花形中心の歌舞伎公演。
1部が「義経千本桜」。6月のロンドン、ローマ公演の凱旋(がいせん)となり、海老蔵の忠信を中心にした「鳥居前」「吉野山」「川連(かわつら)法眼館」の上演。「鳥居前」と「吉野山」を幕なしでつなぎ、弁慶も登場しない短縮版だ。海老蔵は本物の忠信に緊迫感が出た。狐(きつね)忠信は「鳥居前」に迫力がある。勘太郎の義経が気短な御大将の風情をよく表現した。七之助の静、猿弥の藤太が好演。
2部は「暗闇の丑松」から。橋之助の丑松が、追い詰められての変化をうまく見せる。お今(福助)殺しの不気味さが圧巻。扇雀のお米は、板橋宿で丑松を見た時の、思いを秘めた表情がいい。市蔵、歌女之丞、獅童、亀蔵、芝喜松、弥十郎、福助と周囲がそろい、舞台を盛り上げている。
「娘道成寺」は福助が、女形らしい愛らしさにあふれ、華やぎのある花子を見せる。海老蔵の大館左馬五郎。
3部は「東海道四谷怪談」の通し。勘太郎が初役のお岩など3役で優れた演技を見せた。「浪宅(ろうたく)」で、毒薬と知らずに感謝しながら飲む姿が切なく、毒と気付いてからの怒りの表現が巧み。与茂七では青年武士をさわやかに見せ、小仏小平ではいちずさを示す。海老蔵の伊右衛門は酷薄さが出たが、セリフの独特の抑揚が気になる。七之助のお袖は清楚(せいそ)な中に色気がにじむ。市蔵の宅悦の「浪宅」での恐怖の演技がうまく、お岩を引き立てている。獅童の直助は適役だが、セリフが時々素になる。28日まで。【小玉祥子】