[Sona-Nyl previewstory 03]
「入浴」
ど──
どうしてこういうことになったんだっけ。
あたしのせい?
あたしのせいか?
全部この“A”のせいだ。
そうに決まってる。
この浴室に押し込まれることになったのは
全部、ぜんぶ“A”のせい
押し切られた
押し切られた!
また!
また、押し切られて!
いつも
いつもいつも
押しの強さだけはいつもいつもいつも
さっきもそう──
『リリィ』
『寝る』
『リリィ』
『もう寝る』
『なら、入浴の後に寝間着へ着替えるべきだ』
『そういう気分じゃない時もあるの』
『文化的な人間の行動ではないね』
『ばかでごめんなさいね! いいの、あんまり汗かいてない』
『カダス文化流入の影響で、欧州や合衆国の人間は
毎晩の入浴を日課としていると僕は記憶している』
『ううううるさいそんなの知らない』
『さ。服を脱ごうか』
『やめ、やめて』
『いつものことだ』
『なんで──』
『では、きみひとりでできるかい?』
──できない
──できないんだよ
この服を選んだ時から、あたしは
少女のかたちを選んだ瞬間から
自分の意思では、翠の服、脱ぐことができなくなった
着ることはできるのにね
かたち、Aにしか変えられなくて
それで
いつも
いつもいつも
いつもいつもいつも!
「……着替えだけっていったのに!」
「言っていない」
「きみはそうでも、あたしは言ったの!」
「さ。ブラシはどちらがいいかな」
「いいから! いいの! い、いい、いいから! 自分でやれる!」
「いつものことだと言うのに」
「いつもやめろって言ってるじゃない!」
「さ。ブラシはどちらに」
「なんでそんな動物洗うみたいなでっかいブラシ…」
「人間も動物もあまり違いはないよ」
「違うわよ!」
「どちらも、炭素製の生体機械だろう?」
「女の子は! お砂糖とスパイスと、あと、すてきなもの──」
「泡が口に入るよ」
「わぷ!」
──ああもう!
──ああもう!
──ああもうッ! 莫迦! 莫迦車掌!
※プレビューストーリー次回更新は8/20を予定しております。
※更新しますと今回の内容は閲覧できなくなります。