業界別 半年先の景気を読む
【第31回】 2010年8月16日
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川原 慎也 [船井総合研究所 シニアコンサルタント戦略 コンサルティンググループ グループマネジャー]

出版不況もどこ吹く風?
雑誌「sweet」が100万部を突破できた宝島社の秘密

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 2009年4月に書店や取次店の担当者を招待して印刷工場見学を実施。キャンペーン等で宝島社がインセンティブを出しても通常は縁のない店頭スタッフを招待しました。

 高級車ハマーのリムジンを移動に使い、印刷工場で雑誌ができるまでの工程を見学、そして編集長のトークショーなどを行い、大いに盛り上がったようです。

 さらに9月には、主に地方の書店スタッフを招待してのバスツアーを企画。雑誌のイメージでラッピングされたバスに乗って、都心の最先端スポットを回りながら編集長とも話ができるというこの企画も大好評を博します。

 「書店スタッフに雑誌を見てもらい、お客さまにおすすめしてもらいたい」という目的で開催されたこれらのイベントは、招待した方はもちろん、実際に参加していない方々にも当然口コミで広がったため、販売の増加にも確実につながっているようです。

 この話を聞きながら感じたのは、イベントに関わっている宝島社の社員の皆さんが、「招待した皆さんを楽しませたい」と心から思っていたということです。

 一見、潤沢な予算を投入しているようにも見えますが、限られた予算の中で、自分たちの思いに共感してくれる方々の協力を得ながら実現にこぎつけた、というのが実態だといいます。

 そういう本気の思いだからこそ、伝わる力が強くなるということなのでしょう。

強みを活かしつつ、新たな市場をつくる
「チャレンジを続ける風土」が鍵に

 同社は雑誌以外でも、さまざまな取り組みが成果を上げています。

 2010年の7月に「スッキリ美顔ローラー」(税込2980円)を雑誌の体裁にして書店で発売したところ、初版30万部が早々に完売し、さらに30万部の重版が決定しました。

 また、かつて「イヴ・サンローラン」で100万部を売り切ったブランドムックで、「kitson」(税込980円)を発売し、初版120万部を展開しました。

 その他、音楽CDや名作DVDなど、雑誌や書籍以外の商品を書店で販売する企画を矢継ぎ早に打ち出しており、これらの成果も非常に興味深いところです。

 アップルから「iPad」が発売され、電子書籍化の流れが進むなかで、出版業界の今後はさらに厳しいものになるという見方が主流です。しかし一方で、宝島社の取り組みをみていると、日本の出版流通ほど効率の良い流通組織はない、といった見方もできます。

 今後、大きな鍵となるのは、「強い部分をいかに活用しながら新たな市場を生み出していけるか」。おそらく、他業界のビジネスのなかでも、宝島社の取り組みから学ぶべき点が多々あるのではないでしょうか。

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川原 慎也 [船井総合研究所 シニアコンサルタント戦略 コンサルティンググループ グループマネジャー]

1998年船井総合研究所入社。中小企業を中心に展開されていた船井総研のノウハウ(現場重視で売上・利益向上を具現化)を、大手企業にも展開できるコンサルテーションへと発展させた第一人者。
クライアント企業の本質的な課題に切り込んだ上で、社員を巻き込みながら解決策を具現化していくコンサルティングスタイルは、組織変革や社風改革の必要な現場から確実に高い評価を得ており、近年はM&A後の組織再編といった業務においてもその効果を証明している。
また、企業のさまざまな問題(マーケティング、組織変革、人事、教育研修等々)に応えるために、社内のタレントを積極的に活用し、必要であれば社外の専門化との連携も実施しながら推進されるプロジェクトコンサルティグにおいても、高い顧客満足を獲得している。

川原慎也の視点
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業界別 半年先の景気を読む

不透明な経済状況が続き、半年先の景気を読むことさえ難しい日本経済。この連載では、様々な業界やテーマで活躍する船井総研の専門コンサルタントが、業界別に分析し、半年先の景況感を予測していきます。

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