こころを救う

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こころを救う:患者の視点で「精神科マップ」 仙台・自死遺族の自助グループ代表

 ◇長男への思いに押され

 どこの精神科にかかればいいのか迷う患者は多い。肉親を自殺で失った遺族同士が支え合うグループ代表で仙台市の主婦、田中幸子さん(61)は遺族らから寄せられた情報を基に、市内の地図とファイルに治療内容を記録し続けている。「こころのマップ」と名付けた。「あの子のために何かをしなければ」。亡くなった長男への思いが、母を突き動かしている。

 警察官の長男健一さん(当時34歳)はめまいがやまず、仕事のストレスもあって精神科診療所に通院していた05年11月、命を絶った。田中さんは食事はおろか、水さえ口にしたくない。見かねた次男に勧められ、福島市にある遺族の自助グループの会に夫と参加した。だが、仙台に同様の会はない。自ら「藍(あい)の会」をつくった。

 夜中も枕元に携帯電話を置く。ホームページなどに載せた電話番号を見て遺族らが相談を寄せてくるからだ。自殺前に精神科を受診していた人が多いことに気づいた。しかも特定の病院や診療所が目立つ。「強い薬多量」「患者とのトラブル多し」……。仙台市の地図に赤い丸印で医療機関を示し、ファイルに治療内容と「○」や「×」の評価を書き込む。

 医学的な信頼度は高くないかもしれない。公表もできない。でも、患者のために役立てられないか。精神科は情報や評判があまり聞こえてこない。マップを基に「患者から見たいい医師の条件」をまとめて冊子を作ろうと計画している。

 田中さんは宮城県の自殺対策推進会議のメンバーも務めている。自殺予防につながると思えば、精神医療の批判もした。「素人に何が分かるのか」と反発された。だが熱意が伝わり、精神科医から「手伝えることはありませんか」と連絡が来るようになった。

 息子を思い、毎日涙がこぼれる。なぜ救ってやれなかったのか。どうして「母ちゃん、助けて」と言ってくれなかったのか。それでも田中さんは自分を奮い立たせる。「自殺問題は健一からの問いかけ。健一に何か返さなきゃ」

 藍の会を設立してこの夏で4年。藍は長男が着ていた制服の色だ。【奥山智己】

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 情報やご意見をメール(t.shakaibu@mainichi.co.jp)、ファクス(03・3212・0635)、手紙(〒100-8051毎日新聞社会部「こころを救う」係)でお寄せください。

毎日新聞 2010年8月3日 東京朝刊

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