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照りつける太陽の下で、朱色の祭殿前にじっと座って祈るおばあさんがいた。那覇市若狭の至聖廟(びょう)(孔子廟)は、約340年の歴史を重ねる。至聖廟を管理する久米崇聖会の古謝昇理事長は「こういう人が今もよく来る。信仰は生きている」と記者に説明した。
年中行事や墓、食事など沖縄では今も中国の影響は強い。琉球王国に渡来した中国人の子孫は久米村(現那覇市久米)に戦前まで集住しており、「久米村人」と呼ばれた。久米崇聖会は渡来中国人の子孫の団体だ。会によると現在、把握できるだけで9020人いる。仲井真弘多知事もその一人。知事は年1回9月、至聖廟での祭礼に参加する。
久米は沖縄戦の前に空襲で全焼したが、ここに92年、市営中国式庭園、福州園ができた。約8500平方メートルの園内に、中国福建省福州から来た職人が福州の建材を使って建てた建物や池が点在する観光名所だ。
福州園ガイドで、久米村人系の松永麗子さん(78)は「この庭園は久米にないと意味がない。私たちの心のよりどころだ」と言う。近い将来、至聖廟を隣に移し、久米村の趣を取り戻すという。
沖縄は14世紀から日本が併合する19世紀まで当時の明、清の臣下、藩属国だった。中国の一部歴史研究者らが「中国は沖縄に対する権利を放棄していない」という時、「権利」は当時の関係を下敷きにしている。
もちろん、沖縄には「沖縄を返せ」の声に応じる動きこそないが、他方、在日米軍基地の75%が集中し、米軍普天間飛行場(宜野湾市)移設問題に象徴される日米安保への反感は強い。高良倉吉琉球大教授(琉球史)は「沖縄では本土への反発と中国への親近感がセットになっている面もある」と説く。
今年4月と7月、中国艦隊が沖縄近海を通過したが、「小説 琉球処分」などの作品がある芥川賞作家の大城立裕さん(84)は「(中国艦船は)日ごろは話題にならない。他国の軍艦は琉球処分のころからずっと周囲をうろついているから」と話す。
5月末の毎日新聞と地元紙、琉球新報が沖縄県民を対象に実施した合同世論調査では「日米安保条約を維持すべきだ」との回答は、わずか7%だった。富川盛武・沖縄国際大学長(経済学)は「これだけ政府に軽く見られたうえで聞かれれば、当然の数字だ」と語る。
同大は普天間飛行場の隣にある。04年8月には、ヘリが本館前に落ちた。墜落の数時間後、富川学長は忘れがたい場面に遭遇した。学内を取材中のテレビ記者を米兵が連行しかけ、それを地元の人々が取り囲んだのだ。
「怒りが充満していた。数百人が、方言で『タックルセー』(ぶちのめせ!)と罵声(ばせい)を上げ、今にも石が飛びそうだった」。記者は解放されて暴動寸前の空気は収まったが、「県民には長年の理不尽への怒りのマグマがある。これを前提に沖縄を考えてほしい」。
富川学長も検討に参加して、県が今年3月に策定した将来構想「沖縄21世紀ビジョン」は「独特な歴史的背景などをもとに中国・台湾などとの多元的なチャンネルを通じ『ネットワーク型経済』の構築を図る」とした。
歴史研究での中国との交流も、帰属問題以外では順調だ。県教育委員会は琉球王国の外交文書集「歴代宝案」の復元・校注作業を89年から続けている。北京の外交資料館、第一歴史档案館の協力で、約3300件の関連史料を提供された。高良教授も歴代宝案にかかわる。「私がよく付き合う中国の学者は実証的で、今の政治や外交に直結した話をあまりしない。そういうまともな人が多いから、中国との歴史問題を楽観している」という。
富川学長も久米村人の血を引く。「沖縄の人は当然日本人だが、同時に日本人のようで日本人ではなく、中国人のようで中国人ではない独特の感覚もある。この感覚を生かして、米国と中国のどちらに付くかの二分法を解くことこそ、沖縄の役割だ」と主張する。【「安保」取材班】
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「海をゆく巨龍 転換期の安保2010」は以下の記者が担当しました。成沢健一、浦松丈二、米村耕一(北京)、鈴木玲子(上海)、大谷麻由美(台北)、西脇真一(ソウル)、矢野純一(マニラ)、佐藤賢二郎(ジャカルタ)、和田浩明(カイロ)、飯田和郎(編集委員)、西岡省二、仙石恭(政治部)、杉尾直哉、工藤哲、隅俊之、朴鐘珠(外信部)、滝野隆浩、樋岡徹也、村上尊一(東京社会部)、鈴木英生(東京学芸部)、遠藤孝康(大阪社会部)、小松雄介(大阪写真部)
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607年ごろ 隋の煬帝が「流求国」攻略
12世紀 宋と「流求」が貿易
1372年 沖縄の明(後に清)への朝貢貿易(~19世紀)
92年 久米村(現那覇市久米)に中国人が渡来
1609年 薩摩の琉球入り 沖縄が明と薩摩藩の二重「支配」に
1879年 琉球処分 琉球王国の士族らが清に救援求める
94年 日清戦争で清が救援に来ると沖縄でうわさ
1911年 中国で辛亥革命 同年時点で一部沖縄紙は日清の元号を併記
39年 毛沢東が沖縄を「帝国主義が強奪した」と記す
45年 沖縄戦 沖縄が米軍統治に
72年 沖縄日本復帰 中国は支持
2006年ごろ 沖縄の帰属問う論文が中国で増える
※「南島の風土と歴史」(上原兼善ほか著、山川出版社)など参照
毎日新聞 2010年8月18日 東京朝刊