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[20572] 【次から】キミは勝ち組! ボク負け組!【姉編】
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/08/18 23:53
名状しがたい何か、です。
自分でも、コレが何に分類されるのか分かりません。

しかし敢えて言えば……宣伝?

現在「うどん」名義で書いているSSは、以下でチェックできます。
※「うどんサワー」という人もかかっていますが、別の方です
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=search&page=1&cate=all&words=%E3%81%86%E3%81%A9%E3%82%93

・シリコンとステンレスと豚の臓物【完】
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=original&all=19860&n=0&count=1
・永劫のアカツキ
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=original&all=18334&n=0&count=1
・頭の中にあるゲーム
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=original&all=17904&n=0&count=1
・愚弟とアキちゃんと不純同性交遊(バカとテストと召喚獣BLSS)
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=etc&all=16481&n=0&count=1



[20572] キミは勝ち組! ボク負け組! その1
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/07/23 23:49
顔ふつう、成績ふつう、身長ふつう、運動とコミュ力……コミュニケーション能力はふつう以下。
それが僕、鈴木翔太だ。この文章を見ても分かると思う。

今日は5年ぶりに、同い歳のいとこに会う。
5年会ってないとはいえ、たまにメールの交換ぐらいはしていた。写メもイケメンなら、メールの内容もイケメン。
僕と違って、リア充の中のリア充街道を驀進する、鈴木寂尊(ジャクソン)。
あまり返事を送らないのに、それでもメールで連絡をくれている。

寂尊のお父さんが、昔ジャンプに載ってた「ろくでなしブルース」というマンガとマイケル・ジャクソンの大ファンだったらしい。
ちなみに僕のお父さんは、横浜銀蝿というバンドかなにかの大ファンだったそうだ。

いわゆるヤンキー兄弟だ。でもその息子の僕はDQN要素が皆無の、完全な草食系男子に育ってしまった。
寂尊が嫌なリア充になってたらどうしよう? 僕のことを馬鹿にしたら嫌だな……と思いながら、寂尊を駅まで迎えに行く。

寂尊は人ごみの中でも一際目立った。
さっき届いた写メ通りの美少年系のイケメンぶりだけど、実物はそれに加えてオーラが全く違っていた。
僕は気後れする。

「翔太か? 翔太だろ? おーい、翔太ーっ!」
ジャニーズ系の美少年モデルみたいなイケメンが、こちらを向いた途端に爽やかに叫ぶ。
こちらが声をかける前に、寂尊に気付かれた。
自分の写メは、よっぽど寂尊に催促されない限りは送っていない。最後に送ったのが、去年の年末だった。
なのに、寂尊は僕に気付いた。

それまで寂尊に集まっていた女の子たちの視線が、僕に集まる。
たぶん、イケメンの待ち合わせの相手も美少女かイケメンだと思ったのだろう。
そして、女の子たちはあからさまにガッカリ顔になり、また寂尊に視線を戻す。

しかし寂尊は軽快な小走りでこちらに向かってくるから、また女の子たちの視線が僕に集まる。
なんというか、走る挙動自体がかっこいい。
近付けば近付くほど、寂尊が身も心もイケメンに育ったことが、ありありと分かる。
そして寂尊はものすごく洗練された動作で、僕の肩を抱いて背中をバンバン叩く。

「ひさしぶり翔太! 会いたかったぜ!」
「あ……ああ、寂尊。ひさしぶり」
僕は寂尊のイケメンオーラに圧倒された。
正直、イケメンには邪険にされるよりフレンドリーにされるほうが居心地が悪いということが、いま分かった。


……いやいや、寂尊は紛れもない真のリア充。つまり『いいヤツ』だから、僕をバカにする悪意なんかない。
そんな寂尊に対して居心地が悪いなんて……僕はなんて陰険なんだ。ちょっと反省。

「いやぁ、翔太が迎えに来てくれるなんて嬉しいぜ!」
寂尊の笑顔は眩しい。
「まあ、ほかならぬ寂尊だからね。久しぶりだし」
「ホント5年ぶりだもんな、翔太に会うのは」
「ハハハ……寂尊はイケメンになったよね」
「やあ! 翔太も俺が思ったまんまだ!」
真のイケメンは、イケメンと言われても全く謙遜するそぶりも見せない。
「空が青い」と「俺はイケメン」は、ほぼ同レベルで当たり前のことだからだろう。

「うわぁ……ずいぶん様子が変わっちまったな、この辺も」
寂尊は、僕の手をグイグイ引っ張って駅前通りを歩く。
手を引っ張る……?

そういえば、さっき再会した瞬間からずっと、手をつないでいる。
「ねえ、寂尊」
「なんだ、翔太」
「なんで僕達、手をつないでるんだっけ?」
「子供の頃、いつも手をつないでたじゃん」
そういえば、子供の頃はいつも手をつないで走り回っていたような気がする。

「でも男同士で手をつなぐのはなぁ……もう子供じゃねーし」
「ハハ、悪い悪い。実は、後ろの女の子たちいるだろ?」
「ああ、寂尊をガン見してた女の子たちね」
「さっき、あの子達に逆ナンされててさ」
「ふんふん、それで?」

「俺……彼氏と待ち合わせしてるからムリなのん、って言ってやったんだ」
「そっかー、じゃあしょうがないよねー……って、えええええっ!?」
「しっ! ……大声出さないでくれよ、翔太」
寂尊は、腕を絡めて耳打ちする。

「嘘だってバレたら、付き合わされるだろ……こんなアウェーの土地で」
「アウェーもなにもないよ、遊んできたらいいじゃん」
「冗談言うなよ、俺は翔太に会いに来たんだぜ! ひどすぎるだろその言葉」
「悪かったよ……だけど、僕とじゃホモ援交とかだと思われない?」
男同士にしても釣りあわなすぎて、という言葉は飲み込んだ。

「んあこたぁない。高校生カップルに援交も何もないだろ……じゃあこうだ!」
寂尊のほうから、頭を肩にすりつけてくる。
正直、いくらイケメンでも、男に頭スリスリされても嬉しい気持ちにならないことが分かった。
あんまり。

「……翔太のくせに、公衆の面前でなに美少年とイチャイチャしてんの、翔太……」
聞き覚えのある声が、目の前から響く。
真っ茶色の髪に、荒れた肌。着ているジャージはミキハウスのヴィンテージもの。
元ヤンの携帯小説&ボーイズラブ作家の、鈴木明菜。僕の姉ちゃんだった。
携帯小説ではAkiとして、BL作家としては鈴本アキラとして、そこそこ売れている。

「明菜姉ちゃん?」
「誰? このイケメン美少年誰っ!? ちょっとお姉ちゃんに紹介しなさい!」
「寂尊だよ」
「今はちょっとアレな格好だけど、こう見えてもちょっとはお金持ってるのよ……って、寂尊くん?」
「そう、いとこの寂尊だよ……今日来るって言ってなかったっけ?」

「寂尊くんが来るとは聞いてたけど、こんな美少年になってるとは聞いてなかった!」
姉ちゃんに今朝寂尊が来ると言ったときには、鈴本アキラのほうの締切りでフラフラになっていた。
「さすがに面と向かって美少年と言われると照れるぜ、明菜姉ちゃん」
寂尊は僕の肩に頭を預けたまま、鼻を掻く。

「いえいえ、イケメンでありつつ美少年なんて……どういうバランスなのよ寂尊くん!」
「……どっちかというと、俺より翔太のほうが美少年系だと思うけど」
心なしか、寂尊が僕の腕を掴む力が強くなる。
「ないな」

僕は、一言で切り捨てる。
僕のほうが貧相かもしれないけど、だからといって美少年ということはない。
ましてや寂尊よりなんて、滅相もない。

「うん、ないね!」
姉ちゃんも力強く断言する。
残念ながら、姉ちゃんも同意見のようだ。
姉ちゃんには、ちょっとは身内の気遣いを見せてほしかった。

「じゃあ、ハイこれ!」
「どうしたの? 明菜姉ちゃん」
「お小遣い。2人で遊んで帰っておいで!」
「明菜姉ちゃん、俺達いとこ同士だろ? 小遣いなんてもらえないぜ」
「いいのいいの、気持ちだから」
どういう気持ちだよ、と僕は思わないではなかったが、口には出さなかった。
「姉ちゃんも僕らと一緒に行かない?」
「いいっていいって……姉ちゃんちょっと家に帰る用事、思いついたから」

姉ちゃんは、猛ダッシュで家に向かって走り去る。
「美少年&イケメン=アリ! 美少年&イケメン=アリ!」
と叫びながら。
あれは、何か強烈なインスピレーションを得たときの特徴だ。
そしてそれは、いつでも必ず鈴本アキラモードの場合だった。

「じゃあ、これからデートしようぜ、翔太」
「なんでさ、寂尊」
「さっきの女の子たちが、まだこっち見てるんだよ……」
僕は肩越しにチラリと後ろを見る。
殺意のこもった視線が、どこからか僕に向けられていた。
「それに、明菜姉ちゃんに軍資金ももらったしな! コレで遊ばなきゃ嘘だろ」
僕と寂尊は、ゲーセンとコンビニとボーリング場を回ってから家に帰った。



[20572] キミは勝ち組! ボク負け組! その2
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/07/27 21:57
「ねえ寂尊」
「どうした、翔太」
僕と寂尊は、ボーリング場にいる。
2人でボーリングをしている最中も、寂尊目当ての女の子グループが寄ってくる。
しかし、そのたびに寂尊は大げさに僕に抱きつく。
女の子退散。
基本的に、ずっとそれの繰り返しだった。

「うーん……やっぱり聞きにくいな」
かっこよくボールを投げる寂尊に声をかけようとして、ためらう。
まあ、口には出てるわけだけど。
「いいっていいって! なんでも答えるぜ!」
寂尊は、僕の肩に腕を回す。
また女の子退散。

「……あのさ、どうやったら寂尊みたいにかっこよくなれるのかな?」
僕は、勇気を持って寂尊に聞く。
「え? 翔太は今のままでも充分かわいいぜ」
寂尊は、きょとんとした顔をしている。
「どこがさ?」
僕はちょっとムッとした口調になる。

「……そういうところが、だ」
寂尊の笑顔がまた爽やかだった。
「茶化すなよ、寂尊。どうやったらイケメンになれるのか教えてよ」
こんな事を聞くのは、本当に恥ずかしい。
でも背に腹は替えれない。

「うーん……イケメン、か……メンズコスメどんなの持ってる?」
寂尊は上から下まで僕を見たあとで、聞いてくる。
「メンズコスメってなに?」
なんのことか分からないので正直に答える。
「……翔太はほんとにカワイイな!」
ニヤリと笑いながら、寂尊は僕の頭を撫でた。
3センチぐらいしか違わないのに、なんだよ!
生まれは僕のほうが先だよ! ……と思ったけど口に出さなかった。

僕と寂尊はボーリングを終えてコンビニに寄る。
夜食用のスナックと缶チューハイを買うためだ。
そのついでに、普段は目も留めないコーナーに足を止めさせられる。
「このへんにあるのが、メンズコスメだ」

メンズコスメというのは、男性用化粧品のことらしい。
それならそうと言ってほしかった。もちろん、そんなものはひとつも持ってない。
寂尊はいくつかを見繕い、買い物カゴに追加する。
「まあ、こんなとこか……翔太、整髪料は?」
それぐらいなら持ってた。

「ただいまー」
「あら翔ちゃんおかえり。寂尊くんは?」
「ども、おひさしぶりっス! おばさん!」
「アラアラ、寂尊くん男前になっちゃって! かっこいいわー!」
「お母ちゃんもそれかよ!」
「んもう、翔太に爪の垢煎じて飲ませてやりたいわぁ」
「翔太は、充分イケてますって!」
「あらあら、ありがとね」
「……あとで証明してみせるっスよ、おばさん」

「そういや、姉ちゃんは?」
「さあ。翔ちゃんが出てしばらくしたら帰ってきて、そのまま部屋にこもったわ」
「明菜姉ちゃんとも話ししたいなぁ。出てきませんか?」
「無理じゃないかしら。あの子原稿書き始めると、書き終わるまで出てこないから」
「おばさん、原稿って、どういうこと?」
「あのね。ウチの明菜、小説家なの!」
「マジで!? あの明菜姉ちゃんが?!」
僕は黙ってうなづく。
「……そうかぁ、残念だけど仕事の邪魔しちゃワリいよな」

「悪いな、寂尊。姉ちゃん、原稿書くときは憑かれたみたいになるから」
「いいって。でも、あの明菜姉ちゃんが小説家になるなんて、思わなかったな」
「そうよねえ。あの子、高校2年まで国語の教科書も読んでなかったんだから」
「作文の宿題なんて、全部バックレてたんだよ!」
高校卒業までの文集に、姉ちゃんだけひとつしか作文がないのが証拠だ。
しかもそれは、高3のときの作文だったりした。

「本当かよ! さすが元ヤン、根性入ってる!」
今でも若干現役気味だけどね。
「高校卒業の頃にはもう新人賞取ってたんだ!」
ボーイズラブ系文庫の、だけど。
「ものすごい才能じゃん。明菜姉ちゃんって、天才?」
寂尊は、しきりに感心している。

姉ちゃんは5年前に運命の仕事に出会い、今では熱狂的なファンまでいる。
そんな姉ちゃんは誇らしい。
だけど、ある日突然天才に目覚めた姉ちゃんが妬ましくもある。
そもそもヤンキーとしても姉ちゃんは一流だった。
なのに、全く逆ベクトルでも才能があるなんて、不公平じゃないだろうか?

「……で、どんな小説書いてんだ?」
「えーと……たしか剣道の小説だったらしい」
いくら姉ちゃんのデビュー作でも、ボーイズラブ小説は読めない。
しかも、主人公の名前が『耕太』で、僕と名前がメチャ似てる。

「そうか……剣道といえばアレだよな、翔太」
寂尊はニヤリと笑う。
「アレ? ……なんのこと?」
アレって、なんだ?
「え? だって剣道っていったらアレしかないだろ!」
寂尊は意外そうに驚いている。

「……いや、分からない。なんだっけ?」
どんなに顔を覗き込まれても、思い出せないものは思い出せない。
「分からなきゃいいよ……後で思い出させるからな!」
今すぐ説明したいけど、お母ちゃんがいるから無理。
……的な話っぽかった。

「お風呂沸いたわよー!」
お母ちゃんの声が聞こえる。
「先に入んなよ、寂尊」
「いや、ちょっと用意があるから先に入っててくれ」
寂尊は、先に郵送してきた自分のスポーツバッグを探っている。
しばらくかかりそうなので、僕はお先に失礼することにする。

今日は半日、ひさしぶりに寂尊と遊んだ。
昔はなんとも思わなかったけど、今考えると子供の頃からカッコ良かった。
顔がかっこいいだけじゃなく、性格だっていい。
……イケメンは、生まれつき身も心もイケメンなのかもしれない。

「ちょっと早めに出るか」
寂尊も空くのを待ってるしな。
僕は小さく伸びをして、身体を洗うために湯船から出ようとする。

「よっ! お待たせ!」
いきなり風呂場の引き戸が空いた。
そこには、寂尊がいた。
いきなり全裸で入ってきて、いきなりフル勃起していた。
「最初からクライマックス!」
僕は意味不明の言葉を叫んだ。
「お? 受けた受けた!」
寂尊は、僕のリアクションを見て大喜びしている。
実は結構、嫌なやつかも。



[20572] キミは勝ち組! ボク負け組! その3
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/07/30 14:53
「……な、なんで全裸なんだよ!」
「なんでって……風呂場だから」
「な、なんで勃ってんだよ!」
「今から翔太にエロいことをするから……イテテ! うそうそ!」
「お、犯される! 姉ちゃん助けて!」
「落ち着け、冗談だってば……単なる全裸じゃ受けないと思ったんだよ」
僕は今、寂尊に後ろから羽交い絞めにされている。
結果的に、お尻の割れ目に勃起したアレが当たる形になっている。
「落ち着けって! これ以上暴れたら……勢いでケツに入っちまう!」
それはイヤだ。それだけは避けたかった。
だから仕方なく落ち着くことにした。
「……お母ちゃんか姉ちゃんが入ってたらどうするつもりだったんだよ」
僕は寂尊につぶやく。

「心配するな、おばさんだったら出て行ったのは確認した」
そうだったのか。
「明菜姉ちゃんだったら……それでも良かった」
「良くないよ!」
「いや……むしろそっちのほうが良かったかも」
「今すぐ帰れ!」
「ひっでえなぁ……ふざけすぎたのは謝るよ。スマン!」
寂尊は頭を下げる。
「そう素直に謝られてもなぁ……」

「でも先に入らせてまでフル勃起させてきたのには、訳があるんだ!」
……もともと一緒に風呂に入るつもりだったのか。
うちの風呂には、男子高校生が2人入れるようなスペースなんてないのに。
「一緒に入るつもりだったのか。無理だよ、小学生じゃあるまいし」

「大丈夫大丈夫、まず俺が普通に湯船に入るだろ?」
寂尊が湯船に入る。
「うん、なるほど」
「次に翔太が俺の上にうつぶせに入るだろ」
僕も湯船に入る。うつぶせだから入りにくい。
でも、なんとか湯船に2人納まった。
「……おお! 2人とも入れたよ!」
「だろ?」
「……でも、ひとつ問題があるよね」
「ああ、俺がちょっと苦しいな」

「……違うよ! どう見てもガチホモに見えるんだよ! 絵ヅラ的に!」
僕は湯船から飛び出る。
「風呂場でソープランドごっこは、男子高校生の常識だろ?」
「そんなウソ常識捏造しないでよ!」
「先にイモ引いたほうが負けのチキンレース、だから俺の勝ちだ!」
寂尊はイケメンらしく爽やかに勝利宣言する。
「追い討ちで嘘ルール! そもそも家風呂に2人で入らないよ!」
「いいじゃん別に、いとこ同士なんだから」
寂尊の悪ふざけは止まらるところを知らない。

「それより、なんでわざわざ勃ててきたのさ寂尊?!」
「おう、それそれ! ……元はといえば、翔太が悪いんだぜ?」
「……なんでさ」
どうして、僕が悪いとソープランドごっこになるのかが分からない。
「剣道といえば『アレ』を思い出せなかったじゃんか」
「う……実は今でも思い出せなかったり」

「あーもう、マジで忘れてるのか。しょうがねえなぁ……」
寂尊は頭を掻きながら、湯船から出る。
「こうやって、まずは一礼するだろ」
お互いに向かい合って、一礼する。
「次に、互いの肩を掴むだろ」
お互いの両手を相手の肩に乗せる。
「……そして近づくだろ」
腕を縮めて、ほぼ密着ギリギリまで互いの距離を近づける。

「ちんちん剣道、始め!」
寂尊はよく通る声で宣言する。
……しまった! その為のフル勃起かっ!
まだ勃起してない僕は、竹刀の用意も出来てないに等しかった。
「クソッ、忘れてた! あのとき姉ちゃんに殴られすぎたせいだ!」

小学5年のとき、僕が考えた『ちんちん剣道』。
ルールは簡単、ちんちんだけを使って剣道をする。
きんたまを叩かれて痛くなったほうが負けという、男の真剣勝負だ。
小5のときは姉ちゃんに見つかり、2人ともこっぴどく殴られた。
……だから、勝負は持ち越しになっていたんだった。

「考えろ! いやらしいことを考えるんだ僕!」
とりあえず、グラビアアイドルのことを必死で考える。
「……明菜姉ちゃんの裸」
寂尊がつぶやいた。
妄想内のアイドルの顔が姉ちゃんになった。瞬時に萎えた。
いっぽう、寂尊は硬度を増している。
「ええ? 寂尊はあの姉ちゃんがアリなの?」
「ああ、明菜姉ちゃんはいとこだからなっ!」

「古文の吉川古文の吉川古文の吉川……」
顔はアレだけど体は超エロい、古文の吉川先生を脳内にイメージする。
クラスの半分、つまり男子はほぼ全員お世話になってるはずの身体だ。
寂尊には分からない『古文の吉川』で対抗してみた。
「明菜姉ちゃん明菜姉ちゃん明菜姉ちゃん……」
でも所詮は知ってて萎える『明菜姉ちゃん』攻撃には分が悪い。

「地球のみんな! オラにちょっとづつだけエロスを分けてくれ!」
いちかばちか、ギャグで虚を突いてみようとした。
「笑わせて萎えさせようなんて無駄無駄無駄ァ!」
しかし、そんな姑息な手段は寂尊には通用しない。

息詰まる鍔迫り合いののちに、僕は右(のきんたま)に痛打を浴びた。
「くっ……!」
かろうじて痛みに耐える。
「貰った翔太! 明菜姉ちゃん明菜姉ちゃん明菜姉ちゃん……」
寂尊は勢いに乗って攻めてくる。

「明菜姉ちゃん明菜姉ちゃん明菜……姉……ちゃん?!」
寂尊の声が裏返ると同時に、急に萎れて勢いを失う。
「寂尊! 貰った!」
脳内に古文の吉川のイメージが完成した。
勢いに乗った僕は勝利の一閃を繰り出す。
「ぐあああっ!」
寂尊の断末魔が響く。
「……恐ろしい戦いだった」
僕は、激闘の末に勝ち得た勝利の余韻を噛み締める。
「翔太……ちょ……ヤバい……」
股間を押さえてうずくまる寂尊。しかし目は、僕の後ろを見ている。

そりゃそうだろう、高校生になったら得物の寸法も伊達じゃない。
「痛がりすぎだよ、寂尊」
僕は勝者の余裕を見せる。激闘の末にイケメンに勝った!
ちんちん剣道を制したのは僕だ! 寂尊じゃない!
「ちがう翔太、うしろうしろ……」
ははあ……ここは油断させて後ろからズブリ……という寸法だな!
ちんちんで!

「その手は食わないよ、寂尊!」
僕は寂尊に言い放つ。
「明菜姉ちゃん……あのそのこれは男の勝負で……殴らないで!」
この負けてすらもかっこいい寂尊が、今はかっこ悪い。
ちょっと洒落にならないぐらい。さすがにおかしい。
寂尊に気をつけながら、ゆっくりと振り返ってみた。

ヴィンテージもののミキハウスのジャージを着こなした女がいた。
肌は荒れて、髪の毛は真茶っ茶。
しかもそのうえ、無言で両鼻から盛大に鼻血を噴出している。

「……いや、あたし別にもう怒らないから。気にせず続けて」
姉ちゃんは、抑揚はないのに熱のこもった声で言った。
思えば、現役ボーイズラブ作家・鈴本アキラな姉ちゃん。
その姉ちゃんの脳内で何が起こっているかは、あまり考えたくない。



[20572] キミは勝ち組! ボク負け組! その4
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/08/04 23:18
姉ちゃんに、ちんちん剣道をやってるところを見られた。
それも、高校生にもなって……というところが痛かった。
僕と寂尊は、仕方なく普通に風呂に入る。
また騒ぐと、姉ちゃんが飛んできそうだったから。
それにしても、寂尊は脱いでも凄い。むしろ、脱いだらもっと凄い。
割れた腹筋がまぶしい細マッチョ体型だ。

対して僕は、骨格からして細い貧相な体。
もともと筋肉が全くないうえに脂肪がついてる。
体脂肪率は高いんだけど、なんとかちょっと細めに見えてる状態だ。

ちなみに僕は、体脂肪率とBMI値が両方ともに20の隠れ肥満体だ。
体脂肪率は体重における体脂肪の率のこと。
BMI値は25以上は肥満気味で20以下は痩せ気味だ。
男だったら体脂肪率は15%、BMI値は23が普通だろう。
つまり僕は、細いのに体脂肪が多い。
今後の参考のために寂尊に聞いてみると、
「俺? 体脂肪率9%で、BMI値は22」
……以上、数字で分かる細マッチョ講座でした。

あと、寂尊にはムダ毛が全くない。コレも不思議だ。
「どうした? 翔太」
寂尊が、さっきからチラチラ見ている僕の視線に気付いた。
寂尊はゆっくりと見せつけるように、湯船から上体をあげる。
こうやって見ると、女子ならたまらんだろうと思う。
男子が見てもうらやましい身体だからね。

「寂尊、体毛ほとんどないね」
「ああ、生まれつきだから」
「そっか……」
そこで会話が終わった。
やっぱイケメンは、生まれたときから美肌なんだと絶望する。

「……ちょ! 嘘だよ嘘! ……実は俺、手入れしてんだ」
「……そうなの?」
僕はちょっとびっくりした。
「実は俺、元々かなり毛深くてな。いろいろやってるんだ」
「剃ったりしてたんだ」
「前はな。いまは、永久脱毛クリームのお世話になってる」
「何で脱毛クリームなの?」
「俺、毛が濃かったから剃ると毛穴が汚くなってな」
そうだったのか。イケメンの寂尊にも悩みがあったんだ。

「だから翔太みたいに元々体毛が薄いのが、羨ましいよ」
「でも今は、僕のほうが毛深いよ……」
元はどうあれ、いま毛深くない寂尊がやっぱり羨ましい。
「……じゃあ、部屋に戻ったら塗りっこするか」
「なにを?」
「クリーム。塗りたくても手が届かない場所があるんだよ」

僕と寂尊は、部屋に戻って永久脱毛クリームを塗る。
パンツ一丁の姿だ。
背中やうなじのようなお互い手が届かない場所は、塗りあう。
寂尊が胸に塗るために僕の乳首に触れたとき、僕は
「ひゃん!」
と情けない声を上げた。
自分で触るのとは全く違い、びっくりするほど敏感になる。
「なんだそのかわいい反応は! もっと塗りたくなってきた」
寂尊は、背中に胸板を押し付けてきた。

「い、いいってば寂尊やめろよー!」
寂尊の身体は、えらく硬い。
「くふう……なんだ翔太の吸い付くモチ肌! 気持ちよすぎ!」
さっきのソープランドごっこの延長で抱きついた寂尊。
気持ちいいってのは、身体が全体的にプニプニしてるという意味だろう。
……脱毛クリームのヌルヌルのせいだろうか?
僕もだんだん変な気持ちに……

……姉ちゃんが見てた。鼻血を噴出しながら。

「あ、あのそのこれは脱毛クリーム! 脱毛クリームを塗りっこしてたんだ!」
「そ、そうそう! 肌のお手入れ! スキンケア!」
「……パンツ一丁で抱き合わなくても塗りっこできると思うけど」
姉ちゃんが、僕と寂尊がいやらしいことをしないか、というより
『いやらしいことをするに違いないから』監視すると言い出した。

「止めないから、見せて! 今後の参考に!」
ボーイズラブ作家魂だか本性だかは分からないけど、怖い位に食い下がる。
「やだよ!」
もちろん僕は拒否。
「……じゃあ、いやらしいことをしなけりゃいいじゃん」
僕と寂尊双方ともに、言葉に詰まる。

……なんで今、寂尊はともかく僕まで言葉に詰まったんだろう?

僕は寂尊と手早く脱毛クリームを塗りこむ。
そのあと互いに全身にサランラップを巻いた状態で向かい合う。
「じゃ、じゃあフェイスケアに行くか!」
「お、おう。フェイスケアだね!」
見られていると、ふざけたことをやりにくい。
「じゃ、じゃあまずは眉毛の形を整えるんだけど……ぶっちゃけ痛いぜ?」
「寂尊くん、『剃る』派じゃなくて『抜く』派かぁ」
「抜いたほうがいいぜ、明菜姉ちゃん。特にまぶたのムダ毛は」
「うう、やだなぁ……いてっ!」
僕は寂尊に1本づつ、眉毛を抜かれていく。都合半時間がかりの作業だった。
イケメンは、こんな痛い思いをして眉毛を整えていると知った。
思い知ったと言ったほうがいいかもしれない。

「……どうでもいいけどさ、あんたたち」
姉ちゃんがつぶやく。
眉毛を抜く作業の観察という地味な作業に飽きたんだろう。
「なに? 姉ちゃん」
「脱毛クリームって、20分で洗い流すんじゃなかったっけ?」
そうなの?
「まあ、男用は違うのかもしれないけどさ」
姉ちゃんは投げやり気味に言う。
「あ……」
寂尊が言葉に詰まる。
……なんとなく、肌がピリピリしてきた気がする。
「ヤバい、早くラップを剥け!」
叫びながらラップを剥く寂尊。慌てて全身に巻いたラップを剥く僕。
ゲラゲラ笑う姉ちゃん。

ひーひー言いながら風呂場で永久脱毛クリームを洗い流す僕たち。
冷水シャワーですらヒリヒリする。
そして、風呂場まで来てゲラゲラ笑う姉ちゃん。
肌だけじゃなく、心まで痛くなってきた。


パジャマですらヒリついて眠れない僕の部屋。
真夜中に、扉をノックする音が聞こえた。
扉の向こうには上半身裸の寂尊がいる、と僕のガイアが囁く。
僕はドキドキしながら扉を開けた。

外にいたのは、全身ミキハウスの姉ちゃんだった。
「……翔太に、大事な話がある」



[20572] キミは勝ち組! ボク負け組! その5
Name: うどん◆60e1a120 ID:eade24a7
Date: 2010/08/10 19:21
「な……なんだ姉ちゃんかよ!」
「寂尊くんが来ると思った?」
正直、思ってた。

「悪いけど、押入れの中に隠れさせてほしいんだ」
「……なんでさ」
「いや、翔太のロストバージンをどうしても見たくて」
「僕がどうして童貞じゃなくなるのさ?」
姉ちゃんは、何かとんでもなく不吉なことを言っている。
「予定通りなら、処女じゃなくなるだけよ。安心して」
安心できねえ!
「いやいやいや……なに言ってんの姉ちゃん? 僕男なんですけど?」
男が処女じゃなくなるのは、アンタの小説だけにしろ!

「だってあと45分で、アンタは寂尊くんにお尻を犯されるし」
はい言った! いま姉ちゃんとんでもない事言ったよ!
「いいから、翔太は黙ってそのリアルBLを姉ちゃんに見せな!」
「いやだよ!」
「見るぐらいいいじゃん、減るもんじゃなし。ケツの穴が小さい男ね」
「イヤなのはむしろ尻の穴のでかい男になることのほうだよ!」
「だってさ……アンタが犯されるのは、もう決まってることだから」
どういう意味だ?

「根拠はなんだよ!」
姉ちゃんは、無言で4つの付箋がついた文庫本を手渡す。
タイトルを見る。

『オレは勝ち組! オマエ負け組!』

姉ちゃんのBL作家デビュー作だった。
かつて、せっかくのデビュー作だから読んでみようとは思った。
だけど、冒頭がすごかった。
電車の中で、今回の計画を練る主人公(男)。
幼なじみのいとこ(男)を犯す気マンマンの主人公の内面描写。
それが、いきなりものすごく長い。
この時点でアウトだった。だからそこから先は読んでないのだ。

まずは最初の付箋を見る。
速攻を信条とする超絶美形リア充主人公の樹里庵(じゅりあん)。
ツッコミを入れる隙を与えない踏み込みの速さで、耕太に近付く。
耕太は自分の純朴なかわいさに気付いてない美少年。
それを自分色に染め上げるつもりだ。

次の付箋を見る。
耕太の柔らかく滑らかな裸体を妄想してフル勃起した樹里庵。
風呂場に乱入し、いきなり犯そうかとも考えるも愉しむために待つ。
予定通り、子供の頃に遊んだ、ちんちん剣道の再選を申し込む。
もちろん、やましい気持ちでいっぱいだ。
試合中に粗相をしないように、一発抜いてきたので遅れた。
オカズは、さっきツーショットで撮ったプリクラだ。

そもそも、樹里庵がこうなったのは理由があった。
ちんちん剣道の興奮が忘れられなかったからだ。
樹里庵がこうなったのは、耕太のせいなのだった。
だから、その責任は耕太が取るべきだという考えだ。
ここは、わざと負けておく樹里庵。
ちなみにここの心理描写が見てきたように凄まじくリアルだった。

次の付箋では、脱毛クリームの塗りっこのシーン。
自分の裸を見せて誘惑し、なおかつ耕太を触りまくる寸法だ。
脱毛クリームの後はもう一度風呂に入るのと、肌が敏感になる。
もちろんそのどちらもが狙いだ。
この見てきたような緻密な描写には驚嘆だ。

そして最後の付箋。
スナック菓子と缶チューハイを持って耕太の部屋に来る樹里庵。
さっきのフェイスケアで、耕太の目は充分に見ておいた。
あと必要なのは、最後の一押しとアルコールの力だった。
あとは阿部さんの「すまない、ホモ以外は帰ってくれないか」展開。

……あれ?
ひょっとして、アレですか?
耕太=翔太、つまり僕。
樹里庵=寂尊、つまりイケメンリア充のいとこ。
そういうことなのですか?

「これ、ひょっとして寂尊と僕のことなの?」
「うん、編集さんに肉親の実名はマズいと言われて改名した」
「いつ書いたんだっけ?」
「5年前。初めてアンタ達のちんちん剣道を見て稲妻が走った」
「あの、僕と寂尊がボコボコに殴られた直後?」

「その時、この小説の最初から最後までが一瞬で思い浮かんだ」
それを、そのまま文章化して投稿したらしい。
そしてBL小説の新人賞を取った。
でも肉親の実名だと後でバレて、改稿させられた。

「最初のタイトルは『夢日記』だった」
それまで日記なんて1回もつけたことがなかったのに。
「そのあと投稿時に、考えて『しょたコン!』に改名した」
そういや、審査通ったと言ったときと、本の題が変わってた。
「でも結局、担当さんにタイトル変えさせられた」

「……ひょっとして、これ予言書?」
しかも、寂尊視点で書かれている!
「……あたしも、3時間前までは小説だと思ってた」
姉ちゃんも、姉ちゃんなりにショックがでかかったらしい。
本人的には自分は小説家だと思ってた。
それなのに、本当は予知能力者だったのだ!
自分で考えたはずの素晴らしいストーリーは、全部ただの予言。

「だから、姉ちゃんは僕の部屋に来た、と。予知能力の確認に」
姉ちゃんはここに来た。小説家としての誇りのために。
「いや、ガチであんたのロストバージンが見たいだけ」
台無しだ!
「あほか! 断る!」
「姉にアホかとはなんだ! 罰として大人しくレイプされな!」
「だれが犯されるかこの変態!」
「弟は、黙って姉ちゃんの言うことを聞いていればいいのよ!」

「よう! 翔太、一緒に飲もーぜ……っ?!」
僕の部屋の扉が、ガチャリと開く。
スナック菓子と缶チューハイを持った寂尊だった。
「ぐぐぐっ……大人しくッ! 犯されろッ!!」
僕の腹に馬乗りになり、両腕を押さえつける姉ちゃん。
「ぬううっ……死んでもッ! 断るッ!」
頑強に抵抗する僕。

「み……見てないぜ! 俺、なんにも見てないからッ!」
寂尊は自分の客間に走り込んだ。
その場にスナック菓子と缶チューハイとコンドームを落として。



[20572] キミは勝ち組! ボク負け組! その6
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/08/18 23:40
姉ちゃんに押し倒される僕。
ソレを見て逃げ出した寂尊。
そして残された、菓子とチューハイとコンドーム。

……寂尊には変な誤解をさせてしまったけど、助かった。
とりあえずは。

しかし、分からないことがひとつある。
「なんでコンドーム?」
寂尊が落としていったヤツだ。僕は姉ちゃんに聞いた。
「避妊はマナーでしょ」
「僕、男なんだけど。男同士でなんで要るの?」
「うっ……!」
姉ちゃんにも分からないらしい。
「と……とにかく、寂尊くんはコンドーム持ってきた。状況は充分よ」
姉ちゃんは宣言する。コンドームを握り締めて。

「寂尊くんは、アンタを犯しにきたに違いないわ!」
「……そうかなぁ?」
僕は首をひねる。
もし、寂尊が本当にそっちの世界の人だったとしてみよう。
それでも、嫌がる僕に無理やり……なんてことはしないと思う。

「寂尊は、そんなヤツじゃないよ」
無理やりするなんて、絶対有り得ない。
今日一日、寂尊の人柄を見てきた。
その結果が、そんなことをするような人間じゃないという判断。
そもそも、そんなに余裕がないわけでもない。
「あれだけのイケメンなら、通用するのは女の子だけじゃないよ。
その……男にだって、きっとモテモテだろ? きっと」

姉ちゃんが書いたとおり童貞なら、それだけ意思が強いはず。
そうじゃなければ、きっとそっち方面は充実してるはずだ。
「どっちにしても、いきなり乱暴にするなんて考えにくいよ」

「でもこのコンドームは……」
「それの意味は、明日になったら聞くよ」
人目の多い場所で、こっそりと。
「ん……分かった。今日は姉ちゃんの勇み足ってことだね」
首をかしげながら、姉ちゃんは部屋から立ち去る。
なんにしても、姉ちゃんの予言は姉ちゃん自身のせいで止まった。
姉ちゃんが見ようとしてなかったら、そうなったかもしれなかった。
皮肉なもんだよなぁ。

朝、僕と寂尊はぎこちなく挨拶を交わす。
「お、おはよう寂尊! ずいぶん早いね!」
「お、おはよう翔太! 朝はいつもストレッチしてるからな!」
寂尊らしい理由だ。
そういう日々の努力があの脱いだら超すごい細マッチョ体型になる。

「翔太……後でちょっと外に出ないか?」
お母ちゃんの作った朝ごはんの最中、寂尊が切り出した。
「なんだ寂尊、僕もそう言おうと思ってたんだ」
こっちの提案が寂尊から出てきたことに驚く僕。
本当に外に誘い出すつもりだった。
むろん、人目の多い場所に。

そして駅前通りの交差点。人通りでいっぱいだ。
しかし、その中でも寂尊は女の子の視線を集めまくっている。
……ここでやるのは気が引けるけど、僕の尻の運命がかかっている。
「寂尊……はいこれ」
僕は、あえて人通りの多いところで昨日の忘れ物
……コンドームを渡す。

「お、サンキュー翔太」
寂尊が持ってきたコンドームだけど、普通に流された。
落とした50円玉を渡されたぐらいの気軽さでポケットに仕舞われる。

「……で、翔太。明菜姉ちゃんなんだけどな……」
寂尊は、全然大したことがないもののように話を切り替える。
「いやいやいや……それ、なに?」
僕は敢えて、コンドームに話を戻す。
「なにって? どうしたんだ翔太」
「いやほらその……さっきの近藤さんについて」
「普通に言えよコンドームって」
「だからそれ! なんで持ってきたのかな!?」
つい声を荒げる僕。

「……だってほら、必要だっただろ? 翔太には」
あっさりと寂尊は言う。
「なんで必要なの?」
「え? いや、さすがにここで言うのは俺でも気が引けるっつーか」
「いいから言ってよ寂尊!」
「ホントにいいのか翔太?」
寂尊が真顔で僕の瞳を覗き込む。
「いいよ」
「マジで?」
「マジで!」
しつこい念押しに、ちょっとイライラし始めた。

「……分かったよ、翔太……俺がコンドームをもっていった理由、ソレは」
僕はつばを飲み込む。とんでもない告白だったら場合の覚悟もしている。
「……ホントに大丈夫なのか? 翔太」
「しつこいよ!」
「分かった……俺のコンドームの理由、それは……」
寂尊は一拍呼吸をおいて宣言する。
「……翔太が真性包茎だったからだよ」
そうだったの?

寂尊は、僕との5年ぶりのチンチン剣道で、僕が未だに包茎だと見抜いた。
というか、見たまんまだった。
勃っても全く剥けてない包皮が、気になっていたらしい。

「普通この年齢で包茎だったら恥ずかしがるけど、翔太にはそれがなかった」
寂尊は一瞬目を伏せる。
「だから……ある疑念が沸いたんだ」
寂尊は珍しく言いよどむ。
「もしかして『誰からも剥き方を習ってないんじゃないか』ってな」
「うそ! 20歳になったら剥けるんじゃないの?」
僕は叫んだ。
「あのなぁ……俺は剥けてただろ?」
そういえば、そうだった。
「改めて聞くけど、とても根本的なことだ。正直に答えてくれ」
寂そんの勢いに押されて首を縦に振る。

「翔太……チンチン剥いたことって……あるか?」
僕は首を振る。産まれてこのかた、1回もなかった。
「だから持ってったんだよ、コンドーム!」
寂尊が大声で叫んだ。男2人で片方イケメン、会話内容がコンドーム。
女の子の注目を浴びないわけがなかった。

僕が包茎だいうことは認めよう。
だとしても、なんでコンドームが必要かということは分からない。
「そういうわけだから。今日も一緒に風呂に入るんだぜ、翔太」
なんで包茎だったらコンドーム持ち込みで一緒にお風呂なのか?
そのへんのところ、何をするかは教えてくれなかった。


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