スクウェア・エニックス
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写真1●スクウェア・エニックス 情報システム部次世代技術研究グループの柴田伸一シニアシステムアーキテクト |
ゲーム開発では,「多くのメンバーが意見をやりとりして,新しいアイデアを生み出すプロセスが重要になる」(スクウェア・エニックス 情報システム部次世代技術研究グループの柴田伸一シニアシステムアーキテクト,写真1)。そこで同社は,メンバーが自分の席にさえいればほぼリアルタイムにメッセージを交換できるIMをコミュニケーション・ツールの中心に据え,ミーティングでメンバー全員のスケジュールを拘束するといった時間の無駄を省くことを考えた。
そのための基盤として,米マイクロソフトが2007年11月に発売したユニファイド・コミュニケーション・プラットフォーム「Office Communications Server 2007」(OCS)を導入。通信可能な相手リストなどを社内のセキュリティ・ポリシーに沿った形で管理しながらIMを使えるようにした。
今回のシステム刷新は同社にとって「ほぼまっさらの状態から,新しいシステムをもう一つ作り上げたのに等しい」(柴田氏)というほど大規模なものだった。システム部門は,新システム導入に備えて2006年12月に「次期社内情報システム構築プロジェクト」を発足。プロジェクト内で,当時ベータ版だったOCSを使って検証を行い,約1年かけて次期システムを設計した。
社内の一般ユーザーを対象に新システムの稼働を始めたのは4月から。5月上旬までは,既存システムと並行で運用しながら,順次新しいシステムに切り替える予定だ。
今回のシステム刷新の目的は三つ。(1)サーバーの運用性向上,(2)ネットワークの安定的な運用環境の確保,(3)ユーザー環境の統一──である。
(1)のサーバーの運用性は,既存のUNIX系サーバーでの運用体制に限界が出てきたことが背景にあった。もともと同社にはソフトウエア開発のエンジニアが多く在籍することから,メール・サーバーは「qmail」,DNSサーバーは「bind」といったようにオープンソース系のソフトを採用し,運用してきた。だが,この体制は「カスタマイズに精通した管理者が異動などでいなくなると,そのサーバーに施された設定や,運用スキルが継承できない」(柴田氏)という問題があった。
そこで,OCSをはじめとするマイクロソフトのOffice製品群を採用することにした(図1)。メーカーによるサポートを期待でき,さらに様々なサーバー・アプリケーションを相互に連携できる点を評価した。個人のスキルに頼らずに,安定したサーバーの運用や管理を期待できる。
図1●スクウェア・エニックスのネットワーク概要 マイクロソフトのOCSを導入して約2000名の社員のプレゼンス情報を管理し,コミュニケーションを円滑化。クライアント・ソフトの管理体制を整備した。 [画像のクリックで拡大表示] |
(2)のネットワークの運用環境は,他の拠点を本社に収容する構成を変更し,データ・センターにすべての拠点がつながる構成に変更した。
従来,ほとんどの社内サーバーは,本社が入居する新宿のオフィスビルの一画に設置されていた。しかし,ユーザーに不便を強いることが多くなってきた。サーバーの台数が増加するのに伴って電源容量が不足したり,ビルの法定点検で電源が停止したりするなどで,サーバーが使えない日があったからだ。そこで新システムでは,通信事業者が管理するデータ・センターにサーバー群を設置し,24時間365日安定してサーバーを運用できる環境を確保した。
データ・センターと拠点を結ぶネットワーク・インフラは,イーサネット専用線とインターネットVPNを併用する。国内には,新宿の本社および周辺に分散する二つのオフィスと大阪支社の合計4拠点がある。これらの拠点はデータ・センターのサーバー群と同一セグメントにできるようにイーサネット専用線を採用した。「イーサネット専用線の帯域は各拠点の社員数ごとに十分な帯域を用意している。サーバーとの通信で遅延が生じることはない」(柴田氏)という。
一方,海外拠点や関連会社はインターネットVPN経由でサーバーに接続。SSL-VPN専用装置を対向で設置することで通信路を暗号化する。ただし,ユーザーがインターネット経由でデータ・センターのサーバーへアクセスする場合には,一度,DMZに設置したサーバーに接続させる。これをリバース・プロキシとして使うことで,内部セグメントのセキュリティを確保した。
(3)のクライアント環境の統一は,今回のシステム刷新の最大の焦点となった。同社のユーザーはこれまで,社内で使うクライアント・ソフトを比較的自由に選ぶことができた。
例えば,メール・ソフトは,POP(post office protocol)による受信が可能であれば自分の好きなソフトを利用できた。IMソフトは,「社内では正式には許可していないが,取り締まりきれない状態になっていた」(柴田氏)という。Internet Exproler(IE)以外のWebブラウザにも特に利用制限は設けていなかった。
これに対して新システムでは,クライアント・ソフトをOffice系アプリケーションで統一。メールやスケジューラは「Outlook」,IMは「Office Communicator」と「LiveMeeting」,ブラウザもIEを標準とした。
「マイクロソフト製品を導入する決め手になったのは,メールやIMなどの各クライアント・ソフトの連携がしやすかったこと」(柴田氏)だという。新システムに導入したこれらのツールは,シングル・サインオンで,ユーザーのプレゼンス情報をOCSに登録する。すると,メールでもIMでも,それぞれのアプリケーションからプレゼンス情報を参照できる。ここで適切なメッセージの伝達手段の選択や,相手のスケジュール確認まで可能になる(図2,図3)。
図2●メール・ソフトから相手のスケジュールを確認したりメール以外の手段を選択できる 社内のメール・クライアント・ソフトをマイクロソフトの「Outlook 2007」に統一した。受信メールの画面からOffice Communicatorのメッセージング機能を呼び出したり,Exchangeに登録された相手のスケジュールなどを確認できるようにした。 [画像のクリックで拡大表示] |
図3●Office Communicatorで社員の所在や予定を確認 インスタント・メッセンジャーとグループウエアとの連携を可能にした。一方で,社外とのメッセージのやり取りを禁止するなど利用ルールを統一した。 |
例えば,ミーティングのスケジュール調整など複数のユーザーに返信を要求する内容のメールが送られてきた場合に効果を発揮する。メールを受信したユーザーは,Outlookの画面上で相手のスケジュール情報をポップアップさせ,相手が在席中ならIMで簡単に返事し,数時間後に戻ってくるようならメールで返事を出す,といった返信方法の選択が容易にできる。
【訂正履歴】
記事公開時は,「新システム導入に備えて2007年3月に「次期社内情報システム構築プロジェクト」を発足」とありましたが期日が誤っていました。正しくは2006年12月です。お詫びして訂正させていただきます。本文は修正済みです。
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