脊髄(せきずい)が傷ついて下半身がまひしたマウスに、神経の元になる神経幹細胞を移植し、さらに抗てんかん薬を注射して治療したら、約7割が歩けるまでに回復したと奈良先端科学技術大学院大のグループが発表した。神経が損なわれるけがや、脳卒中などの治療法開発につながる成果だ。
同大の中島欽一(なかしま・きんいち)教授(神経科学)らは、下半身がまひしたマウスで、脊髄の傷ついた部分に、ほかのマウスからとった神経幹細胞を移植。その後、1週間にわたり、抗てんかん薬の一種であるバルプロ酸を注射した。
治療した21匹のうち、15匹は1カ月半ほどで、股関節やひざ関節、足首が動くようになり、ぎこちないながらも、足で歩けた。残るマウスも、未治療のマウスに比べると回復がみられた。
調べると、移植した神経幹細胞が神経細胞に変わり、それが傷ついた神経をつないでいた。従来は神経幹細胞を移植しても、目指す神経細胞になるのは1%以下だったが、この治療で回復したマウスでは約20%に向上していた。
バルプロ酸が、高い効率で神経幹細胞を神経細胞に変化させることは、2004年に中島教授らが試験管レベルで確認している。今回は、それを実際の動物で実証した形だ。
中島教授は、「今回は移植細胞のがん化のような悪影響はなかったが、ヒト細胞でも同じなのかどうか、研究を進めたい」と話している。
論文は16日の米科学誌「ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション」電子版に掲載された。(権敬淑)