赤ちゃんを連れて映画を見る母親たち=シネマテルナ提供
「シネマテルナ」を設立した日系ブラジル人の長島千咲イレーネさん(右)=サンパウロ、平山写す
南米ブラジルで、乳児を連れた母親たちが、他の人たちに気兼ねなく映画館で最新作を見られるようにする運動が注目を浴びている。日系ブラジル人の女性が自分の体験から「出産後のうつや育児に悩む女性を救いたい」と、友人たちと始めた。動きはブラジル全国に広がり、隣国アルゼンチンにも及びそうだ。
NGO「シネマテルナ(ママたちの映画館)」の中心人物が、サンパウロに住み、日本国籍も持つ長島千咲イレーネさん(39)だ。
イレーネさんは、週3回は映画館に通う映画フリークだった。だが、2007年9月、長男を出産した後は、乳児を抱えて映画館に行くのをためらい、いら立ちが募っていた。翌年、ネットでその思いを書き込んだところ、同じような境遇の女性たちと意気投合した。みんなでそんな状況を変えようと動き出した。
赤ちゃん連れの母親が映画を見やすい環境を作るよう、映画館に掛け合った。乳児をびっくりさせないよう、映画の音響は通常の上映時より小さくし、冷房も控えめ。館内の一部に、はいはい出来る特別のカーペットを敷き、床にはオモチャが散らばる。映画を見ながらおむつを取り換えられるように台も置き、明かりの一部はつけたままだ。
これが受けた。出産後、家に閉じこもりがちだった母親たちが訪れるようになった。
大手化粧品会社の援助も受けて、今では契約を結んだ四つの映画館グループがシネマテルナの枠を設けている。サンパウロでは週に4回、市内五つの映画館で交互に実施。全国では11都市の17の映画館が対象だ。入場料は通常料金と同じ。子連れ観客が利用できる時間はネットや映画館の入り口で知らされ、一般客もそのことを了解済みなら入場できる。