そこから仕入れて小売など、小口の買付人に販売するのが築地に750ほどある「仲卸」で、いわば彼らが築地の賑わいを演出してきた。高級料亭向けの食材の目利きとしても重宝されている。
外国からの観光客も増えてきた築地という場所への愛着。コスト負担がのしかかる豊洲移転。仲卸業者にすれば、このままこの場所で営業したいというのが本音だろう。
しかし、大塚議員が「平成十八年四月の市場整備基本方針では、仲卸業者数の大幅な縮減を図ることが盛り込まれております。電子取引の導入、仲卸の目利きによる競りの廃止が想定されております」と指摘したように、このまま計画が進めば、仲卸にとって厳しい事態が待ち受けている可能性はある。
米国発の金融危機でゴールドマンサックスがいったん手を引いたとしても、築地の閉鎖を機に、卸→仲卸→小売という日本独特の流通システムを解体して、寡占化で利益をむさぼろうという米国資本と日本の利権勢力の思惑は健在である。
今後、知らぬ間に米資本が大手卸の株主上位に食い込んでくることは十分予想される。
さて、もっとも肝心なのは豊洲への移転で食品の安全性が保てるかという問題であり、その話に戻ることにしよう。
驚くべきは、豊洲・東京ガス跡地の安全性に対する東京都の認識がいい加減で、対策や議論が荒っぽいことである。
東京都は豊洲新市場予定地で土壌汚染処理実験を実施し、ことし3月に「中間報告」を発表したが、これがとんでもないシロモノだった。
「確実に汚染物質を無害化できる」と結論づけているにもかかわらず、実験前の汚染濃度を隠し、実験後の数値だけを公表するという、人をバカにしたような内容だった。これでは対策の効果がどれだけあったのか分からない。
坂巻幸雄氏は次のように指摘する。
「私が強調したいのは、知らないうちに微量の汚染物質が繰り返し体のなかに取り込まれていくことです。都は、データがない、危険と証明されていないから安全と見なすと言いますが、大規模施設の建設にあたるゼネコンや、流通機構を握って大きな利益を手にする人たちがリスクの当事者でなく、生活者が否応なくリスクにさらされることが問題です。これでは壮大な生体実験というほかないでしょう」
都心の魚河岸の賑わいと風情にこそ、人は魅力を感じ、観光客も来る。
地下にベンゼン、シアン、ヒ素をためこんだ、巨大物流センターのような施設に、きめ細かな日本の食文化を養っていく役割が果たせるだろうか。