NEX-5は、静止画だけでなく動画機能も重視しているカメラだ。ハンディカムを抱えるソニーだが、これまでデジタル一眼レフカメラでは動画撮影機能をサポートせず、レンズ交換式デジカメで動画に対応したのはNEX-5/3が初めてだった。今回は、この動画機能をチェックしてみよう。
NEXシリーズは、NEX-3とNEX-5で動画機能が異なり、NEX-3は1,280×720のHD動画の撮影に対応。フレームレートは30p、ビットレートはファイン画質約9MbpsのMP4動画を撮影できる。それに対するNEX-5は、1,920×1,080・AVCHD形式のフルHD動画の撮影をサポートする。フレームレートは60i、ビットレートは約17Mbpsだ。MP4形式でも、1,440×1,080ピクセル・30p・約12Mbpsの動画撮影が可能であり、スペック的にはNEX-5の方が優れている。
ビデオカメラ並みのAVCHDのフルHD動画が撮影でき、本体のHDMI端子を使えば、テレビに接続して大画面で撮影した動画を楽しめる。
撮影も簡単だ。どの撮影モードからでも、本体背面にある動画ボタンを押せばすぐに動画撮影が始まる。静止画撮影をしながらでも、いつでも素早く動画撮影が行なえるので便利だ。
メニュー画面から記録形式を選択できる。MP4を選択したときのみ、1,440×1,080か640×480を選択可能 | 右肩にあるのが動画ボタンで、逆に動画専用モードはない |
動画の撮影機能としては、AVCHDかMP4かを選択できる以外に多くはない。撮影モードに動画モードがないため、動画専用の設定を行っておいてから撮影を開始する、というやり方ではなく、静止画撮影時の設定がそのまま流用されるようだ。
撮影中はカメラの露出補正ボタンから露出補正を行なえるが、コントロールホイールを回すと、その音をカメラのマイクが拾ってしまうため、撮影前に露出補正を行っておけば、動画撮影時の露出もその設定が継続される。ホワイトバランスも同様だ。
AF設定も静止画と設定が共通で、AF・DMFを選択した場合はコンティニュアスAFとして動画撮影時は常時AFが動作する。動き回る動物にはなかなか追いつけず、ハンディカム並とは言わないが、人を追う分には十分高速なAFで、追従性もよい。
標準ズームレンズ「E18-55mm F3.5-5.6 OSS」、パンケーキレンズ「E16mm F2.8」では、AF音も静粛でなめらか。動画撮影中もマイクがAF音を拾うこともないようだ。
マイクは本体上部にあり、ステレオ録音に対応。本体上部、レンズの左右に離れた配置になっており、カメラを普通に構えている分には指でふさいでしまうこともなさそうだ。
動画ボタンの位置も良く、人さし指で押すだけでなく、カメラを包むように持てば親指でも押しやすい。人さし指で静止画のシャッター、親指で動画撮影という風に使えば、瞬間的に静止画と動画を使い分けられる。
構えるときは、人さし指がシャッターボタン、親指が動画ボタンにあると操作しやすい。レンズの左右の位置にマイクが配置されている |
AVCHDのフルHD動画であり、ビットレートも17Mbpsとそれなりにあるので画質に関しては必要十分なレベル。一般的な撮影には申し分ない印象で、大画面テレビで見ても耐えられる画質を実現している。
MP4とAVCHDの使い分けに関しては、テレビでの視聴がメインならAVCHD、PCでの後処理を行なうならMP4という使い分けができるだろうし、iPadなどのモバイル端末での視聴を考えるなら、AVCHDよりMP4の方がハンドリングがいい。ただ、最近はPCでの編集環境も整ってきており、映像、音声とも二ビットレートが高いAVCHDの方が、画質としては有利だ。
標準ズームだけでなく、広角パンケーキレンズを使った広い画角や、大型の撮像素子を生かした大きなボケを生かした撮影ができるのもNEX-5のメリットだ。標準ズームには光学式手ブレ補正を搭載しており、静止した状態での撮影であれば有効に動作し、手ブレの少ない撮影が可能だ。パンケーキレンズは手ブレ補正はないが、焦点距離が短いこともあり、それほど手ブレを気にしなくても大丈夫そうな印象だった。
再生時は、コントロールホイール中央ボタンを押すと再生が始まる。コントロールホイールを回すことで早送り・早戻しができる。撮影動画を連続再生するスライドショー再生も可能だ。
再生時の画面 |
再生画面での疑問は、動画と静止画の再生が同時にできないこと。「一番最後に撮影したもの」が静止画か動画かによって、再生ボタンを押したときの再生モードが固定され、最後に動画を撮影した場合、再生画面には動画しか表示されない(静止画の場合は静止画のみになる)。動画と静止画を切り替えたい場合、メニューの「再生」から「静止画/動画 切換」を選択し、静止画と動画を選ぶ必要がある。サムネイル表示も、同じ再生メニューにある「一覧表示」を選択しなければならず、なぜこうした仕様になったかはよく分からない。
メニュー画面の「再生」から動画静止画の切り替えや一覧表示切り替えをしなければならない。動画と静止画を交互に撮っている場合、一覧で内容をチェックできないのは不便 | 動画静止画の切り替え画面。いちいち別画面に移動してから切り替える |
一覧表示の切り替えも同様 | 日付選択画面は、日時を指定して、その日の動画像だけをピックアップしてくれる |
手軽に撮影できるメリットがある反面、NEX-5はマニュアルの動画撮影機能を備えていない。絞りやシャッタースピードを手動で設定することはできないし、顔検出もなく、逆光撮影などでは被写体が露出アンダーになる場合もある。ズーミングはもちろん手動でズームリングを回すためなめらかなズームは難しいし、ハンディカムにはあるアクティブモードも、標準ズームにはないため、歩きながらの撮影では手ブレがかなり大きくなってしまう。
マイクも風が強いとフカれやすいし、ライブハウスの大音響下で試したところ、さすがに音が割れてしまった。ただ、マイクに関してはオプションでステレオマイクロホンが用意されており、ウィンドスクリーンも同梱されているので、音を重視する場合はこちらを利用してもいいだろう。
あとは、相変わらず連続撮影が29分までという制限がある。1ファイルは2GBまでで、AVCHD撮影の場合は2GBを越えた場合はファイルが新規作成されて撮影が継続される仕組みだが、MP4撮影の場合は、2GBに達した時点で撮影が終了する。
この連続撮影の29分という制限は、もともとは2007年にEC(欧州委員会)が定めた製品分類で、800×600ピクセル以上、23fps以上、連続撮影時間30分以上という3つの条件を満たすカメラをビデオカメラとして、関税率4.9%を適用しようという動きに対抗したものだ。デジカメ自体は無税のため、連続撮影時間を29分にしているわけだ。EU(欧州連合)向けだけソフトウェアで29分以下に制限して、他国向けにはその制限を解除する、というやり方もなくはないのだろうが、現時点では国内向けも29分以下に制限されている。
ただ、ソニー側ではこれに加えて「技術的な問題」も口にしている。実際に試した限りでは9分ほどの動画を連続撮影している間にボディがどんどん熱を持ち、最終的には撮影を終了するよう促すメッセージが表示されてしまった。この時は手持ちの屋内撮影で、状況によってこの撮影時間は変動するだろうが、ボディの小型化を優先したことで放熱処理に課題がありそうだ。
NEX-5と同じEマウントを採用したハンディカム「NEX-VG10」の発売も決まり、こちらは29分の制限も当然無く、マイク性能やマニュアル撮影機能、放熱処理など、NEX-5の弱点と言える部分はすべて解消しているだろう。その意味では、本格的な動画撮影はVG10、写真の合間にちょっとした動画撮影はNEX-5という棲み分けはできている。
とはいえ、たとえばキヤノンのデジタル一眼レフ「EOS 5D Mark II」は、動画機能を向上させるファームウェアを順次提供して機能向上しているのだから、NEX-5にもそうした配慮を期待したい部分ではある。
ただ、NEX-5の動画の真骨頂は、静止画を撮影しながら瞬間的に動きを撮影できる点にある。決定的瞬間を連写で収めるか動画で収めるか、その瞬間にサッと判断して、素早くどちらかで撮影できる機動性は、やはりコンパクトボディのNEX-5の有利な点だ。
長回しの動画は編集を前提にすればいいが、そのまま流すには冗長で二度と見られないという場合も多い。その点、写真の合間に短い動画を記録しておくと、メリハリがきいて見ていて楽しくなる。
欠点もあるにはあるが、ソフトウェア的に解決されることも期待しつつ、手軽に高画質の動画と静止画を撮影するという良さは変わらないので、頻繁に使いたくなる機能ではある。
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【動画】撮影距離が近めで望遠端の場合、ピントの追従が少し遅い印象もあるが、静物を撮る限りはそれほど気にはならない。標準ズームながら、背景のボケは大型センサー搭載のたまものだろう
1,980×1,080 / AVCHD |
【動画】ワイド端でも被写体に近づけば背景はよくボケる。ポートレート的な撮影でも有効だろう
1,980×1,080 / AVCHD |
【動画】水の流れを写してみると、多少のブロックノイズはあるが、デジカメ動画としては十分高画質。動きのある被写体には少し弱いが、十分使い勝手は良さそうだ
1,980×1,080 / AVCHD |
【動画】光学式手ブレ補正を搭載した標準ズームで歩きながら撮影してみたが、さすがにブレが大きい。ハンディカムや一部のサイバーショットではアクティブモードを搭載して強力な手ブレ補正を実現しており、同モードを搭載した「E18-200mm F3.5-6.3 OSS」(9月10日発売予定)の登場が期待される
1,980×1,080 / AVCHD |