【社説】なぜ統一税に言及したのか

 李明博(イ・ミョンバク)大統領は15日、日本の植民地支配からの解放を記念する光復節65周年のあいさつで、「統一は必ず来る。その日に備え、今や統一税など現実的な案も準備すべき時期になったと思う」「韓国社会の各界で、この問題を幅広く論議するよう提案する」と述べた。大統領は「南北関係は、与えられた分断という状況の枠を超え、平和統一を目標にしなければならない」と、「平和共同体→経済共同体→民族共同体」につながる3段階の統一案を打ち出した。

 北朝鮮の体制が崩壊するという緊急事態は決して将来を仮想したものではなく、今この瞬間にも韓国が迎える可能性がある現実の問題だ。北朝鮮は1990年代半ば以降、内部的には国としての正常な機能がマヒしている状況だ。李大統領が統一に関する論議を公に提案したのは、いつ何が起きるかもしれない北朝鮮の状況を、国民的な公の場で話し合い、考えようということだ。

 大統領直属の未来企画委員会はこのほど、「北朝鮮が突然崩壊したら2040年までに2兆1400億ドル(約184兆円)かかる」という推測を発表した。韓国の昨年の国内総生産(GDP)は1063兆ウォン(約76兆円)なので、そのほぼ2倍に当たる。西ドイツが投じたドイツ統一のコストは2兆ユーロ(現在のレートで約219兆円)にのぼった。何の準備もなしに統一を迎えれば、重い負担になる。大統領が触れた統一税は、韓米が北朝鮮の緊急事態に備えた軍事・外交分野における作戦計画を立てたのと同様、経済的な備えもしておこうということだ。

 大統領府関係者は「統一コストの額や、国民の負担分、統一税の具体的な案については、まだ政府見解がまとまっていない」としている。政府が具体案を打ち出さないのは、政府が先頭に立てば国民的論議を困難にする可能性があるほか、北朝鮮が過敏に反応するかもしれないためだという。

 統一による莫大(ばくだい)な費用に備え、経済的にも準備しておこうという大局的な見地に反対する人はほとんどいないだろう。問題は、統一コストから国民の負担分、財源調達案に至るまでの各論だ。この問題は、経済的なコストだけを引き離すのではなく、韓国社会全般の統一準備と合わせ話し合いを進めなければならない。そのためには、なぜ今、この時点で、こうした論議が必要なのかという、十分な論拠を示すべきだ。だが、大統領は何の説明もなく「統一は必ず来る」として、「統一税」と「3段階統一案」に言及、「なぜ大統領はこの問題を持ち出したのか」と疑問の声も上がっている。

 現政権発足で南北関係が行き詰まったため、約1兆5000億ウォン(約1077億円)という南北協力基金もほとんど使われていない。政府は韓国海軍哨戒艦「天安」沈没事件後、開城工業団地を除く一切の南北交流・貿易を中止している状況だ。現時点で大統領が「統一に備えた論議が急がれる」と判断するに至った理由や背景がほかにあるのか気がかりだ。

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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