イオンやイトーヨーカ堂に価格決定力を奪われつつある
築地市場の取扱量が減少しジリ貧になると、そのほかの問題も浮上してくる。
コマの価値である。築地市場の売り場は1600カ所にコマ割りされており、そのコマ割りに沿って中卸が店舗を構えている。1コマの間口は1.8メートル(奥行き3.6メートル)。2コマ使っている店舗が多い。中には5コマ、10コマを有する大店もある。浅草寺につづく仲見世を想像してもらうとわかりやすいかもしれない。
このコマの権利は、相撲の親方株のように相場で売買される。バブルのときには1コマ1億円にもなったそうだ。しかしいまは、1コマ500〜700万円くらいにまで相場が下がっている。2コマ持っていても1200〜1400万円程度だ。築地市場自体がジリ貧になれば相場も下がる。これでは、権利を売ろうとしても、担保価値が薄く、あまり金にならない。築地市場自体が不景気なのだ。
築地市場は日本最大規模の市場で「首都圏の台所」と言われてきた。築地のセリの値段をもとにマグロの値段が決まる。価格決定力を持っているわけだ。我々がスーパーで買うマグロの切り身や刺し身、あるいは料亭のマグロ料理や寿司屋のマグロの金額は築地が基準なっている。築地市場のこうした力の源泉は、日本一の取引量を維持してきたことにある。ところが、いまやイオンやイトーヨーカドーなどの大手小売店が産地と直接取引をし、バイイングパワーが移りつつある。このため、築地市場の価格決定力が低下し始めているのだ。
薄型テレビの値段にたとえよう。薄型テレビの実売価格は「ヤマダ電機」がいくらで売るかに大きく左右される。それは、ヤマダ電機の売上げが業界第1位だからだ。当然、メーカーとの取引量も多い。ヤマダ電機が扱ってくれなければ、そのメーカーの商品の売上げが落ちてしまう。そこで発言力が増し価格決定力が高まる。
イトーヨーカドーもイオンも、ヤマダ電機と同じだ。多くの店舗を持っているので、取引量が多い。彼らが、卸・仲卸を経由せず産地から直接購入すれば、そこに価格決定力が発生する。築地が持っていた価格決定力が、イトーヨーカドーやイオンに奪われつつある。
もちろん消費者から見れば、イオンやイトーヨーカドーが価格を決めても問題はない。お寿司屋さんも、イオンに行ってネタを買えばいい。あるいは、生産地と直接契約して買えばいい。
そうなれば、実際にそうなりつつあるのだが、築地市場の価値は下がり、ジリ貧に拍車がかかるだろう。
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