きょうの社説 2010年8月20日

◎若手教員の育成 「熟練」の直接指導増やして
 金沢市教委は今年度から夏休みを利用し、ベテラン教員が模擬授業形式で小中学校の若 手教員を鍛える研修を行っている。授業数が増える新学習指導要領の来年度からの完全実施を控え、指導力向上へ研修内容を見直したものだが、今後、大量退職が見込まれるベテラン教員の専門的知識や優れた授業技術を着実に若手に伝える機会をできる限り増やしてもらいたい。

 ベテラン教員の相次ぐ退職によって、全国的に学校全体の指導力低下が懸念されている 。県教委は来年度の教員採用見込み数を今年度より100人上回る350人程度に設定して、大量退職に備えている。世代交代が進むなか、若手への熟練のノウハウ継承が急務であり、一層の取り組み強化が求められる。

 今回、金沢市教委が行っている研修は、経験年数10年未満の若手教員が児童生徒役と なり、50代の教員が具体的な授業の進め方を指導している。市教委が「実践的な研修で教員間の技能伝達を促したい」としているように、専門教科に通じ、児童生徒を引きつける授業を実践できるベテラン教員の技量は教育的財産であり、石川の子どもたちの育成のために若い世代に受け継がれるべきものである。

 これまでも、金沢市教委が設置した「学校教育金沢モデル」の実践研修拠点校や、県教 委の「授業力向上事業」の公開授業などで、ベテランによる若手指導の取り組みが行われてきた。若手が抱える疑問や悩みに対して、現場で得た経験をもとにしたアドバイスが貴重な参考になることは多いはずだ。多くのベテラン教員が教壇に立っている今こそ、若手を直接指導する場をさらに広げてほしい。これまでの取り組みの成果や課題を検証しながら、各校でベテランと若手が一緒に取り組んで、学校全体の指導力向上につなげる工夫が欠かせない。

 県教委が開設した「カリキュラム開発支援室」は、教員が作成した学習指導案や優秀教 員の授業DVDなどの教育資料が閲覧できるようになっている。熟練の教育技術を十分に活用してほしい。

◎法改正後の臓器移植 家族のケアが欠かせない
 改正臓器移植法に基づく2例目の脳死臓器提供は、本人の意思が分からないまま、家族 が承諾する初のケースとなった。1例目は本人の口頭での意思に沿って家族が判断したが、こうした「意思不明」の事例はこれからも増えることが予想される。

 改正法施行後、1カ月余で相次いで臓器移植が行われた。改正前の13年間で86例に とどまっていたことを考えれば、条件緩和で大きな転換点を迎えた印象を受ける。そこで急務となるのは、医療側の実施体制とともに、家族をケアする仕組みを整えることである。

 肉親の突然の死に悲嘆し、さらに臓器提供という重い判断を迫られる家族の苦悩は計り 知れない。後で決断が本当によかったのか、思い起こすこともあろう。移植ありきで手続きが進められたような印象を持たれれば、割り切れぬ思いが尾を引くかもしれない。その場限りでない継続的な支援体制が求められている。

 法改正後の臓器移植は、家族が十分納得して判断することが定着のかぎを握っている。 家族が脳死を受け入れるには、医療が尽くされたという信頼が前提となる。病院スタッフや移植コーディネーターの役割はこれまで以上に重い。

 2例目の臓器提供で、家族は「助からないのであれば、どこか体の一部が生きていれば うれしい。たくさんの人に役立ってほしい」と説明したという。臓器提供はこれまで本人の書面意思が前提だったが、改正後はこのような家族の思いが問われることになる。尊い意思を生かすためにも、個々の事例で丁寧な検証が不可欠である。

 1例目では、本人がテレビの移植関連番組を見ていた時に臓器提供に積極的な発言をし ていたという。これが家族の判断の決め手となったが、書面での意思表示ほど明確でなく、同様のケースでは家族が迷う場合も考えられる。

 家族の承諾で臓器提供が可能になったとはいえ、拒否も含め、本人が意思を示しておく ことが望ましいことに変わりはない。そうした明確な意思が積み重ねられてこそ、移植医療はより安定した形で定着していくのではないか。