2010年08月17日

長の解職請求(リコール)と是正の勧告


いよいよ阿久根市長のリコールが始まりました。地方自治法の直接請求のひとつであるリコール(解職請求)。記事を素材にポイントを確認していきましょう。

↓朝日新聞より引用 (2010年8月16日)
阿久根市長のリコール手続き始まる 解職の署名集めへ

議会を開かないまま市長が専決処分を繰り返すなどしている鹿児島県阿久根市で、竹原信一市長の解職(リコール)を求め、市民の男性が16日、市選挙管理委員会事務局にリコールの最初の手続きを届け出た。運動の中核となる市民団体「阿久根市長リコール委員会」は、18日に本格的に署名集めを始めたい考えだ。

 解職請求者を代表して、リコール委の委員長を務める市内の自営業、川原慎一さん(42)が16日午前9時すぎ、市選管事務局に出向き、解職請求代表者の証明書の交付を申請した。川原さんが有資格者かどうかを検討する選挙管理委員会(4人)は17日に招集し、署名集めに必要な証明書を交付する。

 署名集めは、証明書の交付が告示された翌日から1カ月間、市内一円で続けられる。その間に有権者の3分の1(約6700人)以上の署名を集めることが必要だ。署名が規定数に達すれば署名簿公開の後、リコール委側の本請求を受けて解職を問う住民投票がある。投票者の過半数が賛成すれば竹原市長は失職し、出直し選挙になる。

 竹原市長は2008年に「官民格差の是正」を公約に初当選し、議会から不信任決議案を受けて09年4月に失職したが、出直し市長選で再選を果たした。その後、庁舎内に張らせた人件費総額の紙をはがした職員を懲戒免職(今月復職)に。今年3月からは議会への出席を拒否し、職員のボーナスカットなどの専決処分を繰り返した。議会を開かず専決処分を重ねたことを受けて、7月には伊藤祐一郎・同県知事から、地方自治法に基づく是正勧告を2度受けている。

 さらに竹原市長は同月末、警察の裏金問題を告発した元愛媛県警巡査部長の仙波敏郎氏を副市長にする人事についても、専決処分した。

■ ポイント@ ■ 必要な署名数 
署名集めは、証明書の交付が告示された翌日から1カ月間、市内一円で続けられる。その間に有権者の3分の1(約6700人)以上の署名を集めることが必要だ。
記事にあるように、有権者の3分の1以上の署名が必要です。そして大都市の場合は要件が緩和されています。余裕のある方はこちらも確認しておきましょう。
【名古屋市議会の解散請求の記事】

参考条文、地方自治法
【第81条】 1項
選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一(その総数が四十万を超える場合にあつては、その超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の請求をすることができる。
(2項以下、省略)

■ ポイントA ■ どこにリコールを請求するか?
選挙管理委員会にリコールを請求します。この後、選挙人の投票に付されるので、選挙管理委員会なのだ!と覚えておきましょう。

参考条文、地方自治法
【第81条】 1項
選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一(その総数が四十万を超える場合にあつては、その超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の請求をすることができる。
(2項以下、省略)

■ 確認問題 ■
普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する者は、その総数の三分の一(その総数が四十万を超える場合にあつては、その超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の長に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の請求をすることができる。


× 間違い。長ではなく、選挙管理委員会が正しい(地方自治法81条1項)。

→ 直接請求は行政書士試験受験生なら必ず押さえておきたいところです。署名数、請求先など手続きを確認しておきましょう。

■ 補足@ ■
竹原市長は2008年に「官民格差の是正」を公約に初当選し、議会から不信任決議案を受けて09年4月に失職したが、出直し市長選で再選を果たした。
就任してから1年以内のリコールはできません。前回の出直し市長選からようやく1年以上が経って、今回のリコールに至りました。
→そりゃそうです。選挙からすぐのリコールでは、腰を据えて市政に取り組むことができません。また、選んだ住民にも責任があるでしょう。だから、1年以内のリコールはダメ。

参考条文、地方自治法
【第84条】  第八十条第一項又は第八十一条第一項の規定による普通地方公共団体の議会の議員又は長の解職の請求は、その就職の日から一年間及び第八十条第三項又は第八十一条第二項の規定による解職の投票の日から一年間は、これをすることができない。ただし、公職選挙法第百条第六項 の規定により当選人と定められ普通地方公共団体の議会の議員又は長となつた者に対する解職の請求は、その就職の日から一年以内においても、これをすることができる。
(ただし書の公職選挙法100条6項の場合とは、無投票当選を指します。)

■ 補足A ■
その後、庁舎内に張らせた人件費総額の紙をはがした職員を懲戒免職(今月復職)に。
→ この裁判については、こちらの記事を参考に。押さえるべき点は、行政事件訴訟法30条です。【裁量処分の取消し、取消訴訟、行政事件訴訟法】

■ 補足B ■
今年3月からは議会への出席を拒否し、職員のボーナスカットなどの専決処分を繰り返した。
長の専決処分について。179条と180条の2つのパターンがありました。覚えていますか?
【長の専決処分】

意外に間違えやすいのは、179条の場合は、議会への報告と承認が必要(179条3項)。それに対して、180条の場合は議会への報告だけでよい(180条2項)。この場合は議会による委任なので、「報告だけでよく、承認は必要ない」と理解しておけば十分でしょう。

参考条文、地方自治法
【第179条】  普通地方公共団体の議会が成立しないとき、第百十三条ただし書の場合においてなお会議を開くことができないとき、普通地方公共団体の長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき、又は議会において議決すべき事件を議決しないときは、当該普通地方公共団体の長は、その議決すべき事件を処分することができる。
○2  議会の決定すべき事件に関しては、前項の例による。
○3  前二項の規定による処置については、普通地方公共団体の長は、次の会議においてこれを議会に報告し、その承認を求めなければならない。

【第180条】  普通地方公共団体の議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、普通地方公共団体の長において、これを専決処分にすることができる。
○2  前項の規定により専決処分をしたときは、普通地方公共団体の長は、これを議会に報告しなければならない。

■ 補足C ■ 県知事による是正の勧告(地方自治法245条の6)
7月には伊藤祐一郎・同県知事から、地方自治法に基づく是正勧告を2度受けている。
これは、地方自治法245条の6の是正の勧告です。是正勧告は法的効果のない単なるお願いなので、竹原市長の「あっかんべー」でおしまいです(245条の6の場合は自治事務が対象なので、原則として踏み込んだ指示などはできません)。記事にもあるように、実際に2度の是正勧告が出されています。次の記事も参考にして下さい。

↓朝日新聞より引用(2010年4月2日)
阿久根市の混乱、知事は静観「是正勧告するつもりない」

鹿児島県の伊藤祐一郎知事は2日の定例記者会見で、報道陣が傍聴席にいることを理由に市議会への出席拒否をした阿久根市の竹原信一市長について「(県として)是正勧告をするつもりはない。勧告には法的効果がなく、阿久根のケースでは力にならない」と話し、静観する姿勢を示した。阿久根市の混乱については「異常な事態だ」とした。

 竹原市長の議会ボイコットを巡っては、渡辺周総務副大臣が「法令違反や明らかに公益を害している場合は、県知事が是正勧告を行うべきだ」と発言していた。

 伊藤知事は「市の内部の問題に使えるものではなく、是正勧告の対象にはならない」と述べた。地方自治法では、市町村の事務処理の違法行為に都道府県知事が是正勧告を出せるよう規定している。

参考条文、地方自治法
(是正の勧告)
【第245条の6】 次の各号に掲げる都道府県の執行機関は、市町村の当該各号に定める自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該市町村に対し、当該自治事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを勧告することができる
一  都道府県知事 市町村長その他の市町村の執行機関(教育委員会及び選挙管理委員会を除く。)の担任する自治事務
二  都道府県教育委員会 市町村教育委員会の担任する自治事務
三  都道府県選挙管理委員会 市町村選挙管理委員会の担任する自治事務


ここで実際の是正勧告の書面を見てみましょう。住基ネットをめぐり、石原慎太郎東京都知事から国立市に出された是正勧告です(根拠条文は、もちろん地方自治法245条の6)
【是正勧告の書面(PDF)】

今回の記事はこれで終了です。また長い記事になってしまった(笑)。それにしても暑い日が続きますね。行政書士試験の受験生の皆さんには体調管理にも気を付けて頑張って欲しいと思います。デハデハ。
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