岸博幸のクリエイティブ国富論
【第75回】 2010年2月5日
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岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

待つのは音楽産業以上の悲惨な未来か?
出版業界を駆け巡る電子ブック狂騒の罠

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 そして、その場合には日本の活字文化も衰退しかねないことに留意すべきです。出版社は活字文化という重要な文化の担い手です。活字文化というと権利者である作者ばかりがクローズアップされがちですが、出版社の果たして来た役割(編集者の貢献、流通独占から得た利益のコンテンツ制作への還元など)を軽視すべきではありません。

 そうした出版社が担ってきた役割を誰が代わりに果たせるのかも不明な中で、出版業界の崩壊を“旧産業の宿命”のようなステレオタイプな議論で片付けてはいけないのではないでしょうか。

 Tシャツとかジーンズなら、価格低下が進んで国内生産が困難になっても中国などが生産を代替すれば問題ありません。でも、自国の文化を他国に代替してもらうことは不可能です。

 だからこそ出版社は、電子出版の普及という環境変化の中でも生き残らないといけないのであり、そのためには、正しいアプローチで電子出版に向き合うことが不可欠です。音楽産業とネットの関わりなどの前例から、何が正しいかは実は明らかなので、既得権益に拘泥せず正しい対応をしてくれることを期待したいものです。

 一方で、これだけコンテンツのネット流通が増える中で、私たちユーザの側も認識を改める時期に来ているのではないでしょうか。デフレ下でモノの価格が下がるのは嬉しいものですが、それが社会的に許容できるのは、労働コストが安い他国で生産が可能なものだけです。自国の文化やジャーナリズムといった他国で代替し得ないものにまでデフレが及ぶと、結果的には社会的コストが増大するのであり、電子出版を利用する際もそうした意識を頭の片隅に持つことが大事ではないでしょうか。

 今回説明した内容については、先週出版された拙著「ネット帝国主義と日本の敗北」(幻冬舎新書)により詳しく書いていますので、ご関心ある方は是非お読みいただければと思います。

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Information

岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス非常勤取締役を兼任。


岸博幸のクリエイティブ国富論

メディアや文化などソフトパワーを総称する「クリエイティブ産業」なる新概念が注目を集めている。その正しい捉え方と実践法を経済政策の論客が説く。

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