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データをもとに解決策を考えよ

築地市場の移転に関する議論は、資料や会議をしっかりと公開しながら進めている。10月7日付けの産経新聞によると、土壌汚染が深刻であることを報告した専門家会議を、移転反対派も傍聴していたようだ。以下、記事を引用する。

「この日の会議は移転反対派らも傍聴。水産仲卸関係者による『市場を考える会』の山崎治雄代表幹事らは『精密な調査を行うということで、これまでよりも一歩も二歩も前進した』と述べたものの、『(精密な調査をやったからといって)リスクをゼロにすることは不可能。それなのに、調査を実施するのは実際には移転ありきで議論しているということ』と、今後も移転反対を訴える意向を改めて示した』

「(精密な調査をやったからといって)リスクをゼロにすることは不可能」というのは原理主義の考えだ。これでは、何も進めることができなくなってしまう。リスクをゼロにすることはできない。その分、リスクを限りなく最小化するために法令の基準をはるかに上回る対策を実施する予定だ。土壌汚染対策法は、50cm以上の盛土、3cm以上のアスファルト、10cm以上のコンクリートによって汚染土壌を封じ込めることを定めている。これに対して豊洲の移転予定地は、汚染物質がある区域については、現地盤面から2メートルの深さまで土壌を削除し入れ替え。その上に2.5メートルの盛土。それを厚さ25〜40cmのコンクリート床や30〜40cmのアスファルト舗装で覆う。

感情論だけの原理主義的反対は、問題を混乱させるだけだ。道路公団民営化のときもそうだったが、こういった話はゼロか100かの議論になりやすい。しかし、そうした議論に陥ることなく、プラス要因とマイナス要因を冷静に判断するべきだ。

築地市場の取扱量は減少し、シャッター通り化しつつある。豊洲移転が遅れれば遅れるほど、ジリ貧化が進むのは間違いない。豊洲に移転をすれば、地の利を生かし物流機能を高めることができるだろう。物流機能が高まれば、取扱高が再浮上する可能性もある。ただし、大店と中小店舗との間でコンセンサスを形成するのは難しい。土壌汚染の問題も存在する。

前述のように4000箇所の調査を10カ月間かけて行う。調査を徹底してやれば、客観的なデータがそろう。このデータを公開し、データをもとに、何が最もよいのかを議論をしなければならない。自ずから結論は出るはずだ。

猪瀬 直樹(いのせ・なおき)

作家。1946年、長野県生まれ。

1987年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『日本国の研究』で1996年度文藝春秋読者賞受賞。以降、特殊法人などの廃止・民営化に取り組み、2002年6月末、小泉首相より道路関係四公団民営化推進委員会委員に任命される。政府税制調査会委員、東京大学客員教授、東京工業大学特任教授、テレビ・ラジオ番組のコメンテーターなど幅広い領域で活躍中。東京都副知事。最新刊に『東京からはじめよう』(ダイヤモンド社)がある。

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