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FINA(国際水泳連盟)が高速水着を規制してから8か月。今年初の大規模な国際大会・パンパシフィック選手権が18日(日本時間19日)、米カリフォルニア州アーバインで開幕する。2年前、ゴム素材“タコヤキラバー”で話題を集めた山本化学工業(本社・大阪市)は新たな織物素材を開発。同社・山本富造社長(51)は日本製の高性能水着で、日本人が五輪メダルを獲得する目標を語った。
あれだけ新記録が打ち立てられた昨年までの熱気がうそのようだ。1月1日から高速水着を規制する新ルールが適用。パンパシ選手権を前に、記録への沈滞ムードさえ漂う中、山本化学が再び新素材を手に立ち上がった。
2年前の騒動が、まだ印象に残る。北京五輪を目前に控え、英スピード社の高速水着「レーザー・レーサー」が快記録を連発。現場サイドの要求に押し切られる形で、日本水連は契約を結ぶ国内3社(ミズノ、アシックス、デサント)以外の着用を認めるざるを得ない事態となった。そんな中、山本化学は「タコヤキラバー」で性能実験を行った上で、国内メーカーに素材の無償提供を呼び掛けた。「結局、どこも使ってくれなかった」と山本社長は嘆くが、水着騒動に一石を投じた。
昨年の世界選手権(ローマ)では、同社が素材提供したイタリア・アリーナ社の水着で世界新が次々に誕生した。それが一転、本業のラバーが競泳界から排除された。「昨年、ネットで『山本化学が水着撤退へ』って書いてあるのを見ましたが、やめる気は全くないですわ」と山本社長は言い切る。今回、新ルールに合わせた素材を投入。ポリエステルを使った表面素材の売りは「親水機能」。水分子膜を形成し、水の抵抗を減らすのが特徴だ。
実は、07年1月から手がけた素材だった。トライアスロンのウエットスーツ用ラバー素材で約90%のシェアを誇る同社。当時は競泳水着へのラバー使用が認められてなかったため、ポリエステルの研究を重ねていたのだ。
大手メーカーの撥水機能とは一線を画した構造。競泳水着メーカーのマテュース・ジャパン(本社・大阪市)が、山本化学の新素材で水着を製作した。マ社は数百万円の加盟料を払い、日本水連のサポートサプライヤーとなった。だが残念ながら、選手にアピールする機会が限られたこともあり、今大会の日本代表49人で、マ社の水着を着る選手はゼロと見られている。今後、新素材はイタリア、米国などの水着メーカーに提供する予定だ。
山本社長の思いは衰えない。「(オフィシャルの)3社は長い間、スポンサーされてきてるし、否定はしない。でも、新しい風を入れないと日本の進化はない。これからは五輪で、メード・イン・ジャパンの水着を着た日本選手を勝たせてあげたい」。来年にかけて、部位によって圧力が変わる水着、さらにボディーバランスを良くする練習用水着を販売する。「これからは人の力を引き出すことも考えたい」。視線の先は高速水着の開発だけじゃない。日本競泳界の将来も見つめている。
◆水着の新ルール 今年1月1日から適用。素材はラバーなどが禁止され、水を通す織物のみ。表面の加工は禁止され、必要以上な浮力を避けるために、素材の厚さ(0・8ミリまで)など細かく定められている。レーザー・レーサーを代表とする頭部以外の全身を覆うことができた形状は、男子は腰からひざ上、女子は首からひざ上までに。ファスナーなどの締めつける構造も使用不可。FINAに承認された水着は、腰付近に白いラベルが張られている。
(2010年8月17日10時59分 スポーツ報知)