現在位置:
  1. asahi.com
  2. 天声人語

天声人語

Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2010年8月14日(土)付

印刷

 マネジャーは足元を見つめ、リーダーは地平線を見つめるものらしい。ただし、危機にある組織には遠近に目が利くトップが欠かせない。急ぎの難題に向き合いながら、あるべき将来像を追うような▼日本相撲協会の武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)が辞任した。体調もあろうが、野球賭博問題のけじめとみた。前任の北の湖親方に続く引責である。後任には、元大関魁傑の放駒(はなれごま)親方が選ばれた▼現役時代の魁傑は、まず見た目が際立っていた。浅黒く、足が長い。口を少しとがらせて仕切る姿は、アシカのような海獣を思わせたものだ。柔道の出らしく足技も得意。今ならアスリートと呼ばれそうな運動能力、誠実な土俵態度で女性に人気があった▼新旧のトップは同年同月生まれの62歳。力士としても1970年代を通してのライバルで、魁傑が幕内で最も多く取った一人が三重ノ海だった。戦績は19対19と分けたが、改革の実績では大差をつけないといけない▼再生のため外部から理事長を、との声を制しての内部昇格である。深い病根をえぐるには、内科より外科の腕が要る。「まわし組」のしがらみを断ち、縦横に暴れて因習をぶち壊してほしい。文字通りの放駒、綱を解かれて走り回る馬の躍動を望みたい▼語り草は78年春場所、都合10分を超す旭国戦だ。2度の水入りで取り直しとなり、またも水入りかという時にすくい投げを決めた。伝説の一番と同じ粘り腰を期待しよう。小兵の旭国と違い、今度の相手は老練な巨漢、角界の悪弊である。倒した先に地平線がある。

PR情報