きょうの社説 2010年8月16日

◎金沢・広坂交通実験 「車から人へ」は当然の流れ
 石川県と金沢市が、広坂緑地周辺の道路を一方通行にして9月に行う交通実験は、この 一帯の回遊性を高め、都心の魅力を引き出すうえで重要な意味を持つ。

 今年4月に、しいのき迎賓館がオープンし、宮守(いもり)堀も水堀化されたことで、 広坂緑地周辺をそぞろ歩きする人の姿は格段に増えた。これから始まる金沢城いもり坂口の玉泉院丸跡の復元整備は、城と都心をつなぐエントランスゾーンと位置づけられている。そうした整備の方向性を考えても、「車から人へ」は当然の流れといえる。

 広坂緑地周辺の将来構想では、交通実験の対象となる「アメリカ楓(ふう)通り」など を廃止する案も出ている。車の抑制に関して、思い切って道路の存廃にまで踏み込むかどうかは、これからの議論のテーマだが、広坂緑地の将来像を描くうえで避けて通れないのは、交通環境の在り方である。今回の交通実験は都心の真ん中に歩行者優先空間を創出する試金石となろう。

 県や金沢市などでつくる「交通実験実施協議会」は、金沢城いもり坂口−市役所前交差 点までの「アメリカ楓通り」を9月前半に一方通行とし、9月後半には広坂北交差点―いもり坂口までの「いもり掘通り」と合わせた2路線で規制を実施することを決めた。

 広坂緑地周辺の交通実験は過去2回実施され、アンケート調査では半数以上が一方通行 に賛成している。周辺の交通環境の変化を見極めながら、まず一方通行の可能性を探るのは妥当な手順である。交通規制により、車より人を優先する空間であることを周知し、その定着具合をみて、さらに歩きやすい空間へ向けた一段の工夫を考えていきたい。

 しいのき迎賓館の開館後、広坂緑地はさまざまなイベントに活用され、城の石垣を借景 にした野外舞台としての価値も高まっている。歩行者が安心して快適に歩ける環境は欠かせない要素である。過去の一方通行実験では「不便になる」といった否定的な声も寄せられたが、一帯をにぎわい拠点として使いこなしていけば、交通を規制する理解も得られやすくなるだろう。

◎自治体が海外で水事業 新たなビジネスモデルに
 大阪市が民間企業と組んで、ベトナムで水道水供給事業の参入をめざしている。自治体 ・企業連合による新しい国際ビジネスモデルの試金石であり、ぜひ成功させてもらいたい。

 新興国の経済成長や人口増、水不足・汚染の進行で、水道や下水道、工業用水の施設整 備、海水淡水化など、世界の「水ビジネス」の市場は2025年に100兆円規模に拡大するとみられている。このため政府は、水ビジネスを新成長戦略に織り込み、原発や新幹線とともにインフラ輸出の有望株に位置づけている。

 日本企業は、水浄化の膜やポンプ、海水淡水化などの分野で高度な技術を誇り、膜技術 の世界シェアは6割に達するという。が、水道事業の国際受注競争では、施設の運営・管理やサービスのノウハウ、実績がないため、「水メジャー」といわれる海外企業に太刀打ちできない状況にある。

 海外では水道事業の民営化が進んでおり、配水管、メーターの敷設・管理や料金徴収な ども含めた水道事業全体の運営ノウハウを蓄積した欧州の水メジャー3社が、世界の水道市場の約8割を独占しているという。

 日本でこうしたノウハウ、実績を有するのは自治体である。しかも、敷設された水道管 の漏水率の低さなどからみても、自治体の水道経営技術は高い水準にあり、国際競争力があるといわれる。このような自治体と高度技術の企業が一体になれば、水道事業の国際受注で水メジャーに対抗することが可能になってくる。このため、大阪市のほか東京都や横浜市、北九州市なども海外での水ビジネス参入をめざしている。

 新興、途上国でのビジネスは、いわゆるカントリーリスクも付きまとうだけに、国の援 護も必要である。水関連事業は国土交通、厚生労働、経済産業、総務など関係省庁が多岐に渡っており、その垣根を越えなければならない。政府は「オールジャパン」体制でインフラ輸出に全力を挙げるとしているが、自治体・企業連合の水ビジネスは、その体制が機能するかどうかの試金石ともいえる。