猛暑が続くなか、ノンアルコールの“ビール”が売れている。従来のビール風味飲料は微量のアルコールを含んでいたが、市場に出回る新商品は完全にゼロ。運転前や「休肝日」にも気兼ねなく飲める点が受け、製造が追いつかないメーカーも出る一方で、アルコール依存症治療の妨げになりかねないなど、大ヒットを懸念する声もある。
7月下旬の週末、福岡市・天神の街頭で、福岡中央署とキリンビールの共催の飲酒運転撲滅イベントがあった。啓発チラシと一緒に配られたのは、同社が昨年4月に発売したビール風味飲料「フリー」。「世界初のアルコール0・00%」と銘打ち、ノンアルコール商戦の火付け役となった商品だ。計200本を買い物中の家族連れなどが次々と手に取り、のどを鳴らして飲み干す人もいた。
2002年の道路交通法改正で飲酒運転の罰則が強化されたのを機に、「ノンアルコールビール」を各社が発売した。しかし、本物のビールと同じ発酵製法だったため微量のアルコール分を含んでいた。摂取量や体調によっては呼気からアルコール分が検出されかねず、思うように消費者の信用を得られなかった。
そこでキリンは、発酵を利用せず、香料と酸味料の組み合わせで「ビール風味」を再現する方法を模索。ようやくアルコール完全ゼロを実現したのが「フリー」だった。
今夏にはサントリーが「オールフリー」、アサヒビールが「ダブルゼロ」を投入し、商戦が激化した。店頭価格は350ミリリットル缶で130-140円程度。予想の2倍の注文が寄せられて生産が追いつかなくなり、追加出荷を中止するメーカーも出るほどの人気ぶりだ。
「コクがなくて物足りない」との声もあるが、福岡市西区の会社員男性(45)は「口当たりがビールに近い。運転する人もしない人も同じ気分になれる」と歓迎する。郊外の居酒屋やゴルフ場などで需要が高いという。
一方で、未成年者の飲酒助長を懸念する意見もある。このためメーカー側は、缶に「当商品は20歳以上の方の飲用を想定」と明記。大手コンビニのセブン-イレブン・ジャパンは、ビール風味飲料を酒コーナーに並べ、店員に年齢確認を促している。ただ、別の大手コンビニは「特に年齢確認はしていない」(広報担当者)。法律上は販売を拒否できる根拠がないだけに、未成年者が気軽に手に取る危険性は残る。
アルコール依存症の治療の妨げとなる可能性についても、「断酒会発祥の地」の高知アルコール問題研究所(高知市)の下(げ)司(し)孝之さん(66)は「断酒会では最初の一杯を飲まぬよう指導する。ノンアルコールとはいえ、ビール気分で一杯飲めば、脳内は一気に飲酒モードになってしまう。医療関係者は非常に困っている」と指摘している。
=2010/08/19付 西日本新聞夕刊=