水説

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水説:代替医療と民主党=潮田道夫

 <sui-setsu>

 「ホメオパシー」という療法があるのを最近初めて知った。同僚の小島正美記者の解説(15日付「なるほドリ」)によれば、病気と同じような症状を起こす物質を投与し、人体の反発力=自然治癒力を引き出すものらしい。

 ここまでなら「そういうこともあるか」と思うが、話はそれで終わらない。その物質は水で繰り返し薄められる。最終的には残留物ゼロのただの水に等しいものとなる。

 ただの水なのになぜ効くかというと、水には物質を記憶する力があり、それが効果を発揮するのだという。水に記憶力があるって? ちょっとついていけない。

 山口県の助産師がこの療法の実践者で、ビタミンKを与えるべき乳児にホメオパシーの錠剤(レメディー)を与え続け、赤ちゃんがビタミンK欠乏性出血症で死亡、民事責任を問われるに至った。

 問題点はいくつもあるが、大阪大学の菊池誠サイバーメディアセンター教授が、SYNODOSというブログで、「害のないものによる害」を指摘しており、まことにその通りだと思った。

 このレメディーは、実際のところ無害なただの水に過ぎない。しかし「積極的には害をおよぼさないはずのものでも、本来必要とされる薬や治療を遠ざけるという消極的効果によって、害をおよぼしうる」ことをいま、わたしたちは目にしている、と。

 こういうのが近年、増えてきたような気がする。

 数年前、水について「ありがとう」などと美しい言葉をかけると美しく結晶し、汚い言葉だと汚い結晶になってしまうという説がはやったことがあった。その証拠と称する写真集も出た。

 それだけなら「やれやれ」で済むが、道徳教育の教材につかわれ出した。「人間も水でできているから美しい言葉を話すようにしよう」と教えるようだ。こういう授業がダメなのは自明だが「どこが悪いの?」という先生が少なくないそうだからコワイ。

 「主流派」が行き詰まるといつも「オルタナティブ(代替)」が登場する。いつからか判然としないが、オルタナティブを求める気分が続いているように思う。民主党政権の誕生もその流れだろう。

 その出自のせいだろうか、この政党はオルタナティブなものへの親和性が強い。昨年の総選挙のマニフェストでは「統合医療の確立ならびに推進」をあげた。漢方はもとよりさまざまな代替医療を「統合医療として科学的根拠を確立する」としている。

 「ホメオパシー」の扱いをどうするのか、知りたいところだ。(専門編集委員)

毎日新聞 2010年8月18日 東京朝刊

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