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きょうの社説 2010年8月19日
◎ジャパンテント 「交流の懸け橋」を生む母体
日本で学ぶ留学生たちが「ふるさと愛」をテーマに交流を繰り広げるジャパンテントが
、今年も石川の地で幕を開ける。23回目となる今回は、北陸が生んだ世界的化学者・高峰譲吉博士の歩みをたどる映画「さくら、さくら〜サムライ化学者高峰譲吉の生涯〜」の鑑賞も組み込まれる。学問的業績のみならず国際交流の先駆者であった人物像に触れ、博士を生んだ土壌を感じ取りながらきずなを結ぶことで、参加する側、迎える側双方が、交流の懸け橋を生む母体としてのジャパンテントの価値を発信したい。「さくら、さくら」は、加賀藩医の子として生まれた博士が米国に渡り、家族らのきず なに支えられて研究開発に励む姿が描かれている。祖国を離れ、日本で研さんを積む留学生たちの志とも重なるところが多いのではないか。 博士の「無冠の大使」としての業績は、2011年公開予定で製作される続編「TAK AMINE アメリカに桜を咲かせた男」の中で詳しく描かれるが、功成り名遂げた後、米ワシントンのポトマック河畔に桜の苗木を贈るなど、私心なく民間外交を展開し日米友好に尽くした姿は、博士の熱い祖国愛の発露である。その祖国愛は「ふるさと愛」にも置き換えられよう。本物の日本が息づく石川の地で、高峰博士のふるさと愛の一端にも触れてもらいたい。 これまでのジャパンテントの参加者の中には、日本の算数教材をスペイン語に翻訳して 母国の子どもに与える運動を進めるペルー人医師、また、母国の故郷で日本との友好協会を立ち上げ、石川県との文化交流に尽くすタイ人実業家など、高峰精神を受け継ぐように、より深く交流活動に乗り出す「同窓生」の姿がある。 迎えるホスト家族やボランティア学生らも自然体が板に付き、ホームステイ先の7歳の 女児が、迎え入れる留学生の母国ウズベキスタンとリトアニアについて楽しみながら勉強しているとの投書も本紙に寄せられている。やがて四半世紀を刻むジャパンテントが、いくつもの交流の懸け橋を作ってきたことが分かる。石川の夏の出会いで、ふるさと愛を深めたい。
◎「新卒」時期拡大 就職活動のルール再考を
大学生の深刻な就職難を受け、卒業後も数年程度は新卒扱いとすることなどを求めた日
本学術会議の提言は検討に値しよう。企業の多くは新卒を採用条件とし、必要とする人材を4月に一括して雇うため、就職の機会はほぼ一度しかない。この機会を失うと、既卒扱いとなって就職に著しく不利になる硬直的な仕組みは、厳しい雇用環境の下、就職活動を続ける学生には酷である。内定がもらえない学生のなかには、やむなく留年して卒業を先延ばししたり、大学側が 卒業要件を満たしたまま卒業の延期を認める「卒業延長制度」を新設し、行き場のない学生の救済措置を講じるなどしているが、こんな策をろうしても誰も得しない。 不況であればあるほど、大学生は学業より就職が気になり、最近では3年進学時から会 社訪問などに追われるという。学生にすれば無理もない話だが、そんなことでは、身に着けるべき専門知識や能力の習得がおろそかになり、国家全体の損失になる。新卒の扱いを含め、就職活動全般にわたる「ルール」の再考が必要だ。 文部科学省の2010年度学校基本調査では、今春卒業した全大学生の就職率は60・ 8%にとどまった。大学院進学率が1・2ポイント増の13・4%となったのは、就職できずに進学を選んだ学生がいたからだろう。大学を卒業しても進学も就職もせず、進路が未定な既卒者は実に8万7000人に上る。多くの若者たちが職に就けない状況は社会の危機と言ってよい。 「新卒一括」の採用は、年功序列と不即不離の関係にある。同年次ごとに序列化し、同 期入社組を競わせる仕組みは、組織に活力を生む原動力にもなってきた。生え抜きを育て、企業のカラーに染めていく採用システムを全否定するわけではないが、雇用拡大が容易に進まない現状下では、新卒一括採用は弊害が目立つ。 就活時期にたまたま好況か、不況かで大きく左右されてしまっては、勉学に励む気持ち も薄らいでしまいかねない。経済団体が既卒者にも広く採用の門戸を開くルールづくりの先頭に立ってほしい。
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