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2010年8月18日(水)付

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温暖化対策―受け身脱し自前の戦略を

地球規模の気候変動を実感させられる夏である。中国やパキスタンでは大雨や洪水、土石流の被害が繰り返された。東欧からロシアは熱波の夏になり、ロシアでは異常乾燥が森林火災を広げた。日本も猛烈な暑さ[記事全文]

未来の教室―情報化で学びが変わる

202X年、ある小学校の教室。――先生が電子黒板に触れるたび、モニターの音声つき動画が次々切り替わる。子供の机にあるのはかさばる教科書でなく、iPadのような、あるいは[記事全文]

温暖化対策―受け身脱し自前の戦略を

 地球規模の気候変動を実感させられる夏である。中国やパキスタンでは大雨や洪水、土石流の被害が繰り返された。東欧からロシアは熱波の夏になり、ロシアでは異常乾燥が森林火災を広げた。日本も猛烈な暑さだ。南米は酷寒の冬となっている。

 地球温暖化の進行はこうした異常な気象、気候のブレを頻発させる。「30年後、50年後の気候はどうなっているのか」という危機感をもって、世界の温暖化対策を進めたい。

 しかし、温暖化をめぐる国際交渉は停滞の季節に入った。

 米国民主党は7月、温室効果ガスの排出量取引法案の上院での審議を共和党の反対で断念した。「2020年までに05年比で17%削減、50年までに80%削減する」という内容で、国際交渉を後押しすると期待されていた。

 コペンハーゲンで昨年末開かれた気候変動枠組み条約の締約国会議(COP15)では、世界の首脳が集まりながらも、13年以降の国際規制の枠組みを決めることに失敗した。残念ながら、この次期枠組みづくりには時間をかけざるを得ない状況だ。

 日本はどうするか。お付き合いの足踏みではなく、遅れている国内対策を充実させたいところだ。

 政府は「20年までに90年比で25%削減、50年までに80%削減をめざす」と内外に表明したが、削減の時代を担う大きな仕組みがない。

 世界を見渡せば、「国内の排出量取引」「環境税」「自然エネルギーの大増加策」が削減の柱だ。日本では自然エネルギーの電気を買い取る制度ができつつあるが、他の二つはない。

 政府は温暖化対策基本法を早く成立させ、本格的な対策に入るべきだ。「ねじれ国会」とはいえ、温暖化には野党の協力は得やすいだろう。

 そのうえで「25%削減」について、「真水」と呼ばれる国内での純粋な削減を何%にするかの現実的な議論を進めたい。排出量取引では、経済界と議論し、エネルギー多消費産業などへ配慮した設計が欠かせない。

 01年に米国が京都議定書を離脱したあと、温暖化交渉は停滞した。浮き沈みはあっても前進が止まることはないという認識が必要だ。

 米国、欧州連合、中国などは自前の方針や政策を決め、国際交渉で反映させようとする。

 日本も受け身ではいけない。次期枠組みの内容を積極的に提案していくためにも、国内対策の整備が急務だ。

 温暖化対策は負担だ、という考えが経済界や個人の間にも根強い。だが日本は巨額の費用を化石燃料の輸入にあてている。温暖化対策をてこに、エネルギー自給率の向上と雇用、経済成長に結びつける戦略をもつことで、こうした考えを乗りこえたい。

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未来の教室―情報化で学びが変わる

 202X年、ある小学校の教室。

 ――先生が電子黒板に触れるたび、モニターの音声つき動画が次々切り替わる。子供の机にあるのはかさばる教科書でなく、iPadのような、あるいはもっと薄型の情報端末だろうか。校内には無線LANが張り巡らされている。ネットで調べ、タッチペンで書き込む。先生が「A君の解き方を見てみよう」と映し出す――。

 ICT(情報通信技術)化という大波が、学校現場に押し寄せようとしている。

 小中高校に配備されたコンピューターは現在、子供6.4人当たり1台。政府はそれを2020年度までに1人1台にする目標を打ちたてた。総務省、文部科学省それぞれの実証研究が、各地のモデル校で始まる。

 デジタル教材・教科書の研究開発も急ピッチだ。先月末には、情報通信や教育関連企業による協議会が発足。ソフトバンクの孫正義社長は「通信代はタダ。我々も応援します」とぶちあげた。市場は大きく、いろんな思惑が超高速で駆けめぐっている。

 大切なことを忘れてはならない。ICT化によって子供たちの「学び」がどう変わるか、ということだ。

 東京都日野市教委は早くから態勢を整え、パソコンのグループウエアソフトを使った授業に取り組んできた。たとえば班ごとに理科実験の様子をデジカメで撮り、載せる。すると他の班の子が「うちの班はこうだよ」と意見を書き込む。「へえ、そうかあ」とヒントをもらった子がまた考える。

 ネットワークでつながった子同士が互いに学び合い、高め合う。遠くの学校との共同授業もできる。そんな可能性を広げるツールになると、同市立平山小の五十嵐俊子校長は強調する。

 教える内容をわかりやすく示せるのはもちろんだ。一人一人の学習の履歴を把握でき、それに応じて指導もきめ細かくできる。新しい学びのカタチをしっかり描きつつ、コンテンツやハードの整備を進めるべきだろう。

 じゃあ、コンピューターが子供に教えてくれるのか。そもそも教師なんか要らなくなるのか。「紙とエンピツ」世代からは懸念も聞こえてくる。

 そんなことはない。ネットの向こうの膨大な「知」から必要な情報を探し出し、編集し、どう発信するか。ネットは現実をどんな風に映し、五感で感じる現実とどう違うのか。情報とのつきあい方、使いこなし方を身につけさせるのは、やはり先生の仕事だ。

 何より、ネットで限りなく世界が広がるとしても、顔をつきあわせ、言葉を交わすコミュニケーションこそ、生きる力を養うのには欠かせない。

 ICT化が進むほど、リアル教師の役割は大事になる。教員養成課程や研修でのサポートも必要だろう。

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