲は答えた

「そうか…もうそんな年か…。」

「ゼロは?」

「俺は……二十三だよ。」

その祐樹の呟きに二人は驚愕する

「なっ?!ということは八年前は十五歳?!?!一体、あなたは?!」

まりもは自身が導き出した答えに唖然とする

「(まぁ、ジャンプ分含んだら軽く三十は超えるけど……)」

内心、サバを読んでいるようで気が引ける祐樹……

「軍曹、そこら辺は勘弁してもらえるかな…Need to knowだ。」

「……わかりました。」

まりもは祐樹の言葉に無理矢理納得することにした

「でも、思ってたよりゼロって若いんだね……。」

亦菲は祐樹の顔をまじまじと見つめ

「うん!これなら大丈夫!!」

勝手に自身で納得する

一方、まりもは

「(二十三ってことは、五歳差……そうよ、たった五歳違うだけ!!大丈夫よ!!まりも!!!)」

内心、勝手に納得していた……

そんな二人の乙女(?)の内心等、露知らずな祐樹は頭に?を浮かべる

その後も歓談は続き、最後に祐樹は強く他言無用を約束させてから二人は退出していく


そうして二人は執務室を出た後

「神宮司軍曹……まりもお姉ちゃん。」

言い直しながら、先頭を歩くまりもに亦菲は声をかける

「………何?亦菲?」

その言葉から軍人としてではなく家族としての顔と声でまりもは振り返りながら返す

「あたし……負けないから。」

淡々と告げるがその言葉には想いが乗っていた

「ふふ…私もよ、亦菲…手加減しないからね。」

まりもも優しく微笑みながら亦菲の宣戦布告に真っ向から返す

二人の体から不可視のプレッシャーがかもし出されていく

さながら背景は竜虎相打つ!が描かれているであろう……







「っ?!」

ブルっと背筋を這う悪寒に祐樹は驚き、周囲を見渡すのであった…












あの後、時間が過ぎ…ふと窓越しに今日訓練兵達と出会ったグランドに視線が行くと

「あれは……。」

特徴的な蒼く長い髪を揺らしながら走る冥夜が見えた

「昼間の件もある、会ってみるか…。」

祐樹は持ち込んでいた模擬刀を二振り持って向かった





















―同時刻 ユーチャリス 艦橋


そこには超長距離通信で会話するノルンとサラが居た

「これは……。」

現在、先の横浜基地襲撃の際に記録した祐樹の映像にノルンは唖然とする

[うん…恐れていた事態だよ。]

「これは明らかに…"アレ"のせいね…。」

ノルンは深く溜息をつきながら自嘲する

[そうだね……原因は"アレ"ノルンがマスターに施した暗示……。]

サラのウィンドが展開する

「わたくしが"アレ"をかけなければ……。」

自らの行いを悔いるノルンに

[いや、ノルンの判断は間違ってなかったと思うよ…僕が当事者なら同じことしてたよ。]

「ですが!!!」

[過ぎたことは、どうしようもないよ…今はどう対処するかだよ。]

「では、即刻解除しましょう!!」

ノルンは強く言い放つが

[だめだよ!!現状のマスターの人格にどれほどの影響を与えているか…。それにあの感じに近くなるのは仮面を被っている時のみ、つまり仮面の装着によってONOFFが切り替わっている……さながら一種の二重人格みたいなもの。]

サラが大きくウィンドを展開する

「では、どうするのですかサラ?!」

[現状は様子見で…頃合を見て解除しよう、マスターもBETA相手の戦闘には慣れてきているはず…でも一度、どうにかカウンセラーに見てもらいたい。]

「ですが、それは…。」

ノルンはサラの提案に口ごもる

[わかっているよ…外部の人間はあてにならない、僕たちでなんとかしないといけない…人間じゃない僕たちじゃ、限界はあると思うけどその手の情報収集をしていこう。]

「わかりました、私も情報を収集して勉強します。」

[がんばろう、ノルン!!]

「ええ、サラ!!」


























―横浜基地 衛士訓練学校敷地 グラウンド



グラウンドに着いた祐樹はあたりを見回すと

「少佐……?」

後方より冥夜の声がかかる

そちらを振り向くと敬礼する冥夜が祐樹の視界に入る

走っていたのであろう額に汗を浮かべていた

「自主訓練かな?」

「はっ!」

「性が出るな。」

「いえ……少佐こそ何か御用でありましょうか?」

恐縮しながら問いかける冥夜に祐樹は手に持っていた模擬刀を一振り投げ渡す

「少佐…これは?」

困惑しながらも受け取る冥夜

「何、昼間の視線に対する答えだよ。」

そう昼間ただ一人何か言いたそうな視線を向けていたのが冥夜であった

「?!申し訳ありません!!」

驚愕しついで謝る冥夜に祐樹は

「私の動きに何か勘付くところがあったゆえの視線だろ?」

「………………はい。」

長い沈黙のあと意を決して冥夜は肯定した

「いささか、剣術に通じた動きを感じられましたゆえに…。」

「で、手合わせしたいと?」

祐樹の言葉に顔真っ赤にし

「上官に不躾な視線を送り、誠に申し訳ありません!!」

頭を下げる冥夜

「顔上げるんだ、御剣訓練兵。」

苦笑しながら答える祐樹、今もどこからか斯衛が見ているのであろう視線を感じる

「彩峰訓練兵にも許したことだ…それに私としても君の腕を見ておきたい。」

祐樹はそう言い、静かに模擬刀を八相の構えで握る

「!!!………無現鬼道流、御剣冥夜。」

気合を入れながら冥夜は名乗りを上げ、正眼に構える

「天真正伝香取神道流合戦礼法…。」

祐樹も流派を告げ二人は対峙した










「(何たる方だ……)」

対峙して冥夜が最初に思ったことはこの一言であった

両者共に構えてから三分程しか経っていないが…

冥夜はすでに一時間は立会っているように感じている

全身の毛穴という毛穴から冷や汗が流れ出る

「(どう打ち込んでも迎撃されて一刀に切り伏せられるイメージしか湧かない…)」

右からの袈裟斬り、左から一文字、上段からの縦一文字、下段からの斬り上げ……

どれも祐樹にいとも簡単に封じられ斬られるのみと

さらに二分が経過し…




じりじりと冥夜は間合いを詰めていく

祐樹も冥夜の動きに合わせて詰めていく




そうして、お互いの模擬刀が相手に一足で届く間合いとなる




最初から十分が経過したところで






「くっ……参りました。」

冥夜はイメージを払拭できずに降参する

「ふぅ……。」

息を吐き呼吸を整える

祐樹は構えを解きながら冥夜に淡々と告げた

「御剣訓練兵、刀に拘りすぎだ。」

「君が今、持っている物はなんだ?」

模擬刀を指差しながら問いかける

「?模擬刀でありますが……?」

「そう模擬刀だ、戦術機の長刀に真似たな…。」

その言葉に冥夜はハッとする

「気づいたかな?刃を併せる事ができない刀ではない…ゆえに刃を併わせた鍔迫り合いに持っていくことも出来たであろう。」

さらに祐樹は

「それに…手合わせであるが実戦に作法等通じはしない、全身…いやあらゆる物と手段を使って打ち勝つしかない。」

「ゆえに拳による牽制または本命を浴びせることも考えに入れて欲しかったし模擬刀の特性を考慮に入れて欲しかったのだが…。」

そう伝える

「…………。」

冥夜は沈黙して祐樹の言葉を咀嚼する

「まぁ、肝に銘じてほしい。」

告げることが終わった祐樹はマントを翻し背を向けて立ち去ろうとする

その背中に冥夜は

「ご指導ありがとうございました!!!!」

敬礼し大きな声で礼を述べる

声に反応し祐樹は振り返り

「御剣訓練兵、月並みな言葉だが守りたい"モノ"持っているか?」

冥夜に問いかけた

「はっ!この星……この国の民……そして日本という国を守りたくあります。」

威勢よく声を上げ、静かに独白するように祐樹に答えた

「そうか………。」

祐樹は頷くように首を振り納得する

「少佐はどのような……?」

「私か?……未来を変えるため……だな。」

言葉の途中で祐樹は首を上げ月を眺めながら答える

「未来……ですか?」

首を傾げながら冥夜は再度問う





「ああ、未来だ。」








冥夜はその力強い言葉と月明かりを浴びて浮かび上がる漆黒の姿に幻視する




まるで何かを求め欲するような




遥か彼方にあるモノを掴もうと





もがく一人の黒髪の男を……



































―?????







"ソレ"はそこに半壊した姿で浮かぶ

鋭角的なフォルムをした"ソレ"……

その姿は唯一残った四肢たる右腕を上げ

何かを求めるように虚空に手を伸ばした状態で止まっている















胸に灯る"火"を抱いて……



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