きょうのコラム「時鐘」 2010年8月17日

 きのうの連載「遠きにありて」で、富山出身のジャズ界の大御所・原信夫さんが、「ズージャー(ジャズ)やったら、ルービー(ビール)飲める」と思い出を語っていた。逆さ読みの業界用語である

「ターギ」はギター、「シーメ」は飯(めし)。知らなければ、モグリである。こんな言葉は、どこにもある。相撲界では「金星(きんぼし)」は美女、「米びつ」は有望力士

テレビのお笑い番組「笑点」で、司会の桂歌丸さんが、「山田クン、例のものを配って」と言う。出てくるのはバケツやかつらなど、毎回違うが、それを使っておなじみの珍問答が始まる。「例のもの」は、笑いの小道具という番組用語である

「あれ」という家族の用語もある。亭主が帰宅して「あれにする」と言う。その様子で、女房は風呂か夕食かを察する。いまの時期、母親が「あれは大丈夫」と問えば、子どもは大概聞こえないふりをする。夏休みの宿題も、「あれ」で通じる

業界用語は簡単には廃れないだろう。「あれじゃない方のあれ」といった家族用語も大切にしたい。「あれ」が通じないすれ違いから生まれた事件が、どうにも多過ぎる。