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[20888] 【チラ裏より】Fate/ EXTRA 衛宮士郎の聖杯戦争
Name: りお◆e92fa6fc ID:85afff74
Date: 2010/08/18 17:58
泥濘の日常は燃え尽きた
魔術師による聖杯戦争
運命の車輪は回る
最も弱き者よ、剣を鍛えよ
その命が育んだ、己の命を試すために






   残り 128人












≪1回戦 1日目≫



目が覚めた直後、自分が今どこで寝ているのか理解できなかった。

あのアカイ光景を夢だと認識するまでに数秒。
それから周囲が白いことに気付いた。

どうやら保健室らしい。
いつの間に倒れたのだろう。


それから、倒れる直前に見たあの光景を思い出す。

行き止まりのはずの廊下。
扉の先に広がる世界。
行く手を阻む、意味不明の人形。


そして、サーヴァント……。


サーヴァント、と聞いて思い出すのはあの騎士王である少女。
半人前以下の魔術師に剣を捧げ、付き添ってくれた女の子。
彼女と出会えなければ、己は何度も死んでいた。


……いや、彼女がいても何度も死にかけた。


紅の槍を持つ青い軽鎧を着た男には心臓を貫かれた。
灰色の益荒男はその腕力のみで人を握りつぶすことが可能だろう。
花鳥風月を愛する寺の門番は騎士王と競い合った。
神代の魔術師はたったひとことで人を殺すことができる。
紫の女性は学校の生徒、教師全員から生気を吸い上げた。
あの英雄王だって、簡単に人を串刺しにする。


そして、あの赤い男は……。


そんなことをぼんやりと考えてから、ベットから起き上がる。

どこにでもあるような保健室だが、どこか異質だというのを肌で感じる。



「やれやれ、ようやくお目覚めか。随分とのんびりしたものだな」



どこかで聞いたことのある声がした。

傍らに立つのは真紅の外套を着た、浅黒い肌の男。


1番見たくない男だ。

「……アーチャー……何でお前がいるんだ……」

すると男……アーチャーは嫌な笑みを浮かべた。

「ほう……もしやと思うが、私の真名を知っているのか?」
「……ああ、知ってるよ」
そう吐き捨てる。


「エミヤシロウ。俺の未来の可能性の1つ、だろ?」


そう言うと、アーチャーは少しだけ怪訝そうな顔をした。
「……確かに、私が人間だった頃はエミヤシロウと呼ばれていたが……私が生きていたのはこの時代から30年ほど前のことだぞ」
「え……?」




なんでさ?




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Fate/EXTRAの主人公が衛宮士郎だったら、という話です。
男主人公の名前が思いつかなくて、衛宮士郎と入力していたことからのネタ。


続くかどうか分かりません。



[20888] 1回戦 1日目ー2
Name: りお◆c3f99232 ID:85afff74
Date: 2010/08/08 00:07
混乱している士郎を他所に、アーチャーは姿を消した。
それと同時に保健室の扉が開く。

入ってきたのは……間桐桜。

「桜!?」
思わず士郎は立ち上がった。
「あ、衛宮さん目が覚めたんですか? 良かったです」
だが桜は他人のように振舞う。
「体の方は異常ありませんから、もうベッドから出ても大丈夫ですよ。それと、セラフに入られたときに預からせていただいた記憶メモリーは返却させていただきましたので、ご安心を」
混乱している士郎に、桜は淡々と説明をしていく。

それはとても家族同然の相手への対応ではなかった。

「聖杯を求める魔術師は門を潜るときに記憶を消され、一生徒として日常を送ります。そんな仮初の日常から自我を呼び起こし、自分を取り戻した者のみがマスターとして本戦に参加する――――以上が予選のルールでした。貴方も名前と過去を取り戻しましたので、確認をしておいてくださいね」

……要は、士郎が今まで何も思いだせず月海原学園で過ごしていたのは記憶が消去されていたから、だろう。
そして消された記憶が返却されたから、今までのことを思い出したのだ。


確かに記憶は戻っている。
だが……どうしてこんな場所にいるのか思い出せない。

自分がここに来る直前の記憶がないのだ。
それだけではない。

冬木で行われた第五次聖杯戦争。
それに参加した、士郎が知る限りのマスターとサーヴァント、真名などの知識は思いだせるものの、どのように出会い、どのように戦ったのかがまるで思い出せない。

唯一思い出せるのはあの紅の槍を持った武人に心臓を穿たれたこと。
そして月下での騎士王との出会いに……。

聖杯戦争を通して関わった、今現在士郎のサーヴァントとなってしまった男が仕え、そして裏切られた少女。
彼女との具体的な思い出はないが、それでも大切な存在だということに変わりはない。

そして今目の前にいる少女は家族同然だったというのに。
「……桜、俺、どうしてここにいるんだ? まるで思い出せないんだが……」
「え……記憶の返却に不備があるんですか? ……それはわたしには何とも。わたし間桐桜は運営用に作られたAIですので。

運営用?
AI?

士郎にはさっぱり分からないことだらけだ。

そして桜は今の士郎の言葉をなかったかのように微笑む。
「あ、それからこれ、渡しておきますね」
「? これは……?」
「携帯端末機です。本戦の参加者は表示されるメッセージに注意するように、との事です」

携帯電話のようなものなのだろうと士郎は判断した。











保健室を出て、士郎は溜め息をついた。
「溜め息をつきたいのはこちらの方だ」
すると傍らに赤いサーヴァントが現れる。
「貴様、どうしてここに来たのか分からないのか?」
「ああ、さっぱり。……ついでに俺があの聖杯戦争でどうやって過ごしてたかも覚えてない。……セイバーや遠坂と過ごしたってことは覚えてるのに」
「……そうか」
ふとアーチャーは懐かしそうな目をした。

例え記憶が磨耗しても、あのセイバーとの出会いが思い出せなくなることはないのだろう。

それからなぜか、アーチャーは眉間に皺を寄せた。
「……まさか、凛の実験か何かじゃないだろうな」
あの遠坂凛なら、肝心なところで「うっかり」をやらかす遠坂凛なら、実験で誤って士郎をここに送ってしまうことくらいやりかねない。

その事故の結果士郎を未来へ、しかもセラフに送ってしまったのだとしたら……。

「……有り得そうで怖い。アーチャー、この話はなしにしよう」
「……そうだな」

やはりアーチャーもシロウだ。この当たりの見解は同じらしい。

それから士郎はふとアーチャーを見上げる。
「お前さ、俺のこと殺したいとか思わないのか?」
するとアーチャーは言葉に詰まってから、視線を逸らす。
「……憎んでいる。だが、何故か殺す気が起きん。……恐らく、『座』にいる本体の方が心変わりをしたのだろう」
「……そりゃ良かった。後ろから刺される心配はなさそうだ」
「貴様の場合、前からでも簡単に刺されそうだがな」
「うるせえっ」

いくら殺される心配がなくなっても、この男は相容れないのだろう。










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第二段を投稿しました。
これも感想をくださった方たちのお陰です。

更新頻度はあまり高くないかもしれませんが、細々と繋いでいくつもりです。

どうか暫くの間お付き合いください。



[20888] 1回戦 1日目ー3
Name: りお◆22486290 ID:85afff74
Date: 2010/08/09 17:46
何気なく屋上に出る。
空は青空なのだが、いつも見ていた空ではない。

電脳世界セラフ。
ここが日本どころか地球ですらない、ということを改めて思い知らされた。

そんな屋上に1人の少女がいた。

「……一通り調べてはみたけど、おおまかな作りはどこも、予選の学校と大して変わらないのね」
壁や床をぺたぺたと触って、何やら呟いている。

間違いない。見間違いようのない後姿。


「遠坂……」


彼女は遠坂凛だ。
仮初の学園生活を送っていたときの記憶にも、彼女の名前がある。


士郎の知る『遠坂凛』と、この世界にいる遠坂凛。
ほとんど同じ外見と服の趣味に、期待してしまう。


彼女が士郎のことを知っているのではないか、と。


「……あれ? ちょっと、そこのあなた」
ずっと立ちすくんで見つめていたからだろう、凛は士郎の存在に気がついた。
意志の篭った目が和らぐ。
思わず周りを見回すが、屋上には士郎と凛しかいない。
「……俺か?」
「そう、あなたよ」

その言動は、やはり桜と同じように士郎とは初対面ということを如実に表していた。

それでも士郎は動けない。
いや……だからこそ動けない。

ここにいる遠坂凛が、士郎の知る『遠坂凛』とは別人だと思い知らされて。

「……そういえば、キャラの方は、まだチェックしてなかったわよね。うん、ちょうどいいわ。ちょっとそこ動かないでね」
凛はこちらに寄ってきたかと思うと……士郎の頬に彼女の指が触れる。

細く、柔い指。
強い眼差しの持ち主が、まだあどけなさの残る少女であることを改めて実感した。

「へぇ、温かいんだ。生意気にも。……あれ? おかしいわね、顔が赤くなってるような気がするけど……」
少女の顔が鼻先3センチまでぐっと近づく。
その距離に、心臓がどきりと鳴ってさらに士郎は動けなくなった。

頬にかかる微かに温かい吐息。
首筋を掠める風に流れる長い髪。
無遠慮に肩やお腹をぺたぺたと触る指。

どれもが士郎を混乱させ、動きを束縛する。

心臓の音がやけにうるさい。
これが気付かれやしないかとハラハラしながら、士郎は凛の行動を甘受するしかなかった。

「なるほどね。思ったより作りがいいんだ。見掛けだけじゃなく感触もリアルなんて。人間以上、褒めるべきなのかしら」
彼女が顔をしかめつつ、誰もいない後方を振り返る。
恐らく姿は見えないが、彼女のサーヴァントがそこにいるのだろう。

士郎の後ろでアーチャーが声を殺して笑っているように。

「……ちょっと、なに笑ってんのよ。NPCだってデータを調べておいた方が、今後何かの役に……」
それから凛ははっとしたように士郎を見る。
「……え? 彼もマスター? ウソ……だ、だってマスターならもっと……ちょ、ちょっと待ってよ。それじゃあ、いま調査で体をベタベタ触ってたわたしって一体――――」
つい先ほどの行動を思い出したのか、凛は顔を真っ赤にしてしまった。
こちらも釣られて赤面する。
「くっ、なんて恥ずかしい……。うるさい、わたしだって失敗ぐらいするってーの! 痴女とか言うなっ!」
後半の台詞は、恐らく彼女のサーヴァントが余計な茶々でも入れたのだろう。
「職業病みたいなものよ。これだけキャラの作りモデルが精密な仮想世界も無いんだから、調べなくて何がハッカーだっての」
まくし立ててこちらの説明してくる。

どうやら言い訳らしい。

黙っていたのが悪かったのか、責任がこちらに転化されてきた。
「大体、そっちも紛らわしいんじゃない? マスターのくせにそこらの一般生徒モブキャラと同程度の影の薄さってどうなのよ。今だってぼんやりした顔して。まさかまだ予選の学生気分で、記憶がちゃんと戻ってないんじゃないでしょうね?」

自分はぼんやりした顔をしていたのだろうか。
まさか凛に見とれていたとは言えない。

「いや、記憶はちゃんとあるぞ。だけど、ここに来る直前の……というか、ここに来た理由と方法は分からないけど」
「え……ウソ。本当に記憶が戻ってないの?」
凛は恐らく冗談で言ったのだろう。表情が翳る。
「それって……かなりまずいわよ。聖杯戦争のシステム上、ここから出られるのは、最後まで勝ち残ったマスターだけ。途中退出は許されていないわ。記憶に不備があっても、今までの戦闘経験バトルログがなくても、ホームに戻るコトはできないわよ? ……あ。でも別に関係ないわね。聖杯戦争の勝者は一人きり。あなたは結局、どこかで脱落するんだから」
彼女の心配そうな声が、急に醒めた。

目の前にいるのは、聖杯を奪い合う敵。

――――いや、目の前の一人だけではない。
凛にとって、この聖杯戦争に来ている者は全てが敵なのだ。
彼女のまとう空気がそれをはっきりと示している。
実感は沸かないが、目に映る人間は全て、殺し殺される関係にすぎない。
そんな事実を嫌でも気付かせてしまう。

それはいつかの……ビルの屋上からこちらを見下ろしていた姿と重なる。

「……ま、ご愁傷さまとだけ言っておくわ。今回のオペは破壊専門のクラッキングだけじゃなく、侵入、共有のためのハッキングだったし。一時的にセラフが防壁を落としたといっても、あっちの事情はわたしたちには知れないしね。あなた、本戦に来る時に、魂のはしっこでもぶつけたんじゃない? ロストしたのか、リード不能になってるだけか、後で調べてみたら?」
そう言われても士郎には半分も理解できない。

クラッキングもハッキングも士郎は出来ないし、いきなり魂とか言われても士郎にそんな高等技術が出来るわけがない。
士郎が出来るのは強化と投影、それにあの術しかないのだから。

「……ま、どっちにしても、あなたは戦う姿勢が取れてないようだけど? 覇気というか緊張感というか……全体的に現実感が無いのよ。記憶のあるなし、関係なくね。まだ夢でも見てる気分なら改めなさい。そんな足腰定まらない状態で勝てるほど、甘い戦いじゃないわよ」

そんなの分かっている。
それで何度も死にかけた。

それを助けてくれたのはセイバーと、凛だ。

なのに目の前にいる凛は敵。

「……でも、遠坂とは戦いたくないぞ」
「ばっ……!」
とたんに凛は顔をまた赤く染めた。
「何言ってんのよ! あなた、この聖杯戦争は勝つか負けるかしかないの! 組み合わせ次第ではあなたと私が戦うことになるのよ! あなた、そんなんじゃすぐ負けるからね!」
そう言い、凛は屋上を去っていった。

その後姿はちっとも優雅ではなかったが。

「……まさか、遠坂とそっくりの少女がいるとは」
アーチャーも凛が校舎の中に入っていくのを感慨深そうに見送るしかなかった。







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帰省するのでお盆前最後の投稿になるかと思います。

凛が登場しました。
ランサーもアーチャーも互いに姿を現してないので見えてません。



連載するのを確定したので、チラシの裏から板移動をするかもしれません。
もしそうなっても、どうかお付き合いください。






[20888] 1回戦 1-4
Name: りお◆661d208d ID:37190350
Date: 2010/08/18 17:58
「……しかし。あの物言い、不思議と懐かしい。もしや女難の相でもあるのか、俺は……」
思わず感慨深げに呟くアーチャーに、思わず士郎も同意してしまう。
「……お互い幸運値ラック低いもんなぁ……」

こればっかりは死んでもどうしようもない。

「遠坂はどこでも変わらないんだな……」
他愛もない日常のようで、思わず和む。

ここが命のやり取りをする聖杯戦争の舞台であることを一時忘れる。

それにアーチャーも気付いたが、溜め息をついただけで何も言わなかった。
「藤ねえに桜、セイバーに遠坂、ルヴィア……」
思わず数えてしまうあたり、アーチャーもシロウなのだ。

これは現実逃避に過ぎないが、してしまうほど運は低いのだ。


それに、命のやり取りをするこの聖杯戦争で、少しでも衛宮士郎が平静を保てられるならばそれもいい。
いくら不本意だろうと、ここでのアーチャーのマスターは衛宮士郎なのだから。マスターを気遣うのはサーヴァントの役目なのだ。

そのマスターが例え未熟な己の過去だとしても、世話焼きの性分は染み付いてしまっている。

そしてサーヴァントは、マスターを勝ち残らせるのが役目。
そのためにはペナルティも負う覚悟。

問題は士郎の心構えだけだ。









士郎が所属していたことになっている2年A組はマスターの控え室となっていた。

黒い学生服の生徒は生徒会……聖杯が用意したシステム運営用AI。そして桜みたいな、与えられた役割をこなすだけのNPC。
それ以外は全員今回の聖杯戦争に参加するマスター、ということになる。

それらの説明をアーチャーから聞いて、士郎は頭が痛くなった。
ここに桜や柳洞一成という士郎も知っている人がいても、士郎が知る桜や一成とは別人。

そしてこの世界は聖杯を手に入れるために作られた世界……セラフ。

何より頭が痛いのは、質問をするたびに嫌味で返してくるアーチャーだ。
それでもちゃんと士郎の質問には答えてくれるのだから、親切……なのかもしれないが、アーチャーは意地悪なのだと士郎は信じて疑わない。
事実アーチャーの目は笑っていた……ような気がする。

いくら本人が士郎を殺す気がないにしても、根幹の部分で相容れないのだ。





士郎は他の参加者からみても、とても勝ち残れるようには見えないらしい。
凛に言われるまでもなく、士郎自身それを自覚していた。

第五次聖杯戦争に参加したとき、やはり凛に言われたような気がする。

「へえ、衛宮も残ったんだ」
そのためか、他のマスターたちは士郎に警戒心をあまり抱かず話しかけてくる。
「ん……ああ」
曖昧に頷く。
相手のことを士郎は覚えていない。それでも気安げに話しかけてくるのだから、偽りの学園生活の中でもそれなりに親しかったのかもしれない。
「対戦者が決まると、いよいよ本戦って気がするわよね」
「……対戦者? もう決まってるのか?」
士郎の言葉に、女生徒が怪訝な顔をした。
「え……もしかして、まだ対戦者が決まってないの? 管理者の言峰神父を探してみたら? 何か知ってるかもしれないし」
「言峰……神父……?」

その名前を聞いて思い浮かべるのは……あの胡散臭い神父。
あの神父が……管理者?

「……そうしてみる」
信じたくないと思いながら、士郎は教室を出て行った。










校舎の1階、玄関の前にその男はいた。

「本戦出場おめでとう。これより君は、正式に聖杯戦争の参加者となる。私は言峰。この聖杯戦争の監督役として機能しているNPCだ」
男……言峰は士郎に気がつくと、そう挨拶をしてくる。
背後でアーチャーも絶句している気配がする。

NPC……ということはこれは士郎の知る本物の言峰綺礼ではない。
だが嫌悪感、というものはどうしても生じてしまうものらしい。

言峰はこちらのことなど気にせず、型通りの説明を開始した。
「今日この日より、君たち魔術師はこの先にあるアリーナという戦場で戦うことを宿命付けられた。この戦いはトーナメント形式で行われる。1回戦から7回戦まで勝ち進み、最終的に残った1人に聖杯が与えられる」

128人のマスターたちが毎週殺し合いを続け、最後に残った一人だけが聖杯に辿り着く。
それがこの聖杯戦争のルール。

「非常に分かりやすいだろう? どんな愚鈍な頭でも理解可能な、実にシンプルなシステムだ。
戦いは1回戦毎に7日間で行われる。各マスターたちには1日目から6日目までに、相手と戦う準備をする猶予期間モラトリアムがある。君はこれから6日間の猶予期間モラトリアムで、相手を殺す算段を整えればいい。そして最終日の7日目に相手マスターとの最終決戦が行われ、勝者は生き残り、敗者にはご退場いただく、という具合だ。何か聞きたい事があれば伝えよう。最低限のルールを聞く権利は、等しく与えられているものだからな」

アーチャーからある程度伝えられていたとはいえ、改めて聞くとショックだ。
しかもその聖杯戦争の管理者がよりにもよって言峰綺礼。
さらに気分は落ち込むやら綺礼への敵愾心やらで複雑な気分となる。

だが……聞けば教えてくれる。反対に聞かれなければ教えてくれない。
これは本物の言峰綺礼と同じらしい。
今言峰も言ったことだし、士郎は試しに聞いてみた。

「なあ……聖杯戦争は一体何なんだよ。7日目に相手と殺しあうって……?」
「いま言った通りだ。6日間の準備の末に、相手を守備よく殺せばいい。そのために、サーヴァントという強靭な剣が与えられただろう?」
「必ず、殺さなきゃいけないのか? 例えば相手と同盟を結んで……」
「結びたければ結ぶがいい。だが、必ず7日目には相手と殺しあってもらう」

必ず……最後まで勝ち残るのなら7回、相手の命を奪わなければならない。
その事実をつきつけられ、目の前が真っ暗になりかける。

それを堪え、士郎は聞き覚えのない単語を口にした。

「……猶予期間モラトリアムって、何だ?」
「敵にも同様に、サーヴァントで君を殺す準備をしているということだ。猶予期間モラトリアムは等しく与えられている。準備の手段など、私は知らん。煮るなり焼くなり、好きにすればいい」
素っ気ない返答。
このモラトリアムというものの間に敵サーヴァントの情報を探れ、ということなのだろう。

相手の真名、そして宝具が分かれば対策も立てやすくなる。

そういえば……。
ちらりと姿を消しているアーチャーがいるはずの空間を見やる。


アーチャーの宝具……固有結界リアリティ・マーブル
魔法に最も近い魔術。
魔術教会での禁呪であり、衛宮士郎に許された魔術。
最大の奥義であり、魔術の到達点のひとつ。

……士郎には実感のないことなのだが。

士郎が参加した第五次聖杯戦争ではアーチャーエミヤシロウは未来の英霊だったため真名は本人が明かさない限り知られることはなかった。
しかもマスターである遠坂凛にも「記憶が混濁している」と通していたわけだし。

だがここは士郎のいた時代よりも未来。
この時代の衛宮士郎がどうなっているかは知らないが、やはり知名度は低いはず。

真名が知られたとしても、あまり支障はない気がするが……やはり知られない方がいい。

何せマスターが英霊の過去なのだから。


「……なあ、サーヴァント同士の戦いにマスターが介入することは可能なのか?」
「もちろんだとも。サーヴァントへの援護は認められている」
言峰が鷹揚に頷いた。

人間を越えた動きをするサーヴァントに、どこまでマスターが介入できるかどうか。

それに、今の魔術師は士郎が本来いるべき時代の魔術師とは定義が異なっている。

ここでも士郎は異端。

それを確認して、士郎は桜から貰った端末を見せる。

「……この端末ってのは、何に使うんだ?」
「それは聖杯システムからのシステムメッセージを受け取るものだ。配信されるメッセージは、注意深く見ておくといいだろう」

やはり携帯電話のようなものだろうか。
士郎の知る遠坂凛だったら使いこなせないだろうとくだらないことを考えてしまう。

それでは最後に1つ。

「……俺の対戦者が決まってないみたいなんだけど……」
そう言うと、言峰は訝しげな表情をした。
「ふむ……少々待ちたまえ……。
――――妙な話だが、システムにエラーがあったようだ。君の対戦組み合わせは明日までに手配しよう」

システムにエラー。
やはり、過去の人間というイレギュラーが混じったからだろうか。

「それと、本戦に勝ち進んだマスターには個室が与えられる」
言峰が何か手渡してきた。
「それは。マイルーム認証コードという。君が予選を過ごしたクラスの隣、2-Bが入り口となっているので、この認証コードを携帯端末に入力インストールしてかざしてみるといい」

要は学校での自室が与えられる、ということだろう。

「……さて、これ以上長話をしても仕方あるまい。アリーナの扉を開けておいた。今日のところはまず、アリーナの空気に慣れておきたまえ。アリーナの入り口は、予選の際、君も通ったあの扉だ。では、検討を祈る」
言峰が歩いていった。

「……なんでよりにもよってアイツなんだよ」
そうぼやいたのも仕方ないと、思う。







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お盆休みが明けて帰ってきました。
正式に連載を確定させたので、今回からチラシの裏より板を変更いたします。
更新頻度はそう高くないかもしれませんが、どうかお付き合いください。


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