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「テ、テラス様……、そのお姿は……」
光の戦士たちにはその目に映るものが信じられなかった。
自分たちに聖龍石奪還を命じ、魔界へと送り出した皇帝テラス。
そのテラスが自分たちを殺意を込めた憎々しい目で睨んでいる。
「全てはこいつから聞いたわ……」
テラスは手前の皇魔が地面に置いた『ずた袋』を腹いせ混じりに蹴り飛ばすと、袋の口が解けて中から飛び出てきたのは…
「ひ、ひぃぃ………」
手足を雁字搦めに縛られ素っ裸に剥かれたマステリオンの側近・アナンシだった。
「馬鹿よねこいつったら、私が与えた使命をほっぽって逃げ出そうとしたんだから。しかも、斃れたボーンマスターの仇も討とうとせずに。
お前の動きは常に監視されていて筒抜けだったのよ。お前みたいな2枚舌、私が心から信頼しているとでも思ったの?」
嗜虐的な笑みを浮かべたテラスは踵でアナンシの背中をぐりぐりと痛めつけている。が、アナンシはそれに対して痛がるどころか顔をうっすらと快感に染めて小さな悶え声を発している。
「だから、こいつにはたっぷりとお仕置してあげたわ。四肢の自由を奪って、一昼夜に渡って十人を越す皇魔に入れ替わり立ち代り犯してあげたの。
そしたらもう、すっかり快楽に溺れて魂の抜けた廃人になっちゃってさ……自業自得よね」
「あ…、出させて。出させてぇ……。もっと、もっとおちんちんさせてぇ…」
自分の近くに光の戦士たちがいることも既に理解できないのか、アナンシは縛られた体を芋虫のようにくねくねとくねらせながらテラスにおねだりをしてきた。
「出させて、出させてくださぁい…!なんでも、します…。なんでもいいます…か、らぁ!!」
テラスの前にいる女皇魔がそんなアナンシの情けない様を見て口元と股間をを手で抑えてくすくすと笑っている。
きっと彼女もアナンシの陵辱に参加したのだろう。その時の快感を体が思い出したのか、手で抑えた股間から透明な液が太腿を一筋伝っている。
「で、なにをやってきたのよあなたたちは……
あなた達に皇帝陛下を倒してもいいなんて言った覚えは、これっぽっちもないじゃないの!!」
テラスは、まるで光の戦士がマステリオンを倒したことがとんでもないことのように非難してきた。
確かにテラスは出発前に『聖龍石を奪還してくること』を光の戦士たちに厳命しており、マステリオンを倒してこいとは一言も言ってはいない。
だが、1000年前の部族王すら出来なかったマステリオンの消滅…
もっとも、これは光の戦士たちだけの力ではなく力を貸してくれた伝説の部族王の力によるものが大きいが、何はともあれ地上世界の敵であったマステリオンを倒したのだから賞賛されこそすれ非難される云われはない。
が、それもテラスが『まともな姿』をしていたらの話だ。

その瞳は怒りで禍々しい金色に輝き
その肌は言うなれば真っ青に燃えあがり
その角は黒く猛々しく伸び上がり
その爪は自らの掌に突き刺さって青い血を流すくらいに伸び
その腰からは滑りを帯びた尻尾が獲物を求めるかのようにのたうっている。
その右手に持った皇帝の杖の先には鋭い槍の穂先が付けられ、多数の人間の血を吸ったからかその切っ先は鈍く曇っている。

今のテラスは頭のてっぺんからつま先に至るまで人間らしい面影は何一つ残しておらず、魔界で散々相手にしてきた皇魔族そのものと化している。
はたして目の前にいる皇魔は本当にテラスなのか?テラスの姿形をした偽者ではないのか?
そう誰もが思ったが、今まで戦ってきたカレンが本当にショウの姉だったカレンだったという事実がある。
そう考えると、あの皇魔がテラスという可能性が全くのゼロということはない。
もちろんそんなことは信じたくはない。地上を統べる皇帝陛下が、地上の敵になっていたなんて冗談も甚だしい。
「せっかくこの世界を、誰もが自分の思い通りに生きる世界にしようと頑張ってきたのに、
あなたたちのせいで台無しだわ!!
どうしてくれるのよ!!」
光の戦士たちには皇魔姿のテラスが何に憤っているのかさっぱり理解できなかった。
テラスの言い分によれば、自分たちが何かをしたせいでテラスの理想が潰えてしまったということになるのだろうが、一体それが何なのかまったく覚えがない。
当惑する光の戦士たちを尻目に、テラスは眼前で倒れているカレンを冷ややかに睥睨した。
「無様なものねカレン。せっかく皇魔の力と身体を手に入れながら、情けなく地べたを這いずるなんて」
「も、申し訳ありませんテラス様……。まさか弟達が、あれほどの力を……」
うな垂れながらカレンはテラスに謝ったが、テラスの顔は不機嫌なままだ。
「あれほどの力?違うわ。
殺そうと思えばお前はショウを殺せたわ。あの時、ショウに洗脳音波を送っている時にね」
「み、見ていたのですかテラス様!!」
ギョッとしたカレンにテラスはなおも冷たい目線を送っている。
「ええ。光の戦士たちが死ぬさまをこの目で見たかったからね。
ところがお前はショウを殺さないで操り人形にして、光の戦士同士で同士討ちを狙った。これはどうして?」
「それは……、そのほうがあいつらを動揺させ……」

ヒュン!

しどろもどろに返答するカレンの横っ面にテラスの槍がビュン!と通り過ぎた。カレンを見るテラスの金色の目には怒りと軽蔑の色がありありと浮かんでいる。
「違うわ。お前はショウを殺したくなかったからああいう手段をとったのよ。私の命令は光の戦士の抹殺よ。
だったら、なんで最初にショウを殺さなかったの?あの時のショウなら、心臓を一突きするなんて簡単のはずよ」
「あぅ……それは………そのぉ……」
カレンは必死に理由を取り繕うとしているが、どうしてもその先の言葉が出てこない。これではどんな理由をくっつけようともただの言い訳にしか聞こえなくなってしまう。
「答えられないでしょ?そうでしょ?お前は身内で肉親のショウを殺したくなかった。もちろんあの時はそうは思っていなかったかもしれないけれど、無意識にそう思っていた。だからショウを殺せなかった。
……お前は皇魔の力と身体を手に入れられたけれど、心の中までは皇魔になりきれていなかったみたいね」
「そ、そんなことはありません!私は皇魔族、魔蝙将カレン!皇帝陛下の御為に、光の戦士を抹殺するのが使命……」
皇魔としての自分を否定され、泡を食って反論するカレンにテラスはニィィッと薄笑いを浮かべた。
「だから、その心を完全に皇魔色に塗りつぶしてあげるわ……!」
その時、テラスの腰から伸びていた尻尾がくいっと鎌首を持ち上げるとシュルン!と伸び、あっという間もなくカレンの腰の間へと潜り込むとそのままズブッとカレンを刺し貫いた。

「あうぅ―――っ!!」

あまりの不意打ちにカレンは背中を仰け反らせて喘ぎ声をあげ、ズブズブと入ってくる尻尾を両手で掴み上げた。
「あ、あぁ……テラス様ぁ……なにをぉ……」
「皇魔として半人前なお前に、もう一回皇魔の力を注ぎこんであげるのよ!!」
その顔を残忍そうに歪めたテラスの瞳が一際輝くと、テラスの尻尾全体が黒く光り、黒い光は収束されるとそのまま伸びるカレンの体内へと進んでいった。

「うっ!!はぁ―――――ッ!」

カレンの膣内で黒い光が弾けた瞬間、大きく吼えたカレンの目、鼻、口などあらゆる穴から黒い光が噴き出した。
それはまるでカレンの体全体を覆うように輝き、黒い光というありえない光に光の戦士たちも一瞬目が眩んで視界が閉ざされてしまった。
「うぁ……あふぅぅ……」
全身から黒い光を噴き出したカレンはくるりと白目を向くとそのままその場にどさりと崩れ落ち、完全に気を失ってしまった。
「暫くそのまま大人しくしていなさい。あなたの身も心も、真っ黒に染まりきるまでね…」
テラスは気絶したカレンにはもう目もくれず、目の前に起こったことが理解できないで呆然としている光の戦士たちのほうへ憎しみの視線を向けた。
こんなにテラスに恨まれることをした覚えはもちろん光の戦士には思い至らない。
いや、本当は一つだけ、ただ一つだけあるのだが、それだとは考えたくはなかった。
もしそうならば、自分たちがしてきたことが完全に否定されてしまうことになるからだ。
「陛下、さっきから一体何に対してそんなに……」
「うるさい!私を皇帝陛下と呼ぶな!!私は皇帝じゃない!!
この世に皇帝と呼べる、私が皇帝と呼べるお方はただお一人だけ!
マステリオン皇帝陛下だけなのよ!!
「マ、マステリオン…皇帝、陛下……?!」
その名前が出た時、オウキは一瞬目の前が真っ暗になった。
悪い予感が的中してしまった。
テラスの姿が皇魔族に酷似している以上、その名前が出てくる可能性は多分にあった。
しかし、ただマステリオンというだけならまだしも、その後ろに敬称まで付けてきたとあっては今のテラスが皇魔族の中でも話が分かる魔界三巨頭派ではなく、魔界で散々敵対してきたマステリオン派の皇魔に属していることが明白になっているのだ。
「い、一体陛下は……いつからその姿に……」
「いつから?あなた達を魔界に送り出すちょっと前よ。
あの時私は、偽りの仮面を捨て本当の自分になれたの。自分のやりたいことをいくらでも行うことの出来る、素晴らしい自分に。
そしてこの悦びを全世界に広めようと頑張ったわ。こんな素晴らしい身体を独り占めするなんて不公平でしょ。
そして、今この世界の大部分は私の理想の『自分の思う気持ちのままに生きる事が出来る世界』になった。そうすることの出来る民がいっぱいになったのよ。
自分の気持ちの思うままに生きることが出来る世界、素晴らしいと思うでしょ?そうでしょ?!」
テラスの言い分は、確かにそれだけを聞けば素晴らしいと思うことが出来る。
だが、それとこの世界の荒廃ぶりはどうにも合致しない。
「で、ですが陛下!それならこの地上はなぜこんなに殺風景に……」
「殺風景?あなたたちの目にはこれが殺風景に見えるわけ?」
光の戦士たちを侮蔑に満ちた眼差しで睨みながら、テラスは両手を大きく広げて叫んだ。
「素晴らしい光景じゃないの!
見たくもないところまで照らしてしまう忌まわしい光は射さず、木々は自らを隠す葉を落としてありのままの姿を晒し、冷たい風は火照る心を沈める。
誰もが自分の生きたいように生き、自分のすることに誰も文句を言わない。人が人として生きていられる世界。
これこそ私が本当に作りたかった世界!私の理想の世界なのよ!!」
光の戦士たちに説くテラスの顔は、実に晴れやかで一転の曇りもない。
だが、その心の根本はもはや元には戻せないほどにぐちゃぐちゃに捻じ曲がっており、本当に目指していたと思われる理想とは全くかけ離れた世界を作り上げてしまい、かつそのことに気づく様子すらない。
この荒廃しきった世界は、ある意味今のテラスの心そのものだ。
「そしてこの理想の世界を作るため、地上に再降臨なされる皇帝陛下を迎えるためにたくさんの人間に私の想いを注ぎ込んだわ」
テラスの腰から伸びる尻尾がうねうねと蠢き、先端が黒く鈍く光る。
「この光を受け入れた人間はその心にある『自分が一番したいこと』を叶える為、人間の弱い体と心を捨てて強靭な皇魔族へと生まれ変わるわ。
今ここに倒れているカレンも、散々抵抗したけれど私が光を注ぎ込むと途端に頬を赤く染めてのたうちながら喘ぎまくり、そのうちに全身から瘴気を噴き出して……、素晴らしい世界の門をくぐったのよ。
ね?カレン」
テラスの呼びかけに、それまでぐったりとしていたカレンの体がピクリと動き、その場にゆっくりと起き上がった。
その動きは、まるで上から見えない糸で無理矢理立たされているようにぎこちなく、かくんかくんと体の各部を揺らしながら徐々に腰を上げ、だらりとしていた肩がしゃんとなると俯いたままだった顔がゆっくりと持ち上がり、先ほどまでとは比べ物にならないくらいの邪悪な光を宿した瞳が一際暗く輝いた。
「……はい。テラス様。
あの時テラス様から戴いたお力、あれほど拒んだ自分がバカバカしく思えてきます」
「うふふ、あの時のあなた、四肢を押さえつけられても散々暴れて尻尾突っ込まれても『嫌、嫌!』って泣いて抵抗したものね。
それなのに、黒い光をぶち込んだ途端……」
「あぁ……あの時の快感、忘れられません……
心の中の黒い気持ちが抑えきれないくらい大きく膨らみ、体中のあちこちから噴き出してこの体と心を皇魔に染め上げていく快感…
たまらないです……あふぅ…」
自分が変えられた時の悦びを思い出しているのか、カレンはゾクゾクと背筋を震わせて軽い喘ぎ声を上げ、そのままショウをじろりと睨みつけた。
「そして…、今再びテラス様からお力を戴き……、それまでの弱い私を完全に消すことが出来ました……
さっきまで私の中にあったショウへの思い、今では完全に黒く塗りつぶされて跡形もありません。
今なら……躊躇いなくショウをこの手で捻り殺すことが出来ます…!
あぁ……早くショウを引き裂きたい。捻り千切りたい。その体をグシャグシャにして、血肉を全身に浴びたいぃ……」
カレンのぐききと握り締めた拳から青い血が滴り落ちてきている。
長く伸びた爪がカレンの皮膚に突き刺さっているためだが、その痛みを気にすることもなくカレンはショウをその手にかける快感に心を高揚させていた。
「うっ…、ね、姉さ……」
そのあまりの禍々しさにショウはさっきまでの戦意が一気に萎え、手から剣を落としそうになってしまった。
その不様さにテラスは小馬鹿にしたように微笑んだ。
「ふふっ、どうかしら?黒い光の力は。
さっきまでショウを殺すことを嫌がっていた弱い心なんかあっという間に消し去って、カレンをより完璧な皇魔へと仕上げさせたわ。
そう、この光には誰も抵抗することなんか出来ない。
それが、大魔導士の一番弟子であってもね!!」
テラスの勝ち誇った叫び声に、後ろに控えていた皇魔の一人がずい、と歩み出てくる。
「………久しぶりねぇ…。リュウガぁ……」
「………っ?!」
それまでテラスの姿にショックを受け後ろの皇魔まで注意を向けられなかったリュウガだったが、直接名前を向けられたその皇魔を改めて見て心臓が飛び出そうなほどのショックを受けた。
その女皇魔はどう見ても、リュウガが剣術の師匠であるライセンの弟子であり、時々リュウガとも手合わせをしていた姉弟子ともいえるシオンだった。
だが、リュウガの前にいるシオンに以前の面影は全くない。
別に姿形が全然違うという意味でではない。
いつも凛としていた表情は色欲に爛れ、零れ落ちそうな薄ら笑いを浮かべており、古えの四種族の聖龍族の伝統を色濃く残していた衣服は、基本的な意匠は変わっていないものの見ているだけで恥ずかしくなりそうな際どい露出度を持つものに変わっている。
「え……、シ、シオン……さま……?」
そのあまりの変わりように、リュウガは一瞬眩暈を起こしてその場に蹲りかけてしまった。
そんなリュウガを見て、シオンは口元を嫌らしく歪めてクスクスと微笑んだ。
「うふふ……。リュウガァ……、すっかり見違えちゃって……。立派な男になって帰ってきたわね。
魔界で随分といい経験をしてきたのね……」
シオンのリュウガを見る目には明らかな媚びが混じり、淫欲に金色の瞳が濡れ光っている。
「あぁ……、ここまでも漂ってくる、逞しい男の匂い……。うふふっ、これだけでも濡れてきちゃいそう」
顔を青く上気させているシオンは、潤んだ瞳を天空へと向け、左手を布切れといっても過言ではない股間のショーツへと這わせている。
そこはシオンの言っている通りなのか、うっすらと変色してくちくちといった卑猥な音がかすかに聞こえてきている。
「う……うぁ…、あぁ………」
まるで自分を挑発するかのようなシオンの態度に、リュウガはいつの間にか目を離せなくなっていた。
が、それも仕方のないことだ。
ライセンの元で修行をしていた時傍らにいたシオンは、言うなれば初めて近くにいる年上の異性であり、ある種憧れの女性でもあったのだ。
そのシオンが自分の目の前で、例え皇魔の姿をしているとはいえ淫らな姿を晒しているのはリュウガにとって物凄い刺激的な光景だった。
その目はシオンの一挙手一投足を追い、シズクを抱えていた手はいつの間にか離してだらりと垂れ下がり、興奮から吐く息は熱く荒くなってきている。
「ハァァ……ハァァ……ッ!」
自分のことをじぃっと悩ましい視線で見つめているシオンの金色に輝く瞳がリュウガの視線を一身に奪い、リュウガの肉欲を心の奥から呼び覚ましてじわじわと膨らませていっている。
すでに布越しでも分かるくらいに股間は盛り上がり、時々ビクン!としゃくり上がっていたりしていた。
(シ、シオン様が僕を……僕をぉ……)
周りからはリュウガに対して声をかけられているのだが、リュウガがそれに耳を傾けることはない。
というか、リュウガに周りの喧騒は聞こえていない。
もうリュウガの目にはシオンの姿しか移らず、シオンの声しか耳に入らなくなっていた。
それは先ほどのショウと全く同じ事なのだが、シオンの痴態に警戒が緩んでいたリュウガはシオンに対する警戒を完全に怠っていた。
「ふふっ……わかるわよぉ……。我慢しきれないのねぇ……」
リュウガが発情しつつあることにシオンは我慢しきれないかのようにぺろりと唇を舐め、股間の布をわざとらしくずらした。
そこはシオンの中から垂れてくる蜜とシオンに吐き出されたと思しき乾いた白濁液でピカピカに滑っている。
「見なさい。あのアナンシが嬉し涙を流しながら獣のようにずこずこ突いて、たっぷりと吐き出した精液の跡。
アナンシったらあまりに気持ちよすぎて、自分の中が空っぽになるまでドクドク射精しつづけたの…
それだけ私の膣内、気持ちいいのよぉ……」
シオンの肌は皇魔独特の青色になっているものの、とろとろと蜜を流し続ける股間は零れ落ちそうなほどに熟れ目が眩みそうになるほどの淫らな匂いを漂わせている。

あの中に挿れたい。挿れたい。

この股間で突っ張って苦しいものをあの中に挿れたら、一体どれほど気持ちよくなるのか想像もつかない。
あそこに寝っ転がって気持ちよすぎて放心しているアナンシのようになってみたい。
「ねぇ、私が欲しいの?自分の中のもどかしい気持ちを、すべて私にぶつけたいのかしらぁ?」
シオンの声に、リュウガは無我夢中でこくこくと頷いていた。
シオン様の身体に飛び込めば、自分の中に湧き上がっているこのもどかしい気持ちを静めることが出来る。
そう考えるだけで心臓が飛び出そうなほどに大きく鼓動し、全身の血管から血が逆流しそうになる。
「ほらぁ…、お姉さんの中に来ていいのよぉ……。その若くて逞しい力を、思いのままぶつけていいんだからぁ……」
シオンとの距離は結構離れているはずなのだが、リュウガの鼻腔にシオンの強烈な牝の香りが飛び込んできた感じがした。
それはリュウガの牡欲をガリガリに掻き立て、爆発せんばかりに膨らませていく。
「さ、いらっしゃい……。あなたの精、腰が抜けるまで搾り取ってあげるわ。きっとすっごく気持ちいいわよぉ……」
座り込んで自らの秘部を指で晒したシオンはリュウガを招くように手招きをし、それに応えるべくリュウガは覚束ない足取りでふらふらとシオンのほうへと進み始めた。
その表情は呆けたように緩んでだらしなく開いた口からは涎が糸を引いて零れ落ち、虚ろに開いた瞳はさっきのショウと同じく金色に鈍く光り輝いていた。
「お、おいリュウガ!」
無防備に進み始めたリュウガにタイガが慌ててリュウガの腕を掴んだが、リュウガはタイガの手をむんずと掴むと、物凄い力で引き剥がして無造作にタイガをぶん投げてしまった。
「わぁっ!!」
そのままタイガは受身も取れずにオウキに命中し、二人は大きな音を立てて派手にその場にぶっ倒れてしまった。
「止まって下さい、リュウガ!」
残ったショウがリュウガを後ろから羽交い絞めに捕らえたが、渾身の力を込めたにも拘らずリュウガが少し背中を屈めるとショウの腕はあっさりと解け、直後に飛んできたリュウガの裏拳をまともに胸に喰らいショウもまたもんどりうって倒れこんでしまった。
この間、リュウガは瞬きする時間もタイガたちの方へ顔を向けていない。
今のリュウガにはシオンの元へ近づくことだけしか頭の中になかった。
「うふふふふ………」
灯りに無防備に近づく蛾のように自分に近寄ってくるリュウガにシオンは舌なめずりし、受け止めるために胸当ての留め金を外そうとしたが
その時

「ダメよ」

後ろからテラスの槍がシュッと伸び、シオンの頬の皮一枚を鋭く切り裂いた。
「痛っ!」
顔を切られた熱い痛みにシオンは思わず傷口に手を当て、その痛みでリュウガへの催眠目線を逸らしてしまった。
「……ハッ!!」
そのため、シオンの催眠が解けたリュウガの目にはサッと正気が戻り、シオンの元へと向っていた自分にギョッとすると慌ててシズクが倒れているほうへと戻っていった。
「な、何をするんですかテラス様!もう少しでリュウガをこの手で搾り尽くして廃人にすることが出来たのに……」
悔しがってテラスに恨みの視線を向けるシオンに、テラスは凍りつくような目でじろりと睨んだ。
「そんなことは許さないわ。それだとリュウガが気持ちよくなってしまうじゃないの。
そんなの許さない。皇帝陛下を殺したあいつらに、そんな気持ち一片だって味あわせてたまるものですか……」
テラスの声には光の戦士に対する怨恨がたっぷりと込められている。それほどマステリオンを滅ぼされた怒りが大きいのだろう。
「殺すのよ。一片の慈悲もなく。
魂も残らないくらいバラバラに引き千切って、汚らしい肉隗をこのあたり一杯にばら撒き魔獣の餌にしてやるのよ!」

「ふふふ……お任せくださいテラス様。
催眠音波なんか使わずに、ショウを正気のままでグチャグチャにして差し上げます…」

テラスの命令にまず嬉々として頷いたのは早くショウを手にかけたくてたまらなかったカレンだった。
全身に伸びている蝙蝠の黒く短い毛が鳥肌立ったからかピンと立ち、興奮で吐く息も荒くなっている。
一方シオンのほうはまだ多少不服そうながら、諦めたかのように腰の剣を抜いた。

「ちぇっ、命令とあればしょうがないわね…。
ごめんねリュウガ、気持ちよくしてあげる代わりに思いっきり痛くしながら殺してあげ……」

その時、シオンの前に何者かがぬぅっと現れその声を遮ってきた。
それはさっきからシオンの横で苦しそうに胸を抑えていた、もう一人の皇魔だった。

「う、うぅ………」

「ちょ、クオン!邪魔をしないで……」
邪魔をされたのをシオンに咎められたにも拘らず、もう一人の皇魔…クオンは目を憎悪と殺意にぎらつかせながらふらふらとリュウガのほうへと近づいていった。
「う……」
そのあまりの迫力にリュウガはともかくシオンも無意識に足が竦んでしまい、一歩も動くことが出来なかった。
だが、それでもリュウガは動けないシズクを庇うかのように片手を広げ、クオンからシズクを隠そうとした。
そして、その動きを見てクオンの金色の瞳がいっそう釣り上がった。

「ウ、ウゥゥ……
サイ、ガ、さまぁぁぁ………!!なぜその女を庇うのですかぁぁ……!!」

「サイガ…さま?」
リュウガには、それが自分に向けて放たれている言葉だということが一瞬分からなかった。
そのため魔界にいた時のようにまたサイガが魂の姿で現れたのかと思ってあたりをきょろきょろと見回したが、勿論サイガの姿などあろうはずがない。
「早くぅ…早くその小娘の手をお放しくださいぃ…!
今すぐにこの手でバラバラにしてみせますからぁぁ!!」
クオンは腰にかけた小太刀を構え、今にもリュウガのほうへ飛び掛らんと腰を落としている。
実際に飛び掛ってこないのはまだシズクの前にリュウガがいるからだろう。
その時点で、やっとリュウガは自分がサイガに勘違いされているということを理解した。
「え?!ち、ちょっと待って!俺はサイガ様じゃなくてリュウガ……」
「お退きくださいサイガ様ぁ!貴方のためなのです!
貴方の為に貴方の周りに巣食う薄汚い輩は、全てこのクオンが滅することになっているのです!
さあ早く、早く!
早く早く早く早く!!!!!
私はそいつを殺す殺す殺す殺す殺ころころ

殺ころろろころすぅぅぅっ!!!」
どうやらリュウガの声はクオンには届いてはいないらしく、クオンは理性の欠片もなさそうな目をリュウガへと向け、そこから離れるように促してきている。
その瞳には先ほどシオンが用いたような催眠効果こそないものの、有無を言わさない圧倒的な圧力はリュウガの心に底知れないプレッシャーを与えてきており、少しでも気を緩めたらクオンの言うままにシズクの元から身を遠ざけそうな気すら与えてきている。
「ちょ…クオン、どうしたのよあなた……」
全身から迸るクオンの狂的な迫力に横にいたシオンまでもが呑まれてしまい、先ほどまでの余裕ある淫蕩な雰囲気は消え失せて戸惑いの視線を向けていた。
それまでもクオンの雰囲気がおかしな時はあった。自分がクオンに散々嬲られていた時、クオンはまるで自身の苛立ちを自分に向けて吐き出しているような感じがしていた。
自分の中にある自分自身でも抑え切れないなにかに葛藤しているような、そんな雰囲気。
皇魔に堕ちていながら、どことなく皇魔とは違う振る舞いを見せていたのもなにか関係あるのかもしれない。
だが、今のクオンはシオンが知っている『絶影』だった時のクオンとも、皇魔に堕ちて魔の悦楽に悦ぶクオンとも違う。
心のリミッターが外れ自身をまるでコントロールできていない、言うなれば暴走状態にしか見えない。
このままでは何が起こるか、何をされるかわからない。
「サイガなんてどこにもいないわ。あそこにいるのはリュウガ!私たちの皇帝陛下を滅ぼした憎い光の戦士の一人……!」
シオンはなんとかクオンを正気に戻そうとするが、すでに聞く耳を持たないクオンにシオンの声は全く届いていない。
「殺す……。サイガ様に纏わりつく、鎧羅王ポラリス……。邪魔なぁ存在ぃぃ…!!」
「えっ……?!クオン、あなた……」
クオンの殺意に満ちた目はリュウガの後ろで蹲るシズクの一点に向けられている。
どうやらクオンの目にはリュウガがサイガに見えるのと同様にシズクがポラリスに見えているようだ。
「サイガ様に近づく女は全て殺すぅ…!サイガ様のお傍にいていいのはぁぁ、わたしぃひとりだけぇぇ!!」
クオンの喉から迸る絶叫には、1000年の間に心の奥に溜められていたどす黒いエゴが目に見えそうなほどに込められていた。

「あ〜あ、とうとうクオン様壊れちゃったみたいね」

暴走するクオンとあたふたするシオンを、テラスは意外なほど冷静に見ていた。
クオンが遅かれ早かれこういう状態になるのは実はテラスには分かっていた。
クオンは皇魔に堕ちた時、自分にも皇帝陛下にも従わず、自分自身の目的である今ある世界を滅ぼすために手を貸しているに過ぎないということを宣言した。
そのことはテラスにとってはどうでもいい。最後の目的が違うのであれクオンの行っていることは自分が目指すものとそう変わらないのだから。
ただ、皇魔と化したクオンにはどうしても否定しきれない皇魔の本能が体に植え付けられてしまっている。
それは魔に属する者の黒い欲望であり、また主人であるマステリオンへの抗い難い忠誠心である。
前者のほうはクオンにとっては問題ない。問題なのは後者のほうだった。
例え皇魔に堕しているとはいえ、クオンの心の中にはサイガへの忠誠心がくっきりと残されている。
クオンにとって唯一主人といえる存在は、1000年にも及ぶ生涯の中でもサイガただ一人なのだ。
ところが、テラスによって植え付けられた本能は、マステリオンに対する忠誠心をクオンに強制させようとしてきている。
最初は投げつけられたほんの砂の一粒に過ぎなかったものだったが、時が経つにつれクオンの心にマステリオンに対する絶対的な忠誠心が膨らんできていた。
特にクオンはシオンと同じく、過去にマステリオン本人を見たことがある。
その辺があくまでも伝聞でしか知らないテラスなどこの世代の人間と異なるところで、皇帝陛下皇帝陛下と言ってはいるもののテラス自身はまだ一度もマステリオンを見たことはなく、おぼろげなイメージを持っているに過ぎない。
しかしクオンはなまじ本物を知ってるせいで、テラスとは比べ物にならないくらいのマステリオンに対する想いが心の中をドス黒く染めつつあった。
これはシオンも同様だったが、シオンはクオンほどサイガへの想いが強くなかったため
…というか、クオンのサイガへの忠誠心が並外れているのだが、
堕ちたシオンの心はあっという間にマステリオンを敬う皇魔の本能に塗りつぶされ、結果テラスの忠実な家臣となってしまっている。
が、クオンはあくまでも自分の主人はサイガだという想いがあるため、自分の心を支配しつつあるマステリオンへの忠誠心をむりやり押さえつけていた。
しかし、それは例えてみれば水の中にずっと顔をつけているようなもので、いつまでも我慢しきれるものではない。
そのため本能と意思のギャップが徐々にクオンの中で歪みとなっていき、クオンの心は少しづつ壊れていった。

そして、マステリオンがリュウガたちの手で滅ぼされた時にそれは起こった。
マステリオンが消滅したことでマステリオンが発し続けていた闇の波動が途切れ、その恩恵を受けていた地上にいた皇魔たちに少なからぬ影響を与えていた。
著しく魔力が弱体化したり、中には人格すら換わった者もいた。
その中でも影響をもろに受けたのがクオンだった。
クオンの心を侵していたマステリオンの影響が消えたのだから普通に考えればいい方向へ進むと思うのだが、それまで全霊を挙げて押さえつけていたものが突然途切れたことで、クオンの心の中のバランスが完全に崩れてしまった。

「!!……ぁぁあ

崩れた心は理性をあっさりと駆逐し、噴き出した欲望がクオンの心を一瞬にして染め上げてしまった。
この世の全てを憎んでいたクオンの最大の欲望は果て無き破壊衝動…
だったはずのだが、自我が完全に崩壊したにも関わらずクオンの心の中にたった一つだけ残されたものがあった。

「う、うぅぅ……、サイガ、さまぁ……。どこに、どこにおられるのですかぁぁ……
サイガさまぁぁ……」

それはクオンがただ一人主君と崇めるサイガへの想いだった。
今のクオンには世界も何も関係ない。
とにかくサイガ。サイガのことを想うことしか今のクオンに出来ることはなかった。


「だから、早く自分の心に素直になれって言ったのに。魔の欲望に従って心の望むままに振る舞えば、そんな無様な姿を晒さないですんだのに…」
テラスは結局クオンが最後の最後まで皇魔の本能に抗ったことを小馬鹿にしつつも、壊れるまで抗いきった意志の強さに感心してもいた。
だから、それに対しての敬意と言えばいいのか、テラスはリュウガ達の相手をクオンに任せようとした。
「シオン、リュウガたちはクオンが手を出したくて仕方がないそうみたいだから、あなたは残りの二人のどちらかを相手しなさいな」
「え、えぇ〜〜〜?」
弟弟子のリュウガをその手で嬲ることに執心していたシオンはこの命令に露骨に不服そうな顔をした。
が、今の話が通じそうもないクオンに下手に手を出すとこっちまで酷い目にあいかねない。
「ク、クオン……、ちょっと落ち着いて私の話を……」
それでも一応シオンはクオンにリュウガを譲るように頼もうとしたが、クオンはシオンのほうを振り向こうともせず血走った目をリュウガとシズクへと向け続けており、これは流石にダメだと諦めざるを得なかった。
「あ〜あ、リュウガは私の手でやりたかったけど、しょうがないからあなたたちと遊んであげるわ……」
ふう、と溜息をひとつついたシオンはもう吹っ切ったのか、金色の眼を愉しげに歪めながらオウキとタイガのほうへと振り向いた。
「かつての私たちにも出来なかった皇帝陛下を消滅させるなんてことを出来たんですから、それはそれは素晴らしい技量を持っているんでしょ?
ここ1000年の間、退屈で退屈でしかたがなかったからたっぷりと愉しませてもらうわよぉ…!」
シオンは唾液が滴る舌をちろっと伸ばすと、手に持った剣を柄からつぅーっと嘗め回した。
その際に刃が触ったのか舌から青い血が滴り口元を青く染めていったが、シオンは全く気にするそぶりも見せず、また薄笑いを浮かべた顔に彩られた血の色がオウキたちには酷く官能的に見えていた。
しかし、シオンの体から発せられる圧力はマステリオンを除けばそれまでオウキ達が魔界で戦ってきた皇魔のどれよりも重厚で強烈なものであり、ともすれば戦意を失いかねないほどの色香を打ち消すには十分すぎるものだった。
「こいつぁ……いかにもヤバそうな相手だな……」
タイガの額から嫌な汗が一筋流れ落ちてきている。これまで強敵に相対して闘争心から心震えることは幾度もあったが、恐ろしさから体が竦むということはそうはない。
しかも、マステリオンのような化け物相手ならともかく、いま自分が対峙しているのは皇魔の身なりとはいえごくごく普通の身なりをした女性なのだ。
「タイガ……、決して無茶はするなよ。数ではこっちが勝っているのだから、無理なく相手を押さえ込んで同時に攻撃をかけるんだ…」
オウキもそれが言うほど簡単なことではないことは重々承知している。目の前のシオンは一見隙だらけに見えるのだがその実どこにも付け入る隙が見受けられない。
だが自分たちはまだマシなほうなのだ。
実姉と1対1で戦う羽目になるショウや、動けないシズクを抱えているリュウガに比べれば自分たちにはまだ勝ち目がある。
とにかく、なんとしてでもこのシオンを倒して一刻も早くショウとリュウガの援護に回らなければならないのだ。
「じゃあ…、少しは頑張って頂戴ねぇ!!」
悲壮な覚悟を決めたオウキとタイガへ向けてシオンが笑いながら突進してきたのはまさにその時だった。





「姉さん……」
一方ショウはじりじりと間合いを詰めてくるカレンに剣を中段に持ちながら身構えていた。
カレンから発せられる邪悪な瘴気は先ほどとは比べ物にならないくらい濃く、大きい。
その瞳には人間的な暖かさは一欠けらも残っておらず、ただただ我欲を満たさんとする歪んだ悦びに彩られている。
「うふ、うふ。うふふふ……
ショウ、そのままじっとしていなさいねぇ。まずその腕と足をバラバラにしてあげるわ。何も抵抗できないように…
そして動けないあなたの肉を少しづつ、少しづつ切り刻んで食べてあげる。
頭と心臓は最後まで残して、自分の体がだんだんなくなっていく光景をその目で見せてあげる。
痛いかもしれないけど壊れちゃだめよぉ。男のなんだからきちんと我慢しなさいね。く、くひゃはははは!!
カレンの爪が早く肉を切りたいと戦慄き、カレンの牙が早く肉を千切りたいと訴えている。
その姿はさっきまでの真冬の氷水のような冷たい印象のあったカレンとはまるで異なる、身を焦がさんばかりの熱い狂気に彩られたものだ。
ショウにしてみればさっきまでのカレンは残忍残酷であったものの、常に冷静沈着で知的な人間だった頃の印象をまだ残していた。
が、今のカレンはショウの知っている面影は全くなく、自らの欲望と本能に全身を支配された獣にしか見えない。
そうなった原因は明白だ。
「姉さん、さっきのテラス様のせいで……」
きっと、いや間違いなくテラスが注ぎ込んだ黒い光がカレンの僅かに残っていた人間の理性を真っ黒く塗りつぶし、身も心も魔物へと変えてしまったのだ。
(もうあそこにいるのは姉さんじゃない)
ショウはそう割り切るしかなかった。姿形は僅かに自分の知っている姉の印象はあるものの、その中味は別人どころか別種族とまで言ってもいいほどの隔たりがある。

常に心を氷のように冷たく保つこと。感情に流されてしまったらいつか酷いしっぺ返しを喰らってしまう

ショウが常にカレンに言われ続けたことだった。
今のカレンを止めるには、カレンの息の根を止めなければ到底無理だろう。
先ほどまでの沈着で隙がないカレンには、正直ショウには勝てる気がしなかった。
だが今のカレンは全身から発せられる力こそさっきとは比べ物にならないほど大きいが、はっきり言って隙だらけである。冷静に対処していけばいなすのは容易いだろうし致命傷を与えることもできるかもしれない。
だが問題は、ショウがそれを行えるかということだ。
すでに皇魔に堕ちているとはいえ、目の前のカレンは間違いなくショウの実姉である。その実姉をはたしてその手にかけられるのか。
その決意を固めるため、ショウはカレンに向って声をかけた。
「姉さん……、父と母は今どうしているんですか……」
ショウの中ではおおよその答えは出ている。だが、あえて質問をぶつけてみた。
「父、母ぁ?」
それを聞いたカレンはフンと鼻を鳴らした。
「…ああ、あの人間たちね。もうあなたにも分かっているんじゃないのかしら?
こ・こ・にいるわよ」
そう言いながら、カレンは自分の腹をちょいちょいと指差した。
「ちょこまかと逃げるからまず催眠音波で心をとばして、血を一滴残らず吸い取った後肉を食べ、骨をバリバリと噛み砕いてあげたわ。
歳を取っているからあまり美味しくなかったけれどね。やっぱ血と肉は若い男に限るわよ。ククク!」
自分の両親を手にかけたことを告白したにも拘らず、カレンは悪びれもせずにケタケタと微笑んでいた。
それを見て、ショウの心は決まった。
「姉さん…、もう姉さんは引き返せないところまで進んでしまったのですね…」
両親を殺害して食べるという凶行をまるで自慢するかのように話すカレンは、身も心も完全に魔界に堕ちてしまったと言わざるを得ない。
今のカレンは人類の敵であり、このまま生かしておいたらこの先夥しい数の人間を殺すことになるのは確実だ。
「そうなる前に…、僕が姉さんの業を断ち切って見せます…」
ギッと睨みを聞かせてカレンと相対したショウの剣から赤い炎がゆらゆらと立ち上り始めている。
その顔には気負いや躊躇いといった感情は見えず、かつて姉から教えられたとおりに感情を殺しながら冷静に相手の出方を伺っていた。
「あらぁ?抵抗する気なの、ショウ……」
ショウが本気で剣を構えたことを見てカレンは少し眉を顰めたが、すぐに愉しそうに頬を緩ませると指の爪をシャキンと長く伸ばした。
「いけない子ねぇ。お姉さんの言うことを聞けないなんて……
これはちょっと、お仕置が必要なようねぇ!!」
カレンは獲物に襲い掛かる肉食獣のように一瞬背中を丸めると地面を蹴り、両手を広げながらショウに覆い被さるかのように飛び掛ってきた。
対するショウも炎を帯びた剣を前方に構えると、カレンを迎え撃つかのように突き出していった。





シオンとオウキ&タイガ、カレンとショウが火花を散らし始めた時、リュウガとシズクは魔界でも感じたことのないくらいの危機感に見舞われていた。
「ぐぅぅ…、あくまでもどかないというのですかぁ……!サイガさまぁぁ……!!」
リュウガのことをサイガ、シズクのことをポラリスと思い込んでいるクオンが全身から憎悪のオーラを放ちながら両手に小太刀を構えてリュウガ達を恨みがましく睨んでいる。
これまでクオンが襲い掛かってこないのは、リュウガがその迫力に気圧されずにシズクの前を離れずにいたからなのだが、一向にどかないリュウガにクオンの苛立ちが限界に達していた。
「ならばぁぁ…腕の1、2本は覚悟してくださいませえぇぇえ!!」
長く伸びた牙をガチガチと鳴らし、小太刀を握りすぎた掌から血を滴らせながらクオンはリュウガがいるにも拘らずシズクを真っ二つに切ろうと襲い掛かってきた。
「ぅわぁっ!!」
最初リュウガはクオンの斬撃を剣で受け止めようとしたが、そのあまりの勢いの強さにとっさに剣を引いてシズクに手を掛けながらその場に倒れこんだ。
その頭の少し上をビュン!と二振りの小太刀が通過していき、一瞬リュウガは自分の頭が吹っ飛んだような錯覚に陥った。
それはもちろん錯覚だと思っていたのだが、直後にリュウガの前に自分の切られた髪がバサッと落ちてきた時リュウガの顔は真っ青になった。
「う、うそだろ…」
自分では確かにかわしたと思っていたのに、クオンの小太刀はリュウガの反応を上回る速さでリュウガに斬りつけてきたということになる。
まずい。
この皇魔は混乱しきっているにも拘わらず、マステリオンは別格としてもこれまで戦ってきたどの皇魔より桁を外れて強い。
もしかしたらシオン様と互角か、上回るくらいの強さだ。
だとすると、とても勝ち目は……
「まだ庇われますかあぁぁああぁあ!!」
自分の斬撃をシズクを庇いながらかわされたことにさらに激高したクオンは、転げて体勢を崩しているリュウガとシズクに両手の小太刀を力任せに振り下ろしてきた。
このままでは間違いなく二人共々串刺しにされる!と直感したリュウガはシズクを抱えながら側面へと転がり凶刃を避けた。
クオンの小太刀はその勢いのまま地面へと突き刺さり、ガチン!と嫌な音を立てて切っ先が折れ飛んでしまった。
だがクオンは愛刀が傷ついたことを全く省みず、すぐさまリュウガとシズクに小太刀を突きたてようとしてきた。
「でぇい、でぇぃ!!うがあああぁっ!!」
「うわっ!ひゃあっ!くぅぅっ!!」
頭上からびゅんびゅんと突き下ろされてくる小太刀を、リュウガは起き上がる暇もないまま必死に避け続けた。
その都度小太刀の先はパキパキと欠け続けているのだが、クオンは相変わらず意にも介さない。
普通、クオンほどの腕があればここまでの間にリュウガとシズクを捕らえているはずなのだが、今のクオンは頭が混乱の極みに達している上にやはりリュウガ=サイガを傷つける後ろめたさがあるからなのか、微妙に剣先が狂って未だに二人を傷つけることが出来なかった。
「逃げ……なさりますなぁぁぁああ!!」
その追いかけっこに業を煮やしたのか、クオンは先がボロボロになった小太刀をグッと握り締めると、そのままリュウガたち目掛けて飛び込んできた。
もし小太刀をかわされたとしても体当たりで動きを封じ、そのまま次に確実な一撃を叩き込もうというのだ。
「まずいっ!逃げろ、シズク!!
これは確実に避けられない!そう確信したリュウガはとっさにシズクを突き飛ばした。
クオンが狙っているのがシズクだというのが分かっている以上、このまま二人がクオンの体当たりに巻き込まれたら次の一撃でシズクは確実に息の根を止められてしまう。
ならばここはシズクと離れ離れになったほうがまだシズクが生き延びる可能性が出てくるとリュウガは睨んだのだ。
「きゃっ…」
不意に突き飛ばされ地面を転げたシズクに写りこんできた光景は、標的がなくなって戸惑いの表情を浮かべるクオンがシズクのほうを見たままリュウガに倒れこんでいくところだった。

「うおっ!」
「わぷっ!!」

結構な勢いで倒れてきたので双方とも相当痛かったのではと思うのだが、幸か不幸かクオンの胸がちょうどリュウガの顔に当る体勢で倒れてきたので二人ともそれほどのダメージはなかった。が
「む、むぐぐ――っ!!」
リュウガのほうは顔一杯にクオンの豊満な胸が広がり、圧倒的な圧力でリュウガの顔に押し付けられている。
ギュッと押し付けられた胸からは体温こそ殆ど感じられないものの、スベスベとした肌触りはまるでリュウガの顔に張り付くように吸い付いてきて、肌からほのかに薫ってくる雌の体臭はリュウガの頭をクラクラと惑乱させてきている。
(は、早くどかさないと!!)
リュウガはクオンの胸に手を添えると、ぐいぐいと押したり引いたり押したりしてなんとか顔から引き剥がそうともがいた。
それは呼吸をするのも大変だというのもあったのだが、このままにしておくと先ほどシオンに心を囚われた時の様になってしまいそうな気がしてきたからだ。
「むーっむーっ!!」
「あっ!ち、ちょっと…サイガさ……」
ぐにぐにと無造作に胸を弄くるリュウガに、クオンのほうも顔の険が取れ戸惑いの表情を浮かべていた。
「むぐぐ……ぷはぁ!!」
そして、ようやくクオンの体そのものを持ち上げてようやくリュウガは視界と呼吸の確保をすることが出来た。
が、目の前が明るくなった瞬間、リュウガの額に生暖かいものがぱたりと一滴降ってきた。
「はぁ……はぁ……。え?」
何が当ったのかとリュウガが視線を向けると、そこには

「はあぁ……あははぁ………。サイガ、さまぁぁ………」

そこには淫欲で顔を紅潮させ、瞳を獣欲でギラギラと輝かせたクオンの顔があった。
「ひっ……」
普通に見ればクオンの顔は美人の範疇に入るものであり、その美人が発情して自分を見つめているのだから普通の男なら胸が高鳴るところなのだろう。
が、クオンの表情は非常に鬼気迫っており、リュウガは胸が高鳴る前に底知れない恐怖を感じてしまった。
「サイガさま……サイガさまぁぁ……!」
リュウガをサイガと思い込んでいるクオンにとって、リュウガを組み伏せている今の状態は積年の思いを添い遂げる正に絶好の機会と言えた。
「いいわよクオン様!そのままリュウガの首根っこを引っこ抜いて頂戴!」
外野でテラスが何事か喚いているが、勿論そんな声はクオンには聞こえていない。
「あはは……あははぁ!」
クオンは乾いた笑いを浮かべながらぺろりと舌なめずりをするとそのまま体をリュウガへ向けて傾け、両手をぐわっと広げてリュウガの顔へと伸ばしてきた。
(まずい!絞められる!)
クオンがテラスの命令で首を絞めに来たと察したリュウガはとっさに両手を顔の側面に回して首を保護する姿勢を取った。
ところが、クオンの両手はリュウガの首には伸びずにリュウガの側頭部をがっしりと掴んできた。
「えっ………んむっ!」
何をしに来たのかと戸惑うリュウガだったが、次の瞬間リュウガの唇は迫ってきたクオンの唇によりギュッと塞がれてしまった。

「ん!んんんぅ!!」
「ん――――っ!ん―――っ!」

まさか唇を奪われるとは思わなかったリュウガとは対照的に、クオンは目をうっとりと潤ませながらリュウガの唇を物凄い勢いで吸い、舌で嘗め回し始めた。
(な……なんだこれぇ!)
戸惑うリュウガを尻目に、クオンはリュウガにキスの嵐を降らせ愛しそうに嘗め回してくる。
「ち、ちょっとクオン様!何をしているのよ!!
そんなことしていないで、とっととリュウガを殺しなさいったらぁ!!」
リュウガが死ぬ光景を心待ちにしていたテラスも、クオンの予想もしない行為に一瞬あっけにとられた後まなじりを吊り上げて食って掛かったが、クオンはテラスのほうなど見向きもしないでリュウガを責めるのに没頭していた。
「サイガ様……サイガさまぁぁ……」
冷たいながらも柔らかい唇と、軟体生物のように滑り這いまわる舌の動き。
当然キスの経験など全くないリュウガに、その感触は刺激的過ぎた。
唇の上をにゅるにゅると動き回る舌のくすぐったさと艶かしさに、リュウガはついつい口に入れた力が緩んでしまい僅かながら口を開いてしまった。
「……んっ!」
その隙を見逃すクオンではなく、その僅かな隙間をこじ開けるかのようにクオンの舌がリュウガの口の中へと突入してきた。

「んんん――――ッ?!」

驚くリュウガを完全に無視し、クオンはリュウガの口の中の隅々まで舌で蹂躙し始めた。
その蛇のように長い舌でリュウガの舌を巻き取ってぐにぐにと弄繰り回し、舌先を口腔粘膜に這わせてじゅるじゅると音を立てて吸い、喉の奥まで舌を伸ばして決して人間の舌では触れられない部分をちろちろと舐め回す。
「んぐっ!んんん〜〜〜〜っ!!!」
今まで全く体験したことがない未知の刺激。しかも口を弄くられているだけだというのに腰が抜けそうなほどの快感が全身を駆け巡っている。
クオンの舌技に次第にリュウガの眼はとろんと緩み、顔はのぼせたように赤く染まっていき、全身の力が抜けたようになってクオンの為すがままになっていった。
「んふふふふぅ………」
組み伏せているリュウガが抵抗を止めたことにクオンは目を悦びに歪め、さらにリュウガへの責めを高めていった。
すでに布越しにも分かるほど濡れている腰をリュウガの太腿に摩り付けてしゅっしゅっと前後に軽く揺すり始め、九本の尻尾はリュウガの足や腰、腕などに絡まってしゅるしゅると尻尾の腹の部分でリュウガの体を刺激していった。
「んふぅ……、んふぅぅ……!」
冷たい液がちゅるちゅると滑った音を立てながら太腿を擦る感触にリュウガの心は戦慄き、冷たくつるつるとした尻尾の腹が皮膚を擦るたびに妖しい刺激がリュウガの脳をぐにぐにと揺らした。
(あ、あああ!気持ちいい!!)
リュウガはいま自分がどういう状況なのか、何をされているのかということすら考えられなくなり、顔をガードしていた手はいつの間にかクオンの顔に伸び、ぎゅっと強く抱きしめていた。
「んぐぅ…んぐぅぅ……」
クオンの舌から冷たくも甘い唾液がとろとろと喉に流れ込み、まるで強い酒のように体の奥をボッと熱く燃え上がらせてくる。
もっと飲みたい。もっと吸いたい衝動が湧き上がり、リュウガは口の中で蠢くクオンの舌に自らの舌を絡めてちゅうちゅうと強く吸ってきた。
クオンもそんなリュウガに応え、両手でリュウガの頬を抑えて舌を扁桃腺の奥まで伸ばして、喉をつるつると擦りながら唾液をこぷこぷと流し続けた。
「んん……ぷぁ………」
散々リュウガの口を責め続けてようやくクオンが唇を離した時、リュウガは魂が抜けたように呆けた表情のままクオンを焦点の合わない目で見つめていた。
「ぁ……ぁあ………」
真っ赤に頬を染めたリュウガの手はかたかたと震えながら少し上にあるクオンの顔に伸び、だらしなく開いた口からはだらだらとこぼれる涎と共に舌が名残惜しそうに顔を覗かせていた。
「うふふふ……、サイガ様ぁ……。いい表情ですよぉ……」
リュウガをサイガと思い込んでいるクオンに、今の発情しきったリュウガの姿は自分の舌技でドロドロに蕩けたサイガに見えており、サイガが自分に対して欲情しきっていると考えるだけで皇魔になって目覚めたクオンの心の中の被虐心がムクムクと膨れ上がってきていた。
「ここは…、どうなっているんでしょうね……」
クオンの手がスッとリュウガの腰に伸びて股間にそっと手を這わせると、そこは火傷しそうなくらいに熱く滾り岩のように硬くなっていた。
「あうっ……!」
もどかしいほどに疼いている股間に布越しに冷たい指の感触が伝わり、リュウガは顔をくねらせて弱々しい悲鳴を上げた。
「あはっ……、痛々しいくらいに硬くなっていますよ。サイガ様ぁ……」
リュウガの苦悶の表情を見てゾクゾクと背筋を振るわせたクオンは、ズボンの上からギュッとリュウガの逸物を摘みくいくいと指を弄くった。

「あ、あああっうあぁああ!!」

そのあまりにも強烈な刺激に、リュウガは目を見開いて身悶えてしまった。
過去に自分の手で行った自慰とは比べ物にならないくらいの快感。股間から発せられた電撃のような痺れは脊髄を伝ってそのまま脳に達し、一瞬目の前が真っ白になるくらいの刺激をリュウガに与えてきた。
リュウガの腰は無意識のうちにビクン!と跳ね、その力は上に圧し掛かっているクオンまで持ち上げるほどだった。
「どうですかサイガ様ぁ。きもちいぃですかぁぁ?!」
「うあ、あ!気持ちいい!!きもちいぃいよぉおお!!
ゆびがきもちいい!きもちいひ!きもちよすぎておかしくなっちゃうぅ!!」
クオンの壷を知り尽くした手淫にリュウガは瞳孔を目一杯広げ、苦悶とも悦楽ともとれる表情を浮かべて狂気が入り混じった絶叫を放っていた。
「うふふふ……。いい顔ですよサイガ様。とっても可愛らしくて、とぉってもいやらしい……ククク!」
リュウガの悶え様に調子に乗ってきたクオンは、リュウガの腰紐を外すとそのまま手をズボンの中へと突っ込み、下着を引き千切ると直接リュウガの逸物を弄りまわし始めた。

「ひきぃぃっ!!」

ペニス全体が直接クオンの手に握り締められ、その冷たさと心地よさにリュウガは一瞬気が遠くなるほどの快感を受けてしまった。
先ほどのまでの責めにより先走りでぬるぬるになった竿とクオンの扱く指が擦れ、ぬっちゅぬっちゅと聞くだけで赤面してしまいそうな卑猥な音が耳に響いてくる。
が、それすら今のリュウガには快感を増幅させるスパイスであり、虚ろに笑う顔からは理性の色が消えかけていた。
「うっ、うはぁあ…きもちいぃ…。もっと、もっとぉ……」
すでに快感を貪ることしか考えられなくなっているリュウガはクオンの顔を掴むと強引に自分の顔に引き寄せ、その唇にむしゃぶりつくと力いっぱい吸ってきた。
クオンもそんなリュウガを拒むことなく、うっとりと目を蕩かせるとクオンもリュウガの唇を吸い始めた。
(ああ……サイガさまぁぁ……。クオンは幸せ者ですぅ……)
サイガと愛し合っていると思い込んでいるクオンの顔からはそれまであった狂気じみた険も内から滲み出てくる皇魔の邪悪な気配も失せ、無邪気な子供のような笑みを浮かべていた。
(もっと…もっと気持ちよくしてさしあげます…。サイガさまぁ…)
クオンは唇を吸いあい、右手でペニスと睾丸を弄くり、左手をリュウガの臀部に伸ばすと指を菊座に出し入れし、尻尾の先端で耳穴を穿り、腋をくすぐり、太腿を撫で回した。

「ん゛ん゛ん゛〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

全身から与えられてくる人外の快感に、リュウガは頭の線がが焼ききれる寸前になるくらいまでの高みに達しながらも、なお強烈な刺激を求めてクオンに体を預けなすがままになっていた。
異常な光景ではあるものの、互いを愛し合うその光景は多少歳が離れているとはいえ、間違いなく恋人同士の睦み合う姿だった。

周りの状況を全く鑑みなければの話だが。





(リ、リュウガ……)
体の自由が聞かないシズクは、二人のあまりにも刺激的な光景に真っ青だった顔を真っ赤にして魅入ってしまっていた。
本当なら今のうちにここから出来る限り離れて他の光の戦士たちと合流し、リュウガを助けて貰うようにお願いしなければならない。
しかし、周りを見渡すと他の三人のいずれも激しく交戦中でとてもリュウガの救援に回れるような余裕はない。
ならばこの場を離れるだけでもしなければならないのだが、シズクの眼はリュウガとクオンの艶かしい姿を捉え続け、その場に釘付けにされたかのように留まり続けた。
(な、なにこれ…。体が、熱い……)
クオンの肢体がリュウガの上でくねりくねりと蠢き、その都度リュウガが甘い悲鳴を上げる度にシズクの体の奥で先ほどまで騒いでいた疼きがズキズキと頭をもたげてくる。
全身の皮膚が火傷をした後のように刺激に敏感になって軽く風が当っただけで無意識に背筋が跳ね、胸の先は痛いほどに固く尖り下腹部は懐炉でも入れているかのように熱く滾っている。
命のやり取りが繰り広げられているこの場になんとも似つかわしいのだが、シズクは間違いなく目の前の光景を目にして胸を熱くしていた。

欲しい

先ほど抑えようがないほどにシズクの心を揺さぶっていたリュウガに対する感情がまたムクムクと頭をもたげて来た。
自分の目の前でメロメロに蕩け、股間を突っ張らせているリュウガ。
リュウガが欲しい。あの若く、生命力に溢れた体が欲しい。
あの体を嘗め尽くし、その命を…
「あ、あぁあ…」
シズクの手は無意識にリュウガへと伸び、見開いた目は魅入られたようにリュウガを捉えていた。
そしてぺたりとしゃがみこんでいた体がゆるゆると起き上がった時…
シズクの前に黄金の槍がぬっと顔を出した。

「まったくあの色ボケ狐……。肝心なところで役に立ちはしないわ」

シズクの横にはテラスが物凄く不機嫌な顔をしながら槍をシズクへと突きつけている。
「他の連中も手が離せないみたいだし……、しょうがないからシズク、お前はこの私が殺してあげる。光栄に思いなさい」
「うぁ…?」
自分に突きつけられた槍をきょとんと見ているシズクに、テラスは口から牙を覗かせて微笑んだ。
「ふふふ…どうやらあなた、体の調子が悪いらしいわね。
どう?今あなたを助けてくれる仲間は誰もいないわ。みんな闘ったり乳繰り合ったりで手が離せないの。あなたを省みる余裕もありはしないわ。
あなたはこれから、誰にも気づかれないうちにその胸板貫かれて死ぬの。なんて惨めな死に様なんでしょうね!ククク!」
けらけらと笑いながらくい、とテラスは腕を動かし、槍の穂先がシズクの胸にちくんと触れた。
「あ…!」
じんわりと浮き出てくる自分の血の赤い色を見て、シズクは憑き物が落ちたかのように目に理性を取り戻し、這うように後方へ下がった。
「テ、テラス様……!」
ところどころ悲鳴を上げる体に鞭打ってシズクは双頭大蛇を構えながら立ち上がったが、目元はかすみ腰はがくがくと笑い、頭の中が割れそうにガンガンと響いている。
これではとてもではないがテラスと相対するどころではない。
かと言って逃げようにも脚がまともにう動かない上に逃げる場所もあてもない。
絶望に顔を青くするシズクに対し、テラスは獲物を追い詰めた猟師のような優越感を味わっていた。
「ほらぁ!もっと絶望しなさい!あなたを助けてくれる人間はもう、どこにもいはしないのよ!!」
勝ち誇ったテラスは槍を両手に構え、シズクにびゅんびゅんと突き出してきた。
それは明らかに嬲るのを目的にしており、シズクの腕や脚目掛けて穂先を突き出してきている。
テラス自身の力はたいしたものではないようでシズクも必死に腕を振ってテラスの槍撃を防いではいるが、やはり体調不良はいかんともしがたく体のあちこちでテラスの槍が抉った傷が増えていっている。
「キャハハハ!なにその弱さ!そんな腕で皇帝陛下を滅ぼしたっていうの?!
私みたいな小娘に追い込まれるあなたが、よくそんな大それたことを出来たものだわ!!」
顔を顰めながら全身から赤い血を流すシズクを見てテラスの心ははますます高揚し、槍を突き出す早さもどんどんと早くなっていっていった。
シズクの体の前に構えた双頭大蛇にも容赦なくガィンガィンと音を立てて槍が当たり、その圧力にシズクの腰ががくりと折れる。
だるさと疼きで本来ならとっくに意識を失ってもおかしくはないのだが、皮肉にもテラスによって刻まれた各所の傷の痛みがシズクの意識を刺激して失神するのを防いでいた。
が、絶望的な状況に変わりはない。
(ダ、ダメ……。防ぎきれない……!)
すでに双頭大蛇を握るシズクの握力はなくなる寸前で、テラスの槍の勢いに手放しかねない状況にまで陥っている。
このままではいつか反撃手段を失い、自分はテラスの槍に胸板を貫かれるだろう。
それを防ぐためにはテラスを動けないようにするしかない。
だが、今の状況でどうやったらテラスの動きを止めることが出来るのだろうか。
シズクの体調が万全だったら造作もないことなのだが、今の状態ではもしかしたら人間だった時のテラスでさえ組し得ないかもしれない。
もし出来るとすれば…
(…捨て身しかない、か!)
とにもかくにも懐に飛び込んで槍を防ぎ、渾身の力を込めて当て身をすればもしかしたらテラスを気絶させられるかもしれない。
確率は物凄く低いが、できなければどのみちジリ貧なのだ。
「……、よし!」
覚悟を決めたシズクは震える足腰を強引に踏ん張り、双頭大蛇を前にかざして猛然と走り始めた。

「うわぁぁああああああっ!!」

体が思うように動かないシズクだが、残った力を振り絞って進む脚は思いのほか速く、まさかここで反撃をしては来ないだろうと思っていたテラスの不意をつくには充分だった。
「なっ?!まだそんな力が?!」
慌てたテラスは急いで槍を突き出したが、不完全なためで放たれた槍撃は虚しく双頭大蛇に弾かれたのみならず、そのまま槍はテラスの手を離れて後ろに弾き飛ばされてしまった。
「きゃあっ!」
槍を弾かれた衝撃でテラスの体はバランスを崩し、おおきくたたらを踏んでしまった。
(しめた!)
これはシズクにとっては正に千載一遇の大チャンスだった。
このままテラスの懐に潜り込んで鳩尾に拳骨をくれてやれば、いくらなんでも気を失うだろう。
「ごめんなさい、テラス様!」
シズクは双頭大蛇を投げ捨てると、右拳にありったけの力をこめてテラス目掛けて突き出した。
これがテラスの体にめり込めばシズクは危機を脱出できる。
ところが

「…かかったわね」

槍を飛ばされ形勢が不利になったはずのテラスの顔が不気味に微笑んだ。その直後

ドキュ

シズクの胸に微かな痛みが走った。
「え…?」
何事かとシズクが自分の胸を見ると、そこにはテラスの腰から伸びてきた黒い尻尾が自分の胸に吸い込まれていた。
「あ……、かふっ!」
テラスの尻尾に突き刺された。とシズクの頭が理解した直後、胸の奥から熱いものが喉を伝って込み上げ、シズクの口から赤い血がごぼりと溢れてきた。
「キャハハッ!残念でーしたーっ!今一瞬勝ったとか思わなかった?
ちょっと考えが浅いんじゃないかしら?あそこで簡単に私が槍を手放すと思ったぁ?!」
薄笑いを浮かべるテラスがシズクに突き刺さった尻尾の先をぐりぐりといじくる。
「なわけないじゃないの!あれはわ・ざ・と!あなたにちょっとだけ希望を与えただけのお芝居よ!
思ったでしょ?これで勝てるって!思ったでしょ!これで死なないですむって!!
叶いもしない希望を与えて、その後に絶望に叩き込む!ああなんて面白いのかしら!!」
つまりテラスはシズクに更なる絶望を与えるため、シズクの策にひっかかったふりをしていただけだったらしい。
「うぅ……、そんな……」
尻尾に貫かれた傷口から、悔しさにぎゅっとつぐんだ口から血が止め処なく流れ落ちてくる。どうやら肺も傷ついたようで次第に息苦しくなってきている。

「「シズク!!」」

オウキやショウがシズクの異変を察して声をかけるが、自分たちも戦っている最中なのでそれ以上のことをシズクにすることは出来ないでいる。
そんな中、シズクの体は腰からがっくりと崩れ、ぺたりと膝が地に付いた。
大量の出血から目の前が暗くなり、痛覚も麻痺して次第に痛みが感じられなくなってきている。
「いい気味ねシズク!こうして誰にも助けられず、仲間が乳繰り合っている前で不様な死を迎えるなんてさ!
これも皇帝陛下に歯向かった報いだと思いなさい!ああいい気分!」
相当に気が晴れたのか、テラスはひとしきり笑うとぬぷりと尻尾を引きずり出し、血塗れの先端を舌で丁寧に舐め取った。
シズクのほうはそのまま声もなくどさりと前のめりに倒れ、そのまま突っ伏してしまった。
「一足先にあの世とやらにいっていなさい。すぐにそこにバカ顔晒して喘いでいるリュウガを連れて行ってあげるから」
テラスは黒光りする尻尾を高々と上へ掲げると、クオンに嬲られているリュウガの元へと近づいていった。
どうやらクオンごと串刺しにするつもりらしい。
「ぅ…………」
テラスが次第に遠ざかる姿を、シズクは光を失いかけた目でじっと追っていた。
(あぁ……、リュウ  ガぁ………)
シズクはリュウガのほうへ手を伸ばそうとした。が、もう指一本すら体を自由に動かすことが出来ない。
どくどくと流れる血と共に、シズクの心も一緒に流れ出しているような感覚すら覚える。
頭の奥が眠る直前のようにスゥーッと霞がかったようになり、ものを考えること自体が億劫になっていっている。
いやに耳に響く鼓動が次第に小さく途切れ始め、指先辺りから熱が失われていっているように感じられる。
(もう………、だ め……)
ついには目の前が完全に真っ暗になり、シズクの意識はぷつりと途切れてしまった。
辛うじてあった意思の光が完全に消え去り、光を失った目からぽろりと一粒の涙が零れ落ちた時

「……っ!」

シズクの瞳が異様な赤色に輝いた。
指一本動かせないくらい消耗していた体がまるで糸に引かれるかのようにむくりと起き上がり、リュウガに近づくテラスの後をふらふらと追って行く。
不思議なことに、先ほどまでだらだらと血が流れていた胸の傷は完全に塞がっていた。
というより、内側から込み上げてきたなにかによって傷口が無理矢理埋め込まれていた。
「…………」
シズクは瞳を真っ赤にぎらつかせながら、今にもリュウガを射殺そうとしているテラスに腕を伸ばした。





「あぁあ…っ!もっと……もっ、とぉぉ………!」
「うふふ、わかりましたぁ…。もっと、もっと気持ちよくして差し上げますぅ……」
クオンに淫らな奉仕を受け続けているリュウガは、顔を涙でくしゃくしゃにしながら喘ぎ狂っていた。
自慰よりもはるかに強烈な快感はリュウガの心をドロドロに蕩かし、体に纏わりついてくるクオンのなすがままになって与えられる快楽を貪っていた。
クオンのほうもリュウガが自分の手練手管で悶える姿に気を昂ぶらせ、リュウガの全身を責め苛むことに没頭しきっていた。
そのため二人とも、自分の背後に迫ってきたテラスに全く気づくことはなかった。
「全く…盛りのついたケダモノみたいにがっついちゃって……。まあそれでこそ私が望む世界の住人に相応しいのだけど」
クオンとリュウガを見るテラスの目には嘲りと愛情の光が半々に輝いている。
思い通りにならないクオンとマステリオンを滅ぼしたリュウガは憎むべき対象なのだが、自分の欲望のままに突っ走るその姿はテラスにとっては決して不快なものではない。
が、だからといって手心を加える仏心など持ち合わせてはいない。
「ふふ……、自分のしたいことをやり続けながら、逝っちゃいなさいな」
テラスは尻尾を掴み、うねうねと動かしながらクオンの背中へと持っていく。
黒く滑ったその鎌首を照準を定めるかのようにちょんちょんと微調整をし、正確にクオンとリュウガの心臓を貫ける位置にまで持っていった。
「ではさようなら、クオン様。そしてリュウガ」
ばいばいと小さく手を振ったテラスはそのまま尻尾に力を入れ、その先端がつぷぷとクオンの背中にめり込んだ時

「っ?!」

テラスの背後から突然尻尾がむんずと捕まれ、そのまま物凄い力で握り締められた。
「ち、ちょっと……!誰よ邪魔するのは……?!」
敏感な尻尾をぎゅっと捕まれた刺激と痛みでテラスは眉をぎゅっと顰め、自分の愉しみを邪魔した輩を悪意満ち溢れる眼光でひと睨みして…
表情が凍った。

「いっ?!………シ、シズ…ク?」

そこには目を赤く光らせ、無表情のまま尻尾を掴むシズクの姿があった。
テラスを睨むシズクの眼光は異常に鋭く、無意識に背筋が震えてしまうほどだ。
「な、なんで……?なんで生きているのよシズク!確かに私の尻尾はあなたの心臓をぶち抜いたはず……」
信じられないといった感じでテラスは自分が穿った傷口に目をやったが…
テラスの尻尾が貫いた部分からは既に血は一滴も流れておらず、代わりに緑色に光るゲル状の異様な物体がうねうねと蠢きながら傷口を塞いでいた。
「…な、なによ、それ……」
青ざめた顔でゲルを指差すテラスにシズクは全く反応せずにテラスの尻尾を掴んだままブン!と腕を振り、そのままテラスを投げ飛ばしてしまった。

「うきゃ〜〜〜〜っ!!」

シズクの怪力を以ってしても到底なしえないような遠くまでテラスは吹っ飛び、悲鳴に気づいたシオンや光の戦士たちが剣戟を止める中テラスは森の中へと消えていった。
そんなテラスを一瞥することもなく、シズクはリュウガに跨るクオンへと手を伸ばしていった。


「ハァハァ……。サ、サイガさまぁぁ……」
延々と続けてきた奉仕で昂ぶりきったのか、それともずーっとお預けをしていたことに我慢ならなくなったのか、クオンは自らの腰布を投げ捨て、膝立ちになりながらリュウガに跨った。
リュウガのペニスの真上に位置付けたクオンの秘部は、当然の事ながら剥き出しになったリュウガのペニスの真上にあり、滴る冷たい蜜がぽたぽたとリュウガのペニスにかかり、その冷たさと心地よさにリュウガはペニスをぴくつかせながら熱い喘ぎ声を放っていた。

「も、もういいですよね?サイガ様を中に入れてしまっていいですよねぇ?!
こんなに苦しそうになさっていらっしゃるんですもの!全然、構いませんよねぇ?!」
「う、うん!うんうん!!」

クオンの切羽詰った問いかけに、リュウガもまた目をぎらつかせながらガクガクと首を縦に勢いよく振った。
正直リュウガのほうも全身を駆け巡る燃えるような熱さに我慢の限界に達していた。
下半身に溜まりまくったこの熱を外に出さないと、もどかしさとじれったさで気がおかしくなってしまいそうだ。
もうこの人が皇魔だろうとなんだろうと関係ない。自分をこの悶々とした気持ちから解放してくれるなら何をされてもかまいはしない。
「はやく!はやくして!!俺、俺もうこれ以上なにもされないと変になる!狂っちゃうよぉ!!」
四肢を尻尾で縛られ碌に身動きできないリュウガは泣き叫びながらクオンに突っ込んでもらうように懇願した。
決して射精させられずに焦らされ続けたペニスは少年のものとは思えないほど大きく怒張し、切れそうなほどに張り詰めた青筋を一杯に浮かびだして先端からとろとろと粘液を流し続けていた。
自分の敬愛する主君が浅ましく股間を膨らましながら、泣き叫んで自分に犯してくれとお願いしてくる。
「あっ、あはっ!あはははは!!最高ですよサイガさまぁ!!クオンは、クオンはそんなサイガさまを見ているだけで達してしまいそうですぅ!!」
そのあまりの背徳さ加減に闇の快楽を求めるクオンの心は歓喜の悲鳴を上げ、興奮しきったクオンの体からどす黒い瘴気がぶすぶすと周囲に漂い始めていた。
それに伴って、クオンの心に一つの抗い難い欲望が浮かび上がってくる。
リュウガを拘束していた九本の尻尾がぱらりと解かれ、うねうねとクオンの背後で鎌首をもたげている。
その先端は黒く光り、溢れ出た瘴気がゆらゆらと揺らめいていた。

(サイガ様に尻尾を突き立てて、私の力を溢れ出るほど注ぎ込みたい!)
クオンが皇魔と化して以来散々と味わってきた、人間に皇魔の力を注ぎ込んで内なる欲望を吐き出させて皇魔へと生まれ変わらせる快感。
泣き叫んで嫌がっていたシスターが、皇魔となった途端涎を拭おうともしないで同僚に襲い掛かって尻尾を突きたてた。
性の知識などなにも知らない無垢な男の子が、母親ほど歳の離れた女性を嬉々として犯し精液便所に変えてしまった。
あの犯され続けていたときに気丈に振る舞っていたシオンだって、皇魔となった後は率先して人間を犯し皇魔の版図を広げる尖兵となったのだ。
それだけ他人を堕とす快感は他に得難いほどのものなのだ。
ましてや今回の対象は、自分が最も敬愛し最も大事にするべき主君なのだ。
自分の手で、その大事な人を汚して魔に染め上げ、自分と同じ存在にする。
恐ろしいほど無礼な行為だが、その禁忌を犯すことがまた非常に心地よい。
サイガ様も皇魔になれば、その素晴らしさがわかるはず。
そうすれば、魔に変えた私に感謝をし、さらなる寵愛を授けてくれるに違いない!

皇魔に変わったサイガの姿、そして自分を愛してくれるその光景を妄想し、だらしなく緩んだクオンの上の口としたの口から涎が止め処なく流れ落ち、湧き上がる瘴気もその濃さを更に増していった。
「サイガさま……。今、その苦しみを和らげて差し上げます。このクオンの体を、存分に味わってくださいませ…」
クオンはゆっくりと腰をおろし、リュウガのペニスの先端を自分の潤んだ秘部に擦り当てた。

「はうっ!!」

その吸い付くような冷たい粘膜の心地よさに、リュウガは若鮎のように飛び跳ねた。
「うふふ…。そして……」
クオンの尻尾が獲物を求めるかのようにうねうねと動き、リュウガのお尻にぴとりと先端を当てた。
「男では…いえ、人間では決して味わえない心地よさを与えて差し上げますわ……」
サイガ様のペニスを咥え込んで精気を一滴残らず搾り取り、からっぽになったサイガ様の体を皇魔の黒い光で満たして皇魔に転生させる。
「一体サイガ様はその心の奥に、どんな欲望を持っていらっしゃるんでしょうかねぇ……ククク!」
サイガが皇魔になった姿の期待に胸を弾ませながら、クオンは焦らすようにゆっくりと腰を下ろしていった。
「あっあっぁっ!!気持ちいい!冷たくて気持ちいぃぃ〜〜〜っ!!」
つぷぷ、とスローモーションのようにリュウガのペニスがクオンの膣内に埋まっていき、熱く滾ったペニスが冷たい粘膜に包まれていく快感にリュウガは歓喜の悲鳴を上げ、四肢をばたつかせて悦びを表した。
その四肢に、今度はぴとぴとと尻尾の先端が当てられてくる。
「さあサイガ様、その精を一滴残らず私めに注ぎ込みくださいませ!
その代わりに、天にも昇る気持ちの中で素晴らしい力を差し上げますからぁ!!」
主を犯し穢す背徳の悦びに打ち震えたクオンが、リュウガの精を搾り取ろうと一気に腰を下ろそうとした、まさにその時

バァン!

「がぁっ?!」
クオンの横っ腹にいきなり物凄い勢いで裏拳がめりこみ、そのままクオンは横っ飛びに吹っ飛ばされてしまった。
「あぁあああ……ぁ?」
ずぷずぷとペニスが冷たい粘膜に包まれていく快感に溺れていたリュウガは、いきなりちゅぷんという音とともにペニスが剥き出しにされ、情けない声を上げた。
「あれぇ……お姉さん、いなぃ……。どこ?どこぉ……」
さっきまでのクオンの責めで腰に全く力が入らず、立ち上がることも出来ないリュウガは首をゆっくりと動かしてクオンの姿を求めたが、クオンより先に二本の脚がリュウガの目に入ってきた。
「えぁ……?」
リュウガがその脚の持ち主は誰かとゆっくりと顔を上げると、そこにはリュウガを見下ろすシズクの顔があった。
「あ………シズク……」
「………」
下半身を丸出しにしてガチガチに勃起したペニスを異性の仲間に晒しているにも拘わらず、色惚けしたリュウガの頭はそのことを深刻に考えずにシズクに緩みきったした笑顔を向けた。
対するシズクのほうは相変わらず瞳を真紅に輝かせながらリュウガを無表情に見下している。
が、横たわっているリュウガをジッと見つめていたシズクの口元が不意にニィッと不気味に微笑んだ。
「………」
シズクはそのまま腰をかがめるとリュウガの頭の横に両手をつけ、ゆっくりとリュウガの顔に顔を近づけてきた。
「あ……シズク?今度はシズクが気持ちよくしてくれるのぉ……?」
能天気にもリュウガは、シズクがクオンの代わりに自分を犯してくれるものと思い爛れた笑みをシズクに向けた。
シズクのほうはリュウガの問いかけに応えることもなく、薄く開いた唇をリュウガの唇に重ねようとしている。
「あ…キス、好き……。あの口の中くちゅくちゅしてくれるキス……」
シズクが口腔を蹂躙するディープキスをしてくれるものと思ったリュウガはかぱぁと口を開いて舌を突き出し、シズクが唇を重ねてくる瞬間を思い心躍らせた。
が、その時

ジュルリ……

シズクの口元からどろりと粘液が糸を引いて落ちて来たかと思うと、シズクの口から翡翠色に光るゲル状の物質が流れ落ちてきた。
「……えっ?!シ、シズク!」
その異様な光景に瞬時に我に返ったリュウガは慌てて起き上がろうとするものの、ガシッとシズクの両手がリュウガの側頭部を押さえるとそのままシズクはリュウガの上によっかかってその動きを封じてしまった。
「………」
口からゲルを垂らしたまま、シズクは光る瞳を邪悪な悦びに歪ませてリュウガに口付けをしようと迫って来る。
「シズク!ま、待って……むぐぅぅ!!」
リュウガはなんとかシズクを振り払おうとしたが、完全に上に圧し掛かられている上にクオンとの情事で全身が重だるくて力が入らず、そのままシズクに唇を奪われてしまった。
「ん!んんんぅ!!」
シズクの唇はまるで死人のように冷たく、リュウガはゾッと背筋を震わせたがそんな気持ちも一瞬だった。
シズクの口から溢れてくるゲルがどろどろとリュウガの口に入り込み、どんどん体内に流れ込んでいく。

「んぐ―――――っ!!」

強引にゲルを飲まされていく苦しみにリュウガは力いっぱい暴れて抵抗しようとするが、シズクに完全に体の自由を奪われており全くびくともしない。

(……なかなかの器、だ……。聖龍の末裔よ…)

おぞましさと苦しさでバタバタともがくリュウガの耳に、突然何者かの声が響いた。
その声は非常に低い音質の男のもので、勿論リュウガでもなければシズクでもない。ましてや他の光の戦士や皇魔たちものものでもない。
しかし、リュウガにはその声が何者かが即座に分かった。そしてわかって戦慄した。
何故ならその声は、自分たちが滅ぼしたはずの魔王マステリオンのものだったからだ。
(マ……マステリオン?!なんで?!なんでマステリオンの声がするんだ……?)
声の主はどこからなのか、顔をシズクに固定されていて動かせないリュウガは必死に目を動かしてマステリオンの存在を確かめようとしたが、あの黄金の鎧を纏った怪物の姿はどこにも見えない。
(そ、そんな馬鹿な…)
自分の耳にあれだけはっきり聞こえているのだから近くにいないはずがない。
だが肝心のマステリオンはどこにもいない。
(どこを探しているのだ、聖龍の末裔……。我はお前のすぐ近くにいるぞ。そう、物凄い近くにな……)
マステリオンを見つけられず気が急くリュウガの耳にまたマステリオンの声が響いた。
(ふざけるなマステリオン!だったらお前はどこに……)
小馬鹿にしたようなマステリオンの声に憤ったリュウガの声が途中で止まった。
今までリュウガをジッと射抜くように見つめていたシズクの赤く輝く瞳に見覚えがあることをリュウガは思い出したのだ。
そう、
その瞳の色は、あの魔王マステリオンの瞳と全く同じものだった。
(!!!まさか……!)
(察しの通りだ。聖龍の末裔よ)
認めたくない恐ろしい現実にリュウガは息を飲み、シズク…いやシズクの皮を被ったマステリオンは面白おかしそうに瞳を細め、リュウガの耳に…いや、リュウガの『頭の中』に直接言葉を届けた。
(我は貴様らに肉体を滅ぼされた。が、聖龍石に残っていた我の魂の残滓を鎧羅の末裔に宿させ、内からその力を吸収していったのだ。
そうすることで我は次第に力を取り戻し、この肉体をある程度自由に動かせるところまで回復できたわけだ。
まあ、下僕の手違いでこの依代を滅ぼされそうになったが、それが我にこの肉の主導権を得るきっかけになったのだから世の中何が幸いするかわからぬものよ)
そう言いながらマステリオンは先ほどテラスに突き刺された傷跡をくいくいと指差した。
今はそこからもシズクの体内で増殖したマステリオンのゲル状の体がどろどろと滴り、リュウガの肉体の上にぼたぼたと垂れ落ちており、服の下まで染み込んで広がっていっている。
(だが、もうこの依代からは力を吸い尽くしてしまって一滴も搾り取れぬ。おまけに肉体そのものが大きな損傷を負ってしまったのでな…。そこで)
そこまで言ってシズク…マステリオンはさらに唇をぎゅっと押し付け、足をリュウガの脚に絡め全く身動きが出来ないようにしてきた。
(そこで、今度はお前の体を依代として使わせていただく)

(!!)

つまり、マステリオンはリュウガの体を乗っ取ろうとしてその体をシズクからリュウガに移そうとしているのだ。
(そ、そんなこと……させる、ものか……)
(無駄だ。既に我の体の大多数はお前の体内に渡っている。後はお前の体細胞を侵食し、意識を奪うだけだ)
確かに、さっきから夥しい量のマステリオンの体を注ぎ込まれているにも拘らず、リュウガの腹は全く膨れることはなくいつもの体型を維持している。
リュウガの体内に侵入したマステリオンの本体は、リュウガの粘膜をじわじわと侵食して染み込み、その細胞を同化し吸収して取り込んでいった。
そして、侵食が完了したら他の本体がまだリュウガの体のままの細胞に襲い掛かり、同様の措置を講じてマステリオンの体へと変えていく。
リュウガに自分の体を乗っ取られている自覚はないが、すでに上半身の殆どの部位はマステリオンによる侵食が完了されていた。
さらにリュウガをがっちりと抑え付けたシズクのパンツの間からもどろどろとマステリオンの体が溢れ出してきている。
それはリュウガの下腹部に取り付いて侵入する孔を求めてぶよぶよと蠢き、リュウガの尻穴と尿道に取り付いてきた。
(う、うわっ!や、やめろマステリオン……!)
だがもちろんそんな制止を聞くマステリオンではなく、菊座を押し広げ、尿道を逆流してマステリオンの体はリュウガの下半身に襲い掛かってきた。

(うあ゛―――――――っ!!)

上半身を侵食されている時はただ苦しいだけでしかなかったが、この下半身の侵食は性感帯を思い切り嬲られるものでありリュウガは声を出せないまま快楽の悲鳴を上げていた。
先ほどクオンに施された奉仕の残熱がまだ冷めきっていないところにこの侵入であり、リュウガは尿道をズルズルと内側から擦られる感触と直腸を冷たいゲルが満たされていくかつて味わったことのない快楽に一気に達してしまい、腰をガクガクと震わせながら溜めに溜めた精液を放った。
だが尿道は隙間なくマステリオンのゲルで満たされており、リュウガの精液は全てマステリオンの体に吸収されてマステリオンの力へと変えられていき、リュウガの体の外に精液が噴出すことはなかった。
とはいえ射精したことに変わりはなく、リュウガは射精の快感に我を忘れてその場で放心してしまった。
(あ、あは……。しゃせぇ……きもひいぃ……)
尿道を、直腸を冷たいゲルが逆流してくる感覚も今となっては心地よい。
いつの間にか、先ほどまで嫌悪しきっていたゲルを今はもっと体の中に収めたいという欲望に心が支配されてしまっていた。
(あぁっ……、もっと、もっと欲しい……。もっと満たされたいよぉ……)
自分の体のありとあらゆる穴から注ぎ込まれてくるゲル…マステリオンの肉体を、リュウガは嬉々として受け入れた。
どろどろとしたマステリオンを体内に注がれるにつれ、リュウガの意識は霞がかったように薄れ肉体の感覚そのものがなくなっていっているのだが、それに倍する肉体、精神への快感がリュウガの心身を侵しており、リュウガがマステリオンを受け入れるのを拒むことはなかった。
(そうだ。それでいいのだ聖龍の末裔よ。我を受け入れ我に全てを捧げよ。その力も、肉体も、心も。
そして、人知の及ばぬ悦楽の中で汝は我となり、我は汝となるであろう)
マステリオンの言っていることは頭の中に入ってくるが、それをいちいち反芻するほど今のリュウガに心の余裕はなかった。
だが、そんな爛れきった頭の中でもこのことだけは理解できた。
つまり、
マステリオンをこのまま受け入れたら、これまで感じたことがないくらいの快感を得ることが出来る。
(う、うん!受け入れる!受け入れるからぁ!!だからもっと、もっと気持ちよくしてえぇ!!)
肉体、精神共に相当な規模でマステリオンの浸食を受けているリュウガに、もうマステリオンを拒むという選択肢は残っていなかった。
もう自分がどうなろうが関係ない。今以上に気持ちよくなれるなら、なにをされても問題ない。
(…ああ。もっと、もっと気持ちよくしてやるよ……)
リュウガの頭の中に響くマステリオンの声は、いつの間にかリュウガの声になっていた。
だが、その事に気づくこともなく、リュウガはドッと入り込んできたマステリオンの肉体がもたらす快感にずぶずぶと溺れていった。
(あぁっ!気持ちいい!きもひいぃい!!気持ちよすぎて何も考えられないぃ…!)
その間にシズクからこぼれ出ているマステリオンの肉体の勢いが徐々に先細り、ちゅるっと粘液を振りまきながらシズクの体からリュウガの肉体に移っていった。

「うはああぁあ〜〜〜〜〜っ!!」

シズクの中にあったマステリオンの全てがリュウガに注ぎ込まれ、リュウガの全身を侵食し尽くした瞬間、その顔を悦楽と狂気に彩らせてリュウガの意識は闇の底に沈んでいった。
「………」
リュウガが完全に意識を失ったのをシズク…マステリオンは見届けるとリュウガを抑えていたシズクの手がかくん、と折れそのままシズクの体は糸が切れたようにどさりとリュウガの体に圧し掛かってきた。
マステリオンが抜けて抜け殻になったシズクの顔には生気が全く感じられず、まるで死んでいるみたいにリュウガの上でピクリともしないまま横たわっている。
そして、シズクの下で快感に蕩けたままの表情を浮かべたまま気を失っているリュウガの瞳が、さっきのシズクと同じようにギラリと輝いた。
その光は、地上の世界の生物では決して発し得ない、薄らぐらい邪悪さに満ち満ちていた。


後編へ続く





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