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香山リカのココロの万華鏡:定時勤務の難しさ /東京

 「あなたは、勤め先で何時まで仕事してますか?」

 こう聞かれたら、現在、正社員としてどこかに勤めている人、自営業の人はどう答えるだろう。

 「定時は午後5時半だけどまあ6時過ぎちゃうかな」「朝はゆっくりなんだけど、終わりはけっこう遅くて夜の7時」「お店を閉めるのが8時だから、なんだかんだと9時はまわっちゃうね」など、さまざまな答えがあるはずだ。とはいえ、「午後5時前」という人はほとんどいないと思う。

 診察室にいると、この「5時まで働く」というのがいかに難しいか、という問題に直面する。たとえば、うつ病で半年休職した後、回復して職場復帰を計画中のAさんの場合。Aさんの勤め先は休職期間を利用したリハビリ出社の制度も整っているため、それを利用して、「朝礼だけ」「午前中」「午後2時まで」と順調に勤務時間を延ばしてきた。

 ところが、午後2時までを4時に延ばしたところで壁にぶつかってしまった。昼休みのあと、3時まではひといきで働けるのだが、それをすぎたあたりからどっと疲れが出てくる。「4時まであと1時間だ」と自分に言い聞かせるのだが、次第に頭痛、めまいも激しくなってきて、「やっぱり無理です、帰ります」と申し出てしまう。

 Aさんは診察室で悔しそうに語った。「3時までなら、何の問題もなく働けるんですよ。定時は5時半だからあと2時間半のハードルが越えられないために復職できず、このまま退職となってしまったら……。なんとか3時までの勤務ということで復職させてもらえないかなあ」。しかしもちろん、育児中でもないのに時短勤務をすることは認められていない。

 このように、うつ病など何らかの病を抱え、「どうしても定時まで働けない」と“あと一歩”のところで復職につまずいている人たちは、いま大勢いるように思う。

 ひきこもり経験のある若者の中にも、「仕事はしたいんだけど夜まではちょっと……」とためらっている人がいるはずだ。

 そういう人はパート勤務にすればいいんだ、という声も聞こえてきそうだが、扱いは正規雇用なのだが「午後3時まで」「週4日」などで可、といった働き方は認められないものだろうか。

 もしそれが可能なら、肩の力が抜けてかえって実力をのびのび発揮できる人たちもたくさんいそうだ。

 「1日8時間、週5日」だけが仕事じゃない。そう思うのだがどうだろう。

〔都内版〕

毎日新聞 2010年7月20日 地方版

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