< ドキュメンタリー映画 『赦し・その遥かなる道』 のご紹介 >


   韓国で制作された一遍のドキュメンタリー映画をご紹介させていただきます。本作品は、韓国の代表的な民間放送局であるSBSが一般劇場公開用として制作し、2008年の秋に上映されたものです。最近の映画のように、残虐でショッキングな映像やあるいは扇情的な場面も含まれておらず、また息をのむほどの美しい画面で構成された映画でもありません。終始一貫して、抑えた展開と地味な映像で構成されていますが、その内容は、現実に存在する、これ以上ないほどの残忍な苦痛や絶望、消えることのない憎しみ、究極的な人間の強さとその対極の脆弱さ、そして想像することも出来ないほどの崇高な人間性を謳ったものであり、この映画を観た人たちの心を強く揺さぶりました。

   偶然、この作品のことを知り、同じく強い感銘を受けた者のひとりとして、私たちは、「赦し」というものを忘れ、失ってしまった日本の現代社会にこそこの作品を紹介したいと思いました。映画やDVDの制作とは全く無縁、素人の私たちではありましたが、各方面の専門家やボランティアの方々のご協力を得、一年余りの準備・制作期間を経てその日本語版が、この度完成いたしました。

   私たち「死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90」は、死刑制度の廃止実現をその目的とするNGOですが、この作品は、ご覧になれば分かるとおり、死刑廃止を訴えるために作られた映画ではありません。
   無惨な犯罪の犠牲となった被害者遺族の方々、愛する者を殺された人々の想像を絶する苦痛と喪失感、殺人者と社会に対する憎悪、また反対に、殺した者の許されることのない痛恨。誰しも耐えることができない大きすぎる苦痛に打ちのめされ、それに身悶えし、のたうち回りながらも、それぞれが究極の選択で乗り越えようとする人々。この作品は、死刑という人間の作ったひとつの社会制度に関するものではなく、人間と人間性そのものに関する映画なのです。

   すべての人々のかけがえのない生命が最大限守られ、無用に奪い奪われるようなことが決して許されないような社会 ― これは、死刑制度の存続・廃止に対する見解とは関係なく、私たちすべてがその実現を目標とする社会です。しかしそれが破られ、その思いが踏み躙られたとき、私たちは一体どうするべきなのか?
   この作品が、今一度、生命とは、また生きるとは何を意味するのかということを、自らを振り返りながら考える契機となることを願ってやみません。

   本編日本語版の制作は、ビジネスを離れた、韓国 SBSの全面的な支援により、初めて可能となりました。版権の無償提供だけではなく、日本語版DVDに関しては家庭内での一般的な視聴の範囲を超え、フリーソフトとしてコピー複写や頒布、レンタル使用の自由化、また公共の場所における上映など、利用権の開放という、私たちの無茶で無作法な要望に対し、快く了承してくださったのみならず、却って積極的なご支援をいただきましたこと、改めて深くお礼申し上げます。
   また最後に、日本語版の企画段階当初よりサポートしていただいた韓国カトリック社会矯正司牧委員会 および 韓国死刑廃止運動協議会 関係者の皆様に、心よりお礼申し上げます。

 
死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90