岸博幸のクリエイティブ国富論
【第75回】 2010年2月5日
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岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

待つのは音楽産業以上の悲惨な未来か?
出版業界を駆け巡る電子ブック狂騒の罠

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 出版業界のみならず、マスメディア全体が継続的な収益悪化に見舞われています。ネット普及の必然的結果、古い産業の宿命などと抽象的・情緒的に説明されることが多いのですが、その本質的な原因は、コンテンツの流通独占をネット企業に奪われたからに他なりません。

 マスメディアは、基本的にコンテンツの制作から流通までを自社(及び関係の深い企業)が担うという垂直統合型のビジネスモデルを採っています。その下で紙や電波といった媒体別に少数の企業がコンテンツ流通を独占してきたので、独占がもたらす超過利潤を享受することができました。良いコンテンツを作ることもさることながら、流通独占がマスメディアの利益の源泉だったのです。

 ところが、今やユーザのコンテンツ消費の中心は紙や電波からネットへとシフトしました。そして、ネット上でコンテンツ流通の中核はネット企業です。即ち、コンテンツの流通独占がマスメディアからネット企業へとシフトしてしまったのです。だからこそ、マスメディアの収益悪化と反比例してネット企業の利益は増加しているのです。

 そう考えると、電子出版が普及しても、出版業界の苦境は変わらないだろうと予測せざるを得ません。電子出版でのコンテンツ流通はアマゾンなどのネット企業が独占しており、状況は何も変わらないからです。価格や収益配分の決定権は基本的にネット企業の側にあり、広告展開に不可欠な購入者データ(雑誌ビジネスでは最重要)もネット企業に帰属するのです。ネットか紙・電波かといった媒体に関係なく、コンテンツ関連のビジネスでは流通を牛耳る者が勝つのです。

 出版社のネット上でのビジネス展開はこれまで十分ではなかったので、電子出版を活用することで出版社はある程度の追加収入を得られます。しかし、音楽や新聞といった産業の経験から証明されているように、ネットからの収入増はアナログの収入源を補えるレベルには到底ならないでしょう。

出版社の衰退=活字文化の衰退

 もちろん、電子出版の普及はユーザに様々なメリットをもたらしますので、出版社は電子出版を避けるべきなどと言うつもりは毛頭ありません。ただ、出版社が自らの将来的なビジネスモデルについて明確な方向性と戦略を持たずに電子出版に巻き込まれてしまうと、出版業界は音楽産業以上に悲惨な運命を辿ることにもなりかねません。

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Information

岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス非常勤取締役を兼任。


岸博幸のクリエイティブ国富論

メディアや文化などソフトパワーを総称する「クリエイティブ産業」なる新概念が注目を集めている。その正しい捉え方と実践法を経済政策の論客が説く。

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