3回目です。
2回目と3回目は分けるべきじゃなかったかも。
それぞれ短すぎましたかね。




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ラ・ピュセル†ラグナロック 二次創作小説 2−2話

ラ・ピュセル†ラグナロック 二次創作小説 2−1話

ラ・ピュセル†ラグナロック 二次創作小説 1−5話

ラ・ピュセル†ラグナロック 二次創作小説 1−4話

ラ・ピュセル†ラグナロック 二次創作小説 1−3話

ラ・ピュセル†ラグナロック 二次創作小説 1−2話

ラ・ピュセル†ラグナロック 二次創作小説 1−1話

ラ・ピュセル†ラグナロック 二次創作小説 イントロダクション






 

やがて潮が引くかのように消え去る魔力と瘴気。
だがそれは部屋を吹き飛ばすことのないように抑え付けているだけだ。
依然としてその体にはおぞましい闇の力が満ちている。
いや、馴染んでいる。

「アルエット……さん……?」
「…………」

キュロットは震える声で声を掛けるが、深くうつむき、
垂れた前髪に隠れた彼女の表情はうかがい知れない。

「ふふ……うふふふふ……」

その口から漏れてきたのは、先程までとは打って変わって楽しげな笑い声。

「お、お前、誰だ。アルエットさんじゃないな!」

キュロットの叫びに応じてアルエットは顔を上げる。
いかにも彼女らしい落ち着きと、にこやかな笑み。
だがその笑顔はまったく場にそぐわない不気味なものに見えた。

「わたしはアルエットよ? 一体何を言っているのかしら、キュロット君」
「違う! アルエットさんはそんな冷たい笑い方はしない! 何よりその瞳の色!」

そう。一見何も変わらないように見える彼女の顔の中で、
唯一瞳の色だけがはっきりと変化していた。
周囲を和ませる穏やかな碧眼が、今は炎のような真紅に彩られている。
強い意志を感じさせるルビーの輝きは、
見つめられるだけでこちらの意志まで侵食されそうな、危険な輝きを放っている。

「誰かに操られているんですか? それとも悪魔に憑かれている?」
「違いますよ。わたしは正真正銘のアルエットです。
 でもまあ……不本意ではありますけどこう名乗りましょう。
 わたしの名はダークアルエット。聖女に芽生えた闇の心。
 そして光のアルエットを支配するご主人様(マスター)です」


「ダークアルエット? まさかエクレールと同じ……」
「さすがは聡明なキュロット君。察しが良くて助かりますね。
 この体には光の心と闇の心が同居しているのです」
「あ……あなたの目的は何です。どうしてボクにこんな魔法を……」

アルエットの使った魔法は、常識外れな効力を発揮していた。
キュロットはどうにか再び起き上がったが、その体にはまったく力が入らない。
軽く手で突かれるだけで、そのまま倒れてしまいそうな状態である。

「おお、怖い。怖い。そんな怖い目で睨むのはよしてもらえませんか?
 この体にいかがわしい行為に及ぼうとしたところを、
 突然お預けにされて気が立っているのはわかりますが……」
「っ!? なっ、何を言ってるんだ! ボクはそんなことを……」
「安心して下さい。続きはあとでちゃんとやらせてあげますよ。たっぷりとね」
「〜〜〜〜っ!」

ダークアルエットの口調は、アルエットのそれと同じく丁寧ではあるが、
節々から嘲笑や悪戯めいた悪意が見え隠れする慇懃無礼なものだ。
若いキュロットは容易く挑発に乗せられてしまい、羞恥で顔は紅潮し、
憤慨でこめかみに青筋を走らせている。


「さて、目的ですけど、アルエットの教育です」
「教育? 教育って何ですか。アルエットさんがあなたに何を教わるって言うんです」
「それをあなたに教えてしまうと学習の能率が悪くなるので秘密です
 ……が、大まかに言えば性教育ですね」
「せ……性!?」
「あなたもご存じの通り、アルエットは光の聖女ですからね。
 身持ちが堅くて初心(うぶ)なんです。
 ですが彼女ももう恋をしてもいい年頃……。
 なにしろ見かけは若くとも彼女はサラド神父よりも年上です。
 いい加減に異性の裸に慣れさせる必要があると思ったわけです。
 そしてそんな彼女が体を委ねるとすれば、
 その相手はあなた以外に考えられない」
「そ……そんな……。それは、アルエットさんの意志なんですか?」
「意志……とは?」
「だから……その……アルエットさんは納得しているんでしょうか。
 ボクなんかと……その……」
「ああ、なるほど。安心して下さい。
 あなたを選んだのはまぎれもなくアルエット本人の意志ですよ。
 わたし個人はキュロット君にはまったく興味はありませんが、
 彼女は少なからずあなたに好意を抱いています。いいですか?
 今のアルエットは光の聖女の使命と死の運命から解き放たれています。
 あなたの想いに応えることも、あなたに想いを伝えることも、
 もう誰にはばかる必要もなくなったのです。
 キュロット君も先刻のアルエットの熱心なアプローチに、
 今までとは違う何かを感じ取ったのではありませんか?」
「う……うう……」
「魔法であなたの力を奪わせたのはわたしの指示ですが、
 それはあくまでも非力なアルエットのためのサポートです。
 あなたに抵抗されたり、リードしてもらうようでは勉強になりませんからね。
 あなたは安心してアルエットに身を委ねて下さい」
「アルエットさんに……身を委ねる……」
「それでは邪魔者は早々に退散いたしましょう。
 神父様には術を施してありますので、ここには誰も近づきません。
 まわりのことは気にせず、心ゆくまでアルエットの肉体をお楽しみ下さい」

言いたいことだけ一方的に告げると、ダークアルエットはその気配を消した。
瞳の色はもとの青さを取り戻し、
体全体から発散されていた闇の魔力も急速に薄れていく。