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社説:閣僚参拝ゼロ なお決着遠い靖国問題

 歴代の自民党政権との違いを示したのは確かだろう。65回目の終戦記念日を迎えた15日、菅直人首相と菅内閣の全閣僚が靖国神社を参拝しなかった。閣僚の参拝者がゼロだったのは記録が残っている80年代以降初めてである。かねて私たちも、首相らの靖国参拝にはさまざまな問題があると指摘してきたところだ。今回の菅内閣の対応を評価したい。

 ただし、これで靖国問題が決着したわけではない。特に残念なのは、靖国神社に代わる新たな追悼施設建設に関する政界の議論が途絶えていることだ。

 言うまでもなく靖国問題の核心の一つは、極東軍事裁判でA級戦犯となった戦争指導者たちが合祀(ごうし)されている点である。昭和天皇がA級戦犯合祀に強い不快感を示していたとの側近のメモが見つかったのは記憶に新しい。先の大戦の正当化につながるような靖国神社のあり方に疑問を抱く国民も少なくないだろう。

 内外の人々がわだかまりなく戦死者を追悼するにはどうするか--。長年の課題の解決策の一つが、新しい追悼施設の建設だったはずだ。

 民主党は野党時代にまとめた「09年政策集」で「特定の宗教性をもたない新たな国立追悼施設の設置に向けて取り組みを進める」と明記した。ところが党内には反対論もあり、昨年の衆院選マニフェストには盛り込まれなかった。最近も長妻昭厚生労働相が新施設建設に前向きな考えを示しているが、建設を検討する調査費を来年度予算案に盛り込むといった動きにはなっていない。

 自民党も小泉政権当時、福田康夫官房長官の私的懇談会が追悼施設建設を検討したことがあったが、その後立ち消えになっている。

 一方、昨年12月には日本遺族会会長である古賀誠自民党元幹事長の地元、福岡県遺族連合会が事実上、A級戦犯の分祀を求める見解をまとめている。しかし、靖国神社側はいったん合祀されたA級戦犯の分祀は神道の教義上困難との考えを崩しておらず、分祀論も進展はしていない。

 韓国では15日、日本の植民地支配からの解放65周年式典が行われ、李明博(イミョンバク)大統領は先に発表された日韓併合100年に関する菅首相の談話について「日本の一歩前進した努力と評価する」と明言したうえで、「具体的な実践を通じて新たな100年を築いていかねばならない」とも語った。

 この菅首相談話に対しても民主党の一部には異論がある。だが、韓国や中国のみならず各国との「未来志向」の関係を定着させるためにも追悼施設に関する議論を途切れさせてはなるまい。歴史認識をめぐる党内対立を回避するため、議論もしないというのではあまりに内向きだ。

毎日新聞 2010年8月16日 2時32分

 

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