2009年4月に書店や取次店の担当者を招待して印刷工場見学を実施。キャンペーン等で宝島社がインセンティブを出しても通常は縁のない店頭スタッフを招待しました。
高級車ハマーのリムジンを移動に使い、印刷工場で雑誌ができるまでの工程を見学、そして編集長のトークショーなどを行い、大いに盛り上がったようです。
さらに9月には、主に地方の書店スタッフを招待してのバスツアーを企画。雑誌のイメージでラッピングされたバスに乗って、都心の最先端スポットを回りながら編集長とも話ができるというこの企画も大好評を博します。
「書店スタッフに雑誌を見てもらい、お客さまにおすすめしてもらいたい」という目的で開催されたこれらのイベントは、招待した方はもちろん、実際に参加していない方々にも当然口コミで広がったため、販売の増加にも確実につながっているようです。
この話を聞きながら感じたのは、イベントに関わっている宝島社の社員の皆さんが、「招待した皆さんを楽しませたい」と心から思っていたということです。
一見、潤沢な予算を投入しているようにも見えますが、限られた予算の中で、自分たちの思いに共感してくれる方々の協力を得ながら実現にこぎつけた、というのが実態だといいます。
そういう本気の思いだからこそ、伝わる力が強くなるということなのでしょう。
強みを活かしつつ、新たな市場をつくる
「チャレンジを続ける風土」が鍵に
同社は雑誌以外でも、さまざまな取り組みが成果を上げています。
2010年の7月に「スッキリ美顔ローラー」(税込2980円)を雑誌の体裁にして書店で発売したところ、初版30万部が早々に完売し、さらに30万部の重版が決定しました。
また、かつて「イヴ・サンローラン」で100万部を売り切ったブランドムックで、「kitson」(税込980円)を発売し、初版120万部を展開しました。
その他、音楽CDや名作DVDなど、雑誌や書籍以外の商品を書店で販売する企画を矢継ぎ早に打ち出しており、これらの成果も非常に興味深いところです。
アップルから「iPad」が発売され、電子書籍化の流れが進むなかで、出版業界の今後はさらに厳しいものになるという見方が主流です。しかし一方で、宝島社の取り組みをみていると、日本の出版流通ほど効率の良い流通組織はない、といった見方もできます。
今後、大きな鍵となるのは、「強い部分をいかに活用しながら新たな市場を生み出していけるか」。おそらく、他業界のビジネスのなかでも、宝島社の取り組みから学ぶべき点が多々あるのではないでしょうか。