きょうの社説 2010年8月18日

◎新幹線輸出へ国際局 国内整備が何よりの広告塔
 環境や安全の面で優れた性能を誇る新幹線などの輸出に取り組む態勢を強化するため、 国土交通省が「国際局」を新設する方針を固めた。近年、高速鉄道のような大型プロジェクトの国際受注競争は、「企業対企業」ではなく「国対国の総力戦」の様相を呈しており、インフラ輸出の推進に官が主体的にかかわる姿勢を内外に示す意味でも結構なことである。

 ただ、整備新幹線の未着工区間を抱えている北陸には、国交省の今回の組織改革案を肯 定的に評価しながらも、一方で素朴な違和感も覚えているという向きが少なからずいるのではないか。「そこまでして新幹線の海外セールスに力を入れるのに、なぜ国内では整備がなかなか進まないのか」。北海道や九州にも、同じ思いの住民がいるだろう。

 未着工区間をめぐっては、当初は夏までに新規着工の是非などについての結論が出るこ とになっていた。ところが、既にその区切りの時期が終わりに近づいているにもかかわらず、国交、財務、総務の3省政務官による整備新幹線問題調整会議では、まだはっきりとした方向性が出ていない。要であるはずの財源に関する突っ込んだ話し合いも、ほとんど行われていないように映るのは、残念と言うしかない。

 幸い、整備新幹線の既着工区間の工事などはおおむね順調に進んでおり、今年12月に はまず東北の八戸−新青森、続いて来年3月には九州・鹿児島ルートの博多−新八代がいよいよ開業の日を迎える予定である。北陸の長野−金沢も2014年度末の開業に向けて前進している。これらの区間が完成し、沿線に期待通りの経済効果がもたらされれば、海外に向けての何よりのデモンストレーションになるに違いない。

 「日本は国内でも積極的に新幹線整備を推進している」。高速鉄道構想を持つ国に対し 、こんなセールストークを官民が一体となって展開し、受注競争に勝ち抜くためにも、一定以上の効果が見込める未着工区間については、前向きな結論をできる限り早く示してもらいたい。

◎尖閣諸島と日米安保 同盟強化の必要浮き彫り
 中国の軍事動向に関する米国防総省の今年の年次報告書は、中国海軍の遠洋進出に強い 懸念と警戒を示している。台湾海峡、東シナ海から西太平洋へと活動範囲の拡大をめざす中国海軍は「東アジアの軍事バランスを変える主要因」という同報告書の内容は、日米同盟による抑止力を維持、強化する必要性をあらためて浮かび上がらせている。

 日米同盟の実効性を推し量る上で象徴的な意味合いを持ち、その試金石ともなるのは、 日中両政府が領有権を争う東シナ海の尖閣諸島であろう。尖閣諸島は日本の施政権下にあり、有事の際は米軍が防衛義務を負う日米安保条約の対象であるというのが日米両政府の共通認識であり、それをゆるがせにしてはならない。

 オバマ米政権は、中国に配慮して、尖閣諸島が日米安保条約の適用対象であることを対 外的に明言しない方針とも伝えられるが、そうしたあいまいさは、誤ったシグナルを中国側に送ることになりかねない。有事の尖閣諸島には日米安保条約が発動されることを内外に明示しておく必要ある。そのことが対中抑止力になる。

 ただ、米政府は日中の領有権争いには一歩距離を置き、直接関与しない姿勢である。こ のことについて、鳩山由紀夫前首相は5月の全国知事会議で「(尖閣諸島の)帰属問題は日中間で議論して結論を見いだしてもらいたいということだと理解している」と述べた。領有権問題に対する米側の立場を説明したものであったにせよ、首相の発言としてまことに不用意であったと言わざるを得ない。

 尖閣諸島は日本固有の領土であり、日中間に領土問題はない、という日本側の一貫した 主張を首相自ら曲げ、その帰属は日中の話し合いで決める問題であるような印象を与えたからである。

 米国防総省の報告書は、中国の国産空母建造が近いことを明記している。海洋覇権をめ ぐる緊張はさらに高まるとみられるが、その渦中にある尖閣諸島の領有権について間違ったメッセージが伝わることがないよう、日米両政府は心してもらいたい。