業界別 半年先の景気を読む
【第31回】 2010年8月16日
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川原 慎也 [船井総合研究所 シニアコンサルタント戦略 コンサルティンググループ グループマネジャー]

出版不況もどこ吹く風?
雑誌「sweet」が100万部を突破できた宝島社の秘密

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 これは、前例のない会議スタイルであり、「マーケティング」という言葉だけが先行して、当初は「本当に機能するのか」すら危ぶまれた状況でした。しかし、その心配をよそに会議は順調に行われ、次第に“一番誌戦略”を各部門共通の目標として認識できるようになっていきました。

 やはり、編集は「人気のページをどれだけ作っていけるか」を重要視していますし、広告は「広告売上を増やしたい」、営業は「実売率を高めるためのアクションに注力したい」といったように、どうしても部門ごとに「目標のズレ」があります。

 出版社に限らず、必ず存在する部門間の「対立」。放置すれば、営業は「自分たちは精一杯頑張っているが、雑誌そのものが面白くなければ売れないよ」と言うでしょうし、編集は「雑誌自体は競合と比べても大きく劣っている訳ではないから、営業の力が不足しているのでは」と他部門への不満を言うようになります。

 それに対して宝島社は、社長も出席する「マーケティング会議」という場をつくって、放っておくとどうしてもズレてしまう目標を、“一番誌戦略”という共通の目標に集中させました。

 また、具体的なアクションとして、広告営業に編集が同行して、ともに広告営業に取り組むといった方策を実行するなどしていきました。こうした議論の中で「必要だ」と合意したものを次々に行っていく雰囲気は、社長の決断力によって後押しされ、それが売上回復への重要な要因になったと考えられます。

「付録は本物志向」「ターゲットは絞らない」…
“本当に実行に移す風土”から湧き出るアイディア

 今でこそ多くの雑誌に取り入れられている「上段12センチメートルの法則」。コンビニエンスストア等の本棚では表紙の上部しか見えていないことから、表紙を飾るモデル、雑誌の価格、付録等の大切な情報は、たとえ雑誌名が隠れてしまおうとも「上段12センチメートル」でしっかりと訴求することを意味しています。

 また、従来の業界常識からはなかなか出てこないと思われる「値下げ」。業界としては、原価を積み上げ、必要な利益を上乗せすることが常識であり、結果として販売部数が出ない方が価格は高くなるのが当然だと思われていました。

 創刊時に980円だった同社の「InRed」。当時、約12万部売れていたのですが、一番誌ではないことから広告営業は苦戦していました。そこで、マーケティング会議で、一番誌になるために価格引下げが決定。2007年9月号で700円を切る価格まで下げて勝負したところ、一気に部数は3倍になり、さらに現在では70万部を発行する雑誌にまで成長しました。

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川原 慎也 [船井総合研究所 シニアコンサルタント戦略 コンサルティンググループ グループマネジャー]

1998年船井総合研究所入社。中小企業を中心に展開されていた船井総研のノウハウ(現場重視で売上・利益向上を具現化)を、大手企業にも展開できるコンサルテーションへと発展させた第一人者。
クライアント企業の本質的な課題に切り込んだ上で、社員を巻き込みながら解決策を具現化していくコンサルティングスタイルは、組織変革や社風改革の必要な現場から確実に高い評価を得ており、近年はM&A後の組織再編といった業務においてもその効果を証明している。
また、企業のさまざまな問題(マーケティング、組織変革、人事、教育研修等々)に応えるために、社内のタレントを積極的に活用し、必要であれば社外の専門化との連携も実施しながら推進されるプロジェクトコンサルティグにおいても、高い顧客満足を獲得している。

川原慎也の視点
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不透明な経済状況が続き、半年先の景気を読むことさえ難しい日本経済。この連載では、様々な業界やテーマで活躍する船井総研の専門コンサルタントが、業界別に分析し、半年先の景況感を予測していきます。

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