Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
世界同時不況から順調な回復を示してきた景気の先行きに、疑問符を投げかける数字が出た。内閣府がきのう発表した4〜6月期の国内総生産(GDP)統計によると、実質成長率は前期[記事全文]
政治がしっかりしていない国が大災害に見舞われる。被災者に十分な救援の手が届かない。人々の不満が募る。政治不信が一段と強まり、社会がさらに不安定になる。そこにテロをためらわない過激グループがつ[記事全文]
世界同時不況から順調な回復を示してきた景気の先行きに、疑問符を投げかける数字が出た。
内閣府がきのう発表した4〜6月期の国内総生産(GDP)統計によると、実質成長率は前期比0.1%だった。年率換算では0.4%で、直前の2四半期が年率約4%だったのに比べ、急な減速ぶりである。
さらに懸念すべきは、生活実感に近い名目GDPが前期比0.9%減、年率は3.7%減で、デフレの悪化が明らかになったことだ。
アジア新興国向けなどの輸出は好調だが、問題は内需だ。設備投資は足取りがおぼつかないうえ、個人消費の伸びが止まってしまった。とくに薄型テレビや自動車など耐久消費財の販売が振るわなかった。
エコポイント対象商品が4月から絞り込まれたことが一因となった。政府による需要喚起策は息切れのサインが点滅し始めたといえよう。
内閣府は、景気が回復基調にあるとの判断を変えていない。しかし、エコカー補助金は9月末、家電エコポイントは年内いっぱいが期限だ。比較的豊かな人々の消費を刺激して一定の効果を上げたとはいえ、自動車や高級家電の需要を先食いするこれらの施策にはもともと限界があった。
また、今後は米国の景気の先行きに対する懸念に加えて、円高の影響も無視できない。需要と雇用の創出による「第3の道」路線を掲げる菅政権は、既存の景気対策とは別の発想に立つ個人消費喚起策などをきちんと考えるべき段階を迎えつつある。
大事なのは「雇用を増やすことが所得を増やし、消費を増やす」といった好循環が生まれるような施策を急ぎ工夫することだろう。
菅直人首相が参院選で言及した医療・介護分野の雇用創出に限らず、もっと幅広く考えてほしい。たとえば企業の新規採用の意欲は冷え込んでいる。そこをテコ入れできないだろうか。
企業が新興国向け輸出で稼いだ資金を国内投資などで生かせるよう、政策的に誘導する道も検討してみてはどうだろう。
新成長戦略の焦点とされた環境・エネルギー、観光などの分野については来年度予算を待たずに規制改革などの取り組みを強めるべきである。
4〜6月期は企業の四半期決算で業績の回復ぶりが著しかった。企業の景況判断を聞き取り調査した7月発表の日銀短観でも、製造業を中心に景気回復の足取りはしっかりしている、という認識が確かめられていた。
今回の発表で予想外のデフレ悪化が示され、不透明感が強まったことは否めない。政府・日銀は景気が二番底に陥らないよう、足元の動向や先行きのシナリオを総点検する必要がある。
政治がしっかりしていない国が大災害に見舞われる。被災者に十分な救援の手が届かない。人々の不満が募る。政治不信が一段と強まり、社会がさらに不安定になる。そこにテロをためらわない過激グループがつけいる……。
パキスタンの大洪水に、そんな悪循環への懸念がふくらむ。アフガニスタンとともにテロとの戦いの最前線に位置づけられ、核保有国でもある。日本を含め国際社会も協力して、危機の連鎖を食い止めなければならない。
北西部を7月末に襲った豪雨は、1947年の建国以来最もひどい被害をもたらしているという。インダス川沿いの国土の3分の1近くを水に浸した。1600人が死亡し、200万人が家を失った。政府は、全人口の9分の1にあたる2千万人が被災したと見ている。今後も豪雨が予想されるなか、コレラも発生している。
農業中心で膨大な貧困層を抱える。2008年の世界金融危機で打撃を受け、国際通貨基金(IMF)の融資で息をつないでいる経済が、さらに苦しくなるのも確実だ。
本来なら政府が、救援活動と危機管理に全力を挙げる場面だ。なのにザルダリ大統領は、洪水発生後も英仏へ外遊し、フランスでは親族が持つノルマンディーの大邸宅訪問などに時間を費やす有り様。対策は後手に回り、国民の強い不信を招いている。
被害を克服できず、経済と社会の混乱が深まるようなら、軍がクーデターを繰り返してきたこの国の宿痾(しゅくあ)のような政情不安が頭をもたげかねない。
それは、アフガンとの国境地帯周辺に浸透する国際テロ組織アルカイダなど過激派を大きく利する。両国の安定化でテロの脅威を除こうとする米国の戦略にも手痛い打撃となる。
もちろん被害の克服に最大の責任を担うのはパキスタン政府だ。野党、軍も一体となって取り組むべきだ。そしてそれを国際社会が支援する。だが、同国への支援は、多くが汚職に消えるといった批判が絶えない。国連が求める4億6千万ドルの緊急支援への国際社会の反応が鈍いのも、このためだ。
この批判を、パキスタン政府は真剣に受け止め、支援を厳正に執行する手だてを尽くす必要がある。現政権を支援してきた米国も強く促すべきだ。
南アジアでは洪水や干ばつが恒常化しつつある。気候変動への危機感から印パ、アフガンなど8カ国でつくる南アジア地域協力連合(SAARC)は、災害の早期警戒などで連携を模索し始めている。
日本はパキスタンに緊急資金協力を表明し、陸自ヘリの派遣も検討中だ。それにとどまらず、自然災害対策で有数の先進国であることを生かし、SAARCの動きを後押しすることも考えてはどうだろうか。