◇ 韮崎市で年老いた母親と一緒に暮らす40代の契約社員男性は昨年春ごろ、市役所から届いた一通の封書を開いて絶句した。入っていたのは「滞納金額を徴収するため、給料を差し押さえます」と書かれたA4判の紙切れだった。 男性は市民税など約16万円を滞納。月収は約10万円で、つつましく暮らしても生活はぎりぎりだ。貯金もない。滞納分を引かれた給料で暮らすのは想像できなかった。 そんな状況で告げられた差し押さえ。「払う気がないんじゃない。お金がないだけ。苦しい生活を説明しに市役所に何度も出向いたのに、差し押さえだなんてあんまりだ」。男性は知人の神田明弘市議と一緒に市役所に行き、担当者と交渉。市は結局、滞納税の支払いを免除したが、男性の怒りは今も治まらない。 ◆全国ワースト 一方で、払えるのに払わない、悪質な滞納者も少なくない。県と市町村が共同で悪質なケースに当たるため設立した、県地方税滞納整理推進機構に所属する職員は国中地域のアパートに捜索に入った時のことを覚えている。 住人は市町村税など数百万円を払わず、悪質滞納者としてリストアップされていた。捜索に来た十数人の職員を見ると、住人は「近所の目があるからやめてくれ」と懇願。大慌てで自分の預金口座から大金を引き出したという。 機構によると、08年度の市町村税徴収率は88・5%で、07年度に続き2年連続で全国ワースト。景気低迷で支払いが滞る事例が目立つことに加え、税源移譲で地方税額が増えた一方で、滞納者の徴収に当たる専門部署を置く市町村が少なかったことがある。機構の内藤和仁税務徴収企画監は「他県と比べて対策が遅れていた」とする。 ◆公平性の確保 ただ、08年に機構を設立し、共同で滞納整理に当たるとともに、ノウハウを市町村に提供するなどした結果、09年度の差し押さえは08年度より約1300件も増加。笛吹市の担当者は「毅然きぜんとした態度を示すことによって滞納者と納税に向けて話が進む事例も多い」とする。 これに対し、神田市議は「差し押さえは市民にとって大きなプレッシャーで、数多くの相談が寄せられている。行政は差し押さえありきの姿勢で、生存権の侵害と指摘されても仕方がない」と批判する。 税の公平性を保つため、厳正な対応が求められている一方で、納税できない生活困窮者への配慮も必要となっている市町村。国税OBで機構のアドバイザーを務める田中盛光税理士=中央市=は「担当者には滞納者の財力や生活状況を見極める目が必要とされるが、市町村レベルで人手を増やし、徴税の専門家を養うというのは厳しい面もある」と指摘している。
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